転生したら妖狐な幼女神になりました~前世の記憶と時空創造者~
その要求は却下です
食堂での昼食の後、早速部屋へと戻り人界へと降りる準備をする。
準備といっても、特に何かを持って行く必要はなく、単純にアクアによる服選びや王立学園の制服の試着とかだったりするけど。
「制服、というものですが、なかなかデザインが良いように見受けられますね。基本色は紺色でボタンや腰回りに一部金色が使われているんですね」
「紺色のベレー帽にベスト、白いブラウスに紺色のスカート。それと紺色のサスペンダー。あとはひざ丈まである靴下? ええっと、こっちでいうニーソックスってやつだよね? 何で人界にあるの?」
ボクが試着している学園制服にはちょっとおかしな点がいくつか見受けられた。
その一つが今手にもってプラプラさせている紺色のひざ丈の靴下だ。
人界でこんな発想する人いたっけ?
「それなのですが、魔王討伐のために神により召喚された異世界の勇者が当商会に持ち込み、そこから採用することになりました。お話していなかったかもしれませんが、第二校舎は王族御用達の仕立て屋が制服をデザインし、第一校舎は当商会がデザインしています。ですので、このような新アイテムがあれば、その都度制服デザインをし直すことにしています。実際この制服ですが、今年から採用されます」
「ふぅん」
魔王討伐のために、人界では異世界から勇者の召喚が行われたらしい。
時々ではあるけど、こういった召喚が行われることがある。
実際、前世でも一度異世界の勇者に出会ったことがあった。
「今時勇者ね~。そもそもちゃんと説明してるの? 『魔王』とだけ言ってない?」
ボクは『魔王』という言葉から、とあることを懸念していた。
実はこの世界でいう『魔王』とは三つのものを指している。
一つめは『魔界』の魔族たちの王である『魔神王』。
二つめは人界に存在する『魔人国』の『魔人王』。
三つめは時々発生する変異生命体である『魔物の王』である『魔物王』だ。
基本的に魔界から魔族が人界へと赴くことはほとんどなく、過去に赴いた例外的な一派が人間と結婚して誕生したのが人界の『魔人国』だったりする。
ちなみにこの魔界の魔族と人界の混血魔族は共に無駄な争いをすることはなく、理知的だ。
なので、討伐の対象とされることはまずあり得ないのだ。
そう、今回の召喚の目的は人類に対する災厄である『魔物王』の討伐だ。
なぜ異世界からなのかというと、この『魔物王』には神々由来の力しか効かないという特性がある。
どうやら『魔物王』は、人界での淀みが一か所に集まり、特殊個体の魔物に憑依することが原因で発生するらしい。
そのため、一時的に神々の力を付与しやすく、人界の淀みと無関係な人間である『異世界人』が選ばれ召喚されるのだ。
とまぁ、これはボクが神になってから知ったことなんだけどね。
ちなみに、ボク自身も前世で『魔物王』と戦ったことはある。
お爺様曰く、ボクは人界の淀みの影響を受けない存在らしい。
まぁその理由も今のボクにはよくわかっている。
ボク、いや、ボクたちは世界に祝福された存在なのだ。
ボクたちは様々な時空間や世界を自由に行き来することが出来る。
今のボクには出来ないけど、本来のボクにはそれが可能らしい。
だてに『時渡りの神狐』の半身ではないというわけだ。
それゆえ世界を隔てる障壁であろうと、人を拒む世界だろうと容易に移動することが出来るのだ。
じゃあなんでボクが率先して討伐しないのか? ということになるけど、そもそもボク自身が表立って戦うことはほとんどない。
だって、面倒くさいから。
せっかく勇者召喚なんていうシステムがあるんだから、利用しない手はないよね?
とはいえ、いきなり勇者として召喚するのには抵抗があるわけで、異世界人は勇者召喚により召喚される際、事前に『召喚の可否』を相手に問うらしい。
そしてそれに同意した場合のみ、選ばれた人間が勇者として召喚される。
それから無事に討伐後、選ばれた勇者は二つだけ望みを叶えてもらえるというシステムになっている。
まぁそれが討伐報酬となるわけだけどね。
「その辺りはしっかり説明しているようです。ですが、事前に望みを確認した際に問題が発生したとか。その辺りは本人に説明させますので、アリス様さえ良ければ相談に乗っていただきたく思います」
「まぁいいけど。じゃあ呼んで来てよ」
ボクがそう言うと、アクアはすぐに部屋から退出していく。
とりあえず試着の最中なので、制服の着心地の確認を続ける。
「う~ん。やっぱり体が小さいとあまり似合わないかな?」
紺色のベストの裾部分には、胴を一周するように金糸で作られた二本線が入っている。
それと同じものがスカートの裾部分にもあるので、何か意味があるのだろう。
ボクは一通り着用すると鏡の前でくるりと一回転。
背後の状態も確認し、一人頷いた。
「ちょっと地味だけど、こんなものかな? ん~。向こうに行ったら髪色も黒めに変える予定だし、もっと暗くなっちゃうかな? あ~どうしよう。今の色だと目立つし、かといって金色っていうのもなぁ~」
実際、紺色を基本とした制服に金色の二本線が入っているだけでもかなり目立つのだ。
これで金髪や青銀色の髪なんかで行けば、似合うだろうけどとても目立つ。
ちょっと目立ちすぎることを避けたいボクとしては、制服に合わせて暗めの色を選択するというのも視野に入れている。
でもやっぱり野暮ったくなっちゃうよね……。
散々鏡の前で悩んでいると、部屋の扉がノックされたことに気が付いた。
どうやらアクアが戻ってきたようだ。
「入ってよ」
「それでは失礼いたします」
「失礼します、アエリス様」
「いらっしゃい、セリオ」
アクアに案内され部屋に入ってきたのは、金髪碧眼の美少女だった。
金色の髪は美しく長く背中まで伸ばしている。
身長は高すぎず低すぎず百五十五センチほどで、胸も大きめだ。
きれいな白い肌にぷっくりとした薄桃色の唇、大きめの目に小さめの鼻、顔は小顔で一つ一つのパーツは整い、綺麗にその顔に収まっていた。
誰がどう見ても完全無欠の美少女である。
ボク個人としてはかなりお気に入りだったりする。
ただこの美少女、名前を『セリオ』というんだけど、見た目の美しさと裏腹にかなりのドジっ子だったりする。
まぁ簡単に言うと、よく転ぶ。
それでいて健気に起き上がると少し俯き、はにかみながら誤魔化し笑いをするのだから溜まらなく庇護欲を掻き立てられるというものだ。
実際男性陣に人気があり、女神でありながら時々人界に降りるため、人間たちにも人気が高い。
その守りたくなるような性格と容姿、愛らしさと美しさで信者の獲得数累計第一位にのし上がってしまった。
実に恐ろしい子なのだ。
そんな彼女、セリオが一番頼りにする存在が、このボクというわけだ。
「で、何したわけ?」
これは、ボクがセリオに対して言ういつもの一言である。
しょんぼりしながらやってくるときは大体問題を抱えているのだ。
「アリエス様……。今回お呼びした勇者様のご希望のものが揃えられないんです……。助けてください!!」
「えっと、まだ魔物の王は出現してないんでしょ? だったらまだ支払う必要ないんじゃないの?」
セリオはさっそくとばかりにボクに縋りつき、涙目で見つめてくる。
そんなセリオをボクは撫でつつ、問い返す。
「はい……。まだ出現していませんが遅かれ早かれ出現するでしょう。なのですが、ちょっと好奇心から事前に欲しいものを聞いたんです。そうしたらちょっと困ったことになりまして……」
セリオは申し訳なさそうにそう言うと、また再び俯いてしまった。
こんなにしょんぼりするなんて珍しい。
「ん~。よくわからないんだけど、今回召喚したのって、男性?」
ボクがそう尋ねると、セリオは涙目で二度頷く。
ということは、セリオが欲しいとでも言われたのかな?
「なら、セリオを希望したとか? 男性によくモテるし」
美少女であるセリオは高確率で男性に惚れられる。
幸い今まで、ハーレムやそれなりの力や地位を希望されこそしたものの、セリオ自身を希望した者はいなかった。
なので、今回ついにセリオが希望されたのかと思ったのだが、セリオはやんわりと首を横に振った。
「じゃあなに?」
ボクはそう尋ねるけど、セリオは答えない。
いや、正確には何度か口を開いたものの、その愛らしい唇からは言葉が紡がれることはなかった。
「ほら、聞いてあげるから言ってみて? ボクにしか頼めないことなんでしょ?」
転生して五年だけど、前世から含めると百年ほどの付き合いがある。
いくら待っても言葉にしないため、ボクはいよいよ困り始めた。
言うことが不安なのだろうか? ボクが断るとでも思っているのだろうか?
「ほら、ぎゅ~ってしてあげるから、落ち着いたら言ってみてよ?」
ボクはそう言うと、セリオの細い体をそっと抱きしめ、頭をゆっくりと撫でさすった。
すると――。
「アリエス様……。実は」
「うんうん。何でも言って?」
やっと言葉を発したセリオにボクは優しく微笑みかける。
「勇者様が求めたものが……、『狐の獣人』もしくは『妖狐』なのです」
セリオが恐る恐る口にした言葉は、意外なものだった。
ボクはそれを聞いた瞬間一考し、飛び切りの笑顔でセリオに向けて一言。
「却下で」
ボクは冷静にそう言った。
そしてセリオは泣き顔に戻った。
準備といっても、特に何かを持って行く必要はなく、単純にアクアによる服選びや王立学園の制服の試着とかだったりするけど。
「制服、というものですが、なかなかデザインが良いように見受けられますね。基本色は紺色でボタンや腰回りに一部金色が使われているんですね」
「紺色のベレー帽にベスト、白いブラウスに紺色のスカート。それと紺色のサスペンダー。あとはひざ丈まである靴下? ええっと、こっちでいうニーソックスってやつだよね? 何で人界にあるの?」
ボクが試着している学園制服にはちょっとおかしな点がいくつか見受けられた。
その一つが今手にもってプラプラさせている紺色のひざ丈の靴下だ。
人界でこんな発想する人いたっけ?
「それなのですが、魔王討伐のために神により召喚された異世界の勇者が当商会に持ち込み、そこから採用することになりました。お話していなかったかもしれませんが、第二校舎は王族御用達の仕立て屋が制服をデザインし、第一校舎は当商会がデザインしています。ですので、このような新アイテムがあれば、その都度制服デザインをし直すことにしています。実際この制服ですが、今年から採用されます」
「ふぅん」
魔王討伐のために、人界では異世界から勇者の召喚が行われたらしい。
時々ではあるけど、こういった召喚が行われることがある。
実際、前世でも一度異世界の勇者に出会ったことがあった。
「今時勇者ね~。そもそもちゃんと説明してるの? 『魔王』とだけ言ってない?」
ボクは『魔王』という言葉から、とあることを懸念していた。
実はこの世界でいう『魔王』とは三つのものを指している。
一つめは『魔界』の魔族たちの王である『魔神王』。
二つめは人界に存在する『魔人国』の『魔人王』。
三つめは時々発生する変異生命体である『魔物の王』である『魔物王』だ。
基本的に魔界から魔族が人界へと赴くことはほとんどなく、過去に赴いた例外的な一派が人間と結婚して誕生したのが人界の『魔人国』だったりする。
ちなみにこの魔界の魔族と人界の混血魔族は共に無駄な争いをすることはなく、理知的だ。
なので、討伐の対象とされることはまずあり得ないのだ。
そう、今回の召喚の目的は人類に対する災厄である『魔物王』の討伐だ。
なぜ異世界からなのかというと、この『魔物王』には神々由来の力しか効かないという特性がある。
どうやら『魔物王』は、人界での淀みが一か所に集まり、特殊個体の魔物に憑依することが原因で発生するらしい。
そのため、一時的に神々の力を付与しやすく、人界の淀みと無関係な人間である『異世界人』が選ばれ召喚されるのだ。
とまぁ、これはボクが神になってから知ったことなんだけどね。
ちなみに、ボク自身も前世で『魔物王』と戦ったことはある。
お爺様曰く、ボクは人界の淀みの影響を受けない存在らしい。
まぁその理由も今のボクにはよくわかっている。
ボク、いや、ボクたちは世界に祝福された存在なのだ。
ボクたちは様々な時空間や世界を自由に行き来することが出来る。
今のボクには出来ないけど、本来のボクにはそれが可能らしい。
だてに『時渡りの神狐』の半身ではないというわけだ。
それゆえ世界を隔てる障壁であろうと、人を拒む世界だろうと容易に移動することが出来るのだ。
じゃあなんでボクが率先して討伐しないのか? ということになるけど、そもそもボク自身が表立って戦うことはほとんどない。
だって、面倒くさいから。
せっかく勇者召喚なんていうシステムがあるんだから、利用しない手はないよね?
とはいえ、いきなり勇者として召喚するのには抵抗があるわけで、異世界人は勇者召喚により召喚される際、事前に『召喚の可否』を相手に問うらしい。
そしてそれに同意した場合のみ、選ばれた人間が勇者として召喚される。
それから無事に討伐後、選ばれた勇者は二つだけ望みを叶えてもらえるというシステムになっている。
まぁそれが討伐報酬となるわけだけどね。
「その辺りはしっかり説明しているようです。ですが、事前に望みを確認した際に問題が発生したとか。その辺りは本人に説明させますので、アリス様さえ良ければ相談に乗っていただきたく思います」
「まぁいいけど。じゃあ呼んで来てよ」
ボクがそう言うと、アクアはすぐに部屋から退出していく。
とりあえず試着の最中なので、制服の着心地の確認を続ける。
「う~ん。やっぱり体が小さいとあまり似合わないかな?」
紺色のベストの裾部分には、胴を一周するように金糸で作られた二本線が入っている。
それと同じものがスカートの裾部分にもあるので、何か意味があるのだろう。
ボクは一通り着用すると鏡の前でくるりと一回転。
背後の状態も確認し、一人頷いた。
「ちょっと地味だけど、こんなものかな? ん~。向こうに行ったら髪色も黒めに変える予定だし、もっと暗くなっちゃうかな? あ~どうしよう。今の色だと目立つし、かといって金色っていうのもなぁ~」
実際、紺色を基本とした制服に金色の二本線が入っているだけでもかなり目立つのだ。
これで金髪や青銀色の髪なんかで行けば、似合うだろうけどとても目立つ。
ちょっと目立ちすぎることを避けたいボクとしては、制服に合わせて暗めの色を選択するというのも視野に入れている。
でもやっぱり野暮ったくなっちゃうよね……。
散々鏡の前で悩んでいると、部屋の扉がノックされたことに気が付いた。
どうやらアクアが戻ってきたようだ。
「入ってよ」
「それでは失礼いたします」
「失礼します、アエリス様」
「いらっしゃい、セリオ」
アクアに案内され部屋に入ってきたのは、金髪碧眼の美少女だった。
金色の髪は美しく長く背中まで伸ばしている。
身長は高すぎず低すぎず百五十五センチほどで、胸も大きめだ。
きれいな白い肌にぷっくりとした薄桃色の唇、大きめの目に小さめの鼻、顔は小顔で一つ一つのパーツは整い、綺麗にその顔に収まっていた。
誰がどう見ても完全無欠の美少女である。
ボク個人としてはかなりお気に入りだったりする。
ただこの美少女、名前を『セリオ』というんだけど、見た目の美しさと裏腹にかなりのドジっ子だったりする。
まぁ簡単に言うと、よく転ぶ。
それでいて健気に起き上がると少し俯き、はにかみながら誤魔化し笑いをするのだから溜まらなく庇護欲を掻き立てられるというものだ。
実際男性陣に人気があり、女神でありながら時々人界に降りるため、人間たちにも人気が高い。
その守りたくなるような性格と容姿、愛らしさと美しさで信者の獲得数累計第一位にのし上がってしまった。
実に恐ろしい子なのだ。
そんな彼女、セリオが一番頼りにする存在が、このボクというわけだ。
「で、何したわけ?」
これは、ボクがセリオに対して言ういつもの一言である。
しょんぼりしながらやってくるときは大体問題を抱えているのだ。
「アリエス様……。今回お呼びした勇者様のご希望のものが揃えられないんです……。助けてください!!」
「えっと、まだ魔物の王は出現してないんでしょ? だったらまだ支払う必要ないんじゃないの?」
セリオはさっそくとばかりにボクに縋りつき、涙目で見つめてくる。
そんなセリオをボクは撫でつつ、問い返す。
「はい……。まだ出現していませんが遅かれ早かれ出現するでしょう。なのですが、ちょっと好奇心から事前に欲しいものを聞いたんです。そうしたらちょっと困ったことになりまして……」
セリオは申し訳なさそうにそう言うと、また再び俯いてしまった。
こんなにしょんぼりするなんて珍しい。
「ん~。よくわからないんだけど、今回召喚したのって、男性?」
ボクがそう尋ねると、セリオは涙目で二度頷く。
ということは、セリオが欲しいとでも言われたのかな?
「なら、セリオを希望したとか? 男性によくモテるし」
美少女であるセリオは高確率で男性に惚れられる。
幸い今まで、ハーレムやそれなりの力や地位を希望されこそしたものの、セリオ自身を希望した者はいなかった。
なので、今回ついにセリオが希望されたのかと思ったのだが、セリオはやんわりと首を横に振った。
「じゃあなに?」
ボクはそう尋ねるけど、セリオは答えない。
いや、正確には何度か口を開いたものの、その愛らしい唇からは言葉が紡がれることはなかった。
「ほら、聞いてあげるから言ってみて? ボクにしか頼めないことなんでしょ?」
転生して五年だけど、前世から含めると百年ほどの付き合いがある。
いくら待っても言葉にしないため、ボクはいよいよ困り始めた。
言うことが不安なのだろうか? ボクが断るとでも思っているのだろうか?
「ほら、ぎゅ~ってしてあげるから、落ち着いたら言ってみてよ?」
ボクはそう言うと、セリオの細い体をそっと抱きしめ、頭をゆっくりと撫でさすった。
すると――。
「アリエス様……。実は」
「うんうん。何でも言って?」
やっと言葉を発したセリオにボクは優しく微笑みかける。
「勇者様が求めたものが……、『狐の獣人』もしくは『妖狐』なのです」
セリオが恐る恐る口にした言葉は、意外なものだった。
ボクはそれを聞いた瞬間一考し、飛び切りの笑顔でセリオに向けて一言。
「却下で」
ボクは冷静にそう言った。
そしてセリオは泣き顔に戻った。
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