ゾンビになって生き返ったので 復讐してやる

カイガ

73話「出し切った...」


 「「「「.........」」」」

 ミーシャの水晶から皇雅とザイ―トとの戦闘を見ていたアレンたち4人は、その激しく過激で次元を凌駕する内容に言葉を出せないでいた。それだけ衝撃的な光景であり、もし自分が現地にいたら数秒で消し炭と化していただろうと予測させられもした。

 (あれだけの力を保有しているコウガさんが、復讐の矛先をこちらに向けたら、もう諦めるしかない、よね...)
 ミーシャは自分の行く末を思うと暗い気持ちになる。皇雅があの魔人を殺したとした場合、次は私の番とされて彼に殺される。あるいは魔人が皇雅を完全に無力化して封じることに成功した場合、そのあとは魔人による世界の破壊と支配でここにいる私たちも殺される。
 どちらにしろあの戦闘が終われば、自分は死ぬのだと悟ってしまったミーシャ。

 (けど、どうせ死ぬなら、やっぱりあの人に......)

 手を震えて水晶を見てるミーシャを、クィンは心配そうに見つめる。彼女もまた、あの2人の戦闘が終わった後はどう動くか悩んでいた。

 (コウガさんの復讐と魔人族の活動。どちらを止めようとしても私は殺されるかもしれない。戦ってミーシャ様を守るか、彼女を置いて彼らのどちらかの勝手に目を瞑って逃げるかの選択...。なら、私は...!)

 苦悩する2人をよそに戦闘の様子を真剣に見ているアレンは、皇雅の様子の変化に微かに気づいた。

 「そろそろ、この戦いが、終わる。コウガは今から全てを出し切るみたい...たぶんだけど」

 アレンの予想の呟きにドリュウはそうか、と短く返事した。

 そしてアレンの言った通り、皇雅が今までで見せたことも無いくらいに濃いオーラを纏わせて、画面越しでも分かるくらいに超強力な気配を感じさせた。

 そして、皇雅がザイ―トに殴りかかろうと走り出した瞬間、あまりの速さに彼の姿が消えた。




 殴る度に、蹴る度に、攻撃に使った部位から血が噴き出て、皮膚が裂けて、筋肉が断裂する。骨はギリギリ砕けないでいるが、これ以上負荷をかけるとほぼ確実に壊れるだろう。この状態が持つのもあと僅かだろう。
 だがあと数分あれば、目の前のチート魔人を葬るには十分だ。文字通り捨て身の大技をぶっ放せば、いくらこいつでも何もかも不能になるだろう。つーかなってくれマジで。
 血まみれの拳と足を再び構えて深呼吸。ここからはもう後のことは考えない。目の前の敵が絶えるまで止まらない。攻撃し続ける。
 俺はゾンビだからこっちがバテることはない。体が壊れても痛みは感じないから途切れることはない。ここからは究極の無呼吸運動だ。生前体験したこともないくらいにスゴイのが、くる...!

 『絶拳』

 景色も音も置き去りにする程の速度をも武器にして全身を旋回加速した(おまけに推進機も発進させた)右ストレートを顔面に叩き込む。
 ザイ―トの目や鼻を潰した感触と俺の右腕の骨が砕ける音が聞こえたのが同時だった。
 だがそこで終わらせず、今度は右足に全体重を乗せて踏み込んで、体を即座に捻らせて「絶拳」を左で奴の胴体に叩き込んだ。
 どこかの内臓を潰した感触と左腕が折れる感触が同時にしたがどうでもいい。

 「テメーを強化なんてさせるかあああああああ!!!」

 絶叫しながら俺は何度も「絶拳」をその場で放ち続けた。まさに袋叩きの形である。
 一撃一撃の間隔がほぼ無しの状況で攻撃され続けているため、ザイ―トは完全に防戦一方に陥る。「限定進化」は、全身に魔力を巡らせる作業が必要とされ、それなりに集中が要する。今の皇雅の連続攻撃に完全に阻まれてやや窮地に立たされている状況だ。
 ならば切り札を発現するのは一旦やめるという方針を選ばざるを得なくなったザイ―トがすることは...

 「調子に乗らせるかよぉ!!」

 防戦を捨てて、攻撃に出る他無い。皇雅と同じく持てる力を発揮して応戦する。
 得意武器の鉤爪を発現させて皇雅の拳を悉く迎え撃つ。鋭利なクローで俺の指の何本かが切り飛ばされる。だが拳を止めはしない。その後も休み無く超音速のストレート・フックとクローの応戦が続く。
 先に壊れたのは俺の拳だった。奴の鉤爪で指が全て無くなり、腕の骨が全て砕けた。
 腕がダメなら、脚を使えばいい。「絶拳」の連発で奴の鉤爪を破壊されたザイ―トも、同じく蹴り技を繰り出してきた。雷と風のオーラを纏った斬撃性質を持つ蹴りを放ってくる。

 『雷嵐脚らいらんきゃく
 触れれば斬れる足と化した魔力蹴りをくらわせにくる。なるほど、普通の蹴りではカウンター技の餌食になるから、斬撃の蹴り・魔法付与した蹴りなら触れるのは刃物と魔法だから反撃ができない。確かにその通りだ。
 だったら、その邪魔な刃物と魔法を消せばいいだけ!!

 「絶拳」の要領で下半身の部位中心に力をパスして加速させる。右足→右大腿→腰→体幹→左腕でまず軸をつくり、左腕は後ろへ引いて腰を落とす。
 そこからパスの続きをする。右腕を前に強く出して、骨盤→左大腿→左腱→左足へとパス・加速して自壊上等の超音速蹴りを繰り出す!

 『蹴速《けはや》』

 当てるのは奴の肉体ではなく、奴の足を纏う刃だ。そこに全神経を集中させて全力の蹴りを当てる!

 チュドォオオォ―!とゲームでよく聴く爆音が響く。刃はまだ折れない。なら折れるまで蹴り続ける!
 またもお互いの蹴りの応酬が続き、周囲の建物や森林、大地がその余波で破壊されていく。
 何回目かの激突で、ようやく刃を折ることに成功。またも武装がはがされたザイ―トは折れた武装硬化状態のままで、蹴りに来た。―その蹴りを、待ってたんだ!

 奴の蹴りが体に当たる瞬間、回転扉のように全身を旋回させて、左足を軸にした猛回転のローリングバット蹴りを叩き込む!

 『廻烈《かいれつ》』

 ザイ―トの蹴りの威力も乗せたオリジナルのカウンター蹴りが心臓部分に命中する。

 (チュドォン!)「ぐはぁ!して、やられたな...俺の武器を消してカウンター技に持っていかせるとは」

 モロにくらったザイ―トはついに膝をついた。彼も相当体力と魔力を削っている。高速回復を使う余力さえ厳しい様子だ。
 一方の俺も、何発もの捨て身の蹴りで両脚がイカれてしまっている。四肢ともに骨が砕け血まみれの満身創痍だ。これだけ体を壊しても痛みは一切無いものだから、生物離れしたなぁとつくづく実感させられる。
 ともかく、まだ奴は死んでいない。だが今の奴なら、次の大技で殺せる、きっと。

 「6000%...解除ぉ!」
 次で確実に殺したいので、リミッターをさらに解除して必殺の一撃を放ちに出る。
 
 その場で軽く跳んで、体育座りの姿勢のまま猛回転しながらザイ―ト目がけて急降下。武装硬化した両足には、推進機をエンジンを取り付けて爆破属性も付与されている。
 ザイ―トの頭上2m切ったところで両脚を伸ばして両踵落としの姿勢のまま、エンジンを稼働して超爆速の一撃を思い切り叩き込む!

 「終われぇ!『流星爆斧メテオギロチン』!!!」

 踵が奴の頭に触れた瞬間―

 耳を劈く衝撃音の直後、被せるように爆発音がした。
 常人ならば、鼓膜が破れ、聴覚不能になり、最悪昏倒するくらいの音量が、辺りに響いた。
 その音は、遠く離れてこの戦いを見ているアレンたちにも聞こえた程だ。

 爆風に飛ばされた俺は着地態勢をとることさえできないまま、地面にべちゃりと墜落した。

 反動と爆発による両脚欠損、リミッターの重ね重ねの解除による体の崩壊、その他もろもろのダメージで、俺の体はもう原型を留めていないくらいに壊れていた。痛みが無いのに指一本ロクに動かすことさえできない状態をもどかしく思いながらも、俺は全力を出し切ったことへの充足感を得ていた。

 「なんか、スッキリしたなぁ。復讐とは違った感じだ...」

 大陸を滅ぼす一歩手前くらいの規模の争いが、ひとまず終わった。










*4章はあと2話分で締めます。戦闘描写は、これが今の本気ですw疲れたー!

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