ゾンビになって生き返ったので 復讐してやる

カイガ

82話「軍略家 カミラ」


 今の俺の能力値なら、目の前のデカクズの突き飛ばしなど身じろぎすらしないくらいに効かないのだが、ここは演出でわざと尻もち着いてみた。そんな俺をデカクズはふんと蔑んだ視線を寄越してすぐに下卑た目でアレンを見やる。
 こいつからは悪意とキモい下心しか感じられない。国が衰退してるとこういうクズが横行するようになるのか、元々権力ある奴はこういうクズしかいなくなるのか、どちらもか。
 いずれにせよ、俺を不快にさせた。害した。親しい女を寝取ろうとしてる。向こうから手もだした。十分だ。

 俺が人を殺すのに十分な理由が―

 「お前のような奴と一緒にしないで。軽々しく鬼なんてつけるな...!」
 「ははは何を言ってる?いいから我と来い!楽しもうじゃないかぁ」

 俺を見ながらデカクズに悪態をつくアレンになおも口説くデカクズ。ゆらりと立ち上がった俺を見たアレンは数歩退いた。これから俺が何をするか察してくれた。立ち上がった俺を見て、ああん?と眉をひそめる。

 「先に手を出したのは、テメーだからな?」
 「はぁ?それが何だ!まだ消えないならここで斬り伏せ―

 デカクズが何か言い終える前に、俺はさっき決めていた通り、まずは四肢を秒で、引き千切った。刃物で斬るよりも酷い絵面だ。きれいに切断されなかったため、骨はもちろん中の千切れた筋繊維が丸見えだからだ。力任せに思い切りやったので、辺りに臭くて汚い血が飛び散ってしまった。せっかくの食事する場を汚してしまって申し訳ないが、気にする余裕はない。今は目の前に湧いたゴミを処理しなきゃ。

 「あ―!?ぎゃああああああああああああああああああああああ!!?」

 一瞬で手足が千切られてデカクズは無様に汚らしい悲鳴を出す。周りにいる客たちも悲鳴を上げて逃げ出すのもいた。残っている奴らの半分くらいは恐怖のあまりへたり込んでしまっていた。同時に奥からガシャガシャと鳴らして来る奴らが...この国の兵士だ。この四肢欠損状態のゴミのお付き兵のようだ。

 「ダグド様!何てことだ!!」「貴様!この方を知っての狼藉か!?」「か、囲めぇ!!」

 何か喚いているが全無視。さぁ、四肢を消した次は...ってここ食事処だったわ。この前みたいにやり過ぎるとここが凄惨な拷問部屋と化してしまう。これ以上汚すのは申し訳ないので、もう殺すか。レベル上げも待ってることだし。

 手を振り上げる俺に対し、達磨になったデカクズは何か言いだす。

 「はぁ―はぁ!?貴様ぁ!わ、我をぉ!誰だと思ってるのだぁ!?この国の、王族でぇ時期冒険者Aランクの有力者だぞぉ!!我に、こんなことして、た、ただで済むと思って―」
 「あっそ。うるさい。俺を不快にさせ害した罪で、死ね」
 
 ガッと顔面を掴み大地魔法を唱える。“崩壊”...あらゆる物質を砂粒へと還す。顔面掴まれたデカクズはまだ何か言っている。


 「ひっひぃ!!だ、だから、金や地位をやるから、ここは手を退いて―」


 最後まで聞くことはなく魔法を放ち、顔面が砂へと還っていく。首を刎ねるのはさすがにここでは止めておけってな。
 音もなく死体と化したこの害悪を呆然と眺めていたギャラリーたちは、数秒後悲鳴を上げて今度は全員逃げだした。殺人だ―、王族を手にかけたぞ―とか喚く声が聞こえる。

 「よ、よくもダグド様を!?」
 「大至急王宮に報告を!そしてこの大罪人を捕らえろぉ!!」

 動揺しつつも命令を出して俺を捕らえようとする兵士ども。それは悪手だろうが、蟻ンコども。

 「何をそんなに怒ることがある?たった今死体になったこいつは、武力と権力があるのを良いことに散々威張り散らして、剰え他人をたくさん害してきたんだろーが?己の下らない欲求を満たす為に平気で他人のものを奪い汚してきたゴミ野郎だ。こうなって文句あるまい?」
 「ぐ...ダグド様は性格に難あるお方ではあったが、彼無くしてはこの王国をモンストールの脅威から少しでも守ることはできなかった!この国が生きながらえていられるのも彼のような実力者がいてこそ!それを貴様が殺したのだ!その罪は...」
 「あー分かったもういい。言いたいことは分かったから。それを踏まえて俺は言うぞ?
 知るかボケ!何よりこいつは、俺を不快にさせて害し、さらには俺からも奪おうとしやがった!こうなって当然なんだよ!!俺を完全にキレさせた愚者どもは、全員惨殺刑だ!分かったか貧弱ども!!?」

 あまりにも私怨で自己中発言に兵士たちは呆気にとられる。

 「つーかもう出るか。ここで騒ぐのは店主に気の毒だ。おい悪かったな、色々台無しにしてしまって。詫び金カウンターに置いてくから。んじゃ」

 金貨数十枚を置いてアレンと店を出る。後ろから兵士どもが何か騒いでいるが知らない。

 「ただ昼休憩しに来たのに何でこうなったのやら...ごめんなアレン」
 「んーん。コウガのせいじゃない。それよりも王国内で早速騒いじゃったね?私たち通報されてる?」
 「そうかもなぁ。前回はギルド内で冒険者同士だったものだからお咎め無しに終わったが、今回は場所も相手も悪かったみたいだから、この後面倒になるかもな...ま、今はレベル上げしに行こう。後のことは後で、だ」

 そうまとめた俺の意見にアレンは賛成してくれた。お互い雑な一面がここでかみ合ってくれてありがたい。思いもよらない不愉快極まりない出来事に遭遇したが、ゴミ処理で発散できたのでもう忘れよう。終わればもうどうでもいいし。
 とりあえず休憩にはなれたので、午後からも同様にモンストールどもを狩りに行く。今度は地下深いところへ潜ることに。深いところに進めば災害レベルとも遭える可能性があるだろうし。
 期待感を抱いて再び人族にとって魔の領域へ向かった。





 同時刻、ハーベスタン王国王宮。
 緊急の報せを聞いた兵士団長のトッポは、あり得ないとばかりに机に拳を叩きつける。

 「ダグド殿が...殺された!?しかもこの王国内で、同じ人族にだと!?」
 トッポはダグドの元部下であり、ダグドが兵団を抜けて冒険者に転職した後は3彼が33歳にして兵士団長に就任した。実力は現王国内ではトップレベル。ドラグニア王国の兵士団長ブラットと同格レベルと言われている。

 「くそっ!衰退していくこの国にとって彼でも貴重な戦力だというのに、どこのどいつだ!?私を入れて上位レベルモンストールを倒せる戦士は残り10人しかいないというのに...!」

 絶望に項垂れるトッポの元に、誰かが訪れる。白いローブを着たその人物を見て彼は声を上げる。

 「お前は...この王国の軍略家の...!」
 「先程の通信は聴かせていただきました。早急に兵を集めましょう。相手は人族とは言え、犯罪者です。それにあのダグド様を殺害するほどの実力者。侮れません。ですが、総力挙げればすぐにその者を捕らえ処罰できましょう」

 軍略家の意見に、トッポは渋々頷いた。位は彼の方が上なのだが、数々の戦果を上げてきたのは、この軍略家の存在があってこそ。実績はある意味彼以上だ。故に年下で部下だが、この者が出した作戦には反発することをしなかった。

 このやり取りの数分後、ハーベスタン王国に仕える全ての兵が集められて、作戦が伝えられた。

 
 

* 

 すっかり日が暮れた時間帯。地下から戻ってきた俺たちはまた全身汚れた格好になった。服がまたボロボロになったから、あの王国で新しいの買うか。なに、「迷彩」で擬態すれば誰も気付くまい。
 地下での修行はそれなりに効果ありだった。Gランクと3体くらい遭遇して、うち1体はアレンが挑んで、倒した。Sランク冒険者に恥じない良い戦いっぷりだった。「限定進化」もかなり使いこなせていたし。また一歩、魔人族への復讐に近付けたようで嬉しく思った。
 水魔法で体を清めて、さっぱりしてからモンストールの住処を出る。今日ずっとこの辺りで狩りをしていたので、ここにはモンストールは一切生息してない。地下も粗方消したので、一気に数が激減した。これをあと三日は続けると、オリバー大陸にいるモンストールはほぼ絶滅する形になるだろう。そうした場合、俺は英雄にでもなれるのか?興味無いし助ける気もないからしないけど。
 昼のこともあるので、入国審査エリアに行く前に「迷彩」をアレン含めて発現させる。他人の目からは、俺たち二人は別人に見えることに。許可証を見せて何事も無く再入国に成功する。
 だが―

 「...?」

 入国した直後、妙な音が脳内に響く感覚がした。隣にいるアレンも耳を押さえる仕草をするのを確認。
 何か、この地帯に魔法の類を仕掛けているのか?恐らく警備の一環としての処置なのだろう。昼間ああいったことやったからな。警戒心強くて感心だね。
 時刻は夜手前。服買いに行こうと思ったのだが閉店だった。こういうことを想定して、嫌だがモンストールの毛皮でつくったコートを羽織ることに。昼間とは違うところで食事に行こうと思ったところで、あることに気付いた。

 周囲に人がいない。夜だからというのもあるかもしれないが、夜店さえ開いていないのは流石におかしい。
 ここへきて、俺はようやっと気づいた。既に罠に嵌まっている。
 俺が勘付いたのを見計らったかのようなタイミングで、俺たちへ近づく気配が。こっちはまだ擬態中だというのに、なんで分かったのか。こちらの疑問が解けないまま、俺たちのもとに来た白いローブ姿の―小柄な女性が話しかけてきた。

 「初めまして、犯罪者さん。私はハーベスタン王国直属の軍略家を務めている、カミラ・グレッドと申します」

 初対面で俺を犯罪者呼ばわりした女は、俺が興味持ってた件の軍略家だった。緑色のセミロングヘアーを二つ括りでまとめて、身長が160にも満たない少女と言ってもいいそいつこそが、異世界の孔明というものだから驚きだ...って、見た目が何の強さの基準にもならないって俺がよく分かってるはずだ!

 「噂は聞いている。世界トップクラスの軍略家だってな」
 「そうなのですか?見ず知らずの人にもそういう評価が浸透してくれていて光栄です。
 ...ところで、お二人のその姿、擬態しているのでしょう?解いて本当の姿を見せてくれませんか?」

 やっぱり擬態していると気付いていたか。一応奴からは俺たちは別人に見えるらしい。どういうことかは分からないが先に「迷彩」を解く。本物の姿を目にしたカミラは、アレンを見てやや驚く。

 「鬼族、それも金角鬼ですか。生き残りがこの大陸外にもいたのですね」
 「...!」

 カミラの発言にアレンが反応する。今の発言内容からして、この大陸にアレンの仲間がいる可能性があるらしい。が、今は後回しだ。

 「とりあえず気になってたこと訊くぞ?なぜ『迷彩』を見破れた?俺の技能だとよほど高レベルの奴じゃないと見破れないようになってるはずなんだが」
 それこそ魔人族クラスにでもならなきゃな。

 「あなたたちが『擬態』系の技能を用いてまたこの国に侵入するだろうと予測して、入国口に結界を張らせてもらいました。
 『擬態』系の技能を発動したことを条件に反応する仕組みです。身に覚えがあったでしょう?脳内に妙な音が響いたアレが、結界にかかった反応です。なら後は誰が技能を発動したのかを捜すだけ。結界の反応に引っかかった人を見つけるのは簡単。結界に入った時点でマーキングされてますからね。
 と、いう経緯であなたたちを発見したというわけです」

 余裕の態度で解説を述べて、最後に両手を合わせてニッコリ顔で締めた。
 この女...本物だな。俺が「迷彩」使うことを予測してあの結界を使ったことにも驚かされたが、何より度肝抜かれたのは、そもそも俺たちがまたこの国に戻ってくるのを読んでいたことだ。
 国の要人を殺しといて間抜けにも奴らの包囲網にのこのこ来ることは無い。国を出て大捜索するというのが普通の見解だろう。
 だがこの女、俺たちがまた戻ってくるという気まぐれの行動を見事に予測してきたのだ。犯人は現場に戻ってくる、という古い心理を心得ているというのかコイツ。

 「顔を見て気付いたのですが、男性の方はSランク冒険者“オウガ”、鬼の方は今日Sランクに昇格した“赤鬼”、ですよね?そしてオウガさん...

 あなたは、先日ドラグニア王国を滅ぼした異世界人のカイダコウガですよね?」

 何と、秒で俺の素性がバレた。つい最近のことだというのに、どういうことだ!?
 
 「...情報網優れ過ぎだろテメー」
 「それが私の戦い方ですから。非戦闘員身分である以上、情報収集能力と策謀に長けていなければ、この世界で生き残れません」

 生き残る為に必死に磨いた故、か。まさに異世界孔明だわ。

 「それに、あなたのことは既に世界中に知れ渡っていますよ。情報源はサント王国。とは言っても数時間前に届いた情報でしたが」
 
 成程、クィンが早速手を打ったみたいだ。これで俺の悪名が全世界に知れ渡ったってわけだ。人族にとって俺はもはや敵として部類したようだな。
 ......つーか、俺がドラグニアを滅ぼしたことになってんの?ザイ―トの奴のせいだろ?主に...いや俺と奴とのドンパチで土地が滅茶苦茶になったのだった。あながち間違いじゃないのか...。
 こほんとわざとらしい咳をしてカミラが発言する。

 「...と、あなたがお話しに付き合ってくれたお陰で、この国内トップクラスの兵士の方々がこちらに来てくれたようです。ここは既に手練れの兵士たちによって包囲されています。あなたたちをここで捕えさせていただきます!」

 そう言ってカミラがその場から飛び退く。
 直後、俺とアレンの足元が崩落した。その範囲、先程カミラがいた場所に及ぶ。落とし穴か。

 さぁ、第2回王国そのものとの戦いだ―!

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