ファンタジー異世界って・・・どういうことだっ!?

蒼凍 柊一

第14話 勇者と魔王の闘い

「なっ!?なんだあいつは…!?」


ある兵士が、一人の男のことを指をさしながら叫ぶ。
その男は、単身敵陣に突っ込み、なんと大半の魔物を一人ですべて吹き飛ばしたのだ。


一撃で。


「味方…なのかっ!?」


「あ、アイツ、魔王って呼ばれてたやつじゃ…!?」


「魔王!?でも、魔物を奴は倒してるぞっ!?」


兵士たちは混乱する。
田中桂太郎…前勇者が連れてきたあの男は、間違いなく魔王の容疑がかかっていたはず。
だが、件のその男は、魔王の配下であるはずの魔物を切り捨てている。


まるで、聖国を守るかのように。


「ゆ、勇者はどこへ行った!?あいつは塔の上まであの男を連れて行って、最高神様の審判にかけるはずだったんだろう!?」


「だが、奴が俺たちの味方をしてくれているのは事実だ…。」


そんな時、聖国の国王の声が、兵士たちに届く。


『勇者田中は、勇者の資格をはく奪された!今、新たな勇者がここに誕生したのだっ!そのものの名は、勇者アレン!!歴代勇者の中でも、図抜けた能力を持つ、最強の勇者であるっ!彼の者は我らの味方だっ!皆の者、魔王軍を倒すため、彼を援護せよっ!!』


その言葉が聞こえた者たち…兵士、一般人…その戦場にいた聖国側の人間はすべてを理解した。
あの暴虐な勇者はいなくなり、代わりにもっと強い勇者が我らの味方になったのだ。と。


『ウオオオォオォォォォ!!』


聖国側の陣営から、雄叫びが上がる。
アレンが魔物を吹き飛ばし、敵が比較的少なくなった門から、精鋭の兵士たち数千名がどっと外に打って出た。


「我らは勇者殿を援護する!!聖国の兵士たちよっ!魔王軍を打ち滅ぼすのだぁっ!!」


『オォォオオ!!』


アレンは聖国にとって敵ではなく、味方であるという立ち位置になったのだ。
兵士たちが集り、外に打って出たその集団の中には、リリアやクローディア、ヴァイル、セルリアの姿もあった。


「私たちもアレンを援護するわよっ!…必要ないかもしれないけど。」


「クローディア、どちらかと言えば、今は兵士さんたちを守る方が先かと思いますよ?…アレンは強いですからね。」


「そうだな。リリアの意見に我も賛成だ…このままこやつらと共に進軍。アレンが討ち逃した敵を、我らが引き受けようぞ。」


「私も…手伝います…!」


覚悟を決めた瞳で、セルリアが軽装の鎧をまとい、槍を手にしている。
それを見て、クローディアは言う。


「並大抵の相手じゃないわよ?魔王のせいでこの魔物達、結構な強さなの…それでも、やる?」


その言葉を聞いても、セルリアの意志は変わらない。


「私…ご主人様が捕らえられるのを、見ている事しかできなかった…私だって、ご主人様のお役に立ちたいんです!!」


「ふふ…いい覚悟だわ。セルリア。じゃあ、今から私たちは仲間よ。いいわね?」


「へっ!?…い、いいんですかっ!?みなさん!?」


「良いも何もあるまい。セルリアとやら。貴様はなかなかの槍の使い手のようだ。我がしっかりサポートをしてやろう……主からも、よろしくと言われておるのでな。」


「アレンったら…いつの間にそんなことしてたんですか…?まったく、女性にはとことん甘いんですねぇ…。ま、そんなところが彼らしいんですけど。」


「ほらほら、行くわよ?早く援護してあげないと…」


そして、セルリア、クローディア、リリア、ヴァイルの4人が力を合わせて魔物達に相対するのであった。




――――――――――




場所は変わり、アレンの方と言うと…


「邪魔なんだよぉ!!どいてくれっ!!」


「きゅぅぅぅぅぅ…」


かなりデカイ…アレンの20倍はあるだろうか…そんなドラゴンを目だけで制圧していた。


(…なんでこんなデカイのまで俺にひるむんだ…?もう、俺、人間やめてんな…)


そんなことを思いながら、容赦なく剣を一振り。
一瞬で周りにいた取り巻きのドラゴンまで消し去ってしまう。
明らかに、攻撃力過多、オーバーキル。


「…やば…なんか周りの魔物が可愛そうに見え……」


周りを見渡す。
目つきの悪い鬼や、ゴブリン、オークなど醜悪なメンツが俺を囲む。


「ゴォアアアアア!」


「ないな。吹っ飛べ!!」


「ギャアアアアアアアアア!!」


断末魔の叫びをあげながら、魔力の光となって一瞬で消え去る。
やっぱり、攻撃力過多だ。
素材の一遍も残らないのだ。
通常魔物を倒したら素材を回収、それを売り払ったりしてお金を稼ぐのが冒険者だ。
俺は冒険者として致命的な欠陥を抱えてしまった。
だが、今はそんなことどうでもいい。
魔王を倒す。それだけのために俺は今、この魔物達を駆逐しているのだ。


「駆逐してやらあああああああ!!」


風の如き速さで、俺は敵陣を駆け抜ける。
片っ端から切り捨てていくと…ついに、魔王の声が聞こえたのだ。


一騎打ちだ。と。


―――――――


「お前が魔王か…」


「いかにも…貴様が勇者か…!何ともおぞましい力よ…我が輩よりも魔王に向いているのではないか?貴様…?」


俺はそれを聞いて憤慨する。
当たり前だ。人を魔王呼ばわりするんじゃない。


「俺はこんな風に自分の仲間たちを死地に送り出したりしない…。俺はせっかちでね。敵がいて、そいつを倒さなきゃならないってなったら、待ってるんじゃなくて、自分からそいつを倒しに行きたくなるんだ。」


「……それは我が輩も似たようなものだ…。さて、そろそろ無駄話は終わりにしようか、勇者よ…いざ、永きに渡るこの因縁…決着をつけようぞっ!!」


そういって、魔王は漆黒の剣を構える。
流石魔王…すごいオーラだ…。
だが、俺も負けてはいられない。


ロングソードを正面に構え、俺はスキルを発動させる。


「【不死族化】!【闘神の威圧】!!」


瞬間、俺の体は変化し、周りに不可視の斬撃が繰り出された。


(…あ。)


あまりに強化された俺の能力は、ついに威圧で魔王に傷を負わせるほどの攻撃になってしまっていたらしい。


「ぐぬおおおおおお!!な、なんだ貴様…!?か、神…神なのかっ…!?」


盾を構え、耐える魔王。
すでにその体はいたるところから血が噴き出し、ぼろぼろだ。
だが、まだ意識はある。
再生能力も持っていたらしい、みるみるうちに傷口がふさがり、再び俺の前に立ちふさがる。


「…まだだ…まだ、負けるわけにはいかぬのだっ!!死ねぃ勇者!我が渾身の一撃を、受けてみよッッ!【ダークブレイド】ッッ!!」


大気が震え、魔王を中心にすさまじい魔力が集まる。
それはまさに暗黒という表現が正しいだろう。


そしてそれに対する俺は、次の一撃を最後と決める。


次の一太刀で、こいつを殺す。
ロングソードに魔力を込める。
魔王の魔力など足元に及ばないほど大きなものが、俺の剣に凝縮される。




押し付けられた勇者だが、魔王と相対するのであれば、互いに全力を出さねばならないと俺は心の底から思っていた。




それは、魔王も同じ。
目の前の勇者がいくら規格外でも、絶対に勝てないと知っていても、譲れないものがそこにある。
魔王として、魔界を総べる男として。


今、魔王と勇者の闘いに、決着が着こうとしていた。

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