ゾンビになって生き返ったので 復讐してやる

カイガ

144話「災厄/魔神」



 「.........は?」
 「!?これは...!?コウガさん!!」
 「皇雅君っ!!」


 何故か動けないでいる俺。
 異変を察知して俺に呼びかけるクィン。
 同じく察知して(ライフル弾で)狙撃した縁佳。
 縁佳が狙ったのはヴェルドの体だろう。威力と貫通力ともに矢を凌ぐ。限定強化と魔石で2乗強化した彼女の狙撃は、撃ち抜くと同時に破壊する。
 だが、いつまで経っても着弾の音が聞こえない。まるで弾が消えたみたいだ...。

 「どういう、こと?狙いは完璧だったはず!」

 縁佳の狼狽混じった声が聞こえる。だが視界は相変わらず暗闇のまま、体は微塵も動かない。いつまで金縛り状態にかかっているんだ!さっさと動けクソが!!
 ゾンビだから痛みは感じない。関節を変な方向へ動かそうが筋肉を断裂させてでも動かそうとしても平気だ!呪術か何かの類だろうが、脳を解除すればたいてい呪縛を自力で解くこともできるんだよ!

 「あ...ああああああああああ!!」

 叫びながらこの金縛りを解こうと脳のリミッターをさらに解除する。


 《慌てるな。直に動かせるようになる。その前に...“それ”、返してもらうぞ》

 「う”!?ぉえ”え”...!!」

 またあの不気味な声がしたかと思うと、俺の口から瘴気にまみれた黒い“何か”が出てきた。何だこれは...!?俺の体の中にはこんなのがあったのか!?
 その黒い何かは、どこかへ飛んでいき、ある地点で止まった。あそこには確かヴェルドが...。


 《良い依り代だ。実に良い。ついこないだまで入っていた器も悪くなかったが、強い憎悪と殺意を抱きやすいコイツの器の方が心地良い...。今までご苦労だったな。
 後は、オレが引き継ごう...》

 次の瞬間、黒い何かがヴェルドの体に入った...気がした。

 「ア...ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”!!!」
 「な...!?」

 その予想は当たりのようで、ヴェルドが苦悶とも憤怒とも区別がつかない絶叫を上げる。次第にその声音が変わっていくとともに勢いが止んでいく。
 数秒後、闇が次第に晴れていく。だが代わりに瘴気が辺りに立ち込めていった。


 「二人とも、この瘴気は危険だ!!遠く離れろ!!」
 「コウガさん!?わ、分かりました!」
 「皇雅君は!?」
 「俺はゾンビになったのはこの瘴気が原因だった。だからこれに触れても吸っても平気だ!」

 俺の言葉に二人とも即座にこの場を離れてくれた。二人がいなくなった頃、倒れていたはずのヴェルドが立っていた。
 だがその姿はヴェルドではない。全くの別人だ。
 長い灰色の髪、黒色の肌、赤い瞳に黄色い眼窩。太い棘が両肩・腕・腿に何本か生えていて、紫色の長いコートを羽織っている。 
 そして...ヤバい奴だと瞬時に分かる異様な存在感を放っている。


 「...誰だテメー?ヴェルドの体を乗っ取ったみたいだが」
 
 俺の問いかけに、正体不明の男はニヤリと嗤う。


 《勘が良いな。間違ってはいないぞカイダコウガ...。ふむ、先に自己紹介から済ませるか。


 魔人族のかつての王、“魔神”バルガだ》

 
 「......マジかよ」


 エルザレスから聞いた話に出てきた、かつて世界を滅亡に追い込んだ最恐最悪の魔人の王。倭をはじめとする先代の異世界召喚された戦士たちによって討伐されたと聞いた。
 昔に討伐されたはずの魔王が、目の前にいる。ヴェルドの体を乗っ取って。死んだはずの奴がどうして...?なんてことは思わない。ベロニカの死者を召喚する魔術に米田の死霊術。この世界には死者や霊に関する魔術があるのだから、昔に死んだ男が出てきてもそんなに驚きはしない。
 むしろ得心がいった。ザイ―トやヴェルドから感じたあの異質で未知なる何かの正体が、コイツだったということだ。


 『魔人族の、かつての王!?100年以上前に討伐された魔人が、どうして今...!?』
 『こんなことが、起こるなんて...!』

 ミーシャとカミラが強いショックを受けている。そしてミーシャの言う通り、何で...今になって出てきたのか。

 「最初に俺と遭った時はヴェルドだったようだが、この戦いで追い詰められた今になって登場するとは。遅い登場なんじゃねーのか?魔人王さんよ」
 《“魔人王”...悪くない呼び名だな。その呼び方を許そう。何故今になって、か。理由の一つを上げるならば...カイダ、お前の戦いっぷりを観
察していた、というわけだ》
 「俺の...戦い?」

 ダメだ、意味が分からん。今すぐ戦闘する様子は無いので、会話に入るか。

 「理由の一つと言ったな?他にもあるのか?テメーがすぐに出てこなかった理由が」
 《ふ...良いぞ、ザイ―トのように次々に己が抱く疑問を晴らそうとするその姿勢、面白い。そうだな...俺は戦うのが好きだ。さらに戦いを観るのも好きだ。
 百数十年前に異世界の人族どもに敗れて殺されてしまったが、霊体としてこの世の闇の底で留まっていた。地底に同胞たちが移住してきてからは、ザイ―ト、今はヴェルドの中で戦いの様子を愉しんで観ていた。まぁ憑依した直後に戦いを好む性格になるよう、二人の人格を少々いじったが。そのお陰で面白いものを沢山見せてもらった!
 沢山人が死に、血が舞って、悲鳴と呻き、怨嗟の声は愉悦だった。特にカイダコウガ、お前と同胞たちとの戦いは実に面白かった!異世界人はまったく愉しませてくれる!あの時、俺を殺しに来た異世界人どもと同じ、血湧き肉躍る興奮をさせてくれた!》

 「ザイ―トの中に...やっぱりあの時も、テメーがいたのか。だったらあの時何で出てこなかった?あの場で決着つけに出てきたら良かったんじゃねーのか?」
 段々興に乗って変な方向へ行きそうだったから、割って入った。バルガは気分を害することなく疑問に応じる。

 《ザイ―ト...奴は優秀な部下だった。俺の右腕と呼べる奴だった。だが、奴では俺の全てを引き出すには、役不足だった。だからあの時、俺は死にかけの奴に見切りをつけて出て行った。気付いただろ?奴の変わりように》

 言われてみれば確かにそうだった。倒れたザイ―トは、どこか邪悪さがだいぶ抜けたというか、異質さが無くなったというか、そんな違和感を感じた。バルガが消えたから、本来の人格に戻ったわけだったのか。

 《奴には...負の感情が足りなかった。この世界に復讐する気持ちやこの世全ての生物に対する滅亡欲、こ全てを支配したいという欲、憎しみ。何もかもが足りなかった。地底に逃げ延びたザイ―トは、安全を選ぼうとした。余生は人族や魔族どもに気付かれないようにひっそりと残りの同胞たちと過ごそうという考えだった。
 そんなつまらないのは御免だ。というわけで俺が直々に奴を変えてやった。この世全てに憎悪を抱て復讐心を芽生えさせ、全てを魔人族の支配下おく、そして戦いを求める存在に変えてやったのだ...!
 だが根底の奴は探求心旺盛の塊だ。俺の全てを引き出すには不足だったというわけだ》

 「で、そんなテメーの全てを引き出せる器が、ヴェルドだったってことか」
 《その通りだ。ザイ―トの子だけあって素質は申し分無い男だ。ザイ―トが死ぬまでの間は奴も器には不十分だったが、奴の死後でその考えは覆った。
 お前に対する絶望と憎悪で満ち満ちていた!負の感情で満たされた、上質な器へと化けたのだ!お前がザイ―トを殺したお陰で、俺が全てを引き出せるに相応しい魔人族の長へと成長してくれた!あとは昔通り、ヴェルドの人格を変えて、お前に復讐するよう仕向けて、今に至るというわけだ...》

 ...............。
 そんなことの為に?
 こいつのどうでもいい道楽の為に。
 あの人は、死んだというのか?
 アレンの家族が殺されたというのか?
 俺が、この世界に呼ばれることになったってのか?こいつが乗っ取った魔人で大暴れしたせいで。

 全部、このクソ魔神王のせいで、俺が復讐に走ることになったってことか?こいつが存在したから...!


 「狂ってるなテメー。人のこと言えるクチじゃないが、とりあえず言わせてもらうわ」
 《ふん確かに、お前の狂いっぷりは実に愉快だった。今までにない最高の復讐っぷりだったぞ。というより...

 元々お前を、器にしようと、俺は今までずっとお前の中にいたぞ?》
 
 「何言って—――あ...!」

 俺が気付いた様子を見てバルガが愉快気に笑う。そうだ...さっき金縛りに遭ってた時、口から黒い何か。アレもバルガだったのか。いつから中に?ゾンビになってから気付かないうちに?違う、俺の前にあいつは現れなかった。気配もしなかった。
 ならいつからいたのか...決まっている。

 「死体になった俺に入ったってのか!?テメーが、俺をゾンビにした張本人か...!?」

 俺の、狼狽が混じった問いに、バルガは変わらず笑いながら答えた。


 《そうだ。俺がお前を、不死の種族ゾンビにした張本人だ》
 
 


 「「.........」」
 『『.........』』
 
 縁佳もクィンも、ミーシャもカミラも、バルガの衝撃的な真実の暴露を聞いたショックのあまり、言葉を発せないでいた。死んだ皇雅が不死の人間として蘇った原因が、魔人族の王であったこと。それが皇雅の中にずっといたこと。
 そんな真実を聞いた彼女たちは、動くことなく、そして口を開くこともなく二人の様子を見続けていた。



 たった今告げられた真実が、脳内で何度も繰り返し再生される。理解はした。だが落ち着かない。あんな異質で狂っている奴にゾンビにされただなんて...。

 「俺を...死んだ俺なんかを、何で復活させた。ザイ―トやヴェルド...いやどの魔人族よりも、ましてや普通の人族よりも弱い俺を、テメーの器にしようと思ったんだ?俺にいったいなんの価値が...」
 《言っただろ?俺に相応しい器の条件は、負の感情に満ち満ちた、強い憎悪と殺意と復讐心を抱いている者だと。
 カイダコウガ、あの時死体となっても尚、お前はザイ―トを凌駕する超上質な男だった!あんなどす黒い憎しみ・恨み・殺意・復讐心を宿した者など見たことなかった!死体だろうが関係無い、俺が蘇生させてでもお前を乗っ取ろうと思ったのだ!!》

 何が面白いのか、愉快そうに声を上げて答えやがる。さっきから俺を物扱いしやがって...。俺があいつの入れ物だと?ふざけてやがる...!!

 《あの時お前の蘇生には失敗してしまい、お前は魔人族でも屍族でもない、全く別の存在...不死者へと変えてしまった。慣れないことはするものじゃないと考えたが、却って好都合だったな。お前もその体質のお陰で、ほとんど苦労することなくそのレベルまで辿り着けただろう?
 まぁどうでもいい。それで、お前の中に俺は入った、これで俺の全てを引き出せる、全盛期以上の力が出せると!そう思っていた!!

 が...それは叶わなかった》

 突如、バルガは声のトーンを落とし、忌々しそうな表情をする。
 
 「どういう、ことだ?」
 そう聞かずにはいられなかった。

 《簡単な話だ......俺の“憑依”の適性者は俺と同じ魔人族のみだった。それ以外の生物は不適性だということ。どんなに上質な負の感情を抱いていたとしても、魔人族ではない者では俺の力が完全に引き出せない結果になってしまう、というわけだ。まったく!せっかくこれ以上無い逸材を見つけたと思えば、この特殊技能にあんな弊害があったとはな!!だからお前への“憑依”は失敗に終わった。ザイ―トの散歩も役に立ったと思っていたがな...クソが》

 「じゃあ何でテメーはまだ俺の中にいたんだ?さっさとザイ―トの元に...つーか待てよ...ザイ―トの中にいて俺の中にもいた?どうなってんだテメー!?」

 肝心の種族違いのせいで、俺はバルガの器にされずに済んだ。だがこいつの霊体は今までずっと俺の中にいた。そして奴はずっとザイ―トの中に、今はヴェルドの中にいる。どうなってんだいったい...。

 《そこはザイ―トの奴に感謝しなければな。奴の“分裂”は霊体をも可能にできる。それだけの話だ。あの時お前を器にするのを諦めたわけだが、せっかく復活させたんだ、お前がこの世界でどう動くのか興味が湧き、一部をお前の中に残した。
 そのお陰で俺は愉しめたぞカイダコウガ。同族どもを虐殺して、同胞たちを瞬殺して、あのザイ―トとも互角に戦い退けた。そして今では奴を破り、さらに多くの人族どもを殺しまくった。お前程俺を愉しませてくれた人族はいまい!しかも俺にこんな最高の器を与えてくれたのだからな!
 礼を言うぞカイダコウガ!今度は俺が、表立ってこの世界で暴れられる。ククク...ハハハハハハハハハハハハハハハハハァ!!!》

 俺の行く末が気になったんで、ずっと俺の中に居続けた。俺の殺戮ショーも中でニヤニヤしながら鑑賞していたってわけか...。

 「最後に良いか?テメーは、俺に殺意とか、復讐心を増長させたりはしたのか?人格を変えることができるなら、俺は知らずうちにテメーにあいつらへの復讐を必要以上に仕向けられた可能性がある」
 《そこについては心配要らん。元よりお前にそんな必要は無かった。俺は一切干渉はしていない。全て、お前の意志でしたことだ...!》
 「......そうかい」

 ......とりあえず、俺が抱き続けていた謎・疑問は解けた。
 ゾンビ化した原因。バルガの行動原理。ザイ―トとヴェルドの異変の正体。全部解けた。
 で...ここから俺がやることは、まぁ変わらずだ。

 さっきの、続きだ!!


 「色々教えてくれてありがとう。知らずうちにテメーを愉しませていたみたいだな。ご満悦していただき光栄だよ。だから、もう満足だろ?

 あとは俺に消されて地獄へ落ちろ!!!」

 《まだだ!!ここから始まるのだよ!!俺の本当の悦楽は!手始めにお前を消してやろう!!!》


 やることは変わらない。このクソ魔人王は俺を害した。不快にさせた。
 だから殺す。ぶち殺す。
 この世から跡形も無く消す...!!

 ――復讐だ!!!





バルガ 年齢不詳 魔人族 レベル?99
職業 ―
体力 ?99999999
攻撃 ?99999999
防御 ?99999999
魔力 ?99999999
魔防 ?99999999
速さ ?99999999
固有技能 瞬神速 瘴気強化 夜目 気配感知 存在遮断 魔力防障壁 魔法全属性レベルⅩ 滅魔法レベルⅩ 魔力光線全属性使用可 霊体化 憑依 陰滅   超生命体力 超高速再生 剣術皆伝 槍術皆伝 



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