ゾンビになって生き返ったので 復讐してやる

カイガ

35話「救世団の情報」

 俺は一度死んでいること。原因不明のゾンビ化でこうして動いていられていること。瘴気の地下深くの闇の中でめちゃくちゃ強くなったこと。ゾンビだから体は自動再生すること、など。
 色々かいつまんでクィンに俺のことを明かした。

 「ゾンビとは初めて聞いた職業ですね。滅ぶことがない肉体...。これが世界中に知れ渡ってしまうと大騒ぎになりそうですね。このことは、私の胸の内にとどめておきますので安心して下さい。」

 「それはどうも。クィンなら話して大丈夫だと思ったがその通りでよかったよ。」
 「信用してくれて何よりです。ところで、コウガさんのフルネームなのですが...。確か、『カイダコウガ』というのでしたよね?」
 「ああそうだが?」

 そうか。この名前は、この世界では珍しいもしくは存在し得ない表記なのかもしれない。だとするなら、こういった表記の名前がいる奴らなんて、限られている。

 「それも知られたくはなかったんだが、俺はこの世界の人間じゃない。ドラグニアの魔術師ども召喚によってここに呼ばれた異世界人だ。」
 「ということは、あの救世団の人たちと同じ...」
 「...ああ、そうだ。あいつらは俺の元クラスメイト。で、そいつらに用があるから、ドラグニアへ向かっている。あと、ここに来たのも、そいつらについて、何か情報がつかめたらなーと思ってだな...」

 そう言いながら、俺は聴力を強化させて、周りの奴らの会話を拾っている。
 今のところあいつらに関することは聞こえてこない。直接聞き込みに行こうかなとメンドいことを考えていると、少し離れたところからようやくお目当ての内容が聞こえた。


 「お前ぇ、会ったことあるか?あいつら、救世団のガキどもを」
 「ああ、先週くらい前に、ここでな。遠征で来たんだろうが、ったく!まー偉そうなことよ!
 なんでも、対モンストールの軍勢をつくるために、ドラグニア王国が別の世界から召喚した人族だそうじゃねーかよ。あ、これあまり大っぴらに言っちゃいけねーことだからな?」
 「マジかよ...あいつら、自分らが特別な人間だと思い込んでいるのか、この国でかなり威張り散らしていたみたいじゃねーか。俺は実際見たわけじゃねーんだがよう、評判最悪だったみてーだぞ?」
 「ああその通りだ。その時のあいつらは、ここで、女冒険者にナンパしていたんだぜ?その女の連れが諫めに行ったら、あのガキどもここでそいつを殴りまくってよう、テーブルがめちゃくちゃにされたんだぞ。大声で俺は世界を救う勇者なんだぞー、みたいなこと言って大暴れしまくってたぜ。しかもそいつ、酔っていない状態であんなことやりやがった。」
 「ガキが大きな力持つと、やんちゃどころじゃ済まなくなるのかねぇ。だが、そいつらの実力は本物らしいな。前の遠征で、上位レベルのモンストールを数体倒したとのことだってよ。」
 「下位レベルでも苦戦する俺らだ。強さはたしかに本物だ。中身は最悪だそうだが。
 ああ、そいつらの名前だがな?ここにいた時、一人が大声で名乗っていたな。たしか、ユースケだの、ジュンイチ、だの言ってたな。」


 「......。」
 さらに、他のところからも、救世団に関する会話が聞こえた。
 

 「近いうちに、この国に新しい戦力が導入されるらしいぜ。救世団という組織の奴らが派遣されるとのことだ。」
 「対モンストール組織だっけ?人族の希望だな、奴らは。そのメンバー一人一人が国の兵士数十人分の強さを持つそうだ。」
 「5~6人がここに派遣されて、この国周囲にいるモンストールを定期的に倒すという方針だってよ。」


 それから、救世団に関する情報を色々聞いた。中でも、あいつらの素行不良、評判がとても悪いということが、よく分かった。
 とりあえず、救世団で分かったことは、

 ここ最近、他国に遠征して、モンストールを倒していること。実戦訓練の一環のようだ。
 数週間後には、それぞれの国に均等に派遣し、数年間滞在して、モンストールどもと本格的に戦うとのこと。
 現在は全員ドラグニア王国にいるということ。

 今分かることはこれくらいだ。

 「......。」
 「コウガさん?」

 上等だ!これだけ情報が入れば十分だ。やっぱり、このままドラグニアに行けば、あいつらがいる!復讐ができる!

 (やっと、目的を達成できる。あともう少しだ)

 「コウガさん!」
 「...ん?」

 先程から俺をよんでいることに気付かないでいた。クィンが怪し気に俺を見ていた。
 「大丈夫ですか?」
 「ああ、問題ない。それより、明日には、ドラグニア王国へ行くぞ。善は急げってな。」

 俺は意気揚々と明日のことを告げる。それを聞いたアレンが楽し気に話しかける。

 「いよいよ、コウガの目的が達成されるね?私はどうする?」
 「これは俺一人でやり遂げたいんだ。アレンは町の観光でもしていてくれ。」
 「ん...分かった。」

 そんな会話をしているそばで、クィンが何のことかと聞いてくる。
 「コウガさん、あなたの目的とは、一体?」

 ...やっぱり、もうここでバラしてもいいか。共感してくれれば今まで通りで、良く思わないなら、まぁ適当にやろう。

 「俺は、元クラスメイトのあいつらに恨みがある。復讐しに行く。一人残らず殺しに行く。そのためにドラグニアへ行く。」

 俺の本音を聞いたクィンの反応は...

 「恨み?復讐...?殺、す...?」

 目を見開いて、俺の言ったことが信じられないような顔をしていた。

 「俺がこうしてゾンビになったのは奇跡だが、普通なら俺はもうこの世にいない存在だった。
 俺は死んだ。あいつらのせいで、死んだんだ。死に追いやられ、苦痛と屈辱と絶望に押しつぶされてながら、俺は瘴気まみれの地下深くの暗闇で無惨に死んだ。あいつらが、俺を不要とし、見捨てて、嗤いながら俺を落とした。だから、殺す。復讐する。全ては俺の為に...。」

 クィンに俺は自分の復讐心を吐露した。溜まっていた何かが流れ落ちていく感じだ。

 「そんな...あなたが、そんなことを考えていたなんて...」
 クィンはまだショックを受けていた。何に対するショックなのかは分からないが。

 「クィン。俺はお前に今日まで俺の本当の目的を伏せ続けてきた。お前がどうするのかが予測できなかったからだ。
 アレンには、会ったその日から俺のことを全て喋った。彼女も復讐者として生きてきたからだ。お前は、恨みや憎しみとかには縁がない人間に思えたから、言うのに躊躇ったんだ。
 だが、あえてここで全て話した。あとはお前が俺たちのことをどう思うかだ。」

 「.........」

 クィンはしばらく俯いていた。自分の頭の中を整理しているように見えた。やがて顔を上げて、重々しく声を出した。


 「認められません。復讐なんて。そんなことしても、悲しくて虚しいだけ...です」



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