ファンタジー異世界って・・・どういうことだっ!?

蒼凍 柊一

第2話 救出



「ご主人様ぁぁ!!」


私は一目散にご主人様の元へと駆けだしました。
ですが、白い甲冑を纏った男たちにより、私の行く手は遮られてしまいます。


「そこを…通してくださいっ!!【突貫】!!」


勢いよく槍を振り回し、一番近くにいた敵兵を貫きました。
ですが、多勢に無勢…こちらは他のメイドの先輩たちもいますが、少しずつ疲れが見えてきています。


「セルっ!避けてっ!」


先輩メイドが、私に向かって注意を促します。
なんと敵兵たちは連携を組み、同時に私だけを狙ってきたのです。
目の前の男たちは、汚れきった目をして、こう叫んでいました。


「俺専用のメイドさんゲットダゼェぇぇ!!ヒャッハーーー!!」


何の意味か分かりませんが、とても不愉快です。


「くぅっ!!」


敵の剣が私の鎧に届いてしまいますが、肌までには至っていません。
ちょっと、鎧が剥げてしまいました。


「いいねぇいいねぇ…女を嬲るのは聖国じゃあ、できないからなぁ…!まったく、魔王様さまだぜぇ!!」


なんだかよくわからない男の原動力が、彼らの中に渦巻いているのを感じます…。
正直、キモいです。
ですが、強さは変わりありません…悔しいですが、私一人では…彼らを倒しきるのは難しい。




でも、やらなきゃなりません。


やらないと、ご主人様が、アレン様が、殺されてしまうかもしれないのです。




ふとセルリアの脳裏を掠めたのは、ガイゼルに買われる前の記憶。




―――――――




私には、守るべきものがいくつもありました。




レイル王国。




それが私が継ぐはずだった王国の名前…。




お父様…国王は、寛大で力強く、お母様…妃は包容力にあふれていました。




それは小さな王国です。




最初は、フェガリア聖国の公爵だったお父様は、聖国が、自領の民にかける税金の多さに心を痛めていました。




そして、お父様はあるときこう進言します。




『このままでは民が飢えて死んでしまいます。どうか我が領の税金を緩和していただけないでしょうか。』と。




勇者召喚や、魔王討伐の任を一身に受けている聖国が、税の閑話なんてするはずもありません。もちろん結果は、却下。




お父様は心を痛めます。
どうすれば民が笑顔で暮らせるか、どうすれば皆が笑顔になれるのか。そんな独り言を私室でつぶやいていたのを私は聞いていました。
いまの私からすれば、甘すぎる考えです。
夢の見すぎです。ですが、お父様の言葉は…とても、とても綺麗で…一切の穢れのない、強い言葉だったのです。
そしてあるとき、お父様はフェガリア聖国に反旗を翻します。
お父様の友人であった。勇者王イシュタルと共に。




彼…イシュタルは時折寂しそうな顔をしてこうつぶやいていました。




「元の世界に、帰りたい。」




そうつぶやく彼は、どこまでも儚く、どこまでも人間らしく…私はとても印象に残っています。




イシュタルはとても不思議な人でした。
記憶は定かではありませんが、聖国に忠誠を誓っていたにも関わらず、父に手を貸してくれた人。
彼はお父様が国を建てた後しばらくお父様の配下についていました。
その間の国は、とても豊かで、民も笑顔で…まさに夢のような国でした…。
ですが彼は突然、姿を消してしまったのです。
そこから先はまさに闇。
彼と言う光を失ったレイル王国は、なぜか衰退の一途を辿って行ったのです。




彼が姿を消した後、すぐさま聖国が攻めてきました。
まるで、魔王がそこにいるかのように。
私たちのいる国に、魔王がいると信じて、彼らは総力を挙げて、私たちを蹂躙しに来たのです。




そこからの記憶が、実は私にはあまりないんです。
お父様とお母様が死んでいるのか、生きているのかすら…。




気付いたら奴隷商人と面会していて、商品として調教される前に首輪なしの条件で、ガイゼル様に買われていました。




ただ、分かるのは私が帰るべき国はもうないという事だけです。




そんなどうしようもない私の昔を、思い出していたのです。








――――――――








「ひひひっ!ついに捕まえたぞぉ!!」


無心に槍をふるっていると、私の左の方から、下品な笑い声が聞こえました。
そちらを、私はちらっ、と見ます。


「なっ!?」


先輩メイドが、甲冑を纏った男に両手を拘束され、捕まっていました。
はやく、助けないといけません。


「邪魔を、しないでっ!!【突貫】!!」


先輩を助けるべく、私は槍を必死でふるいます。
ですが、届きません。
間に入ったやたらと大柄な男が、私の目の前に立ちふさがります。


「ぎひぃ…お前も、なかなかのべっぴんじゃないかぁ…!捕まえて、奴隷にしてやらぁ!!」


「くぅぅぅっ」


先輩の悲痛な叫びと共に、鎧が砕かれ、布が裂ける音が聞こえてきます。
考えたくありません。あの優しい先輩が、あのような下品な男の手に落ちるなんて、考えたくありません。


ご主人様も、今は見失ってしまいました。
次第に、私も男たちに押されてしまっていることに私は気付きます…。


「ひひひっ!おらおらぁ!!」


背中に生理的嫌悪からか、嫌な汗が噴き出てきました。
ただただ、女の体を求める、男の攻撃。
それは苛烈で、凶悪で…私が性の経験があるかどうかは自分でもわかりませんが、あれにつかまったが最後、二度とご主人様の前には立てないような目にあわされるのは、直感でわかります。


だから、私は頑張ります。


そんな思いとは裏腹に、下品な男の剣が一振り。


ーガシャン!


私の甲冑が、完全に砕けてしまいました。
横目で、先輩が切り裂かれた服のまま、男に抱きかかえられ、連れ去られてしまいそうになっているのが、見えました。


それに気を取られてしまった私は、男の攻撃に気付きませんでした。


「きゃあっ!!」


槍を取られ、すさまじい力で押さえつけられてしまいます。
ついには地上に組みふされてしまう私。


ああ、私…ヤられちゃうんだ…。


そんな絶望感の中…先輩の連れ去られた方から、血しぶきが上がります。
でも、目の前の男はそんなことには目もくれず、私の服を破きにかかってきました。


ービリビリ!


布が悲鳴を上げて、切り裂かれてしまいました。
身動きできない私の体を、舐めるように見つめてくる男。
鳥肌がたってきました。
同時に、涙も自然と流れてきます。


「いい体だぁ…!!魔物に汚染された商業都市の娘を俺が救ってやるんだ!もっと喜べよっ!!」


喜べるわけがありません。
私は無理やりされるのは大っ嫌いなんです。
でも…今の状態は絶望的。私の貞操は、間違いなくこの男に奪われてしまう事でしょう。


私の下半身に、男の手が伸びます。


その瞬間に、私は覚悟を決めます…。


ですが、あふれる涙は止まりません。


「誰か……助けてぇ…。」


穿いていたショーツが破ける感覚が、私に絶望を与えます。






「いやぁああああああ!!」




男は私の悲鳴を聞いて、顔をゆがませて笑います。








「ひひひ!!いい声で鳴くじゃねぇ…げひっ」








ーズバン!!


男の首が、飛んでいました。








「こンのヤロウ…!!死ねぇええええ!!」








淡く、蒼の輝きを纏った剣が…私の眼に映りこみます。


それは、あの人の輝き。
屋敷の前で見た、ご主人様のあの輝き。


半裸の先輩を背負い、ほかの先輩方も救出していたようで、彼は血まみれでした。




彼は、周りの敵兵をいつの間にかすべて斬り倒し、孤立してしまった私たちを本隊と合流させたのです。






「…アレン…さま…」




涙が止まりません。
彼はもう立つこともやっとという出血量です。
腹には風穴があき、その傷口には呪いがかかっているのが見えました。


彼はそれでも、私に手を差し伸べてきました。


「もう、大丈夫だ…またせたな、セルリア。」

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