ゾンビになって生き返ったので 復讐してやる
サイドストーリー 「天地の竜vs悪魔」(前編)
アルマー大陸位置している大国、その名はサラマンドラ王国。竜人族の国だ。
「感じるかカブリアス、お前たち.........来るぞ。あの日、5年程前と同じ...いやそれ以上の脅威が、この国に侵攻しようとしている」
竜人族全員をまとめ、サラマンドラ王国を治めている族長...黒髪で派手服装をしている派手男のエルザレスは、黒い雲がある方角を見つめながら厳かに告げる。彼の傍にいる竜の戦士...同じく黒髪で赤い鎧を付けているカブリアスはああと応えて頷く。
「近づいて来ている...。禍々しくて強大な戦気だ。初めてだな......敵に対してこんなに畏怖の情を抱くとは」
「......100年以上前にも、これに匹敵する戦気を放つ敵がいた。奴を屠ることは叶わなかったが」
竜人族の戦士全員が臨戦態勢に入っている。魔族の国の中でも竜人族はほとんどの民が戦い慣れている種族である。自分の身は自分で護るという思考が強い彼らは、一番弱い層でも下位の魔物と相手取れるくらいの力を有している。
護衛意識がある国民たちは、エルザレスの一声ですぐに迎撃態勢を整えていた。
「国内の各地を担当する序列上位の戦士たち全員の配置が終わりました。いつでも敵を屠ることは可能です」
赤髪で竜の入れ墨が彫られた鎧を付けている男...ドリュウが二人に報告する。彼の戦士としての序列は3位。半年前は序列10位だったが今はここまで上り詰めた実力者だ。
「序列上位3人をここに集めた理由は単純だ......いちばん強い敵をここにおびき出す為だ。そいつは間違いなく魔人族...ドリュウとカイダが言っていた世界の厄災だろう。そいつを俺たちですぐに屠る。そうすれば頭を失った雑魚どもを同胞たちに狩らせて終わりだ」
「素直に、ここへ来るのか?その魔人族は」
「勘だが、来るさ。奴らはそういう傾向にあるからな」
カブリアスの問いにエルザレスは迷い無く即答する。彼は今を生きる竜人の中で唯一、魔人族というかつて世界を震撼させ滅ぼそうとした魔族と戦った経験がある男でもある。甲斐田皇雅という人族からの話を聞いてすぐに魔人族の胎動を予感したエルザレスは、この日の為にずっと準備をしてきた。
「今度は......お前らをここで...!」
100年前の敗戦の借りを返さんと、エルザレスは十分に戦意を滾らせている。
(魔人族は強い。めちゃくちゃな...。たとえ序列2位以下の連中でもそれは変わらない。“限定進化”した時のあいつらのレベルは想像を絶するはずだ。恐らくあんたが戦ったあいつらとは別次元だ。
戦うのは自由だが......死ぬなよ)
数日前、戦の準備をしている最中に皇雅からそんな忠告を受けたことを思い出してフッと微笑む。
(カイダ、お前から見れば俺たちは弱く映ってるのかもしれねぇが、俺たちはどの種族以上の戦闘力を誇る最強の種族だ。戦うのは必然で、負けることも...もう許されない!次に会うことがあれば、奴らの骸を掲げて見せてやろう)
序列4位 青龍《せいりゅう》のリュド
序列5位 砕鰐竜《さいがくりゅう》のゲーター
序列6位 凶暴竜《きょうぼうりゅう》のリーザス
序列7位 炎蜥竜《サラマンダー》のオッド
序列8位 雷牙竜《らいがりゅう》のメラル
序列9位 大翼竜《だいよくりゅう》のシャオウ
そして序列3位...斬地竜《ざんちりゅう》のドリュウ。序列2位...天嵐《てんらん》の白龍カブリアス。序列1位...赤神竜《せきしんりゅう》エルザレス。
その他名高い竜人戦士100数名、世界を脅かす大敵に彼ら迎え撃つ。
そして、その敵はついに彼らの前に現れる――
「ほう、揃ってお出迎えとは感心だな。まぁ戦気をだだ洩らして移動していたからすぐ気付かれるのも当然か」
竜人たちの真上から冷たい声を発したのは、人間の中背よりやや高い身長をした黒髪で赤い瞳の魔人族...ヴェルドだ。
「魔人族序列2位ヴェルドだ。こちらの長の命により、この国とお前たち竜人族を滅ぼすとする」
冷淡に自己紹介と目的をするヴェルドが放っている戦気にエルザレスさえも戦慄する。
「序列2位...見た目がカイダみたいな少年の奴でこんな戦気を持ってるのがいるとは......とはいえ、ここに魔人族単身で来たのは愚かだったな。ここを滅ぼすのならザイ―トの奴を連れてきた方が良かったんじゃねーのか?それともネルギガルドやベロニカのどちらか連れてきた方が良かったんじゃないのか?どちらにせよお前一人で俺たちをどうこうしようとは、舐められたものだ」
「こちらの戦力をある程度知ってる魔族がいたか。ふん、お前ら如きに俺以外の同胞...ましてや魔人族を投入する必要など無い。俺一人いれば十分だ」
エルザレスの挑発に対して動じることなくヴェルドは傲然と言い返す。自分一人でエルザレスたちと相手して全員殺すというヴェルドからは、何の強がりやハッタリも感じられなかった。それが虚言ではなく、事実になるであろうこと。ヴェルドからはそういった意思が見て取れる。
「あれを言えるくらいの実力は確実にあるだろうな。しかもその力も恐らくは......少し前までのカイダ並だ。だが......ここで俺らが屈するわけにはいかんよなぁ」
「かもな...。だが今回の敵はコウガと違って不死身じゃあない。ならば攻撃を当て続ければいずれは止まって死ぬ存在。俺らでかかればなんてことはない...やるぞ」
「必ず討ちましょう...。魔人族にこの国と同胞たちを好きになどさせない!“限定進化”」
三者それぞれ意気込みを発して、ドリュウは早速「限定進化」を発動する。体長は5m程に達し、熱した鉄のの様な色をした鱗を全身に纏い、さらには大剣を思わせる鋭く長く発達した尻尾を構えている。
大地を断ちどんな敵も両断すると言われている地竜最強の戦士ドリュウ。彼のひと睨みにヴェルドはほうと感心を漏らす。
「見かけ倒し...ではないな。相当場数を踏んだと見る。災害レベルの同胞どもを多く狩ったこともあるな...」
「いざ――」
そして竜と魔人との激戦が始まる――
*
一方、サラマンドラ王国の各地に散らばって応戦している戦士の序列上位の竜人たちは、迫り来るモンストールと魔物の軍勢を圧倒していた。
“撃砕”
「グオオオオオオオオ......ッ!!」
巨大で長い顎でモンストールの胴体に噛みつき...否、嚙み砕く。その一撃は相手の骨・内臓など簡単に砕いて潰して、真っ二つにしていく。相手が災害レベルでもそれは同じ結果。
鰐竜の姿になった男...ゲーターに嚙み砕けない獲物はいない。進化したことで強化された顎と牙、そこに魔力を纏って牙をさらに鋭く強化。その一本一本がよく斬れる短剣となる。
「ガアアアアアア!!」
「ふん。デカい顎だけだと思うな......“神速”」
後ろから襲い掛かるモンストールの攻撃を紙一重で躱して回り込み、さっきと同じように嚙み砕いて屠る。敏捷性も戦士の中では指折りである彼に隙など無い。
「さて......あのいちばん強そうであろうモンストールを屠ったら、俺も族長たちのところへ加勢するか」
ゲーターは異形のモンストール...Sランクモンストールを睨みつけてそう呟く。教頭している戦士たちとともにそれと相対する。
「――っ!俺の顎で嚙み砕けないとは!」
これまでと格が違うと瞬時に察したゲーターは距離を取って態勢を立て直す。
「けど俺は何も噛むことだけじゃねーぞ...。“極大魔力光線”」
彼の大口から発射された巨大で濃密な魔力光線が、異形の怪物を穿った――
「シュ――――」
彼女の一声にバチィバチィと耳を劈く雷鳴が次ぐ。彼女とすれ違った敵は皆力無く倒れ伏していく。それらの体には致死レベルの傷がつけられている。そして雷の残滓もついている。
「災害レベルでも私の動きを捉えられてないのに、お前ら雑魚に私の姿を捉えるなんて無理よ」
緑色の雷を纏っている獣竜の女戦士...メラルは当たり前の事のように言ってみせる。髪の色でもある緑色の体毛を逆立てて発達した犬歯を生やして四足で移動するその姿は猛獣。だがその実、竜としてのポテンシャルも身に宿している――
“牙龍突《がりゅうとつ》”
彼女の四本の手足から繰り出す雷の爪と彼女の鋭い雷の牙が、瞬く間に敵を屠る。裂いて刺して斬って抉って...様々な攻撃で上位から災害レベルの敵は彼女によって討たれている。
さらに数十の敵を狩って、メラルはるると唸りながら目の前にいる敵を睨み据える。
「Sランクといったところかしら。あんたは私の動きを見切れるかしら」
扇状の羽を生やした蟷螂と獅子の合成獣のような怪物にそう挑発して、全身からさらに鋭く色の濃い雷を放ちながら、メラルは閃光の如く駆ける――
「当たらん、当たらねーぞ!!ハアァ!!」
空中でひらりと敵の攻撃を躱して、衝撃波を放って数体のモンストールを同時にバラバラに斬り裂く。
両翼8mに及ぶ翼を開きながら、シャオウは“大咆哮”を上げる。直後近くにいた魔物やモンストールの体に裂傷が生じる。
「俺の“大咆哮”は怯ませるだけじゃなく風の刃も含んでいる。そら、これで俺の刃が通りやすくなった」
怯んで動けない敵群にシャオウは己の武器である両翼を振るって大きくて切れ味最高の刃を放つ。敵は全て彼の刃でバラバラに斬られ生命を終えていく。
「“風翼の巨剣” 竜人族の中では俺以上のリーチが長い物理攻撃を持つ者はいない回避は不可避」
バラバラに落ちていく敵を見ることなくシャオウは次の敵と対峙する。
「お前が相手なら...本気を出して良いかもな。」
両翼に魔力を纏って殺意を向けながら、シャオウは己の最強の武器を振るった――
「オラオラオラオラァ!!こんなもんか災害レベルどもォ!!」
中ビルよりもデカいサイズの魔物を軽々と投げ落として、そこからさらに豪雨の如く連打を叩き込む暴竜...リーザスの猛攻は、敵が息絶えるまで止まることはない。
全身に深緑色の分厚い皮膚と硬い鱗を持ち、その下にさらに分厚く柔軟な筋肉を持つ恐竜の攻撃の手は止まらない。爆撃を思わせる彼の殴打は確実に敵の生命を削っていき、やがて獲物を仕留めることに成功する。
リーザスのサイズはせいぜい3m程度。対する先程の敵はその3倍はあるサイズの怪物だったのだが、そんなサイズ差など彼にとっては何の弊害にもならなかった。
一人で小国を落としたことがあるという彼の強大な膂力と過激な闘争心は、災害レベルの敵をも圧倒している。
無類の戦闘狂の彼を同胞たちは畏怖するも、今この時ばかりは頼もしく思うのだった。
「さァドンドンこぉい!!俺が全員殴り殺してやるからよォ!!」
吼えるリーザスのもとに一体の巨大モンストールが現れる。恐竜やゴリラ、幻獣が混じった合成獣は高く吼えてリーザスに巨大な拳を振り落とす。
「良いぜ......俺に力で勝手みろよSランクッッ!!」
両者ともに渾身の拳を振るってガキィンと耳を劈く音を出しながらぶつかり合う。
「そんな、モンかよおおおおおお!!」
「―――!!」
競り勝ったのはリーザス。モンストールの拳を砕いてその顔面に思い切り拳をぶつけてその巨体を吹き飛ばした。
「パワーだけで戦士の序列6位を持つ俺が、力負けするわけねェだろ」
殴った拳から血をダラダラ流しながらも、リーザスは獰猛にかつ愉快そうに笑ってみせた―――
空から爆弾が...否、黒い炎の塊が落ちて来る。それが敵がたくさんいる地に着いた瞬間、目が眩む程の光を放ち、次いで――全てを炭と化すレベルの炎と爆発が起こった。
「炭になるか灰になるかは、俺にも分からん。まぁ確実に言えることは...今のをくらった敵は確実に滅ぶ」
上空からそう呟いたのは、今しがた敵を殲滅させた炎球を投下した炎竜...オッドだ。
赤い鱗とよく斬れそうな翼を持ち、おとぎ話に登場しそうな竜の体躯で、切れ長のトカゲ目で真下を見下ろすオッドは、口で炎を溜めている。こうして溜めることで先程のような強力な炎球を放つのである。彼が戦って去った跡は、たいてい焦土と化して炭や灰となった物があふれると言われている。
「さて......今の攻撃を躱した奴がいたようだが、なるほどお前も俺と同じ飛行系か」
下の敵が全滅したことを確認したオッドは、同じく空にいる敵を目で捉える。長い嘴とオッドよりも大きく鋭い翼を持つ一方体は肉食恐竜のもので尾は蠍の同じものというキメラ型の怪物が、オッドを見据えている。
「Sランクのモンストールはお前みたいに生物とは言えない形をしている怪物ばかりか...あまりずっと見ていたくはないビジュアルだ。速やかに消してみせよう」
オッドは口に溜めていた炎球を、モンストール目がけて高速で放つ。モンストールも魔力光線でそれに対抗する。
が、モンストールの真上から今しがた炎球を放ったはずのオッドが登場して、猛禽類よりも鋭く禍々しい足爪でモンストールを切り刻んだ。そして魔力光線を放ってモンストールを墜落させる。
「空中戦で、モンストール如きが俺に敵うと思うな――」
落ちて行くキメラのモンストールに向かってオッドはそう冷たく言い放った――
戦場のあちこちに氷の残滓が散らばっている。ただの氷の破片がほとんどだが、中には氷漬けになった魔物の死骸や同様に氷漬け状態になったモンストールの体の一部なども戦場に転がっていた。
曰く魔物やモンストールのほとんどが、彼女の氷魔法をくらった途端氷漬けになって生命を終えたとか。一瞬で細胞全てを凍り付かせて活動を停止させたとか。
動けなくなった敵など死んだも同然。他の竜人戦士は次々敵を狩っていった。
敵を大量に凍り付かせた本人は今、単独でSランクモンストールと戦い、そして今止めを刺そうとしていた――
“九頭龍閃《くずりゅうせん》”
青と白が混じった鱗を纏い冷気を放つ龍...リュドが放った無数の氷剣が、五つの異なる生物の頭を持つ化け物の全身を滅多刺しにしてズタズタにして、凍っていき...バラバラに崩壊して消えた。
「あのね、私たち竜人族戦士たちは魔人族と戦うことを想定して半年間も準備...修行をしてきたの。Sランクモンストール2体程度で私たちをどうにかなんてできるわけないでしょう。私たちを甘く見過ぎよ」
氷の礫と化していく怪物に向かって、「限定進化」を解いた彼女は冷淡に言葉を吐き捨てる。銀髪を揺らして白装束を整えて剣を鞘に納める。
「これでここに侵攻してきた敵は全滅したかしら」
「はい!リュドさんのお陰で迅速に敵を屠ることに成功しました」
仲間の応答を聞いた彼女はそうと呟いて、さっきから感知している強い戦気が放つ方...エルザレスたちとヴェルドがいるところへ目を向ける。
「普段ならここで一休みしているところだけど、国を脅かす存在がこの国にいる以上、今回は休みは無しよ。すぐに族長たちのところへ加勢するわ」
リュドの言葉に戦士たちは全員はいと答えて一斉に移動する。
竜人族の領地内で戦争が始まってからわずか5分程で、各地に侵攻してきたモンストールと魔物の軍は、竜人族の序列上位の戦士たちによって殲滅された。
彼ら6名はそれぞれ単独でSランク級の強敵をも討伐できる実力も持つ。彼らの活躍でほぼ全ての敵軍を壊滅することに成功した。災害レベルの敵がいなくなった敵など竜人の戦士に敵うはずがない。
しかも序列上位3名の戦士が一丸となって魔人族と対峙している。彼らより序列が下の自分たちでこれだけの活躍が出来たのだ。三人もいれば魔人族だろうが敵ではない、瞬く間に返り討ちにしていることだろう。
リュドを始めとする最強戦士たちは皆、この時はそう思い込んでいた――
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