ファンタジー異世界って・・・どういうことだっ!?

蒼凍 柊一

第9話 天使の襲撃

「全員、全力で敵を滅ぼせ!!…死ぬなよっ!!」


ハデスは大きな声で仲間に指示を飛ばす。
それと同時に、ドーム状の大きなこの部屋に、爆音が鳴り響く。
ヴァイルが魔力爆散を使ったのだ。


「我に勝てると思っているのかっ!!この天使風情がぁあっ!!」


びりびりと空気が震える。建物自体にダメージは内容だったが、天使たちには効果があったようだ。
今の一撃でかなりの数の天使が消失した。
だが、次から次へと湧きだす敵に、ヴァイルの表情が曇る。


「行きます!」


そんな時、大勢の天使たちの皮膚がただれ始めた。
リリアの範囲治癒だ。数秒もすると、跡形もなく天使たちは消え去る。残ったのは剣と得体のしれない液体だけ…。


「相変わらずグロテスクな技ね…。」


クローディアが呟くと、リリアが泣きそうな顔をする。


「仕方ないじゃないですかっ!!文句ならアレンに言ってください!!」


確かに、それは酷い光景だった。次から次へと原型をとどめなくなる天使たち…。皮膚はただれ、腕がもぎとれ…大人でも阿鼻叫喚するであろう光景が広がっていた。


「…うぇ…人型相手にそれ使うのやめない?リリアちゃん…。」


ハデスが気持ち悪そうにそういうと、ヴァイルも激しく同意する。


「…そうだな…気持ち悪すぎる。まったく…」


「いいから早く戦ってください!!…アレンを無事に救出したら、絶対にほかの攻撃方法、教えてもらいますからね…!」


涙目のリリアは決心する。こんな敵の倒し方、絶対に嫌だと。もっとほかの攻撃を会得してやる、と。


「はああああああ!【いちょう斬り】ッ!」


クローディアも戦闘に参加する。まさしく疾風の如き素早さで、天使の間を駆け抜ける。
天使たちは音もなく切り裂かれ、倒れ伏す。
あたりに血は噴き出ていない。天使たちの体には、血液がめぐっていないのだ。前にクローディアが起こしたような惨状は、そこには出現しなかった。


ハデスは魔術を使わずに、どこからか出現させた漆黒の剣で応戦していた。
天使たちがハデスの方に向け、突進してくる。


「討滅対象No.001発見。即時対処シマス。」


その言葉を聞き、ハデスは鼻で笑う。


「はっ…!君たちに僕を殺せると…?甘く見られたもんだねっ!」


それまで一定の長さを保っていた漆黒の剣は、次第に鞭のようにしなり、伸びていく。
それが天使の体を捕らえると、瞬時に天使の体が光となって消えていく…。


そんな戦いがしばらく続いた。


「数がっ…多すぎる…!」


だが、倒しても倒しても湧き出てくる天使たちに、次第に全員の顔が曇り始める。


「これはマズいな…。全員、あの階段を目指せ!…活路は僕とヴァイルで斬り開く!!リリアちゃんと黒猫ちゃんは、そのまま最下層まで走れ!」


「いやよそんなの!みんなで一緒にアレンを助けに行くんでしょう!?」


クローディアが戦いながら叫ぶ。
すでに千は天使を倒したというのに、続々と現れる天使。
ドーム状の天井を覆うほどの数がいるので、もはや苦戦は必至だった。
それを見て、リリアはクローディアに向けて言う。


「…仕方ありませんが…それが最善策です!クローディア!!…ですが、ハデスも、ヴァイルも…絶対に後から来てください!!いいですね!!」


「言われなくとも、そのつもりだっ!!いいから早く行け!!」


ヴァイルが叫ぶと同時に、全力の魔力爆散を放った。
天使にまみれていた下層への階段への道が、確かに開けた。
もう是も非もなく、リリアは暴れるクローディアを抱きかかえ、階段へと走り出した。


それを感知した天使たちが二人の前に立ちはだかる。


「コノ先ハ、牢獄区画デス。侵入者ハ排除シマス。」


剣を構える天使たちに、リリアは構わず突っ込む。


「二人の邪魔をするとは…人の恋路を邪魔するなんて、無粋な奴らだね!!」


そんな声と共に、リリアの目の前まで迫っていた天使たちは、漆黒の剣に貫かれて絶命する。


「二人も早く来てください!!こんな奴ら、あなた達なら余裕でしょう!?」


そう言葉を放ったリリアは、階段の下へ消えて行った。






―――――――




二人が走り去った後を、ヴァイルとハデスは見ていた。
階段を背にして仁王立ちしている二人は、なかなか様になっている。
ニヒルな笑顔をハデスが浮かべ、ヴァイルに話しかける。


「…ねぇ、ヴァイル…昔もこんなことがあったねぇ…あの時は僕があの二人の立場で、君とファフニールが今の僕たちの立場だったけれど。」


その言葉に、ヴァイルも懐かしそうに眼を細めた。


「そうだな…結局、我らは捕まってしまったが、貴様が無事だっただけファフニールも救われただろうな。…こうして今一度、最高神の城に乗り込み、奮闘しているのだ。今度こそ、奴を殺すまでは、捕まらぬよ。」


「…流石ヴァイルだ…。かつて世界を破滅させるほどの力の持ち主と言われたことだけはあるねぇ…だけど、今回は僕の見せ場だ。君の見せ場は、もう少し後になる。…僕がアレを使うから、君はそれまで僕を守ってくれ…。悪いけど、頼むよ。」


ハデスの言葉にヴァイルは無言で両手の剣を構える。


「言われなくとも、そうしてやる…。失敗するなよ?」


「僕を誰だと思ってるんだ…。ほら、来るよ!」


一斉に天使が二人めがけて突進してきた。
あるものは身をかがめ、一直線にハデスの元へ、またあるものは空中からヴァイルへと…。


それを瞬時に視認したヴァイルは、神速の剣裁きを見せる。
ハデスへその凶刃が届くその寸前で、すべての天使を切り裂いたのだ。彼の目の前で、彼女は動き続ける。
天使が怒涛の勢いで迫る。
それを超える速度でヴァイルが剣を振る。


「我の背には冥界の王がいるのだ…負けられぬ…負けられぬのだっ!!」


ヴァイルが一喝し、奮闘する。
黄金の剣の煌めきが、二人に届くことはない。


「…混沌に塗れし世界をつなぐ王の声に…僕の声にこたえろ、冥界の者達よ…」


背後で、ハデスの気配が一層強さを増していくのを、ヴァイルは感じた。
それに合わせて、ある一定の距離まで前にいる天使たちを吹き飛ばす。


そして、ハデスの魔力が一気に爆発する。


「この天使どもを冥界へ連れていけ!!【冥府への誘い】!!」


天使の一団…ドーム状の部屋すべてが、ハデスの黒い魔力で満たされる。
そして、それは徐々に天使たちを飲み込み、黒い球体へと姿を変えていった。
部屋の中は誰もいなくなり、部屋の中心に浮いている球体の中から、誰とも知れぬ怨嗟の声が聞こえてくる。


「…おいリーダー…あいつらを冥界送りにしたのか?」


ヴァイルがあきれた声で後ろにいるハデスに問いかける。
ハデスはにっこりと笑って、こういった。


「当たり前じゃないか。冥界で僕の奴隷にしてやるのさ。」


つくづく恐ろしい男だ、とヴァイルは思うが、口には出さない。


「…好きにしろ…、ちっ…まだ出てくるのか…我らも先に進んだほうがいいのではないか?」


またもや出現した数体の天使を見て、ヴァイルが舌打ちをする。
だが、ハデスは何やら暗い顔をしていた。
そして、呟く。


「そうもいかないみたいだ…ほら、奴が…現れた。」


ヴァイルが再び黒い球体がなくなった部屋の中央を見ると、そこに奴は立っていた。
横にラズエルとアテネを連れ立って。


「久しぶりだなぁ!朕が兄、ハデスよ…。」


ゼウスは余裕たっぷりの笑みを浮かべ、ハデスへと視線を向ける。
横のアテネは無表情だ。そして、ラズエルはと言うと…


「最高神様…私が奴を殺します!!首を献上しますから、私に奴を殺させてくださいっ!!」


怒りの形相で、最高神に意見を述べている。


「…ほう、そなたが、朕の兄を殺す…と…面白いことを言う…いいだろう。ここはそなたらに任せる…。朕は先に行った小娘二人を追いかけるとしよう…」


その声に、ハデスが叫ぶ。


「はん!自分で戦う気もなくなったのか?愚弟!僕こそお前を殺して、この天界の最高神になってやるから、さっさとかかってこいよ!!」


それは、明らかな時間稼ぎ。素人でもわかる文句だ。
だが、ゼウスの顔は怒りに染まる。


「貴様…たかが朕の兄と言うだけで、愚弄するかっ!!いいだろう!ここで塵も残さず消し去ってやろう!!…おい、アテネ!朕はラズエルと共にこやつらを粉砕する!!そなたは二人を追うのだ!!絶対に、奴の元へ近づかせるでないぞ!!」


「はっ!!」


ヴァイルとハデスは、姿を消したアテネを引き留めることはできなかった。クローディアとリリアのところに向かったのだろう。
だが、ラズエルとゼウスは足止めできた。それだけで十分だと二人は考えたのだ。


「…ごちゃごちゃと言ってないで、さっさとかかってきたらどうだ?この腰抜けが!」


ヴァイルの挑発にまた一段と眉をつりあがらせたゼウス。
ラズエルが白銀に輝く剣を構えた。




こうして、ヴァイルとハデスはゼウスたちと対峙した。

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