ファンタジー異世界って・・・どういうことだっ!?

蒼凍 柊一

第21話 なんでも屋

「さぁて!どこからまわりましょうか!?アレン!」


リリアが楽しそうにはしゃぎながら俺の手を取って歩き出す。
しまいには鼻歌まで歌い始めた…調子はずれだが、聞いていて心地よく、俺まで笑みが浮かんでくる。
鉱山都市の町は結構活気があり、鉱山に続く大通りの道は整備されている。
脇には宝石店や、武器、防具屋、雑貨屋、野菜販売をしている店が立ち並んでいる。
その通りは朝からにぎわっており、主婦たちが道端で朝の挨拶がてら、井戸端会議をしているのが見えた。


「…鉱山都市って聞いたから、見るところなんてあるかと思ったが、結構いろいろありそうだな。」


「そうですよ?この鉱山都市は希少な鉱石のほか、宝石類も取れるんです!…あそこのお店なんて面白そうじゃないですか!?」


リリアが一つの雑貨屋を見て、指をさす。店の上を見上げると、大きい看板で【ルナなんでも店】とある。
そこの店の前には、小さな看板で、【なんでも売ってます】とか書かれていた。明らかに怪しい。
店の外観はかなりゴシック風な建物だ…そこで、俺は既視感を覚える。


「あの看板、なんて書いてあるんでしょう…?」


そう、その店の看板は、すべて日本語で書かれていたのだ。
ところどころにこの世界の言語が書かれてはいるが、ほとんど日本語だ。
リリアがその看板を読めないのを見て、俺は予想を確信に変えた。


「あー…あれ、もしかして、転生者の店か?」


「えっ…うわさには聞いてましたけど、ほんとにあったんですねぇ…」


「よし、ちょっと寄ってみようぜ?店主ともちょっと話がしてみたいしな。」


俺たちは怪しげだが、どこか洒落乙なその店に足を踏み入れた。
中はきらきらとした幻想的な光で満ちていて、入ってすぐの商品棚には、アレンの見慣れたものが置いてある。
ソレは、アレンは使ったことはないが、前の世界…日本で見たことのある物だった。
リリアはソレを手に取り、興味深そうに見つめる。


「なんに使うものなんでしょう?」


「これ…ライターじゃねぇか…」


そう、100円ライターに酷似したデザインのそれが、置いてあった。値段は10キール。たけぇ!
俺は何気なく手に取り、火をつけてみる。
カチッという小気味いい音と共に、火がつく。
別に爆発したりはしなかった。
その様子を見て、リリアが感嘆の声を上げる。


「こんな極小の魔力で、火がつけられるなんて…!すごいですよアレン!これ、便利ですよっ!」


「いや、フツーに魔術で火をつければいいじゃないか。」


俺はあきれたように言うと、リリアは猛烈な勢いで反論してきた。


「火の適性がない人でも、これがあれば火をつけられるんですよ!?大体、私たちの中に火を使える人って、かろうじてヴァイルさんだけじゃないですか!」


「そういわれれば、そうだな…」


俺が関心したように見ていると、店の奥から黒髪黒目で肩までぐらいの髪の毛をした、若い女性が現れた。


「いらっしゃいませー!…ようこそ!ルナのなんでも店へ!!……え?日本人?」


女性はアレンを見るなり、素っ頓狂な声を上げる。
俺はその姿を見て、なぜか懐かしく思えてしまったので、言葉を返す。


「ああ、元、日本人だ…その口ぶりからすると、君も日本人みたいだな…初めまして、俺はアレンだ。前の名前は忘れてしまったので、言えないが。」


「は、初めまして、あたしは、正真正銘の日本人だよ…今の名前はルナ…」


「え?にほん?なんですかアレン?」


「あー…えっと、リリア。怒らないで聞いてくれよ?…実は俺、転生者…なんだ。」


えぇぇぇっという驚きの声が、店の中に響いた。






―――――――――




「…で、アレンさんとルナさんは同じ故郷の出身と…。」


リリアに俺の生い立ちを暴露すると、ルナは微妙な顔をし、リリアも表情がなかった。


「…そうだな。いままで隠しててすまなかった…!」


俺は素直にリリアに頭を下げる。
すると、彼女は大胆にも、俺を抱きしめ、耳元でささやく。


「いいんです…私もその…アレだってこと、アレンに話してませんでしたし…これで、おあいこです…」


「あ、ありがとう…リリア…」


「あーなんだか熱くなってきたね…今日はもう店じまいしようかな…?ごほんごほん」


ルナがわざとらしく咳払いをする。
それに気付いた俺とリリアは瞬時に離れ、お互いに顔を赤くする。


「べ、別にいいわよ…アレンさんと、リリアさんだっけ…?ずいぶん仲がいいみたいだけど…恋人?」


その問いに、俺は瞬時に答える。


「いや。リリアは俺の大切な妻だ!!」


「んなっ!?その年で、もう結婚してるのっ!?」


店の中に俺の言葉が響く。
ルナはショックを受けたような顔をしていた。
そして、何事か呟く。


「あたしだって…結婚、まだなのに…」


その様子を知ってか知らずか、リリアは商品棚に並んでいるさまざまなものを見て、彼女に問いかける。


「それはそうと…あれって、全部ルナさんが作ったものなんですか?」


「そうだよっ!あたしは【魔術道具作成士】…!ここにあるものは全部私の作品たちだよっ」


何に使うか分からないような鉄の塊から、先ほどのライターやほかの商品棚に並んでいる物を指でさして、誇らしげに言うルナ。


「すごいな…これ全部君が作ったのか…これって、ライターだろ?よくこんなのつくれたな…」


「ああ、それね…煙草を吸うときにいちいち火の魔術を組むのが面倒だったから作ったの…たまーに熟れるの。」


「たまに、ね。その年で一軒店を持つには並大抵の努力ではなかったんだろうな…ルナはどうやってこの世界に来たんだ?」


俺はルナの外見から年齢を想定する。大体18~22歳くらいだろうか。
店を持つというのは大変なことだったろうと想像し、俺は感嘆の声を上げる。


「…えっと、話すと長くなるけど…聞きたい?」


「ぜひ、差支えがなければ教えてくれないか?」


「しょうがない…教えてあげる。」


ルナは自分の身の上話をしてくれた。


「えーと、あたしはこの世界に【召喚】されてきたの。アレンさんと同じ転移だね。フェガリア聖国の人に召喚されたのよ。」


「え!?ルナさんって勇者だったんですか?」


リリアが口に手を当て、驚く。
だが、ルナの顔は晴れない。


「いや、そんな大層なものじゃないよ。召喚時のスキル選択で、私は魔術道具作成にかかわるものしかとらなかったの。そしたら、当然戦闘なんてできるわけないよね?結果、モノづくりとしては並外れたスキルを持ってるけど、魔王討伐には向かない勇者の誕生…聖国はすぐにあたしの存在を隠すために鉱山都市に所属させた。そして、新しく召喚される勇者のために道具を作ることを命じられたの。」


「なんでそんなスキルとったんだ?」


俺は自分のことを棚に上げてルナに尋ねる。
名前も、効力もわからないようなスキルを取得し、血が噴き出したことを思い出す。


「答えは簡単。あたしは闘いなんて大っ嫌いだから。モノづくりが好きなの。異世界でモノづくりで天下とってやるぜーって意気込んだはいいものの、なかなか知名度は上がらないし、値段の高さから買う人もすくないし…原料が高いんだから、値段も高くなるのはあたりまえなのにねぇ?」


「苦労してらっしゃるんですね。ルナさん…」


「いや全然?好きに物作ってるし、聖国からすこしだけどお金も出てるし…少しは商品も売れるし…」


「このほかにはどんな作品があるんだ?」


「ちょっとまっててね…」


ルナは店の奥に引っ込み、なにかゴソゴソと大きなものを持ってきた。
それはとてもきれいな、巨大な電球だった。
俺はそれを指さし、尋ねる。


「なにに使うんだ?これ。」


「何って…夜でもパーティーができるように、魔力で発光する電球だよ?」


「えと…いくらするんですか?」


「えーっと、200Kキールくらいかな?」


「売れるわけねぇだろ!!」


俺は耐えきれずに突っ込んだ。
当たり前だ。そんな高額で、しかも使いどころがパーティーの時とか意味が分からない。


「えー、結構会心の出来なんだけどなぁ…」


「もうちょっと購買層のことをよく考えろよ…せめて、小型にして、坑道発掘に使えるようにするとか…値段も高すぎだ…」


どうせ機構部分は感嘆だが、外装に金を掛けたんだろう。
この世界の住人にとって目新しさはあるが、実用性は皆無だ。
それを伝えてやると、ルナはむくれてしまう。


「むぅ…難しいなぁ…もう少し考えてみるか…」


「なぁ、一応聞くが、それ、勇者の役に立つと思うか?」


俺は一番疑問に思ったことを尋ねる。
それもそうだ。勇者のために道具をつくれと言われて作っているのに、彼女は本当にパーティーで使うような電球が必要になると思っているのだろうか?
すると、彼女は首をかしげて、こういった。






「別に?だってあたし、闘いって全然知らないもの。」






こりゃダメだ。
俺は天を仰ぎみて、ため息をついた。


「だけどほら、こんなのもあるんだよ?」


彼女の手にあるものを見ると、そこにあったのは…


「大人のおもちゃじゃねぇか!!バカヤロウ!なんてもん作ってんだ!!お前一応女だろうがっ!!」


そう、いわゆる大人のおもちゃ…アレやソレが彼女の手にあった。
ふざけるな。おとなしそうな顔して痴女か?こいつ。


「なんだよぅ!?女の子だって気持ちよくなりたいんだよっ!?ねえリリアさん!?」


「え?それ、なんなんですか?」


何も知らない大事な妻が、興味津々でソレらを見ている。
すると、ルナがリリアのみみもとで何事か呟いた。
瞬時に顔を赤くさせ、俯いてしまうリリア。


俺はそれを見て、あることを思いつく。


「なあ、ルナよ。俺にそれをゆずって「何考えてるんですか!アレン!?///」


「いいわよ?全部合わせて30Kキールだよ。あたしの使用済みだから安くしといたよ。」


「ふざけんなっ!新品をよこせ!!」


俺は目の前のなんちゃって清楚系女子を睨み付け、叫ぶと、しょーがないなーといい、ルナが新しいものを持ってくる。


「い、いらないですからね!アレン!!早く次のお店へ行きましょう!!」


「「え?いらないの?」」


俺とルナの言葉がかぶさる。
それを見て、ふるふると震えるリリア。


「え…、い、いらないですよっ!?」


ちらちらとソレらを見るリリア。
おいおい、行動と言葉が一致してないぜ?
俺とルナは顔を見合わせ、にっこりと笑い…


「それ、買った。」


「まいどありー♪」


商談が一つ、成立したのだった。


「えぇええええええ!?」


リリアの叫びが店の中に響き渡った。

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