ゾンビになって生き返ったので 復讐してやる

カイガ

サイドストーリー 「天地の竜vs悪魔」(中編)


 「いざ――」


 掛け声と同時にドリュウは“大咆哮”を発動する。衝撃波を含む音波がヴェルドを襲う。
 次いでドリュウは、大きく鋭く発達した尾に炎を纏わせて、それを槍の如く真っすぐ標的へ突き出す。
 
 しかし尾は標的を貫く寸前にガキンと音を立てて止められる......寸前のところでヴェルドが自身の武器である剣で受け止めたからだ。

 「序列上位の“大咆哮”をまともにくらったそばから普通に行動ができるとは」
 「......よく見ろ。あの魔人の体には薄っすらと魔力防障壁を纏わせている。かなりの技術だぞ。あんなに薄くも超強力な障壁を展開するのは。しかも障壁を体に纏わせるとなると...大した魔力コントロールだ」

 ヴェルド動作にカブリアスが感嘆して、ヴェルドの防御技術の高さをエルザレスが評価する。たった一回の攻防で、二人はヴェルドが魔力の扱いが逸脱していると理解する。

 「攻めの主役はドリュウに任せて、俺たちは敵の隙を突いて即死レベルの攻撃を放つぞ」
 「ああ」

 二人はそれぞれ左右に離れていつでもヴェルドに速攻を仕掛けられるように構える。同時にドリュウが次の攻撃へ移る。
 尻を戻して再び構える。大剣の如く尾を振るって大薙ぎに―――

 “粒子砲《りゅうしほう》”

 「っ......!?」

 尻尾で斬りかかるとみせかけて、口腔を大きく開いてそこから大地と光の複合魔力砲撃を放った。虚を突かれたヴェルドは魔力の砲撃をまともにくらう。
 さらに左右からもそれぞれ赤と青の魔力光線がヴェルドに直撃する。エルザレスとカブリアスが追撃したのだ。

 「ドリュウ、カブリアス。気を抜くな。この程度でくたばる程、世界の厄災魔人族は甘くないはずだ」

 全員の攻撃が成功したにも関わらずエルザレスは一切気を抜くことなく標的を睨み据える。
 

 「分かっているじゃないか。その通りだ」


 爆煙が突如かき消されてその中から少し焦げ痕があるものの平然としているヴェルドが現れる。彼はドリュウではなくエルザレスとカブリアスを交互に睨みながら声をかける。

 「目の前にいる尻尾の竜はともかく、お前ら二人はどういうつもりだ?“限定進化”もしていない魔力光線で俺にダメージを与えられると思ってるのか?お前らの攻撃を簡単に防いでいるのは分かってるはずだが?」

 実際ヴェルドにダメージを与えたのはドリュウが放った魔力砲撃のみだった。残る二人の攻撃は即座に展開した「魔力防障壁」で防いでいる。

 「人型の方が小回りが利くからな...。魔法がダメなら近づいてお前の首を刎ねるだけだ。今はドリュウを主軸に動くだけだ」
 「ふん余裕だな。この男もそこそこやれるようだが、俺の敵ではない」
 「果たしてそうかな?」

 ドリュウに指さしてそう評価するヴェルドに急接近したドリュウが、尻尾を真下へ振り下ろす。

 “旋穿《せんせん》”

 赤く熱した尾が猛回転しながら放たれる。


 「事実だ」

 「―――っ!?」

 瞬間、ドリュウは思い切り吹き飛ばされた。地に着くと同時に尻尾に違和感を覚える。
 見ると尾の先端が斬り落とされていた...!
 次いでヴェルドを見やると彼の手には闇色の魔力を纏った漆黒の剣がある。あれで斬られてしかも吹き飛ばされたのだとドリュウは即座に理解する。

 「進化していない俺と進化したお前でこの有様だ。この時点で俺とお前との力の差が大体分かっただろ?」

 禍々しいオーラを放つ剣を向けながら事実を冷たく告げるヴェルドにドリュウは何も言い返せないでいる。欠けた尻尾に再び魔力を込めて構えを取る。

 「分かってなお、俺の前に立ちはだかるか」
 「一族と国を脅かすお前を、たとえ敵わない相手だろうが逃げることは俺自身が許さん!!」

 “斬龍華《ざんりゅうか》”

 裂帛の気合とともに繰り出すのは灼熱を帯びた剣尾の舞うような斬撃。予測が出来ない尾の軌道から繰り出す斬撃は.........全てヴェルドの魔剣に止められて終わった。
  「な......(ザンッ)......っが」

 そしてヴェルドの一太刀が、ドリュウの体を裂いた。深手を負って怯むドリュウにヴェルドが追撃しようとしたところに、彼の背後から炎を纏った槍と風属性でより鋭くなった大量の短剣が飛んでくる。
 それらを難なく全て躱し逸らして済ませたヴェルドに、水の刃を両腕に纏わせたカブリアスが斬りかかる。ヴェルドはこれにも即座に対応し、高魔力でカブリアスの水の刃をかき消した。

 「ぐ...っ!」
 「俺の剣の腕は魔人族一だ。その程度の腕で俺を斬れるとは思わないことだ」
 「ならば武技でその身をズタズタにしてくれる」

 残心をとるヴェルドの胴体に、エルザレスの捻りが加わった正拳突きが突き刺さる。

 「ご......っ!」
 「ただ適当に殴ってはねーぞ?肝を正確に潰した。さらに俺の嵐属性の
魔力も入れてるから腹ン中はズタズタだろ」
 「ほぉう......ネルギガルドに引けを取らない武術を習得しているか」
 「あんなオカマ野郎なんかと比べんな。寒気する...ぜっ」

 追撃と言わんばかりにエルザレスの足刀蹴りがヴェルドの首を捉える――


 ドスッ「ぐおぉ...!?」

 「武術が相手なら近づけさせなければ良い」

 エルザレスの左足に黒い槍が深々と刺さっている。思わず体勢を崩してしまいすぐに後退する。

 「俺の“武器錬成”の速度は音の速さと並ぶ。どんな状況でも即座に武器を出して斬って、投げることもできる」
 (......ったく。やはり能力値だけじゃねぇ、戦闘技術が相当のモンだぞこの小僧...。厄介通り越してピンチじゃねーか。温存とか考えてる場合じゃねぇ、俺もさっさと進化して...)

 ヴェルド卓越した戦闘技術に戦慄しながらエルザレスは胸中で愚痴を漏らし、自身も本気を出そうと決心したその時――

 “九頭龍閃”

 無数の氷剣がヴェルドを襲った。

 「リュドか!」
 「いや、俺も!そして...序列上位の戦士、全員合流しました!!」

 氷剣が降り注いだと同時に残りの5人の戦士がヴェルドを囲むように配置に着く。

 「皆、役目を全うしてここに来たようだな」
 「はい。しかしこの3人を以てしてこの状況とは。これが魔人族か...」

 オッドは冷や汗を垂らしながらヴェルドを睨み据える。氷剣の雨をくらったはずの彼は、ほんのかすり傷程度しかダメージを負っていなかったからだ。

 「私の本気の攻撃をこうも簡単に...。なら、“限定進化”」

 リュドが「限定進化」を発動す。彼女に合わせて残りの5名も再び進化する。

 「全員進化が出来るか。まあいい、来るなら来い。その代わり...今度は殺すつもりで反撃するが良いか?」
 「構わねーよ!俺も殺すつもりだからなっ!!」
 「――っ!ダメだァ!!!」

 魔力の濃度を上げながら問いかけるヴェルドの背後から、暴竜と化したリーザスが巨大な拳を振り下ろした。同時にドリュウが叫ぶも、間に合うことはなかった。
 爆音を鳴らして地面が大きく陥没する。リーザスが放ったこの拳の一撃は、災害レベルの敵でも頭蓋を砕く威力がある。魔人族でもこの拳をくらえば当然無事では済まない――


 「そういう一撃は 俺の動きを完全に止めてから放つべきだったな」


 ズバン――ッ
 「あ?.........ぁあ”―――」
 

 しかし......今回は相手が悪過ぎた。
 リーザス本人が気付いた時には、彼は既に胴体が両断され――
 その直後には、彼は獄炎に燃やされて、灰になっていった。

 「まずは一人か...」
 「「「「「――――っ!!」」」」」
 
 単独でSランクモンストールと相手取り、討伐した実績も持つリーザスがあっさり殺されたことに、誰もが驚愕し戦慄した。

 「一人でかかろうとするな!二人か三人かで連携を取って攻撃するぞ!!」

 エルザレスが素早く指示を叫び、カブリアスとともにヴェルドへ向かう。

 “蛇旋突《じゃせんとつ》”

 腕部分を形態変化させたエルザレスの回転が加わった掌底。それはただの掌底ではない。掌には炎の魔力が込められており、触れると標的を内から焼いていく効力もある。
 しかし隙を見せていないヴェルドにその攻撃がまともに当たることはほぼ無いだろう。
 ...彼が独りだったなら。

 “雷縛”

 「っ!拘束魔法か――」
 「抉れろ―――」

 エルザレスの、肉を焼き抉るであろう掌底は...

 カッッッ―――
 「く、そ......っ」

 ヴェルドが放った魔力光線に妨げられて失敗に終わった。それどころかエルザレスの左手が深手を負うという返り討ちに遭った。

 「まだ拘束は終わってねぇ!!今だっ!!」

 カブリアスの叫びに応じるように、エルザレスに代わって3人の竜戦士がヴェルドを殺しにかかる。
 ゲーターが巨大な顎で嚙み砕こうと、メラルが超強化された牙で穿つべく落雷の如く突進して、シャオウが剣よりも斬れる強力な翼で斬りかかろうと、三者それぞれ殺意を込めた一撃を放つ――!


 “闇渦《くろうず》”


 その3人は......ヴェルドが突如発生させた闇色の魔力の渦に呑まれてしまい――

 「メラル―――!!」
 「え......シャオウ!?」

 寸前、シャオウが自身の翼を振るってメラルを渦の外へ脱出させた。しかし彼女の右腕と右脚が消滅してしまっていた。そして残りの二人は......

 「う”あぁ...っ!そん、な...。シャオウ、シャオウ...っ!!」
 「ゲーター、シャオウ...っ!」

 完全に干からびた状態で現れて倒れる。その二人を、ヴェルドが無慈悲に止めを刺して完全に殺した。

 「俺の動きを止めたのは良いが、肝心の魔法をも止めなければ意味が無い。俺の魔法の腕はお前らとは比べ物にならないレベルだからな」

 あっという間に竜人族の最強戦士を3人も殺害したヴェルドはいつの間にかカブリアスの拘束をも破ってさらに攻撃を仕掛ける。

 “氷纏魔砲《フリーズキャノン》”

 自分のところに向かってきたことを自覚したリュドが咄嗟に氷でできた魔力砲撃を放つ...が、

 “闇炎刃《あんえんじん》”

 氷の砲撃は、黒い炎を纏った剣に両断された...。

 「リュド...!くそっ」

 即座にカブリアスが水でできた竜の爪でヴェルドに斬りかかるが、剣を持ってない方の手から放たれた暗黒魔法で吹き飛ばされる。

 「が、おぉ...!」
 「“氷龍超波動《フリーズオーラ》”」

 砲撃を破られたリュドは尚も迎撃の手を止めることなく、絶対零度の氷の波動を至近距離で放つ。

 “獄炎闇禍《ごくえんあんか》”

 しかしヴェルドの炎と闇の複合魔法によって破られ、そのままリュドをも呑み込んだ。

 「あ、ああぁ......っ!」
 「まずい......リュドっ!!」

 闇色の獄炎に焼かれているリュドに、オッドが救援に向かう。その間にエルザレスどドリュウがヴェルドに攻撃する。

 “粒子砲”―――
 「その攻撃はもう見切った」

 ドリュウが口に溜めていた大地と光の魔力の塊を放とうとしたが、その直前にヴェルドがドリュウの懐にまで「瞬神速」で接近して、真下から闇の拳を神速で叩き込む。瞬間、ドリュウの口が大爆発を起こして自爆してしまう。

 「ガ......ッ」

 白目を剥いて力無く膝を着くドリュウに魔剣を振り下ろす...が、寸前のところでエルザレスが割って入り剣の軌道をずらした。
 それでも、魔剣はドリュウの胴体に深く斬り込んで、盛大に血の華を咲かせた...。

 「ご、ふ...ッ」
 「死ね」

 なお追撃しようとするヴェルドの斬撃を、エルザレスが必死に逸らして防ぐ。彼自身もドリュウも相当の傷を負ってしまう。

 「ほう、生き延びたか。“限定進化”もしないで俺の攻撃から生還した奴は久々だ」
 「ぜぇ、ぜぇ...お前も、進化してないから、だからだろうな...」
 「......なるほど。やはり進化する必要があるようだな...
 お前らを闇に沈めて殺しきるには...!」

 竜人族たちと魔人族一人の戦いが始まってから数十分、9人もいた最強戦士たちが、3人が死に、3人が瀕死の重傷を負い、まだ戦える戦士が3人といったところだ。しかし状況は圧倒的に竜人族側が不利に当たっていた。

 「残りの戦闘可能な竜人は......3体。とはいえうち一体は取るに足らない雑魚か。ちなみに辛うじて息がある奴らを入れると5体残っている、か」

 瀕死のリュドを介抱しているオッドを見下しながら戦況を確認するヴェルドに、オッドは悔し気に睨むことしかできないでいた。
 カブリアスとエルザレスはヴェルドに恨み言を吐きながら体に力を込めている。彼らはここにきて「限定進化」を発動しようとしている前触れだ。

 「オッド。俺たちは今から本気を出す...分かるな?お前をも巻き添えにしかねんから、リュドとメラルと、ドリュウを乗せてここから離れろ」
 「エルザレス様、力及ばず申し訳ございません。カブリアスも......勝ってくれっ!!」

 エルザレスの指示を聞いたオッドは素早く行動する。瀕死の三人を背に乗せて国の僻地へ飛び去った。

 「カ......ブリアス...。生き、延びて...」

 リュドはオッドが飛び立つ寸前にそう零して意識を失った。

 「魔人族の小僧が...!五体引き裂いて葬ってやるから、そのつもりでかかってこい...!!」
 「お前らこそ、俺との絶望的な戦力差を思い知って死ぬがいい!」

 濃密な魔力とオーラを発生させて形態を変えていく竜人二人に対してヴェルドもまた、闇色のオーラを大放出させながらその姿を変えていく――


 「「「限定進化!!」」」



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