ゾンビになって生き返ったので 復讐してやる

カイガ

28話「次の国へ」


  「...ゴメン、ついうっかり...。」
 「気にすんな、アレン。遅かれ早かれ、彼女には本名がバレてただろうから。それが今だったってだけさ。」
 

 俺の名前がバレた以上、アレンの名前も知られてもいいかと思い、クィンの前でアレンと呼ぶことにした。

 「...そんなに私に本名が知られるのが嫌だったのですか?」
 
 俺とアレンのやり取りを聞いて、クィンが頬を膨らませて抗議してきた。
 
 「昨日も言ったが、信用できていない奴に易々と本名を教えたくねーんだよ。国によっては、名前を悪用する犯罪だってあるくらいだからな。これくらいの用心は越したことないだろ?」
 「はぁ、そういうものですか...。」
 「ま、あんたには許可証をくれた恩があるから、本名はその対価と考えるとするよ。とにかく、ありがとな。俺たちにとって大助かりだ。」
 
 お礼を言う俺に対し、クィンが赤面で慌てて返事する。
 
 「私がこうして元気でいられるのも、あの時コウガさんがいてくれたお陰です!むしろ、ここで本名を知ってしまってなんか申し訳ないなっておもいました...。まだ信用していない私なんかに知られてしまって...」
 「いや、こんな良いものくれたんだ。国王さんにこれを発行するよう頼んだのもあんたなんだろ?信用させてもらうよ、クィン...いや、年上のお姉さんだからクィンさん、か?」
 「クィンでいいですよ、いえ、クィンと呼んで下さい!その...信用してくれて嬉しいです...。」
 
 えへへとクィンがにやけた顔をする。そんなに嬉しいのか。
 しばらくして、クィンが表情を引き締めて話題を変える。
 
 「そういえば、コウガさんたちは昨日にこの国に入ったのですよね?」
 「おう、ここに入国したのは、昨日の朝だったと思うぜ。その前にあった洞窟を抜けるのにほぼ1日かかったしな。」
 「では、カルス村の近くにあった崖がある草原での事件はご存じですか?
 2日前、モンストールが出るかもしれない崖下がある地帯を監視すべく巡回しに行った兵団の首無し死体がその監視地帯で発見されたのです。人数は10人。編成されたメンバーも10人だったので、全滅してました。モンストールがあの崖から出てきて彼らをあんな風に殺したのか、それとも昨日のエーレみたいな魔物の仕業なのか...とても陰惨な事件です...。」
 
 仲間の死を悼みながら、クィンは事件について説明してくれた。
 昨日の討伐隊の格好を見て既視感があったのだが、まさかあの時殺した兵士どもがクィンと同じ兵団の奴らだったとは。
 
 「死体が発見されたのが、昨日の日没前、カルス村の民に発見されたそうで、この国に知らせが入ったのも今朝だったのです。なのでまだ詳しいことは全く分かっていない状況でして...。お二人は、あそこに立ち寄ったりはしませんでしたか?何か心当たりがあれば、報せてほしいのです!」
 
 悲痛な面持ちで俺たちに問いかける。犯人が目の前にいるとは思っていないだろう。ここは黙っておくのが吉だな。
 
 「悪い、そんな悲惨な事件があったなんて知らなかったよ。俺はその崖の近くには行かなかったしな。アレンも知らないよな?」
 
 アレンも俺が這い上がったあの場所にいたのかどうか分からないが、あの日に彼女が立ち寄ったことは伏せておいてほしい。俺の念が届いたのか、アレンも首を横に振って知らないと告げる。
 
 「私は、もっと前にそこに来たことがある。誰もいなかった。モンストールも見なかった。」
 
 3日前以前に俺がいたところに行ったことがあったのか。アレンも俺がいたところよりは瘴気が浅い場所で自身を鍛えていたと言ってたが、その時期だったのか。

 「...因みに、その地帯は立ち入り禁止だったのですが、何をなさってたのです?」
 「ん?修行。鍛えてた。」
 「...そうですか。いずれにしろ、カルス村周辺でエーレ級の危険生物がいる可能性があります。村に立ち寄るなら、十分気を付けて下さい。」
 
 アレンに少し疑惑の視線を寄越して、最後に注意を呼び掛けてこの話は終わった。疑われるのも無理ないか。カルス村に行くのに、あの草原を通る以外の道が、今の会話からして他にもあったようだな。もし、あの地帯を通らないと村に行けないとなってたら、俺の言葉が嘘になって疑われてたな。あぶねー。
 
 「すみません、お2人を疑るようなことをしてしまって。私たちを救ってくれた人たちが、あんなことするはずがないです!では、今後何か縁があれば、よろしくお願いします!」 
 
 最後に一礼して、クィンは部屋から去っていった。

 「むー、ちょっと疑われてた...。」
 「あそこに行ったことがあるという事実がそうさせたんだろな。ま、アリバイはあるんだ。心配すんな。」
 
 アレンの頭に手を乗せて安心させる。アレンには、今ここで、殺したのは俺だって言っちゃおうか?そうよぎったが、わざわざ言う必要もないと思い、黙っておくことにした。

 

 
 昼頃に宿を出て、適当に食事を済ませ、サント王国を出た。
 
 次の目的地は、ドラグニア王国と決めていたが、ここからそこに行くのにもう一つ国を跨がないといけないようだ。さっき買った地図を見ると、かなり離れている。
 次に着く国は、「イード王国」というらしい。この国を通らずしてドラグニアには行けないようだから、仕方なしにここを目指すとするか。
 金は十分にあるし、俺はゾンビで疲れない体だから、さっさと行きたければ、アレンを抱えて「瞬足」を延々と発動し続ければ、今日にも着きそうだ。
 アレンと相談したが、普通に移動して行こうとのことだったので、歩いて行くことに。
 
 「アレンは疲れないか?歩きだと、次の国に着くのに5日はかかるぞ?」
 「平気。途中出てくる魔物やモンストールを狩って強くする良い機会。それに、コウガと一緒にお話ししながら行くのも楽しいし。」
 
 修行を兼ねて俺とのおしゃべりがご所望らしい。早くドラグニアに戻ってあのゴミクズどもに復讐をしたいのだが、俺と違ってアレンの復讐相手は、彼女にとって桁違いに強いだろう。なら、ここでレベルアップするのがアレンにとってプラスになるだろう。ここはアレンの修行に付き合うか。
 方針が固まったところで、アレンとともにイード王国を目指して旅立った。



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