ゾンビになって生き返ったので 復讐してやる

カイガ

150話「  」前編

*エピソードタイトルが空欄なのは仕様です。今回のタイトルはネタバレになるので、最後に記してます。どうか最後まで読んで下さい!
―――――――


 「皇雅君。その............」
 「ああ.........」


 二人きりになって数分後、縁佳が口を開くも、言葉がまだまとまっていないのか、口をパクパクさせている。俺はとりあえず待つことにした。

 「魔人族のトップを倒してくれてありがとう。私たちを守ってくれてありがとう。美羽先生の仇をとってくれてありがとう...。
 生きてくれて......ありがとう!!」

 バルガを討伐して、結果世界を守ったことの礼を、まずは述べてきて、さらには俺の生存に感謝もしてくれた。なんかむず痒いな...。言ってる途中でまた感極まって泣き出してるし...。つーか俺も礼を言わなきゃな。

 「それを言うなら、俺だって最後はお前に守られた。意識無くして動けないでいた俺からヴェルドから守ってくれた...お前の狙撃でな。お前らがいなければ俺は完全に死んでいた。ありがとうな...。本当に凄ぇ狙撃だよ。強く、なったんだな...」
 「え?......あ、うん!そうだったね、必死だったから、あの魔人を撃ったこと忘れちゃってたな...。そうだよ、私...強くなれたよ。
 最初は皇雅君を見つけ出す為にあの時からずっと鍛え続けていて、皇雅君が生きていたって知った後も、皇雅君と向き合う為に、戦えるようにって、変わらず強くすることを止めなかった。
 そのお陰で、今の私がいて、今こうして皇雅君と向き合えている」
 「そう、か。お前は自分が何の為に強くなりたいかって明確な目的があったから、ここまで上ってきたんだな。俺の度肝をブチ抜けるくらいに...。ステータスだけじゃない、心も凄く強くなってたわけだ」

 冗談めかすように自分の胸をトンと指差して笑ってみせる。

 「う......あれは、皇雅君を止めることしか考えてなくて......痛いことは、したくなかった。弓で人を射抜くなんて、ライフル銃で撃ち抜くなんて......この世界に来るまでは考えてもなかった。ましてや皇雅君に弓を引くなんて.........でも必要だったから。美羽先生たちの為にも、皇雅君の......復讐を終わらせる為にも、だから私はちゃんと向き合って弓を引き金を引くことができた」
 
 ここにきて初めて縁佳は己の心情を吐露し出した。本当は戦うのが厭だったこと、その意思を俺に明確に示した。

 「いつだって戦うことは本望じゃなかった。皇雅君だけじゃない、モンストールや魔人族を含む全ての生物に武器を向けるのは...本望じゃなかった。元の世界では競技として向き合ってたものを、この世界では生物を殺すこととして向き合わなければならなかった。それが私にとって凄く悲しかった。苦しかった。逃げ出したかった。けれど、目を背けていたら私の大切な人がいなくなる...そう理解してからは必死に向き合ってきた。自分を厳しく律して......
 敵を射殺し続けた。そして、皇雅君に矢を向けて銃口を向けて、撃った」

 そう語る縁佳の表情からは、悲痛さを感じた。心の底から戦うことを嫌っていて、常に葛藤しながら弓を銃を構え続けてきたのだ。失くしたくない人たちがいたから、彼らを守るその為にずっと武器を構え続けてきた...。

 なんつーか、“高園縁佳らしい”そう思ってしまう。思わずにはいられない。
 
 (俺は、縁佳ついて何も知らずにいた。俺以外の敵にも好きで武器を構えていたわけじゃなかった。本当に何もしらなかった。ここに来てから......それ以前に元いた世界でも、彼女について何にも知らないでいた。)

 だから俺は、彼女すらも殺そうなんて考えてしまったのだろうな...。

 「自分が望んでいないことを、己を律してでもやり遂げた。お前はそんな、凄い奴だったんだな。俺なんか軽く凌駕するくらいに凄くて強い...高園縁佳はそういう女だ。
 あの時俺が敗けるのも当然ってわけだ。きっとあの先生も、同じように己を律して俺の前に立って、体張って戦っていたんだろうな...。そんなお前らに、己の欲望の為に動いていた俺なんかが敵うわけがなかった。お前らがいたから俺はあいつらに勝てたんだ。今になるとそう考えさせられる...」

 少し俯いて自嘲気にそう言ってしまった俺に、いつの間にか近づいてきた縁佳が俺の両手を包み込むように握ってきた。彼女にこんなことをされるのはもちろん初めてだ。こいつの手はサラッとしているなぁと......そう考えていると優しい声音で縁佳が話しかけてきた。

 「そんなことはないよ。私たちと戦っていた時の皇雅君は確かに私たちへの復讐の為に動いていて、欲望の為って感じだったのかもしれなかったけれど、魔人族と戦っていた時はどうだった?その時は本当に、自分の為だけに戦っていたのかな?
 皇雅君には今、大切に想っている人たちがいるんだよね?この世界でできた仲間......も、もしかしたらそれ以上の関係を築いた人が、いるんだよね?あの......赤い髪の、鬼の人とか......」

 途中何故か赤面しながら発したその言葉を聞いて、アレンとカミラの姿が脳裏に浮かんだ。特にアレンには、恋愛感情を抱いていると言っていい。半年前からずっと...。俺たちは“そういう関係”になっていた。
 そんな大切な人のことを想わずに、俺はザイ―トやヴェルド、バルガと戦っていたか?本当に復讐の為だけで殺しにいってたか?
 俺個人の恨みと憎しみだけが、俺の動力源だったのか?
 縁佳に聞かれたことで、考えさせられた。いや、考えるまでもない。そんなの、答えは一瞬で出るに決まっているではないか。

 「そうだよな...俺個人の為だけで、あんなにくっっっっっそ必死こいて、あんなにくっっっっっそ粘って、あんなに......戦うことなんて、出来なかった。
 あんな格上どもを倒せたのは...やっぱりそういう、大切な人って奴らのことを想っていたから、なのかもな。あの時知らないうちに...俺もそんな気持ちを抱きながら戦っていたのかもしれない。お前の言う通りだよ。
 魔人族どもを野放しにしてしまったら、アレンやカミラ、他の鬼族たちにドリュウやエルザレスの竜人族たち...この世界で出会った奴らが殺される。あいつらと交流したことで、あいつらには死んでほしくない......心の底では無意識にそう想っていた。そういう想い・気持ちも、俺の動力源として関わっていたのかもな。
 ベタベタなことさっきから言ってしまってるけど、結局は“大切な人の為”...ってわけだ」

 柄にも無いことを喋り過ぎてしまい、最後は頭を掻きながら言い捨てた。縁佳は最後まで俺の話を真剣に聞いていた。“アレン”と“カミラ”って名前に少し反応した様子が見られたが、一言一句聞き逃すまいといった態度でいた。聞き終わった後の得心がいった表情を見るに、俺は彼女の期待した通りの返答をしたらしい。

 「やっぱり皇雅君も、誰かの為に戦える人だよ。皇雅君は、誰かに慕われるだけの人徳がちゃんとある人で......自分の身近にいる人にはとても優しくなれる人だよ。そうじゃなきゃさっきみたいにあんなに心配してくれる人なんて、いるはずないよ...」

 少し紅潮した顔をして、縁佳はそんなことを言った。

 「それは、誰でも当たり前のことじゃないのか?元より俺は味方には優しく寛大に接して、敵には情け容赦一切かけないスタイルを貫き続けてきたからな。今も.........《《昔もな》》」

 “昔”という単語を少し強調して発言を終了する。この一言を皮切りに、そろそろ本題へ入ろうと意図して、そう発した。
 その意図に彼女は察したようで、暗い、悲し気な表情を浮かべて問いかけてくる。

 「晴美や美紀たちクラスメイトのみんなは......ここに来る以前から、皇雅君にとっては“敵”だったの?」
 「ああそうだ。お前も含めて、1年半前のあの日をきっかけに俺はクラス全員を敵と見なしたんだ。あそこに俺の居場所は、あの日を境に無くなった。3年になってからもずっとな...。
 そしてこの世界に召喚されて、あいつらとドラグニアの王族どもに害されて死んだことで......俺は倫理や道徳といった規制をぶち破って、外道と化してあいつらを排除した。残虐非道なやり方で。誰もが俺から離れるくらいにエグく惨たらしい手段を以て...」
 「皇雅君にとって、アレは...せざるを得なかったことだったんだね?私たちを殺すことで救われるから、そういう手段を取ったんだ、よね?」

 自分をも殺す数に入っていると理解しているあたり、彼女はまだマシな方だ。あいつらはどいつもこいつも自分が死ぬなんてこと微塵も思ってなんかいなかった。だからあんな無様を晒していた。
 最後に殺した曽根だけは、少し違って見えたが...。
 “殺すことで救われる” か.........そんなこと考えたことなかったけど、それこそが、復讐することで得られるのかもな。
 大西たちを殺して、須藤たちを殺して、里中たちを殺して、マルスとカドゥラを殺して、殺す度に俺の心は救われていった。気分良くなりまくりだった。快感だった。
 今思い出しても笑いそうになるくらいだ。だから俺の選択は、俺にとって間違ってなどいなかった。虚しい気持ちなど少しもなりはしなかった。
 後悔の念すら一滴も無い!

 「そうだな。あいつらを殺して、復讐したことで俺は救われたよ。俺がとった行動は間違ってなどなかったって、犯した直後と半年経った今も変わらずにそう思えている。世の中の人間はそんな俺を見て“狂ってる”だの“終わってる”だのと、非難するだろうが...。確かに俺自身、元から狂っていてどこか欠如している人間であったところはあったんだと思う。
 だがこれらだけは言わせてもらう。
 俺の堰を切ったのは、敵であるテメーらだ ってこと。調子に乗り過ぎたテメーらが悪い。噛みつく相手を間違えたテメーらが悪い。元の世界で俺をあんな扱いをしないで、的確な距離をとってただそっとしておくだけで良かったんだ。
 一人を好んでいた俺の世界を土足で踏み荒らして害したから、こんなルートを辿ることになったんだ。過剰防衛あるいは制裁だってことは否定しないが、口火を切っておっ始めたのは、テメーらの方からだったんだよ...。
 ただそれだけの話だ。俺から踏み荒らすことはしなかった。俺からテメーらの世界を潰すことはしなかった。俺の方から牙を向けることは、絶対になかったはずだ」

 「............」
 
 
 言いたいこと言い切って深呼吸する。さっきと同じく、縁佳はただ黙って聞きに徹していた。







*150話は、文字数が多いので二つに分けました。後編にエピソードタイトルを記してます。

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