ゾンビになって生き返ったので 復讐してやる

カイガ

108話「人族連合vs魔人族勢力」


 旧ドラグニア王国兵駐屯地。「気配感知」を持つ兵士たちの連絡を受けて、全兵士が戦闘態勢に入った。その中には美羽とクィンもいる。美羽は中衛に、クィンが先頭に立つ並びだ。
 戦闘態勢入ってから数10分、空から、地中から、そして正面からモンストール・魔物の大軍が攻めてきた。下位レベルから災害レベル層の怪物たちがいる。その百鬼夜行の絵図を見た大半の兵士たちが萎縮した。
 そんな中、クィンは物怖じすることなく、長年愛用している剣を抜いて構える。対する敵軍から一際大きな魔物が2体先陣をきって突進してきた。

 「あれは、神獣ユニコーン!しかも2体も...!」
 「クィン殿、危ない―!」

 兵士たちが焦燥に駆られながら叫び、クィンに避難を促すも、当の本人は逃げることなく、自分目がけて突進してくる神獣たちを睨んで見据える。そしてぶつかる寸前、クィンは水属性が付与された剣を横薙ぎに振るい、数歩前進した。
 
 「―“水撫月みなづき”」

 直後、2体の神獣が真っ二つになり、そのまま絶命した。死にはしたが、突進の勢いは止まらずそのまま兵士たちに突っ込んでくる。が、魔法を扱う兵たちによってその死体は焼却されて、事無きを得た。

 「...!!あの災害レベルの魔物2体を、ひと斬りで!?これが人族最強クラス、あの救世団と変わらない実力だ...!!」

 今の流れを間近で見ていた兵士たちが戦慄しながらクィンを称える。それに対するクィンは、どこか物足りなさを感じている。

 「ラインハルツ王国にいるあの人から教えられた技なのですが、まだまだ及びませんね。剣では扱いにくい技だと言ってましたが、その通りですね...」

 先程の技は、海洋国にいる超一流の剣士から伝授したものだ。だがその技は、クィンが使っているような剣で扱うには難しい技だった。それでも災害レベルの敵を葬るくらいの威力を発揮したのだが、クィンは満足はしていない。

クィン 23才 人族 レベル100
職業 戦士
体力 7900
攻撃 6000
防御 3000
魔力 6000
魔防 3000
速さ 5000
固有技能 神速(+縮地) 剣聖 炎熱魔法レベル8 水魔法レベル8 嵐魔法レベル8 魔力防障壁

 この半年間で彼女は剣士としても魔法術士としても、人族トップクラスにまで進化した。だが彼女にとっては、人族最強など通過点に過ぎない。
 (彼...コウガさん相手では、こうはいかないでしょう。私が目指すレベルは、あれくらいまでいかなければ...!)

 そう心の中で意気込む中、今のクィンの活躍をきっかけに再度闘争心を燃やした先鋒の兵士たちが、一斉に斬りかかりに出た。それをみた敵の大軍も一斉に攻めに出た。こうして戦いの口火は切って落とされた。

 「!...あれは、エーレ...」

 モンストールを数体斬り伏せていくと、目の前に圧倒的存在感を放つ魔獣が。それは以前サント王国兵で組まれた討伐任務の際相手した魔獣だったが、圧倒的戦力の前に全滅寸前まで追い込まれた神獣・エーレだ。
 あの時は皇雅が乱入してくれたお陰で、この魔獣に殺されることを避けられた。

 「コウガさんがいてくれたから、私はあの時死なずに済んだ。今は違う。彼がいなくても、私はもうあなたには負けない...!」

 自分を助けたことに感謝はしているが、彼がやってきたことを赦す気にはなれない。その気持ちは半年経っても変わらない。ただ、自分がどうしたいのかに対する答えはもう出ていた。

 エーレと単独で戦い始める。炎熱魔法がとんできたら水魔法を。強力な雷電魔法には、嵐魔法でいなして逸らして、周りにいるモンストールに被爆させてやり過ごす。クィンが斬りかかるも、相手の「未来予知」で悉く躱されるが、クィンの剣速が想像以上だったのか、胴体に斬撃が入っていく。
 そこから数分間に亘る魔法のぶつかり合い、剣と予知の勝負が続いた末、ユニコーン戦で見せた剣撃と魔法を複合させた「魔法剣」というクィンのオリジナル技で、クィンがエーレを倒す形で終わった。

 「やっと、ここまで来れた...はぁ、はぁ」

 しばらく息を整えて、再度戦地へ行こうとすると、後ろから彼女を呼ぶ声がした。聞き覚えのある声の方を見ると、美羽が回復魔法を唱えてクィンの体力を回復させた。

 「さっきかなりの強敵とひとりで戦ってたね?今からそんなにとばすとバテるよ」
 「ありがとうございます、ミワ。ですがこれくらい一人で出来なければ、コウガさんの相手にもなれないでしょうから...」
 「クィン...。もう、私もいるのだから、あまり気負わずにね?」

 思いつめた顔をしたクィンを、美羽がメっと軽く窘《たしな》める。そんな彼女にクィンはくすりと笑い頷いた。が、それも束の間。こちらに超強力な何かが飛んでくるのを、本能で察知して、二人同じ方向へ跳んだ。
 直後、大きな着地音を立てて砂ぼこりが大量に舞う。その中から黒みがかった灰色の肌をした中背の男が現れる。その男の身体の色を見たクィンが警戒を込めて睨む。
 
 「魔人族...!」
 「!! これが、例の...!?」

 クィンの呟きに美羽が驚愕の視線を例の男に向ける。二人の敵意満ちた視線を受けてなお余裕そうに構えながら、魔人族が口を開いた。

 「あー?俺が魔人族だって知ってんだ?名前しか知らないもんだと思ってたが、けっこう詳しいな」
 「...過去にあなたと同じ体表をした男と遭いましたから...その色が魔人族の特徴だと」
 「ザイ―ト様だな...?まぁいいや。俺は序列7位のリュドル。って別に憶えなくていいか。どうせ死ぬんだしお前ら」

 そう言ってリュドルは強烈な殺気を二人に浴びせる。が、二人とも退くことはしなかった。
 
 「魔人族の殺気を当てられても怯まないか!人族もまたタフなのが出てきたなぁ!?とにかく、死んでもらおうかぁ!」
 「ミワ、援護お願いします!」
 「ええ、二人でこいつを倒す!!」

美羽・クィンvs魔人族序列7位リュドル。世界の命運をかける、そのうちの1つの戦いが始まった...。




 同時刻。サント王国も魔人族軍勢とぶつかり、激しい戦いが繰り広げられていた。ここにいる人族の兵士たちは、一人一人がCランクの敵を単独で倒せる実力を持っている。下位レベルの敵は既に全滅寸前で、B~Aランクも押されている状況だ。
 そして災害レベルの敵だが、これも人族側が優勢だ。救世団5名と総大将ガビルの活躍でモンストールも魔物も倒している。彼らの実力は、単独でGランクを倒せる程度には強い。ガビルはともかく、異世界から来て7ヵ月程度しか経っていない彼らの成長は凄まじいものだった。もっとも、急成長の理由は異世界召喚の特典にあるのだが...。
 その中でも異彩を放っているのが、縁佳だった。今や彼女は、一人でSランクモンストールを倒せる程に強くなっている。

タカゾノヨリカ 18才 人族 レベル100
職業 狙撃手
体力 7700
攻撃 5000
防御 6780
魔力 5000
魔防 5000
速さ 8390
固有技能 全言語翻訳可能 気配感知(+索敵) 鷹の眼 隠密 気配遮断   千発千中 雷電魔法レベル6 嵐魔法レベル6 水魔法レベル6 属性狙撃   魔力障壁 限定強化

 これが現在の縁佳のステータスである。彼女の強みは、職業と相性が良い固有技能にある。「隠密」と「気配遮断」で自分の存在を無レベルまで消して敵に感知されることを防ぎ、生来彼女が持っている狙撃能力で敵の急所を的確に射抜いて確実に殺すのだ。
 彼女には武器が2種類ある。一つは最初からあった弓矢。今では神弓使いの称号を得ている。
 もう一つは、狙撃銃である。前者はカーブを利かせて矢を放って敵を翻弄させる、言わば弾道を読ませないのを武器とするに対し、銃はその威力にある。防御力が高い敵に対して銃は絶大な効果を発揮する。さらに使い手が狙撃の神と言われる者であるから、確実に急所を高火力で貫き、殺せる。たとえ相手が魔人族でも、だ。

 現在縁佳、そしてガビルは一人の女性と対峙している。無論その女性は魔人族だ。
 序列6位のジースは、不敵な笑みをガビルに向けて挑発する。

 「いつまで睨んだままでいるつもり?それとも視線で殺す気かしら?」
 「...はるか格上の敵に、自分から突っ込む程、度胸があるわけでもなく、蛮勇でもないだけだ。お前こそ、攻めてこないな?」
 「だって、私から攻めると、またあの見えない狙撃がくるでしょ?まったく、どこから狙撃してるのかしら?姿も見せずに陰湿ねまったく...」
 
 ジースはため息交じりに狙撃手...縁佳を貶すが、縁佳の意志は揺れることはなかった。
 (今の私は、ただ敵を射殺すことだけに集中する。ガビルさんが、私に隙をつくらせてくれるからその瞬間を黙って待てば良いだけ...そしてみんなもきっと来てくれる...!)

 そう何度も自分に言い聞かせることで、揺れない自分を形成している。狙撃手にとって、沈着冷静でいることは何よりも大事だということを、部活動を通して彼女自身よく理解しているから。

 「そうやって膠着戦を続けている間にも、仲間が殺されていくわよ?あんたら二人はこの軍で重要な戦力らしいしね?少ない主戦力がこうして油売ってて、みんな大丈夫かしらねぇ?」
 「......ぐ」
 「......」

 ガビルが苦い顔をし、縁佳は依然ジースを監視し続けている。やがて、ガビルが遠距離魔法攻撃を放つ。それを難なくかき消して、今度はジースが漆黒の刃をとばしてきた。
 が、その斬撃を第3者が乱入して防いだ。頑丈な盾を構えたまま、ジースに特攻する。
 
 「ソネミキか!援助感謝する!!」
 「俺もいますよ国王様!」

 曽根に続いて堂丸、中西も続く。米田は他の兵士たちにサポートされながら他の敵と抗戦している。

 「よし、全員でタカゾノヨリカの狙撃チャンスをつくるぞ!!」
 「「「はい!!」」」
 「へぇ、今来たこのガキどもが異世界の...殺してあげる...!」

 魔人族との戦いはさらに激化していく。


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