ファンタジー異世界って・・・どういうことだっ!?

蒼凍 柊一

第10話 アレンの元へ!

「リリア!おろして!おろしなさい!!ヴァイルが…!ハデスが…!」


腕の中でもがくクローディアを見て、リリアは後ろを振り返る。曲がり角を幾つも曲がり、3階層ほど下ったおかげか、後ろから誰かが迫ってくる様子はなかったので、リリアはクローディアを地面におろした。
途端に走り出そうとするクローディアの首根っこをつかみ、顔を近づける。クローディアは泣きそうだった。だが、それを許すことはリリアにはできなかったので、怒鳴りつける。


「クローディア!!あなたが…私たちが、今すべきことはなんですか!?ヴァイルとハデスを助ける事ですか!?」


びくっ、とクローディアは身をすくめる。だが、すぐに気を取り直したのか、怒鳴り返す。


「ヴァイルとハデスだって、あの量をさばききれるわけがないわ!!早く、早く助けに行かないと、みんな死んじゃうのよっ!?」


ーパシン!


甲高いびんたの音が、あたりに響く。静まり返ったそこで、リリアはクローディアの肩をがっしりと両手でつかみ、クローディアの眼をしっかりと見据えた。


「いいですか、クローディア!!ヴァイルとハデスがなぜ私たちを先に行かせたのか、よく考えてください!!二人は…私たちがアレンを助け出して、最高神との決着をつけ、みんな無事で帰るために…二人は私たちを先に行かせたんです!!…あの二人はそう簡単にやられる人たちじゃあ、ありません!」


その言葉に、ついにクローディアの眼から涙がぽろぽろと零れ落ちる。それを見たリリアの眼にも涙が浮かんでいるが、まだ、リリアはクローディアに語りかけるのをやめない。


「いいですか…?クローディア…アレンを助け出せるのは、きっと私たちだけです…。ヴァイルでも、ハデスでも無理でしょう…ましてや私一人でも、あなた一人でも無理です。断言します。…私たち、二人がそろって初めてアレンを助けられるんです!…それをハデスは分かって私たちを送り出したに違いないんです!!」


「…うぅ…ひぐっ…ぐす…」


とめどなく二人の眼から涙があふれる。だが、二人は同時に同じことを思う。
確かに、アレンを助けられるのは私たちだけだと。
まったく確証も何もないその想い。それはきっと…女の勘という奴だろう。


「…だからほら、涙を流すのはもうやめましょう!一刻も早く、アレンを助け出すんです!!」


リリアの無理やり出した元気そうな声に、クローディアは涙を流しながら頷いた。


「…わ、分かってるわよ!……ごめん、リリア。私、どうかしてたわ…。」


リリアはそんなクローディアを見て、がっしりとつかんでいた手を背中に優しく回し、抱きしめた。


「…私こそすみませんでした…たたいたりして…。」


クローディアも優しく抱きしめ返す。


「…いいのよ…さぁ、早く行きましょう…私たちの旦那様はかなりの寝坊助なんだから…!!」


二人は離れ、頷きあう。
リリアの眼にも、クローディアの眼にも、諦めの色は浮かんでいない。ヴァイルとハデスを信じ、目の前にいる共通のパートナーを、信じる…。そんな覚悟を秘めた目を、二人はしていた。


そして、再び二人は走り出す。
最下層の…愛する夫、アレンの元へと。






―――――――






あれからもう5階層は降りただろうか、階層を降りるごとに回廊は複雑になり、迷路のようになっていた。
だが、それでも二人は走るのを止めはしなかった。


「侵入者を排除しマス!」


「うるさい!邪魔よ!!」


回廊の壁からいきなり現れた天使。
それを認識した瞬間、クローディアは素晴らしい包丁さばきで、天使を滅殺する。


「…ふふ…絶好調ですね、クローディア!…【治癒】!!」


続いて出てきた天使を、リリアは治癒術で腐らせ、消滅させる。


「…そういうリリアこそ、絶好調ね!敵の腐り方が半端じゃないわよ!…うぇ…」


「それほめてないですよね!?ほめてないですよ!!」


ワイのワイのと騒ぐ二人だが、確実に前には進んでいた。
先々に現れる天使を、切り裂き、腐らせ…。


そして、二人はついにそこに出た。




だだっ広い四角い真っ白い部屋。
そこの中心にあるのは、これまた白い鉄格子が。それはなぜか地面についていて、下が見えるようになっているのがわかる、


「…アレン!!」


クローディアがありったけの力を込めて、愛しの者の名を呼ぶ。
そして、白い鉄格子に近づこうとした瞬間、ソレは現れる。


背中には金色の翼。手には黄金の槍。そして、白い布地に、ところどころにある黄金の篭手やすね当て。


まさしく、戦女神と言ったような女性が、鉄格子とクローディアの間に降り立った。


「…ついに、来ちゃったね…いや、予想はしてたけど。」


「…なによあんた。ちっさい奴には用はないわ!!せめてリリア位大きくなってから私たちの前に立ちはだかりなさい!!この貧乳!!」


クローディアが目の前の恰好だけは立派な幼女に怒鳴りつける。


「ひっ…貧乳っていうなぁ…。」


「そこでひるんじゃうんですか…。」


リリアがあきれたようにつぶやくと、それが聞こえたのか、幼女は槍を構えなおす。


「…うるさい!私だって好きでこんなことやってるわけじゃない!……仕方ないんだ…仕方ないんだって!!貧乳なのだって、狙ってやってるわけじゃない!!」


「好きでやってるんじゃなきゃ、どいて下さい!!その鉄格子の下に、アレンがいるんでしょう!?早く彼を開放させてください!!あと、あなただっていいところがあります!!その背は一部の人には大うけでしょう!」


「…マジ?…でも、ロリコンはいやだな…。」


「ねぇ、リリア…あの人、一瞬期待しちゃってたわよ…?…って、こんなコントやってる場合じゃないわ!!消えて!!」


気を取り直したクローディアは、幼女に斬りかかる。
先ほどまでの天使相手なら、一撃で葬り去った技だ。
二本の包丁が、瞬時に幼女の首と腹を切り裂く軌道で振り下ろされる。


だが、幼女は槍で防御して見せた。


「「なっ!?」」


それは、リリアとクローディア、両方の疑問の声だった。
そして、その反応を見て、幼女は不敵に笑う。


「ふふ…この私を誰だと思っているんだい!?…私は、最高神の娘…アテネだよ!!」


ばばーん。どこかで効果音がなった。


「へぇ…で?」


クローディアが威圧たっぷりに言う。もはや怒りは爆発寸前だ。こんなふざけた神だか天使だかわからないような、幼女に足止めされるなど、もう我慢がならない。


「クローディア!二人掛で行きますよっ!!」


リリアがクローディアに声を掛けると、瞬時に二人は動き出す。
だが、両方の攻撃…クローディアの包丁も、リリアの治癒術も、すべてを避けられる。
そして、天高く舞い上がったアテネと名乗った幼女は、暗い顔をして、何かを詠唱…いや、呟いている。
クローディアの耳にして、ようやくその声を拾えた。


そして、内容を聞いて、愕然とする。


「そのものの束縛を開放する…。アレン。牢屋の外に、あなたにあつらえた敵がいるよ。…そいつらは憎き最高神の使い。…あなたの反乱に手を貸すから、あいつらを討って。」


何を言っているのか、理解できなかった。


だが、容赦なく現実が襲い掛かる。




白い鉄格子から、懐かしい…だが、どこか違う蒼き光が漏れ出していた。




そして…鉄格子ごと、床を吹き飛ばして、男は姿を現した。


驚いた二人は、とっさに壁際まで飛び退る。


男の方を見ると…うつろな目をしている。もはや生気を失ったその目は、正気を保っていない。
だが、ぎらぎらと輝いてもいるその目は、あるものに復讐を誓った眼。
紅い血を…涙を、流していた。




二人は絶句する。


だが、瞬時に我に返り、男に声を掛ける。
おそるおそる。そうではないと信じながら。




「「…ア……アレン…?」」












「……」






男は黙ったままだ。




だが、口の中で何事かを呟くのが、二人にはわかった。。


確かに、クローディア…とリリアに聞こえたのだ。
【コール】が無意識に発動しているようだった。




目の前の男は、確かにこうつぶやいていた。




「全部…滅びろ…。」

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