ファンタジー異世界って・・・どういうことだっ!?

蒼凍 柊一

第7話 ヴァイルと奪還戦へ



我は今、主の気配を追って聖国まで来ていた。
主はどういうことか、我を置いて、戦争をやっていて、なぜか傷つき、死にそうらしい。


端的に言おう。我は、憤慨している。


「死にさらせぇぇぇえええ!!」


「やめてヴァイル!!ここには一般人もいるのよっ!?」


「そうですヴァイル!やめてください!!」


「うるさいっ!!主を殺すのは…我の役目だぁあああっっ!!大体なんだっ!?お前たちはっ…ハデスと会って、包丁で刺して、オーバーヒールかけて、街を吹っ飛ばそうとしていた我の頭上に落ちてくるとは…一体どういう神経をしているのだっ!?」


そう、リリアとクローディア…彼女たちは我の頭上にいきなり落ちてきたのだ。
軽くもなく、重くもない微妙な重さなのがなぜか気に障ったが、そんな女の思考なぞ我にとってはどうでもいいのだ。


どうでもいいのだ。この無駄に大きい贅肉が邪魔して、我の体重が重くなっていようとも、どうでもいいのだ。


「私だってしらないわよっ!?…それより、早くアレンを探しましょうっ!」


「そうですよっ!早くアレンを助けないと…」


「そんなこと、分かっている!!だが、助けに行くのではないぞ…我は、奴にとどめを刺しに行く!!うおおおおお!!」


我は全力で聖国の門の前まで来た。
そして、暇そうに突っ立ていた衛兵が驚いた顔でこちらを見る。


「なっ!?なんだ!?今は勇者様が凱旋したばかりなので、この道は封鎖している!さっさとほかの門へまわれぇ!!」


「黙れ小僧!!お前にアレンを救えるかっ!!」


「ちょっと待ってよヴァイルっ!!それアウト!アウトだからっ!!」


「なんの話ですか?…って、なに剣を振りかざしてるんですか!?収めてください!ヴァイル!……衛兵さん♪、ごめんなさい…彼女たち、ちょっと興奮してしまって…勇者様っていいましたよね?最近、勇者召喚がまたおこなわれたんですか?」


リリアがとっさの機転でぶりっこしながら衛兵に問う。
衛兵の目線は、たゆんたゆん揺れるリリアの胸にくぎ付けになった。
リリアさん(の胸)マジパネェ。


「は、はは…ああ、勇者ね、勇者召喚は5日前に行われたんだ…。だが、奴はいままでの勇者とは格が違う強さだね…正直、俺は好きじゃない。」


その言葉に、我は疑問に思う。


「なぜ、好きじゃない?自国の勇者だろうに…悪いことでもしでかしたのか?」


その言葉を聞いて、衛兵はあっと言うかのように口に手を当てて周りを見渡す。
だが、周りに人がいないのを確認して、美女3人に心中を吐露し始めた。


「…召喚されて、最初に言った言葉は、『俺は最高神に選ばれしものだ。世界の女たちは俺のものだ。だから早く俺に上玉な女をよこせ。満足したら、魔王を討伐してやる』だぞ?これ以上に好感度が低くなる理由があるか?おかげでこの国の若く美しい女は勇者に身をささげに行ってしまって…でも、君達を見てると、とっても心がやすら「さて、ここにはもう用はない。さらばだ凡人よ。」


我は長くなりそうな予感がしたので、無理やり話を切り上げ、ダッシュでほかの門へと向かう。
というか、かなり勇者が下衆だったことに我は驚きを隠せなかった。
そんな下衆に、わが主は負けたのか?
いかんいかん…怒りが噴き出しそうだ…。
最高神に会う手筈も、殺す手段も、すでに我らは持っている。主に主人であるアレンが、だが。


だが、こんなところで、こんなふざけた勇者に負けたとあっては、とてもではないが最高神にだって勝てないだろうと、我は予測する。


卑怯?運がいいだけ?そんなもの、我にとっては闘いを構成する一部分にしか過ぎぬと思っている。
全てを覆せるほどの実力を…圧倒的な力をもつものこそがわが主、アレンという男のはず、なのだが…おおかた油断でもしていたのだろう。あの男はどこまでも人間らしいからな。


「ヴァイル早すぎです…。勇者とやらに目をつけられたらどうするんですか?」


「うるさい。我には関係ないことだ…。大体、なぜ我がこんなに回り道をせねばならん…よく考えたら、我の術を使えば、簡単に街の中に入れるのだったな…」


そんなことを我が呟くと、瞬間的に両腕に重みがやってきた。
クローディアとリリアが、我にしがみついてきていたのだ。


ふむ…悪い気はしない。特にクローディアの胸は我には遠く及ばん。なぜアレンがこんなちょっと膨らんでるような女を好むのか、わけがわからんが、リリアは気に食わないな。こうしている間にも、自己主張の強いたわわな二つの実が我の細腕を包み込んでいる…って、我はいったい何を考えて…くそ…主のせいだな…?絶対に、コロス…!


「なにやってんのよヴァイル!早く街の中に行くわよっ!!」


「黙れ!!分かっておるわっ!!【転移】!!」


我がそうつぶやくと、3人の体が生暖かい黒い炎に包まれた。




――――――――




我らが降り立ったのは、勇者の凱旋パレードが行われている大通りに面した裏路地だ。
ラッパや太鼓が魔王討伐という大義を成し遂げた勇者をたたえているが、反対に人々の顔は微妙な者だった。


あるものは恨みがましく勇者をにらみ、


あるものは行方不明になったわが娘の名前を呼びながら酒を飲んでいた。


パレードに参加していないのがばれれば、衛兵たちからそれ相応の処分が下るはずなのだが、勇者が通ったあとの衛兵は、そいつらと一緒に何かを語っていた。まるで愚痴をこぼしあっているような様だった。


そして、我らがいるのはそのパレードの最後尾。衛兵たちが周囲を警戒しているが、どこかやる気がない。


「隙だらけだぞ…?今襲撃すれば、主諸共すべて吹っ飛ばせるのではないか?」


「そんなことしたら私があんたをミンチにしてやるわよ?ヴァイル。」


クローディアがもはやどう動いたか分からないような速さで我に包丁を突き付けてきた…正直、かなりビビったのは内緒だ。


「ちっ…面倒だ…。」


そんなことを我が呟いていると、ゆっくりと行進が止まった。
聖国の中心にして、世界最高峰の神の塔に着いたのだ。
ここは、王城と教会が一緒になっている施設で、建物は遠い昔、この地の民が神より賜った塔だという。
あの最高神が、面白半分に立てた塔なのだが。
この塔の最下層が地下牢。罪人や悪魔憑き…背教者を閉じ込めておく場所だ。塔の中腹には王の部屋や姫の部屋と言った居住スペースがあるという話だ。我も情報が少ないので、そんなところしかわからないが。あと、勇者召喚が行われる場所と、最高神への道は同じ場所だ。すなわち、この塔の最上階だ。
荘厳な装飾が、厳格な雰囲気を放っている。かすかに神のオーラのようなもの感じて、我は不愉快になった。


「忌々しい…神め。」


神が憎い。もしこの手で奴らを殲滅できるのなら、我は喜んでその戦いに参戦しよう。
反乱を起こした友たちと同じ場所にいけるのであれば、それも悪くないと思ったからだ。
だが、主の顔が我の頭をよぎる。
一体なんだというのか。なぜ今、主の顔が浮かぶのだ?…もしや、我は…いや、それは絶対にありえん。我は破滅を導くもの。アジ・ダハーカ…いや、今はヴァイルと言う名の娘にすぎんか…。


思考の溝にはまっていると、周りが急に騒がしくなった。
勇者が皆に言葉をくれるらしい。


『皆の者!今回の遠征、ご苦労であった!!そして、魔王に捕らわれていた娘を一人、俺は助けてきたぞ!!』


その言葉にオォォー!!っと言う雄叫びと、流石勇者様!!とかいう声が聞こえてくる。


『そして、憎き魔王は…俺が、成敗してやったぞっ!!』


その言葉に、観衆はワッと湧く。どんなに下衆でも、倒すものは倒してきたのだという安心と、これからは平和になるのだという人々の安堵が、このような現象を作り上げているのだと、我は肌で感じていた。


『こいつがその…魔王!アレンだ!!』


勇者はその言葉と共に、空中にアレンを浮かばせる。
未だ、彼は意識を失っている。
赤い鮮血が滴るソレを見た民衆は、怒号の声を上げる。


「早くソイツを殺して!!」


「魔物が集まってくるぞ!!殺せ!殺せぇ!!」


その様子を見ていたクローディアが、もう耐えられないといった様子で立ち上がったので、我はその手を引いて、どこへ行くのか尋ねた。


「もう我慢できない…アレンもいるし、見たことあるメイドもいる…私、ちょっとあの勇者の首とってくるわ。」


「ちょっとまて、黒猫よ…あの、アレンが勝てなかった相手だぞ?…お前が勝てる道理などないだろう。」


「そうですよクローディア…一人で行くなんて、無謀以外何物でもありません。」


「ヴァイル?リリアっ!?あのアレンを見て、まだそんなことを言ってるの!?私たちがアレンを助けなかったら、誰がアレンを助けるのよ!?」


どうやら彼女は一人で戦うつもりらしい。


だが。






我も、我慢ならないのだ!!






「黒猫よ。誰が主を助けないなどと言った?我ら3人で、協力して助けようではないか…!!」






我は黒猫にそう提案してやると、驚きに彼女は耳としっぽをピンと立てていた。
涙が目に浮かんでいる。




「ヴァイル…そうですね!私たちの力を合わせて、アレンさんと、あのメイドさんを取り戻しましょう!!」




リリアがそれに同調した。当たり前だ。我々が力を合わせれば、不可能などないのだ。




「二人とも………じゃあ、いち、にの、さん、で行くわよ?…できるだけ周りの兵は傷つけないように、気を付けて、アレンとメイドを助けるのよ…いい?…いち」


そして、黒猫は覚悟を決める。
出来るだけ被害を最小限に、勇者を殺すことは目標にせず、救出にだけ重点を置いたのは、それが一番の目的だと彼女自身が認識しているからだろう。賢明な判断だ。




「いいだろう…にの」




そんな彼女を見て、我は嗤いながら次のカウントダウンを進めた。


「わかりました…行きましょう。アレンを助けに。…『さん』!!」


リリアがカウントダウンを締めくくる。


我らの戦いが…たった3人の戦いが今、始まった。

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