女顔の僕は異世界でがんばる

ひつき

恨みを抱く少女50

 この感じは、エンシェント・ドラゴンがブレスを吐いた時と同じだ。
 あまりの光に目がやられ、白以外何も見えない。
 あまりの音で耳が全く機能していなかった。
 それだけじゃない。平衡感覚まで狂ったのか、地面がぐらりと揺れるのを感じた。

 何が起きた?
 敵は完全に拘束していたはずだ!

 ――殺気!?

 とっさに王の力による支配を強める。
 被支配者の権限をすべて奪った。
 
 ここまで一秒に遥か満たない。
 視力と聴力の回復はすでに始まっていた。

「ぐっ!?」

    熱い? いや、痛っ!?
    腹に何か刺さった!?
 反射的に身をかがめ、抑える。

 何か鋭いものに貫かれたらしく、風穴があいている。
 刃物? いや、これは槍か?
 でも出血がない?
 いや、それよりも、ということはすでに敵が接近している? 

 ――一秒。
 五感が完全に回復し、あたりを見渡す。
 近くには女の子しかいない。

 ――この子が?
 いや、あり得ない。 
 それがたとえ屈強な男だとしても、そもそも普通の刃物じゃ僕を貫くどころか傷つけることすらできないはずだ。

 ――なら、一体?
 アラームが鳴り響いた。
 久方ぶりの感覚。
 捕食者による一方的な蹂躙を悟る。

 とっさに女の子を抱き寄せ、庇う。
 驚いたような声と、小さな抵抗があった。
 同時に錬金術により金属の盾を周囲に形成――

 視界の端に、赤い光線をとらえた。

「がっ!?」

 一瞬、熱を感じ、激痛。
 また体が貫かれた。
 胸の中央に、ぽっかりと五百円玉サイズの穴が開けられた。
 やはり槍? いや、でもここまできれいな傷口になりえるのか?
 何より速すぎる!
 強化された反射が追い付いてない。
 何が起きた!?
 目で追うことすらできない?

 ――金属の盾が形成される。

「ぐっ!?」

 が、またしても貫かれる。
 バカな!? 鋼鉄を形成したはずだ!!
 左肩から胸にかけて斜めにやられた。
 激痛によるものか、ショックか、視界が明滅した。

 どうなっている?
 とにかく錬金術による防御は意味がない。
 
 解除し脱出すると同時に、金属の盾がハチの巣にされた。
 一瞬見えたのはやはり赤い光線だ。
 たどると、裏口から侵入してきたのか、入口の王国兵の数倍はいる兵士たちが後ろにいた。
 恰好がおかしい。
 ラテックス素材のような光沢を帯びた黒スーツをまとい、目にはゴーグルを装着して、プラスチックのような素材でできた大きいハンドガンのようなものをこちらに向け構えている。
 すべてこちらの世界に来てから初めて目にするものだ。

 ――まさか、レーザーガン?

 一瞬脳裏をよぎったのは荒唐無稽な単語だった。
 そんなもの日本ですら見たことがない。いや、存在はしたのかもしれないが、いずれにせよ近未来的な武器だ。
 ましてや銃どころか鉄砲すら、いや、遠距離攻撃系の武器がほぼ存在しないこの世界に存在するはずがない。  

 ――なぜ、遠距離武器が存在していない?

 魔法があるからだ。
 魔法があるから?
 攻撃魔法は高等技術だ。誰もが使えるわけじゃない。
 爆弾はある。ピックのような投げる武器はある。

 刀はあるのになぜ弓すらない!?
 僕のような異世界人はかつていた。
 それならおかしいだろう!?

「っ!!」

 女の子を抱え、光線を躱す。
 ダメージのせいか足がもつれ、一瞬バランスが崩れた。

「くっ!!」

 かろうじて踏ん張り、躱す。
 攻撃を受けてからまだ一秒経ってない。
 さすがに貫通された体はまだ治らないか。

 ――ワユンたちは?
 とにかく今は兵士たちを止めないと! 

 レーザーを躱す。 
 王の力――レーザーによる射撃が半分ほどにまで減った。

 ――速すぎる!!

 さらに躱す。
 だめだ、全員を拘束するだけの余裕がない。   
    頭蓋内の奥底から強烈な痛みが発生していた。
    キャパオーバーだ。
    光線を躱しながら、これ以上王の力による支配を広げるのは無理か。
 なら、拘束したやつらを再起不能にして――

「ちっ!!」

 レーザーの嵐が僕の思考を遮った。
 ――無理だ。
 再起不能にするにはそれなりに複雑な作業が必要になる。
 光線。赤。網の目――

「!!」

 ――体が捻れた。
 反射による自動的な動きだった。
 視界に現れる幾千もの熱線を潜り抜けるように躱す。

「!!」

 奇跡だ。
 今の反射能力をもってしても、すべて躱せたことが信じられなかった。
 というか、どれだけ連射機能があるんだ!
 こんな強力な攻撃が、こんな簡単に撃てていいのか!?
 
 数が多い。
 しかも速すぎる。
 余計なことは考えていられない。
 錬金術で拘束する!!

 レーザーを躱しつつ、錬金術を発動――足がもつれた。
 
「っ!!」

 踏ん張り、転がってレーザーをやり過ごし、錬金術を発動させた。
 あと少し――

 ――なんで女の子から何も反応がないんだ?

 これだけ動きまわっているのに抵抗を感じない。
 まるで荷物を持っているみたいだ。
 だからこそ、こんな瞬時の攻防ができていたのだが。

 ぞっとして、血の気が引いた。

 いつから抵抗がない?
 いや、それよりも。

 レーザーを躱す。
 強いためらいがあった。
 でも見なければ。
 そして早く治癒魔法を。
 早く!!
 わかってはいたのに、一瞬、躊躇った。

 わかっていたからだ。

 女の子の頭には――左前頭部から右後頭部にかけて、穴があいていた。

 治癒魔法!!

 女の子は、すでに人の目をしていなかった。
 深い闇。
 瞳に僕の顔が映っていない――
 
 ――死? 

 まだだ!!
 限界まで魔力を籠める。 
    視界が明滅し、足元が揺れた。
 凄まじい速度で魔力が削られていく。
 にもかかわらず、治癒しているのかどうかつかめない。

 ――ぐぅっ!?

 体が震えて、気が付くと膝が折れ、地面に頽れていた。
 強烈な痛みが体中から発せられていた。
   ちらと体を見ると、無数の風穴が空いている。
 一瞬でこれだけやられたのか!?

「止まったぞ!!」
「いまだ、やれっ!!」

 一斉に殺意が向けられるのを感じた。
 体が動かない。
 頭がマヒしてるようだ。
 女の子からはまだ生気が感じられない。

 どうしよう?
 どうしよう、どうしようどうしようどうしよう!!!?

 心臓が素早く脈打って、息が苦しい。
 目の前がぐらぐら揺れてる。

「オーワさんっ!!!!」

 悲鳴が聞こえて、瞬間、意識がシャットアウトした。


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