女顔の僕は異世界でがんばる

ひつき

恨みを抱く少女34

 冒険者の町<ハンデル>へ向けて飛んでいると、いつの間にか解放エネルギーが蓄えられていく。

 蓄えられ方が尋常じゃない……戦争が、行われているんだ。 
 いつもの千倍、いや、もっと規模が大きい。
 あまりの規模の大きさに、想像すらつかなかった。
 局所的に行われているだけじゃ、絶対こうはならない。
 襲われているのは<ハンデル>だけじゃないのか?

 蓄えられたエネルギーで、ピクシーの上位種<ハイ・ピクシー>や魅了妖精<リャナンシー>を解放し、それぞれ召喚した。

 ハイ・ピクシーはピクシーの上位種で、薄緑の光を放っている。
 攻撃魔法はピクシーと同じ種の強化版しか使えないが、治癒魔法が使える。

 リャナンシーは赤髪に純白の肌、碧眼の目をしていて、どこか不思議な魅力があった。
 どこまでも引き寄せられてしまうような気がするのは、たぶん絶世の美少女であるからだけじゃない。
 リャナンシーの力は洗脳だ。
 あまり見つめすぎるとまずいのかもしれない。

 二匹の強さはサラマンダーたちより上で、その進化先であるイフリートたちには劣る。

 これらに加えサラマンダー、シルフ、ドリアード、ノームを召喚し、それぞれ<増殖>、<群化>させて軍隊をつくり上げた。

 一隊は、各個体五十匹の総数三百。
 それを百部隊編成し、それぞれ各地の戦争地帯、および魔物の大量発生地域を探し、駆除するよう命令した。

 妖精は強い。
 一匹でそこら辺の一般兵百人分くらいは働けるだろう。
 それに妖精なら、魔族の軍と敵対する限り、人から敵視されることもなさそうだ。
 見た目的に。

 だからこの派遣で、相当数の人を助けられるはず。

 総数三万の軍隊は、<増殖>を使っているにもかかわらずそれなりの魔力消費だけど、見逃すことはできなかった。
 いや、見逃したくなかった。

 盗賊頭ゲイルの顔と言葉がちらつく。

『人じゃねぇ、根本的に違う』

 違う。
 僕は、本当に敵対する人以外のことまで、無価値に見たくない。

 ……まぁそれに、この先強力な魔人とぶつかるなら、少しでも解放エネルギーは溜めておきたい。 



 それから三時間。
 王都<クレンピア>から冒険者の町<ハンデル>までは、相当な距離がある。
 陸路をダッシュ・リザードに乗って普通に旅すれば数日はかかる。
 クリムゾン・ワイバーンを限界まで急がせても、なおこれほどに時間がかかってしまう。

 僕は焦っていた。
 こうしている間にも、ワユンたちが危険な目にあっていると考えると、どうしようもない。

 そもそも、<ハンデル>から王都へ伝令が出たのが襲われてすぐだったとして、もう何日も前のことになるのでは?
 ワイバーンに比べれば、ダッシュ・リザードははるかに遅い。
 どんなに急いでも一日、いや二日近くかかるか?

 もしかしたら伝令用の魔道具があるのかもしれないけれど、最悪の想像はどうしてもちらついてしまう。

 とうにハンデルは壊滅しているのでは――?

 それを紛らわすように異常な勢いで溜まっていく解放エネルギーを使って、片っ端から能力を解放し、強化している。

 ・刀術 レベル三
 ・脇差術 レベル三
 ・体術 レベル八
 ・<派生・刀術+体術> 二刀流刀術 レベル三
 ・<進化・体術> 護身術 レベル八

 武術系は保険程度でいいと考えていたからこれくらいで抑えた。
 というより、なぜか上限が三だった。

 体術と護身術はなぜか上限が八だったため、最高まで上げた。
 二刀流刀術は刀術と体術を上げてたらなんか出てきたので、大したエネルギー消費でもないし取っておいた。

 しかし、エネルギーの溜まりやすさに加えて、解放が進むにつれその条件まで緩和されてきた。
 初期に比べると、今や数十分の一程度の量で解放できてしまう。
 それに、湯水のように魔力があふれてくるのを感じる。
 どうやら解放は、ただスキル取得するだけの物じゃないらしい。

 有り余る魔力に任せてさらに妖精部隊を増加させ、彼女たちの活躍によりさらに溜まっていくエネルギーと、下がり続ける条件に甘え、次々と解放を続けた結果、魔法はとんでもないことになっている。

 ・治癒魔法 レベル八

 ・火魔法 レベル八
 ・水魔法 レベル八
 ・風魔法 レベル八
 ・土魔法 レベル八 

 ・<統合・火魔法+水魔法+風魔法+土魔法> 四元素魔法 レベル八 (自動取得)

 ・<派生・火魔法+土魔法> 溶岩魔法 レベル八
 ・<派生・火魔法+水魔法> 氷魔法 レベル八
 ・<派生・火魔法+水魔法+風魔法> 雷魔法 レベル八
 ・<派生・四元素魔法+氷魔法+雷魔法> 天魔法 レベル八
 ・<派生・四元素魔法+錬金術> 核魔法 レベル八 

 ・白魔法 レベル八
 ・黒魔法 レベル八

 ・<進化・白魔法> 光魔法 レベル八
 ・<進化・黒魔法> 闇魔法 レベル八

 ・<統合・火魔法+水魔法+風魔法+土魔法+光魔法+闇魔法> 六元素魔法 レベル八 (自動取得)

 ・<派生・光魔法+闇魔法> 聖魔法 レベル二
 ・<派生・光魔法+闇魔法> 暗黒魔法 レベル八

 ・<派生・錬金術+六元素魔法+聖魔法+暗黒魔法> 星魔法 レベル八

 興味が向いたものから片っ端に取っていった結果、派生やら統合やら進化やらが起きてこんなことになってしまった。

 進化とは、その魔法の純粋な強化版らしい。
 統合は、ただまとまっただけのようだ。
 
 なぜか聖魔法はレベル二が上限だったが、それ以外はすべてレベル八まで解放した。
 いろいろ手に入ったが、特に気になったのは核魔法と星魔法だ。

 核魔法は文字通り原子や原子核を操る魔法らしく、正直、想像するだけでも恐ろしい。
 たぶん核兵器チックな攻撃ができるってことなんだろうけど、まぁ最後の最後、本当の奥の手として、というかお守りとして持っておくだけでいいだろう。
 というか、使ったら僕まで死ぬんじゃないか?
  
 星魔法は、隕石を降らせるとかではないようだ。
 どうやらこの星のエネルギーを操るようで、木を急激に成長させたり、地殻変動を起こしたり、火山噴火させたり、気象を操ったりできるらしい。

 実際使える場所はないけれど、なんとなく『これは絶対に必要だ』って感じたから、他をはるかに凌駕する膨大なエネルギー消費に目をつぶって解放した。

 すると、<王の力>がさらに覚醒(?)し、<配下強化>などの各項目のレベルが四に上昇し(いつの間にかレベル三にはなっていた)、加えて以下の力が新たに加わった。

 ・王の肉体 レベル四
 ・王の魔法 レベル四
 ・生命創造 レベル四

 王の肉体は、身体強化スキルで、どうやら身体能力に加えて肉体の生命力や防御力、自然治癒能力が上昇するようだ。 
 王の魔法は、星魔法の上位互換らしい。
 
 この二つは強力ではあるけれど、どこか今までの<王の力>の各能力に比べて地味というか、普通な感じだ。
 しかし、最後の一つは完全に異質だった。

 ・生命創造 生物を創造する(既存の種に限る)

 生物の創造。
 説明欄には、たったそれだけが書いてあった。
 既存である種……つまり、この世界に存在する種の生き物なら、自由に産み出せるってことか?
 
 生物を生み出す? 
 まるで神か何かのような能力だ。
 すごい忌避感がある。

 だって、ということはつまり、人間を創りだすことだってできるわけだ。

 軽々しく使っていいような力には、どうしても思えなかった。

 めぼしいスキルをあらかた解放した僕は、レベルは一のまま端からスキルを全部解放していった。
 解放して詳細を確認し、使えそうなモノはレベルを上げていく、という考えだ。 

 やはり解放できる能力には偏りがあるようで、武術系は薙刀術とか弓術とかは見当たらないし、レベル上限は総じて低かった。

 代わりに肉体強化系は<怪力>やら<脚力強化>やら<肺活量上昇>やら、なんだかよくわからないものまで端からそろってる感じだ。

 魔法は基本とその派生が一通り揃っているけれど、ヨナが使いこなせる<肉体強化魔法>などの秘伝魔法の類は一切なかった。
 
 それに対し、召喚魔法は万は下らないであろうという恐ろしい数が揃っている。
 とてもすべてを把握することはできない。
 これ、この世界の魔物すべて網羅してるんじゃないだろうな?

 最終的に、武術系はレベル一のまま、肉体強化で使えそうな<皮膚硬化>と<体組織強化>、<神経伝達速度高速化>、そして<自己治癒>をすべてレベル八にして、残りは召喚魔法用に溜めておくことにした。

 強力な魔物なら<任命>や<王権付与>、ちょっとランクは落ちるけれど<配下進化>で使役できる。
 今はレベルも四に上がったから、<任命>でさえ四匹分まで可能だ。

『種族内で最も信頼がおける』とかいう胡乱な条件が付くけれど、ピクシーでさえティターニアに進化できることを考えると、ワイバーンとかなら容易にそれ以上になると想像できる。
 つまり、カオス・ドラゴンクラスの魔物を四体も使役できるのだから、戦力は全く問題ないことになる。

 けどまぁ、それらのチートじみた力は最後の砦として数回分は取っておきたいし、自力で何体かそれと同程度の魔物を召喚できた方がいいだろう。
 それに、魔物はそれぞれ長所と短所があるわけだし、適材適所で使い分けていきたい。
 
 強化を終えると、いよいよハンデル付近に差し掛かった。
 王都を出てから約四時間。
 黒いモザイクのようなものが見えた。
 
「~~~~っ!!!!」

 羽虫のように集っているのは、魔物だった。



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