ファンタジー異世界って・・・どういうことだっ!?

蒼凍 柊一

第6話 そのころの二人

そこは、世界が一望できるような、そんな場所。
眼下に見えるのは、果てしない青々とした大きな大陸。
雲がゆっくりと足元を流れていくのが見えた。
何もない空中に、彼女ら…クローディアとリリアは呆然自失といったようで、棒立ちになっていた。
その絶景に言葉をなくしているのか、宿屋にいたと思ったらいきなりこんな場所にいたので、どういうことかと思案しているのか…だが、それも一区切りついたようだ。
黒猫の美少女が大きな声をあげる。


「どこなのよここはーーーー!!??」


あたりに少女の声が響くが、帰ってきたのは、隣にいる少女の声だった。


「えと…空中…ですかね…ははっ…はははは」


「リリアが壊れた!?帰ってきてよー!!」


うつろな目をして笑うリリアを、クローディアはがくがくと揺さぶる。ついでにリリアの胸もすさまじいバウンドを見せた。
リリアの胸が4回くらいバウンドしたところだろうか。
いきなり、聞き覚えのない男の声がした。
そして、瞬時に男は姿を現した。
空中に浮かぶ彼は、頭の中に直接言葉を送り込んできた。


『やあやあ…手荒な真似をしてしまってすまなかったね…自己紹介をしよう…僕は、冥界の王にして、最高神に連なる神…ハデスだ。』


いきなりの神様宣言だ。
彼女たちが動揺しない訳がなかった。


「あ、神様ですかー…今までの黒幕っぽい人が、私たちになんのようですかっ!?殺しますよ!?」


「こんなところに女の子二人連れてきて何する気よ!?青〇!?〇姦なの!?」


はずだったのだが、この女子二人は少々特殊な部類の人間だった。


『えと…まず言っておくけど、僕は君たちに源神や、ファフニールを送り込んだわけじゃないよ?それと、青〇言うな!!僕は人妻に手を出すつもりなんかないよ!?君も女子なんだから、節度くらいわきまえなさい!!』


なぜか目の前の正体不明の神を名乗る男に説教をされた。


「え、ごめんなさい…。」


『わかればいいんだ…まったく…アレン君も一体何が良くて彼女たちと…あ、見た目かな?』


瞬間、ハデスの背筋に悪寒が走った。
目の前のネコ耳に気付いた時には、もう遅い。


「オーバーヒール!!」


「ふーっ!!【猫パンチ】!!」


『ぐふぉおおおお!!??』


ハデスの体は蒸発し始め、体が浮き上がるほどのボディーブローをくらった。


『ちょっ!待った待った!!ごめんなさいっ!!』


ハデスは土下座した。
神様の土下座は安いのだ。
もう傷は治っている。


「ふん…わかればいいんです…それで、敵でも味方でもない…神様が、いったい私たちになんの用ですか?」






『話が早くて助かるよ…で、君たちの夫なんだけどね…なんだか、能力が9.9割減退させられる超絶的な呪いを受けちゃったみたいなんだよね~…,あ、ここじゃあコールは使えないよ?僕専用の隠れ家だからね。でも、まさか彼にあんな弱点があるとはね…素の防御力が高すぎて、当たっても問題ないと考えてたのかなぁ…?それとも、防御力無視のしかも呪い付きの…必中の一撃を、回避しようとしたのかな?ああいうときは全方位に障壁を張ればよかったのに…アレン君は判断ミスが多すぎるよ。』






「どういう、こと?」


クローディアが震える声で尋ねると、目の前のハデスはこう答えた。


『いや、なに…君たちの絆とやらを見せてもらおうかと思ってね…いっとくけど、アレン君を助けて欲しくて君たちをここに呼んだわけじゃないよ?純粋にただ、僕が君たちと戦いたかっただけなんだ…。さっきのは無しにして…これから一撃、僕に入れられたらアレン君の元へすぐさま転移してあげよう。』


「意味が分からないです!!」


『意味なんてないからね。君たちを見ているとどうもやきもきするんだ…。一度戦った方がすっきりするかなって思ってね。』


「…それじゃあ何?私たちがアレンを助けるためには、アンタを殺せばいいのね?」


その言葉にハデスがたじろぐ。


『い、いや、一撃!一撃入れるだけでいいからさっ!!』


「…なら、話は早いわ…。」


「え!?今までので納得したんですか!?クローディア!?」


「察しが悪いわね、リリア。あたかも殺してくださいって言ってるような奴よ?ぼっこぼっこにして、アレンのとこへ早く行くわよ…時間がもったいないわ。」


包丁を二本構えるクローディアを見て、リリアはため息をついてから、強い意志をその目に宿す。


もとより、アレンを支えると決めた二人だ。夫が知らないうちに窮地に立たされていることも知らず、のんびりと過ごしていたという事実は二人にとって、耐えがたいものだった。




『ようやくやる気になったようだね…それじゃあ、いくよっ!!』




ハデスが一歩前に踏み出す。
その刹那、視認できない速度で迫ってきたクローディアに、彼は最後まで気付かなかった。








ーぐさっ
ーじゅわっ




『…へっ?』




ハデスの間抜けな声があたりに響く。


勝負は、まさしく一瞬で終わっていた。


彼の胸にクローディアの二本の包丁が突き立てられたことと、彼の体にリリアの全力のオーバーヒールがかかったことによって…。


『なっ…!?』


ハデスは本当に驚きを隠せなかった。
自分は、神のはずだ。絶対的強者…人間の女二人に後れを取るとは夢にも思っていなかったのだ。
オーバーヒールによって腐りゆく体を、他人事のように見つめていた。
まぁ、彼の場合、本物の神なので消滅することはありえないのだが。


「……早くアレンのところに送りなさいっ!!」


「そうです!!一撃入れたんですよっ!!早く私たちをアレンの元へと転移させてください!!」


『ちょっと…まってね…計算外だ…不死族って、能力を最大限に生かすと白銀の髪色になるはず…だよね…まだ髪の毛の色、変わってないんですけど…。』


ハデスがぶつぶつと独り言を言い始めたので、二人はギャーギャーと騒ぎ始めた。
早くしろ、とか、完全に消し去ります、とか…。


「わかったよ…送るから」


「当たり前よっ!早くしなさい!!」


瞬時に転移の魔法をかけるハデス。
二人が転送される間際に、彼はふざけたことを抜かした。
親指をぐっと立てながら。


「ああ、あの辺りはちょっと結界が張られててね、聖国の…入口までしか送れないけど、君達なら大丈夫…!幸運を祈っている!!」




「なっ!?なんです、」


すさまじい殺意を残して、二人は転移されたのだ。




―――――


僕が二人を攫ったのは単純に、不死族に覚醒したときに最高神に見られないようにするためだった。
だが、問題が起こった。
能力不明のあの勇者だ。
アレからは最高神の…あのいけ好かない神のにおいがプンプンする。
絶対的な能力を幾つも与えられているだろう…


「どうするか…アレン君の呪いは解けるのかな…それこそお姫様の口づけくらいで治りそうなくらい安直なものだけれど…解除条件が単純すぎて不可解だ。」


彼女たちと戦いながら、時間を稼ぎ、呪いの治癒方法を探し、彼女らにそれを伝える…戦う必要性は必ずしもないが、でも、久しぶりに戦いたい気分になってきたので、そのプランで行こうと思ったのだが…。




二人を転移させながら、僕は思う。


もう、あの三人なら、世界を滅ぼすぐらいじゃ済まないんじゃないか、と。


要するに、僕は全部放り投げたんだ。


最高神への道も、もうすぐ開かれるだろうという神の直感を信じて。



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