ゾンビになって生き返ったので 復讐してやる

カイガ

サイドストーリー 「亜人族の抗戦」

「排斥派の最期」


 オリバー大陸に位置している亜人族の国パルケ王国...から離れた地帯...モンストールが生息していることで危険地帯と呼ばれているこの地には、小さな集落がある。
 危険地帯のこの場所で生活するなど正気を疑うことであるが、彼らにとって、そうするだけの事情があるとのこと。
 彼らは「排斥派」と呼ばれている亜人族の一部だ。なぜそういう呼ばれ方なのかというと、彼らは現国王の方針を良しとせず反発して独立したからである。
 鬼族の扱いの方針を巡って彼らは国王に対立して、内戦が起こるくらいに拗れた。それほどに排斥派にとっては鬼族が赦せない存在だったのである。
 その理由は、この集落をまとめている頭領の姉...現国王の妻でもある彼女が、鬼族に殺されたことが大きい。それゆえ頭領と彼に従う亜人たちは、排斥派という派閥を立ち上げた。
 しかし国王はそんな鬼族に報復行為を是としなかったことから、頭領と国王はいがみ合い、やがて頭領を始めとする鬼族の排斥派はここ危険地帯へ移住した。
 ではなぜ排斥派の彼らはこんなところを住処としているのか。これにこそに、やむにやまれぬ事情があるのだ。

 彼らは末期と言える病気に感染してしまっていた。とある討伐任務の際、特殊な病原体を持つ魔物によって病にかかった彼らはもう長くないとのこと。残り少ない命となった彼らは、いがみ合っているとは言っても愛国心と国王への恩義があることから、そんなパルケ王国を護る為にあえて危険地帯であるこの場所を選んだのだ。
 少しでも脅威となる世界の敵を排除する為に、その命を燃やして...。

 少し前に金角鬼と名乗った娘...アレンとその仲間二人がここに訪れて来て、排斥派が保護...というよりは奴隷に近い扱いをしていた鬼族3人を彼女らが引き取り、去っていった。
 アレンは仲間を捕らえて虐げていたと思い込んで排斥派に復讐しようと考えていたが、彼らの事情を聞いたことでその行為には及ばなかった。何も起こらずに済んだのも、排斥派の鬼族に対する見方が変わったお陰と言える。
 鬼族を憎んでいた排斥派は、この危険地帯に移った際にモンストールの群れと戦っていた。その最中、瀕死の重傷を負った頭領を一人の鬼族が庇って命を落としたということがあった。それ以降、頭領の鬼族に対する見方は変わり、いつしか鬼族を恨み憎むことはなくなり、残った鬼族の扱いを改めた。
 そういうこともあって彼らはアレンたちと争うこともなく、鬼族3人を渡して彼らとはきれいさっぱり縁を切った。それからの彼ら排斥派は、日に日に病に体が蝕まれていくのを感じながらも、皆で協力して生活をして、モンストールの数を減らすことに尽力し続けていた。


 「最近モンストールの数が少ない。何か理由があるのか...」


 排斥派の頭領...ダンクはここ最近モンストールと遭遇しないことに疑問を漏らす。実際は魔人族による招集で地上にいるモンストールが激減したというのが正しいのだが彼らには知る由もない。

 「この体も...以て半年以内ってところ、か...。その間で少しでも世界...いやパルケの脅威となるあいつらを狩らなければな...。国の平和の為に」

 護る対象を世界...と言おうとして自身がかつていた国のみに訂正する。残り短い自分たちには、世界を護るなど負担が大き過ぎる。せめて国...が無理でも家族くらいは護りたいと、そう思うのだった...。


 そして半年が過ぎた頃、彼らの「終わり」は訪れる。


 「ぐ......俺たちが、こうなるのを待っていた...というのなら......随分頭のキレるモンストールがいたものだ、と思えるな......」

 病が侵食し、集落にいる誰もが疲弊して意識がまともではない状態といったところに、かつてないほどの敵の大軍が集落に現れた。
 
 「病が先か...敵の手が先か...。どちらにせよ今日が俺たちの......命日に違いないだろうな」

 ダンクは亜人たちの前に立ち、背中に差してある大剣を抜いてそれをモンストールたちに向ける。そんなダンテに倣って他の亜人たちも武器を構える。全員の目には覚悟の炎が灯っている。病に蝕まれて戦うのもやっとの彼らだが、決死の覚悟をしたことでいつも以上の力を発揮しようとしている。
 病で死ぬくらいなら戦場で死を選ぶ彼らには迷いはなかった。

 「ここで俺たちが少しでもこの害悪どもを駆除して、俺たちのかつての我が家を...家族を護るぞ!皆、死ぬまで戦ってくれ!俺たちのこの足掻きは無駄にはならない!この害悪どもはやがてパルケに侵攻して民たちを殺すだろう。だが俺らがここで奴らを殺せばその犠牲は少なく、あるいは助けられるやもしれない!!だから足掻くぞ!!少しでも......亜人族の平和に貢献する為に!!」
 
 ダンクの檄は、亜人全員の心熱く響かせた。助けられる...やもしれない。あえてそう表現したのは、ダンクが彼らはちゃんと分かっていると把握していたからなのだろう。この敵の大軍のいくらかは自国へ侵攻するのは確実。だがここで自分たちが少しでも数を減らしておけば、助かる命があるはずだと、ダンクたちは確信していた。

 「ここで少しでも奴らを狩ってやる...。だから、そっちは頼んだぞ、兄よ......!!」

 そして、排斥派の彼らは、残り少ない命の炎を盛大に燃やして、敵の大軍に向かっていった。



 一時間後―――


 (体の感覚が......っ。俺も、ここまでか)


 全身血に染まって剣を握っているのかどうかも分からないくらいに朦朧としているダンクは、見えなくなった目を必死に開いて敵を睨んでいる。
 彼の後ろには、既に命を散らした“戦士”たちが地に伏している。彼らは二度と起き上がることはない、だが彼らは最後まで己のすべきことをやり通した。死に際の彼らの顔はどれも苦しそうで、しかし気迫あるものがあった。ダンクもそんな彼らの想いを背負って死にかけの体を酷使して敵を葬っていった。


 (皆、こんな俺についてきてくれてありがとう。お前らの足掻きは絶対に無駄にはならない。勿論この俺の足掻きもな...!)


 もう自分以外全員死んでしまった亜人たちに礼を心の中で述べる。


 (できれば...またパルケの地に足を踏み入れて、残してきた家族ともう一度......会いたかった。母よ、父よ...そして義兄よ、こんな俺をどうか許してくれ)


 そしてもう会うことは叶わなくなった家族たちを想い、謝罪する。


 (あの世で会うことがあれば......その時は姉とともにまた笑い合って話そう、ぞ......)


 最後にニヤリと獰猛に笑ってから...ダンクは―――


 (兄よ......ディウル国王よ、亜人族は託したぞ......っ!!)


 その命を盛大に散らしていった...!


 彼による戦場全域を巻き込んだ大爆発は、敵も屍となった味方も全てを呑み込みんで灰にした。



 ここに命を賭して、そして散らして逝った英雄たちがいたことは、この戦いから約5年も後のことになる―――
 

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