ゾンビになって生き返ったので 復讐してやる

カイガ

サイドストーリー 連合国軍の修行(前編)

時系列:連合国軍が結成されてひと月経ったある日




 「はっ、はっ......っ!」

 サント王国の訓練所。そこには一人の少女と大人の女性二人が使用している。
 故ドラグニア王国の元王女で今は連合国軍の参謀を務めている少女...ミーシャ・ドラグニア。
 日本という別の世界から召喚された女性...藤原美羽。彼女は救世団の一員の回復術師である。
 もう一人の女性はこの国の兵士副団長を務めている戦士...クィン・ローガン。
 
 「ミーシャ様、あと一周です!」

 先程から息を切らしながらもグラウンドを走り続けているのは軽装姿のミーシャであり残りの二人は彼女のコーチ...的なのを務めている。ミーシャの職業は軍略家であり、本来ならばこのようなトレーニングは軍略家としては必要とはされないものだが、それでも彼女は肉体を追い込むトレーニングを毎日やっていた。
 もちろん軍略家としての勉学・軍略と戦略の編成にも精を出している。常人ならばこのハードな内容に倒れるくらいだが、ミーシャは折れることはしなかった。

 「......っ、はぁ......はぁ......」

 ノルマの距離を一定以上のペースのまま走破してその場で汗だくのまま倒れ込むミーシャに美羽が「回復」をかける。美羽のサポートもあってミーシャは日に尋常ないくらいの修行量をこなしている。非戦闘員の彼女が、だ...。

 「次は......魔力のコントロールと強化の修行ですね。お二人とも今日もご指導よろしくお願いします!」
 「はいもちろん。私も一緒に修行させていただきますね」
 「基礎を疎かにしては上へ行けません。私自身の向上も兼ねてミーシャ様に付き合います!」

 美羽とクィンの二人はミーシャの行動に最初は驚いていた。自分たちとは違って戦場には行かず城や野営地で指示を出したりするのが普通の軍略家と捉えていたが、ミーシャはこれまでの軍略家とは違うことをよくやっていた。
 そもそも軍略家など非戦闘系の職業になる者は皆、武力や魔力が優れないという特徴があった。かつてのミーシャもその一人で、王族から「ハズレ者」と蔑まれたりもしていた。
 ミーシャが変わったのは彼女の王国が滅んでから...もあるが、正しくは一人の異世界の少年との再会がきっかけだった。彼に自分の想いをぶつけたことで彼女の何かが変わったのが原因か、それまで自身も気付かなかった天職の存在と質の高い魔力がいっぺんに覚醒したのだ。
 加えて彼...甲斐田皇雅の、汚されて潰されて殺されかけながらも屈することのない諦めない姿に触発されたこともミーシャを大きく変える要因となった。

 「......私と同じく“ハズレ者”と蔑まれて罵られながらも腐ることなく自分で道を切り開いていったあの生き方は、見習うべきだと思わされました。あの人がやってきたことは肯定できるものではありませんが、何も無くても腐る理由にはならないということを、あの人の背を見て教えてもらいました...!
 だから私も、私なりの戦う術を......戦場をこの目で見ながら皆さんに指示を出せる軍略家を目指そうと...!」

 ミーシャの修行の動機の打ち明けに二人を始めとする戦士や兵士たちは感銘を受けた。もう「ハズレ者」の彼女などどこにもいない、誰もが彼女を認めた瞬間だった。

 「―――っ!はぁ、はぁ......走り回って体力を鍛える修行よりも、魔力関連の修行の方が厳しいです、ね...。体力と......精神も削られて、はぁ...はぁ...」
 「そう、ですよね...。私も魔力の強化には本当に心身ともに削られてます......ふぅ」

 荒い呼吸をしてぐったりしているミーシャの呟きにこれまた息を乱しているクィンが応じる。魔力を剣に纏わせるという技を彼女がものにしたのは5年前で、そこからさらに魔法を纏わせるという技へ応用させることに成功したのは最近のことだった。魔法を纏わせるのに費やした時間は約5年。それでも彼女の祖父で現役の戦士でもあるガビルよりも早い習得であり才女と評価されている。

 「だから......異世界から来たばかりのコウガさんが、武器に魔力を纏わせるどころか見たことも無い性質に変化させて武器を超強化させるのを見て...正直嫉妬しました。何年もかかって習得した技をあっさり上回るものまで見せて...」

 皇雅の戦闘しているところを思い出したクィンはどこか悔し気に呟いた。次いで目線を彼女に移して...

 「す、凄いね甲斐田君...。最初の時はそんな次元じゃなかったのに。武術だけじゃなく魔法まで多彩になっちゃってるんだ...。凄いなぁ」
 「「あなたも十分規格外ですからねミワ(さん)!」」
 「え...?そ、そう?」

 同じく魔力の修行していたにも関わらず二人と違って息を乱すことなく、皇雅のことで感心している美羽に、二人は同時にツッコみを入れる。
 美羽は初期状態なら異世界召喚組の中でいちばん突出していた。回復術師という職業でありながら一流魔術師を凌駕する魔力を保持しているといういわゆる「私超TUEE」である。
 しかも美羽もまた、武器(彼女の場合飛び道具)に魔法を纏わせる技を最近習得してみせた。異世界召喚されてわずか数か月で、だ。

 「く、クィンの指導が上手だというところもあるよ!それに私と違ってクィンは剣術も優れているし!少し前にあのラインハートさん修行してから、クィンさらに強くなってるじゃない!私より凄いって思うなぁ」
 「剣ではそうかもしれませんが、ミワさんには何たってその規格外の回復術があるじゃないですか。本当に凄いですよね、傷が最初からなかったかのように治す技なのですから。それに私はラインハートさんと比べるとまだまだです。彼の足元に及ばないくらいに」

 剣の腕を評価されて一瞬顔を綻ばせたクィンだったが、ラインハートのことを思い出してすぐに表情を引っ込める。でも...とクィンと美羽はミーシャに向き直って感心と尊敬の目を向けて彼女を評価する。

 「でも何より凄いと思えるのが、ミーシャ様のような折れない人だと思います。自分の足りないものを理解して、そこから道を切り開いていくそのやり方は素晴らしいと思います...!」
 「しかも最近では軍略家としての才が咲いて出たとか。あのカミラ・グレッドに並ぶのではないかと言われているそうですね。それに魔力も、兵士団の中でも上に位置するレベルですよ!」

 クィンの言う通り、数日前に上位レベルモンストール群(数体災害レベルのも混ぜて)との模擬戦(シミュレーション線)を行い、彼女の指揮の下で戦った結果、兵士団の完勝に終わったのだ。それも、死傷者無しでの勝利だった。
 死傷者ゼロであの模擬戦を勝利に導いたのは過去に10人もいないとされており、ミーシャは大いに評価され、文句無しの連合国軍の参謀への任命を勝ち取った。
 
 「ありがとう、ございます。今の私がいるのは......コウガさんのお陰、です。私のせいで彼に恨みを買うことになってしまいましたが...。けれど今でもコウガさんを慕っている私にとって、彼は私の目標です。だから、まだこれくらいで満足は、していられません...!コウガさんに並ぶ為に......来る魔人族との決戦に勝つ為に...!」

 二人の評価に礼を言いつつも、ミーシャは浮かれることなく上を目指すことと未来を見据えたことをしっかり述べる。彼女の言葉に二人もまた身を引き締める。

 「そう...ですね。魔人族は私の想像をはるかに上回る化け物でした。今のレベルではまだ足りない...。次元を超えるくらいの強化が...必要になりますね」
 「私は魔人族のことはお二人と......甲斐田君からの話でしか知らないからどういうものかはまだあまり知らないけど...。今の甲斐田君でも厳しいくらいだってことは聞いてるわ。彼自身このままではダメだって言っていたくらいに...。世界を滅ぼす災厄だ...と」

 この中で魔人族と遭ったことがない美羽もクィンに同調する。続いて皇雅のことについてさらに話す。

 「甲斐田君が凄く強くなったのは、あの実戦訓練の時、瘴気まみれの地底にいた災害レベルのモンストールたちを倒してレベルを上げたって言ってた...。私たちも、あそこへ行って多くのモンストールを倒して経験を積めば......かなり強くなれるかもって考えてたけど......そう簡単には、行かない、ですよね?」
 「......悔しいですが、まだ未知数とされているあの地底に行くのはまだ危険かと...」

 美羽の問いかけにミーシャはそう答える。しかし、と続けるミーシャに美羽とクィンは意外そうに目を向ける。

 「しかし...危険を冒さないと、あの魔人族には到底敵うとは思えません。ですから、皆さんには瘴気があるあの地下でのモンストール討伐をお願いしたいと考えてます!ゆくゆくはコウガさんがいたとされている地底への到達を目標として...!」

 ミーシャの方針を聞いた二人はやや驚く反応をしたが、彼女に同意する。

 「そう、ですよね...。あの人と同じあるいはそれに近い次元へ行かなければ、私たちはただ殺されるだけに終わります。そうならない為にも、多少の危険を冒す覚悟は不可避ですよね!」
 「私も異論はありません...。縁佳ちゃんたちに危険を冒させるのは気が引けるけど、そうならないように私が精一杯支えてあげれば大丈夫ですよね...!」
 「皆さん......一緒に強くなりましょう!私もあの地底へ行くというのは叶えそうにはありませんが...私は私なりに皆さんを支える術を見つけて行きます!!どうか力を、お貸しください!!」
 
 ミーシャの懇願に二人はもちろんと快諾して強い絆を結んだのだった――。
 



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