ゾンビになって生き返ったので 復讐してやる
64話「死別/乱入者」
コウガさんが私の方に迷いなく歩んでくる。殺す気でいる。彼の顔には憤怒も憎悪も無かった。ただ、殺すのが当たり前というような感じだった。
あんな無表情顔をしたまま人を殺そうとする人が、こんなにも怖く見えるなんて...今になって理解した。怖い、とても怖い...。
彼があと数歩分まで近づいた時、彼は何かを察知したかのように、突然後方へ跳んだ。直後、彼がいた場所に何かが飛んできた。
「きゃっ!?」
何かの着弾による衝撃波で吹き飛ばされたのか、破壊された床の破片が当たったのか、それとも誰かに突き飛ばされたことによるものか、何らかの衝撃で私は短い悲鳴を上げて数メートル程吹き飛んだ。
さっきいた場所に巨大な化け物がいた。瘴気を纏っていることから、この攻撃の犯人がモンストールであるとすぐに分かった。それも、災害レベル級のモンストールが、だ。
やがて砂埃が晴れて、周りがはっきり見えるようになったのと同時に、私はさっき以上の悲鳴を上げてしまった。
私がさっきまでいたところに、頭とお腹から血を流して倒れている女性を見てしまったからだ。
「お母様!!」
その人は間違いなく、お母様だった。
*
「お母様!!」
悲鳴がする方に少し目を向けると、王妃が倒れ伏していた。今の攻撃の余波からミーシャを庇い、くらってしまったようだ。余波とはいえ、戦士でもない...ましてや病弱な奴が食らえば致命傷レベルのダメージは避けられない。
あの病弱な体であの距離から一瞬でミーシャを庇うとは...咄嗟に加速系の技能を使ったな。
ミーシャが王妃のもとへ駆けつける。その目には涙がたくさん流れてる。今までずっと涙をこらえていた彼女だったが、今にも死にそうな母の姿を見て、とうとう堰が切れてしまったようだ。
そんな二人に、恐竜...Tレックス型のモンストールが追い討ちをかけるように、異様に長く発達した腕を振り下ろそうとしている。それに気付いたミーシャは呆然としている。母が死にかけ、災害レベルの化け物を前にして、頭がまともに働いていないようだ。
あのままだとミーシャは殺される。せっかく俺が殺そうとしてたのに。突然横入りしてきたかと思えば、人の復讐対象を奪おうとしてやがる...。
「そんな勝手が許されるわけないだろ、このデカトカゲ」
脳のリミッターを100%程解除して、Tレックスの腕を掴み、それを自分のもとへ引き寄せて、その腹を蹴り飛ばす。数10メートル吹っ飛ばして、二人の方を見やる。
シャルネの命は、もう風前の灯火だ。俺は回復術が使えないし、使えたとしてももう助からない状態だ。そもそも助ける気が無いからどのみち終わるが。
「あ...ああああああ...!!」
虚ろ目になって浅い呼吸をするシャルネを抱えて、動揺して声も震わせて、絶望した顔で彼女を見ているミーシャ。今彼女がすべきことは、1秒でも早くこの場から離れることであるのだが、それは頭で分かっていても、体が動いてくれないのが現状か。
「そこにいつまでもいると、今度こそ巻き込まれて死ぬぞ?向こうは俺に用があるみたいだが、テメーらのことは路傍の石としか見てねーだろうぜ。その王妃さんを置いてとっとと消えた方が寿命延ばせるぜ?」
無情な物言いをした俺を、ミーシャは初めて怒りを込めた目で睨む。だが俺の言うことが正しいとすぐに思いなおしたらしく、ぐったりとしたシャルネを抱いたまま離れようとする。
そんなミーシャの頭に、シャルネは弱弱しく手を置いて、ゆっくり優しく撫でる。
「お母様...?」
その行動に疑問を浮かべるミーシャに、シャルネは苦しさを見せず、優しい笑みを見せる。
「彼の言う通り、私を置いてここから離れなさい...あと数分のこの命のためにあなたが頑張ることはないわ...。あなただけでも、逃げて...」
「いや、嫌...!こんな...こんな最期はいや...!お母様までいなくなったら、私...」
まるで幼子が駄々をこねるかのようにシャルネを置いていくことを拒むミーシャ。そんなミーシャを、それでもシャルネは微笑みを絶やさずに、最期の力を振り絞るようにミーシャを抱きしめる。
「ミーシャ、あなたは私によく似て、とても思いやりがあって賢くて、優しい素敵な女の子よ。戦闘に秀でていなくても、私の自慢で大切な娘であることに変わりはないわ。私はここで死んでしまうけど、私の想い、あなたへの愛はこれからもあなたの中に生き続けるわ...。大丈夫、一人じゃない...。彼がいる...あなたにとって何か大きな存在であることに間違いはないわ。良くか悪くかは、分からないけど、きっと彼なら大丈夫、よ...」
「お母様...!」
弱弱しくも、想いがこもった抱擁にミーシャは涙を流しつつも、その目に強い意志を宿す。さっきまで完全に狼狽していたが、今自分がなすべきことをしようと、ここで正気に戻った。彼女は見た目以上に精神力が強い女性であったことに、俺はへぇと感心する。
「お母様...これからも私のそばで...中で見守っていて下さい...愛してます!」
最後にシャルネをぎゅっと抱きしめて、ミーシャはここから離れた。去り際に、俺をちらりと見た。
シャルネからの視線を感じたので、振り返るとやはり彼女が俺を見ていた。何か?という意を込めて見返すと、シャルネはまたもあの優しい笑みを見せる。こんな俺に、しかも死にそうな状態だというのに。
「カイダ、さん...ミーシャを、お願いします...あの子を、守って、あげて下さい...」
.........えぇ―?
「何を言うかと思えば。あんたの家族を、国を滅ぼした奴に言う言葉じゃねーんじゃないのか?それに、その大切な娘さんをも殺すって俺言ってたはずだが?」
「...あなたは、ミーシャを殺さない。それは、あなたがいちばん、分かっているは、ず...
ミーシャを...た、の、み.........
............」
そう言ったきり、シャルネは力尽き、二度と口を開くことはなかった。
「ったく、最期に勝手言って死にやがった...」
モンストールの攻撃を受けて苦しかったはずだっただろうに、その死に顔は穏やかなものだった。
この王妃さんも、変わった奴だった。俺に対して憎悪を抱くことなく、それどころか優し気な顔で話しかけ、娘を頼むなどとありえないことを言ったのだから。会って数分だけのあの時間で、俺が信用足る者だと思ったのかねぇ?よくわからないや。
それよりも、今はいきなり現れたあいつらだ。いつの間にか降りていた人型モンストールが静かにこっちを見ている。さっきのやり取りも聞いていたのか。
気になるのが、あいつの見た目だ。最初遭遇した時とは別人だ。
紫色の髪を生やし、鷹を思わせるような鋭い眼、体格は俺と変わらないくらいってところだ。
「テメー、地下深くの暗闇で会った奴と同じ奴か?俺の記憶とは違って見えるんだが」
俺の問いに、人型はどこか楽し気に答える。
「あれは俺の分裂体だ。偵察個体として寄越したのだが、まさか技能を盗られるとはな。それより、久しぶりだな。あれからたくさんの同胞を喰って力と技能を身につけてきたようだな。ますます俺たちに近づいてさえいやがる」
鋭い目つきの顔には似合わないの朗らかな笑い声をあげながら俺を見る人型。本体でもなかったのにあの強さって。災害レベルの中で特に上に値する化け物だなコイツ。
「俺たち」という単語が気になるが、今は先に訊くことがまだある。
「...あの時もそうだったが、モンストールが言葉を発して意思疎通できるとはな。レベルが高い奴はそうなるのか?」
「お前らが言うモンストール...同胞たちはほとんどが言葉は話せない。俺の命令には忠実に従うがな。俺みたいな個体は...今では10にも満たないな」
「あの時、なぜ俺を殺さなかった?取るに足らない雑魚だったからか?」
「単純にお前に興味が湧いたからだ。あの場所は人族がいられる環境ではないはずだ。人族にとって致死量レベルの瘴気と、お前らが言う災害レベルの同胞が犇めく地帯だからな。そんなところで平然と歩いていたお前は何者なのか、と思い、初めは軽く小突くつもりだったのだが、つい致命傷を負わせてしまった。
かと思えば、お前は倒れるどころか、人族にしては異様な速さで俺から逃げたな」
挨拶感覚の小突きで俺は片腕をもがれて、腹に大穴空けられたってのかよ。ますます化け物だと思い知らされるぜ。
「あのままもう会うこと無いと思っていたが、しばらくしてお前の方からやってきた。何しに来たのか様子見していたら、人族を超えるスピードで駆けてきて、俺の肉を喰いやがった。そしたら、お前が急激に強くなったのが分かった。「略奪」を使える種族は限られている。
お前、“屍族”だろ?まったく、面白いのが出てきたものだ。あの後すぐに逃げるものだったから、確認しそびれたぞ」
そういえば、初めて喋った時も、こいつは俺のことゾンビではなく“屍族”とよんでいたな。聞きなれない単語...でもないな。そうだ、俺は知っている。屍族という単語を。
“屍族転生の種”。ゾンビ化させるアイテム名がこれだ。
屍族...文字通りの生き物?だろう。動く死体。俺にとってチートな性能を持つ化け物だ。
なら、俺のステータスプレートに表示されていた、職業がゾンビって。あれは一体何なんだ?なぜ、種族が屍族になっていなかったんだ?
...俺は、一体何なんだ?
あんな無表情顔をしたまま人を殺そうとする人が、こんなにも怖く見えるなんて...今になって理解した。怖い、とても怖い...。
彼があと数歩分まで近づいた時、彼は何かを察知したかのように、突然後方へ跳んだ。直後、彼がいた場所に何かが飛んできた。
「きゃっ!?」
何かの着弾による衝撃波で吹き飛ばされたのか、破壊された床の破片が当たったのか、それとも誰かに突き飛ばされたことによるものか、何らかの衝撃で私は短い悲鳴を上げて数メートル程吹き飛んだ。
さっきいた場所に巨大な化け物がいた。瘴気を纏っていることから、この攻撃の犯人がモンストールであるとすぐに分かった。それも、災害レベル級のモンストールが、だ。
やがて砂埃が晴れて、周りがはっきり見えるようになったのと同時に、私はさっき以上の悲鳴を上げてしまった。
私がさっきまでいたところに、頭とお腹から血を流して倒れている女性を見てしまったからだ。
「お母様!!」
その人は間違いなく、お母様だった。
*
「お母様!!」
悲鳴がする方に少し目を向けると、王妃が倒れ伏していた。今の攻撃の余波からミーシャを庇い、くらってしまったようだ。余波とはいえ、戦士でもない...ましてや病弱な奴が食らえば致命傷レベルのダメージは避けられない。
あの病弱な体であの距離から一瞬でミーシャを庇うとは...咄嗟に加速系の技能を使ったな。
ミーシャが王妃のもとへ駆けつける。その目には涙がたくさん流れてる。今までずっと涙をこらえていた彼女だったが、今にも死にそうな母の姿を見て、とうとう堰が切れてしまったようだ。
そんな二人に、恐竜...Tレックス型のモンストールが追い討ちをかけるように、異様に長く発達した腕を振り下ろそうとしている。それに気付いたミーシャは呆然としている。母が死にかけ、災害レベルの化け物を前にして、頭がまともに働いていないようだ。
あのままだとミーシャは殺される。せっかく俺が殺そうとしてたのに。突然横入りしてきたかと思えば、人の復讐対象を奪おうとしてやがる...。
「そんな勝手が許されるわけないだろ、このデカトカゲ」
脳のリミッターを100%程解除して、Tレックスの腕を掴み、それを自分のもとへ引き寄せて、その腹を蹴り飛ばす。数10メートル吹っ飛ばして、二人の方を見やる。
シャルネの命は、もう風前の灯火だ。俺は回復術が使えないし、使えたとしてももう助からない状態だ。そもそも助ける気が無いからどのみち終わるが。
「あ...ああああああ...!!」
虚ろ目になって浅い呼吸をするシャルネを抱えて、動揺して声も震わせて、絶望した顔で彼女を見ているミーシャ。今彼女がすべきことは、1秒でも早くこの場から離れることであるのだが、それは頭で分かっていても、体が動いてくれないのが現状か。
「そこにいつまでもいると、今度こそ巻き込まれて死ぬぞ?向こうは俺に用があるみたいだが、テメーらのことは路傍の石としか見てねーだろうぜ。その王妃さんを置いてとっとと消えた方が寿命延ばせるぜ?」
無情な物言いをした俺を、ミーシャは初めて怒りを込めた目で睨む。だが俺の言うことが正しいとすぐに思いなおしたらしく、ぐったりとしたシャルネを抱いたまま離れようとする。
そんなミーシャの頭に、シャルネは弱弱しく手を置いて、ゆっくり優しく撫でる。
「お母様...?」
その行動に疑問を浮かべるミーシャに、シャルネは苦しさを見せず、優しい笑みを見せる。
「彼の言う通り、私を置いてここから離れなさい...あと数分のこの命のためにあなたが頑張ることはないわ...。あなただけでも、逃げて...」
「いや、嫌...!こんな...こんな最期はいや...!お母様までいなくなったら、私...」
まるで幼子が駄々をこねるかのようにシャルネを置いていくことを拒むミーシャ。そんなミーシャを、それでもシャルネは微笑みを絶やさずに、最期の力を振り絞るようにミーシャを抱きしめる。
「ミーシャ、あなたは私によく似て、とても思いやりがあって賢くて、優しい素敵な女の子よ。戦闘に秀でていなくても、私の自慢で大切な娘であることに変わりはないわ。私はここで死んでしまうけど、私の想い、あなたへの愛はこれからもあなたの中に生き続けるわ...。大丈夫、一人じゃない...。彼がいる...あなたにとって何か大きな存在であることに間違いはないわ。良くか悪くかは、分からないけど、きっと彼なら大丈夫、よ...」
「お母様...!」
弱弱しくも、想いがこもった抱擁にミーシャは涙を流しつつも、その目に強い意志を宿す。さっきまで完全に狼狽していたが、今自分がなすべきことをしようと、ここで正気に戻った。彼女は見た目以上に精神力が強い女性であったことに、俺はへぇと感心する。
「お母様...これからも私のそばで...中で見守っていて下さい...愛してます!」
最後にシャルネをぎゅっと抱きしめて、ミーシャはここから離れた。去り際に、俺をちらりと見た。
シャルネからの視線を感じたので、振り返るとやはり彼女が俺を見ていた。何か?という意を込めて見返すと、シャルネはまたもあの優しい笑みを見せる。こんな俺に、しかも死にそうな状態だというのに。
「カイダ、さん...ミーシャを、お願いします...あの子を、守って、あげて下さい...」
.........えぇ―?
「何を言うかと思えば。あんたの家族を、国を滅ぼした奴に言う言葉じゃねーんじゃないのか?それに、その大切な娘さんをも殺すって俺言ってたはずだが?」
「...あなたは、ミーシャを殺さない。それは、あなたがいちばん、分かっているは、ず...
ミーシャを...た、の、み.........
............」
そう言ったきり、シャルネは力尽き、二度と口を開くことはなかった。
「ったく、最期に勝手言って死にやがった...」
モンストールの攻撃を受けて苦しかったはずだっただろうに、その死に顔は穏やかなものだった。
この王妃さんも、変わった奴だった。俺に対して憎悪を抱くことなく、それどころか優し気な顔で話しかけ、娘を頼むなどとありえないことを言ったのだから。会って数分だけのあの時間で、俺が信用足る者だと思ったのかねぇ?よくわからないや。
それよりも、今はいきなり現れたあいつらだ。いつの間にか降りていた人型モンストールが静かにこっちを見ている。さっきのやり取りも聞いていたのか。
気になるのが、あいつの見た目だ。最初遭遇した時とは別人だ。
紫色の髪を生やし、鷹を思わせるような鋭い眼、体格は俺と変わらないくらいってところだ。
「テメー、地下深くの暗闇で会った奴と同じ奴か?俺の記憶とは違って見えるんだが」
俺の問いに、人型はどこか楽し気に答える。
「あれは俺の分裂体だ。偵察個体として寄越したのだが、まさか技能を盗られるとはな。それより、久しぶりだな。あれからたくさんの同胞を喰って力と技能を身につけてきたようだな。ますます俺たちに近づいてさえいやがる」
鋭い目つきの顔には似合わないの朗らかな笑い声をあげながら俺を見る人型。本体でもなかったのにあの強さって。災害レベルの中で特に上に値する化け物だなコイツ。
「俺たち」という単語が気になるが、今は先に訊くことがまだある。
「...あの時もそうだったが、モンストールが言葉を発して意思疎通できるとはな。レベルが高い奴はそうなるのか?」
「お前らが言うモンストール...同胞たちはほとんどが言葉は話せない。俺の命令には忠実に従うがな。俺みたいな個体は...今では10にも満たないな」
「あの時、なぜ俺を殺さなかった?取るに足らない雑魚だったからか?」
「単純にお前に興味が湧いたからだ。あの場所は人族がいられる環境ではないはずだ。人族にとって致死量レベルの瘴気と、お前らが言う災害レベルの同胞が犇めく地帯だからな。そんなところで平然と歩いていたお前は何者なのか、と思い、初めは軽く小突くつもりだったのだが、つい致命傷を負わせてしまった。
かと思えば、お前は倒れるどころか、人族にしては異様な速さで俺から逃げたな」
挨拶感覚の小突きで俺は片腕をもがれて、腹に大穴空けられたってのかよ。ますます化け物だと思い知らされるぜ。
「あのままもう会うこと無いと思っていたが、しばらくしてお前の方からやってきた。何しに来たのか様子見していたら、人族を超えるスピードで駆けてきて、俺の肉を喰いやがった。そしたら、お前が急激に強くなったのが分かった。「略奪」を使える種族は限られている。
お前、“屍族”だろ?まったく、面白いのが出てきたものだ。あの後すぐに逃げるものだったから、確認しそびれたぞ」
そういえば、初めて喋った時も、こいつは俺のことゾンビではなく“屍族”とよんでいたな。聞きなれない単語...でもないな。そうだ、俺は知っている。屍族という単語を。
“屍族転生の種”。ゾンビ化させるアイテム名がこれだ。
屍族...文字通りの生き物?だろう。動く死体。俺にとってチートな性能を持つ化け物だ。
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...俺は、一体何なんだ?
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