ゾンビになって生き返ったので 復讐してやる

カイガ

72話「限界を何度も超えて」


 ザイ―トの攻撃に合わせて高度なカウンター技を放って吹っ飛ばす皇雅の戦闘を見て、アレンたちはさっきから驚きの連続だった。因みに、戦闘場所から随分離れたところでほぼ鮮明に観られていられるのは、ミーシャがアイテム召喚した遠見水晶による映像のお陰によるもの。

 「な、何ですかあの高度なカウンター技は!?人族ができる域を軽く超えてます...!」
 「あれは鬼族戦士でも無理。真似したら体が崩壊する。コウガだからできる技」
 「竜人族でも実現不可能な技であろうな...。奴の肉体の頑丈さは、魔族をも上回っている...。別次元だな」

 戦いに精通している3人がそれぞれ評価する。戦闘不向きのミーシャでも、皇雅が異次元の技術を発揮していることが分かるくらいだ。

 「私の家族の仇の魔人族は、あんなレベルの強さ...。コウガでもすごく苦戦するくらいの奴ら...。私も、あの次元に近づかないと、仇が討てない...」
 ふとアレンが、そんなことをぽつりと呟いた。拳をギュッと握りしめているその様子からは、悔しさとこれからの過酷さに対する覚悟が見られた気がした。

 「コウガさんしか、魔人族に対抗できる武力を持つ人など今はいないのでしょうか...?だとするなら、私たちは今後どのようにしてあのレベルまでたどり着けるのでしょうか...?」

 クィンも今後のことを思うと、憂いに浸ってしまう。それほどまでに、自分と魔人族、そして皇雅との途轍もない差を感じてしまっている。
 ドリュウも2人に呟きに顔を顰めていた。彼も魔人族あるいは皇雅との戦力差に色々思っているようだ。
 ミーシャは、ただ黙って水晶映像に映っている皇雅を見つめていた。




 「素手攻撃がダメなら、魔力攻撃でいこうか。あまり得意ではないが」
 
 俺から距離をとったザイ―トは両手に異なる属性を出現させ、すぐに魔法を放つ

 『氷の砂塵アイス・ダスト
 『邪悪な波風ダークブラスト
 右手から無数の氷の礫が、左手から暗黒属性の嵐魔法が放たれる。物理がダメなら特殊...ここでは魔法か。まぁ非接触技で攻めるってことだ。奴が放った魔法はどちらも超濃密な魔力が込められている。
 ここでまたもぶっつけ本番だが、強化された「あれ」を使ってみるか。

 「魔力防障壁」
 唱えた直後、俺を囲むようにシールド状の障壁が出現する。しかもこの障壁、外からは何も見えないが中からはくっきり見えるマジックミラー仕様になっている。これなら相手にこちらの次の動きが読まれない。もちろん、シールドの耐久性もだいぶ強化されている。
 が、やはり奴の魔法2つを防ぐのは不可能みたいで、ヒビが入って数秒後には破壊される。だがその数秒があれば十分だ。即座に魔法を唱える。

 『超電光射撃《レールガン》』
  
 片手銃の構えで超濃縮・縮小した雷電属性の魔力の弾丸を指先から放つ。シールドはまだ張られたままだが、この障壁の特性にはまだ便利機能がある。術者が放つ攻撃は全てすり抜けるという特性が新たに付与されていた。
 これにより、相手の意表を完全に付ける。さらに今放った弾丸は、砂の一粒程度のサイズで、これが落雷と同じ速度で移動するため視認するのは非常に困難もしくは不可能。そして当たれば雷ダメージと破裂と貫通などなどたくさんダメージを与えられる。
 これでザイ―トの脳天を貫き、頭部破壊を狙う。奴の魔法を躱す一方、音をも置いていく速度で一直線にザイ―トに向かっていく弾丸は、しかし奴の頭部を貫くことはなかった。
 「武装硬化」した蹴りで弾丸を容易く明後日の方向へ蹴り飛ばして何事もなかったかのように立っている。

 「マジか―。意表突いたと思ったのになぁ」
 「その程度の障壁なら俺も使える。こちらから見えないことを利用してこっちの意表を突く何かを仕掛けることは簡単に読めるさ。今の弾丸を頭にくらってれば確かにヤバかったがな」

 ほくそ笑んでそう応えるザイ―トはまだ余裕そうだ。俺はゾンビだから体力も魔力も減ったり尽きることはない。このまま持久戦に持ち込めば俺が勝つだろう。
 が、それは今のあいつだったらの話。あいつにはまだ「限定進化」という切り札がある。アレンやドリュウでその効果を見たが、能力値の上昇が半端ない。あれをされたら俺はまた無力化されるだろう。やはり、さらに「過剰略奪」するしか、攻略のしようがないよな...。それを許す奴ではないし。

 ならば、「限定進化」を発動する前に奴を殺す。困難だがこっちの方がまだ難易度低いかもしれない。リミッターをさらに解除して、超強力技を叩き込んで即死させる。これでいこう。まずは奴の体力をある程度減らしていったあとに止めを一気に刺す。もし途中で切り札発動する素振りを見せたら、即座に殺しにいく!

 そうと決まれば、即攻勢に出る。ザイ―トに接近して、風の刃を纏った足刀蹴りを繰り出す。対するザイ―トも「武装硬化」した足刀蹴りで迎え撃つ。
 互いの蹴りがぶつかると、火花が散り、空気が割れるような音が大きく響いた。4~5発蹴り合って、その度に空間に皹を入れたような感触と、空気を斬ったような感触がして、もの凄い斬撃音や爆音が響いた。
 蹴り合った次は、拳打の合戦だ。「複眼」をもってしても、奴の拳を躱しきることはできなかった。お互いに数発ずつくらって、俺の体の部分のいくつかが消し飛んだ。
 だが、消し飛んだ部分は数秒で元通りになった。以前よりも早く身体の再生が早くなっている。これも強化された「自動高速回復」のお陰だ。
 対するザイ―トは、体の至る所に拳大の風穴が空いていた。今の俺が本気で殴れば、どんな生物も消し飛ぶ威力だが、奴相手では穴を空ける程度か。まぁそれでもかなりのダメージだと思うが。

 「ようやっと、テメーに結構なダメージを入れることができたぜ...!この調子で殺すとするぜぇ!」

 休ませる間も無く、ザイ―トに接近し、至近距離で魔力光線を放つ。それに対して、ザイ―トは全身に色のついたモザイクのようなものを纏わせて、そのまま素手で光線を容易く受け止めてかき消してしまった。

 「言い忘れていたが、俺に魔法や魔力光線はほとんど効果が無いと思った方が意いい?理由は、ステータスを覗いたお前なら分かるだろ?」

 そう言われて思い出した。奴の固有技能「魔法弱体化鎧」。あれで今の光線を弱めたのか。まさか、魔力光線にも効果を発揮するとはな。

 「なら、結局はこいつ《素手》で攻める他が無いってか」
 拳を掲げて俺は苦笑いする。問題無い。むしろ得意分野さ。

 「またあの妙なカウンター技を繰り出すつもりか?こちらから殴らない、あるいは魔法で攻めればくらうことはあるまい。あれは厄介だからな」

 俺のカウンター技を厄介認定してくれたお陰で、奴はもう格闘戦に持ち込むつもりがないと分かった。それこそ俺にとって厄介だが、あのオリジナル技が受けの場合のみしか使えないなんて、誰が言ったよ?

 「そっちから来ねーのなら、こっちから攻めるとするよ。カウンター技だけが取り柄だと、思わねーことだな」

 そう言って俺は「連繋稼働」を発動。右足に体重を乗せて踏み込んで、腰→体幹→左肩→左肘→拳へと、溜めた力をパスしていき順に加速させて、旋回。「瞬神速」でザイ―トの懐に入り、渾身の左ストレートを放つ!

 『絶拳ぜつけん
 ぽつりと今の攻撃に名を付けた。「連繋稼働」シリーズの技名その一つ。今度カウンター技にも名を付けるか。
 で、「絶拳」をくらったザイ―トの反応は...

 「ぐ、う...そっちからの攻撃も、強いのを持ってるそうだな...効いたよ。だが、それで倒れる俺ではないぞ!」

 スパァン!「うおっ!」

 直後、奴の不意打ち蹴りで俺の両足が切断された。蹴りといっても、剣と武装化した状態でだ。その場で地に膝をついた俺の顔面を鷲掴みにして、そのまま漆黒の魔力光線をくらわされる。光線が消えた頃には、俺の頭が吹っ飛んでいた。
 そこで終わりではなく、ザイ―トはさらに追撃にかかる。両手を剣に武装化させて、俺の体をバラバラに切り刻む。そして地に手をついて、大地魔法を発動。真上から大量の岩石が降り注ぎ、俺の体を下敷きにした...。

 「これでさっきみたいに動けまい。しばらく...いや、このまま放置してれば永遠に復活することはないか?詰みだな」

 そう言うザイ―トは、額から汗を大量に流して息を切らしている。先程から皇雅の大技を何度もくらっているにも関わらず、その体には傷が無い。それは、ザイ―トの固有技能「超高速再生」による回復魔法だ。
 瘴気が充満した地下深くの暗闇で遭った時、皇雅の捕食によるダメージを一瞬で治したのも、この技能によるものだ。
 ただし、この技能を発動させるとかなり魔力を消費するのがデメリットだ。

 もっとも、回復魔法に加え、攻撃魔法の連発でザイ―ト自身かなり消耗はしている。普通の人族や魔族ならとっくに干からびてるくらいの魔力を使っているから無理もない。

 (おかしいのは、ゾンビの俺だけなんだからなッ!!)

 進化した今の俺は、バラバラにされても、首無しにされても、肉体の一部さえあればそいつを動かせることが可能になったのだ。どこのバラバラ人間なんだか。
 手、肘、脚、腹、胸。全て別々に力を発揮して、邪魔な岩石を吹き飛ばす。
 周囲の岩が全て弾き飛んでいく様を驚愕に満ちた眼で見ているザイ―トを視界に捉えた俺(完全再生している)は獰猛な笑みを浮かべる。

 「ゾンビとやらは、ここまでデタラメな不死性と再生能力を兼ね備えているのか...。俺の肉を喰らってさらに滅茶苦茶な存在と化したなぁお前は」

 ザイ―トは苦笑いを浮かべて呆れ混じりに言った。

 「どうやら俺はチート主人公のようなんでね。殺すことはほぼ不可能だ。しかも戦闘不能にさせることすら高難易度だ。けどテメーも十分クソチートな強さじゃねーか。不死身じゃねーくせになんて頑丈さだよまったく」

 皮肉に言い返す一方、内心俺はどうしたものかと考えてる。1500%解除しても全然追い詰めてねーし。まだこんなに差があるのかよ...。
 こうなったらさらにリミッター解除するっきゃないよな。「過剰略奪」を数回やったことでリミッター解除に対する体の耐久度が上がったのは分かってるが、どこまで耐えられるか。
 あとどれくらい限界を超えれば、奴を殺せる?
 心配事は尽きないが、やるしかない、か。限界を何度も超えて、体壊してでも、チート発動して奴を超える!!

 「脳のリミッター2000%解除」
 体中に感じたこともない力が湧いてくる。筋肉や骨に異常はない。まだ大丈夫だ。
 全身に武装硬化を纏わせて黒化した体でクラウチングスタートの体勢をとり、即座に駆ける。マッハ二桁に乗ろうかという速度のまま、「連繋稼働」を発動。
 ザイ―トから少し離れたところ...ちょうど走り幅跳びの踏切板から砂場までの間隔で右足で踏み切って跳びあがる。
 右足→右大腿→骨盤→左大腿→アキレス腱→足首→踵→最後に爪先へとパスして加速する。
 空中で軽く捻って、左回転蹴りを奴の首部分に叩き込む!

 『天旋《てんせん》』
 ズドォンとデカい衝撃音がしたが、ザイ―トは腕でギリギリ防いだため、奴の首は折れていなかった。が、だいぶ効いたみたいで、かなりのけ反っている。
 続けて、肘に付けた推進機を爆走させて、超音速の右フックを繰り出す。ダイヤモンドの数倍は硬い拳は、ザイ―トの内臓を破壊せんとばかりに腹にめり込み、骨を砕いた。
 だがザイ―トは倒れない。吐血しながらも、「武装硬化」した手刀で俺の首を刎ねて、さらに縦状に振り下ろして俺の体を両断した。
 高速で腹を回復したザイ―トはそこからさらに無数の拳打を浴びせた。
 
 「お前を、完全に止めるには、塵も残さず消すか、心を折ってやるか、それくらいするしかないようだな!俺とお前との力の差を、さらに思い知らせてやろう!」

 そう言ったザイ―トの両手が黒い雷みたいなオーラを纏った鉤爪状と化した。

 『死纏う雷爪デスガロン
 禍々しい爪のクロー技で、俺の体がさらに八つ裂きにされる。これ以上肉体を損傷させられるとマズイかもしれない。全身に意識を集中させて、体の一つ一つが動くようにして、ザイ―トから距離をとる。

 「逃がさん!細切れにしてから炎で消し去ってくれるわ!」
 すぐさまザイ―トが追うが予想済み。足止めさせるために、最後尾の足を自爆させた。

 「!?自分の体の一部を爆発させたのか?」
 ザイ―トが怯んだ隙に、体に塵がすぐに集まり、5秒で首も再生されてどうにかピンチを凌いだ。

 「やれやれ...今の能力値ではわずかに決定打に欠けるなぁ。仕方ない。こうなれば切り札を...」

 切り札という言葉を聞いて、冷や汗が流れるような気持ちになる。アレを発現させたら、間違いなく今の俺など消される。
 
 「やらせるかよおおおおおお!!!」

 奴の強化を止めることだけを頭に刻んで、躊躇いなくリミッターを大幅に解除した。

 「4000%!」
 体中に変な音が走る感触がしたがどうでもいい。今この瞬間で、奴を殺さなければならない。それだけを思いながら俺は駆けた。

 赤黒くなった両腕を刀に変貌させて、そこに風の刃を纏わせて、勢いよく振り下ろして黒い斬撃をとばした。
 
 『衝撃波斬撃《ソニックカッター》』

 風を纏った鋭利な衝撃波がザイ―トの腕を切り裂いた。血が噴き出したが腕は切断されてはいない。
 間髪入れずに刀を振るってザイ―トの胴体を滅多斬りにする。どんな物質をも容易く斬れる俺の刀を以てしても、ザイ―トの皮膚を裂くことはできても骨や中身を断つことはできないでいた。ホントにこいつチートな体してやがる!さすがはカンスト能力値だよクソぉ!
 ザイ―トが俺をバラバラにしたように、俺も奴を切り刻もうとしたが失敗に終わった。リミッター4000%の解除でも、奴は殺せない。

 「まだ足りないってのか!?ならまた限界超えるまでだぁ!」
 狂気じみた声を上げて俺はまた脳のリミッターを解除した。

 「5000%ぉ!」
 直後、莫大な力が全身に駆け巡った。同時に、視界が赤く染まった。目をこすると血が付いていた。どうやら脳から血が出まくっているようだ。強化したとはいえ、前回の許容範囲の約5倍解除もすれば、さすがに体が壊れるか。
 だったら、俺が自壊する前に、目の前のラスボスを殺すまで!!

 「ここで決めるぜぇ!!」

 俺はそう啖呵を切って、血まみれのまま黒いオーラを纏わせてザイ―トに攻撃を仕掛ける! 

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