ファンタジー異世界って・・・どういうことだっ!?

蒼凍 柊一

第14話 ヒーローは遅れてやってくる。

「いい加減に、死ね!【神剣・ラグナロク】ッッ!!」


ラズエルがヴァイルに向けて光り輝く剣を振るうと、瞬時に生まれた合計8つの光の球すべてがヴァイルに向けて降り注ぐ。


「…そんなもので、我らを殺せると思っているのかっ!!」


自在に振るわれる二振りのヴァイルの漆黒の剣が、光の球すべてを斬り落とした。
ラズエルはそれを見て、悔しそうな顔をする。
内心、たまったものではない。難なく自分の持つ最強の技を打ち破られて、うろたえないものなどいないように…、ラズエルも例外ではなかった。
そんなラズエルを見て、隙あり、と思いヴァイルは口をつりあがらせる。


「これで…終わりだあああああああ!!」


空中で立ち止まってしまったラズエルに、ヴァイルが空を駆けるように飛び、突進する。


しかし、そこでヴァイルは異変に気付いた。
横をちらりと見る。見てしまった。ハデスとゼウスの戦いを。
状況は…こちらに不利だ。そう判断するほど、ゼウスとハデスの力の差が、徐々に大きくなっているのが手に取るようにわかってしまった。


だが、今はそちらに手を回す余裕はない。早く目の前の天使を殺し、ハデスを助けなければ。とヴァイルは思い、全力でラズエルを殺しにかかる。


「イージス!!」


ラズエルが絶対の盾を召喚する。その盾は、すべての攻撃を防ぐもの。よほどの攻撃力でなければ、あの盾は突破できない。


「ちっ!!」


ヴァイルは目の前に広がる光り輝く盾の表面に剣を思いっきり突き立てた。だが、思わず舌打ちをしてしまうほどに、その盾は全く壊れる気配すらなかった。


ヴァイルが瞬間的に距離を取り、盾の裏に隠れているであろうラズエルの元へ向かおうと後ろを向いたその瞬間。


「ヴァイル!!避けろおおお!!」


ハデスの叫ぶ声が…聞こえた。


全ての時が、止まったような気がした。
ヴァイルの目の前には…槍を持ったラズエルが。
そして…ラズエルの背後から、ゼウスの放った稲妻があるのをヴァイルは認識した。






次の瞬間、ドーム状に広がるこの部屋に、爆音がとどろいた。






「…この程度で我を倒せると思ったかっ!!」


もくもくと上がる煙の中から…傷だらけの女性…ヴァイルが姿を現した。声は元気そうだが…見た所、飛ぶ魔力もないぐらいにダメージを受けているのは目に見えて明らかだ。


「ヴァイルッッ!!」


ハデスが呼びかけ、走り寄ろうとするが、ゼウスがそれを許すはずもない。


「ハデス…朕がお前を見逃すはずがないだろう…!!ラズエルよっ!そのヴァイルという反逆者を討ち滅ぼせっ!!」


ゼウスはハデスに向けて再び神の稲妻を放つ。
ヴァイルは飛んでいる最中に意識を失ってしまったのか、まっさかさまに、床に落ちていく。


ハデスの顔が真っ青になっていった。


ーまた…いなくなるのか…?-


ハデスは思う。
また、友がいなくなる。
ファフニールが死んだと聞かされた時の、あの衝撃は今でも忘れていない。
切なく、苦しく…涙すら流した…


ーあんな想い、二度と…ごめんだ……!-


だが、打つ手がない。
今の自分は、ゼウスの攻撃を防ぐので精いっぱいだ。


ラズエルが煙の中から遅れて姿を現し、槍をまっすぐに構え、落ちるしかないヴァイルに迫る。


ーなにか、ないのか!?-


ハデスは必至に考える。
この絶体絶命の状況を、覆せる一手を。


「はははははははっっ!!愚兄よ!!また貴様の友人が死ぬぞっっ!…貴様も一緒に、消滅してしまえぇええええ!!」


しかし、一層激しさを増すゼウスの猛攻に、ハデスは完全に身動きが取れない状況になってしまった。


「くっそぉぉおおおぉお!!」


一瞬でも気を抜いた瞬間、ゼウスの光に貫かれてしまう…。
そんな状況の中、ハデスはひらめいた。


(この身を犠牲にしてでも…僕はヴァイルを…助けたい!!)


そして瞬時にハデスは行動する。
最高神が次の稲妻を放とうとするその隙を、見つけたのだ。
ゼウスの稲妻の弾幕の一瞬の隙を見て、攻撃するのではなく…


ヴァイルの方へ、暗い剣の柄を伸ばした。


瞬時に、落ちていくヴァイルの方向が変わり、ラズエルが勢いあまって地面に槍を突き立てた。




まさに、間一髪。




ヴァイルは一命を取り留めたのだった…。だが、ハデスの目の前には…




ーああ…これじゃあ…みんな死ぬじゃないか…バカだな…僕は…-


迫りくるゼウスの稲妻。
力の相殺はできるが、このタイミングでは不可能だ。


後先考えずに、友人を助けようとした結果…このざまだ。
内心、ハデスは自分をあざ笑う。


ーなにが助けたい…だ。結局みんな…-




ハデスはすべてを…あきらめてしまった。




ー死んで…終わりだー


剣を取り落すハデス。
床に落ちた剣の音が、やけにむなしく聞こえたのは…気のせいではないだろう。




「朕の、勝利ぞおおおおお!!はははははははっっ!!」




全てを消し去る稲妻が爆発し、そこある物すべてを白で塗りつぶさんと光り輝いた。
ゼウスは確かな手ごたえを感じ、高笑いをし続ける。


もはやアレンも今頃アテネによって始末されているだろう。


あの獣人とハーフエルフは、あとでゆっくりと楽しむとするか…などと考えているゼウスは…。








信じられないものを、目にする。




















「ヒーローは遅れてやってくる…ってなぁ!!」


静かに響く声。












次の瞬間、白の光を塗りつぶすがごとく、蒼穹の如き蒼い光があたりを蹂躙する。




それは、激しく、力強い鼓動。










「貴様が…どうして…ここにいるのだっ!?」












…アレンが、ハデスを守り切って、そこに立っていた。




「誰の、勝利だって!?あぁん!?」




彼の後ろには、二人の嫁が立って、アレンに声を掛けていた。


「アレン!かっこつけてないで、ヴァイルを助けてください!!」


「ハデス!いったん下がるわよっ!!」


クローディアが気絶してしまっているハデスを担ぎ上げ、部屋の入口まで走る。


「【絶対障壁】!!…【闘神の威圧】!!」


アレンが声を上げると、ヴァイルの体が障壁に包まれ、宙に浮かぶ。
そして、アレンは突き出した手を、部屋の入口の方へ向けると、ヴァイルがそちらへ飛んでいく。


ラズエルは動けない。アレンが放つ圧倒的な力の前に、膝をつき、息をのむしかなかった。
本能的な恐怖に、体は震え、立ち上がることもできない。




そんな中、アレンは悠然と最高神の方へと歩みだす。


一歩。


「っ…」


ゼウスは足を一歩下がらせてしまった。


(この朕が…おびえている…?)




また一歩、静かにアレンは歩みを進め…言い放つ。




「さぁ…ゼウス…戦いの…始まりだっ!!」




アレンの神との最終決戦が、今…始まった。

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