ファンタジー異世界って・・・どういうことだっ!?

蒼凍 柊一

第18話 休む間もなく、次の町へ

「アレン!!アレンっ!起きなさい!!」


耳に愛しのクローディアの声が飛び込んできて、俺の意識は覚醒した。
そして、後頭部にやわらかい感触…おそらくクローディアの太ももだろう。
俺はその感触を堪能するために顔の右側にあるクローディアのおなからへんに顔を埋める。
ものすごくいい香りがする…なんというか、あまーいにおいだ。俺の頭が瞬時にとろける…が。


「ちょっ!!やめな、さい、よっ!!」


ふにっ、という絶妙なやわらかくも、程よい筋肉がついたそのおなかに触れた瞬間、俺の頭は地面にたたきつけられた。


「ごふぅ!!……クローディア……怪我人になんてことするんだ!」


「だれが怪我人よっ!!かすり傷ひとつついてないくせによく言うわね!」


クローディアがしっぽを膨らませながら俺を叱ってくる。
そして、隣に別の女性…クローディアと同じくらい愛してるリリアだ。
彼女は俺の顔を覗き込んで、解析を始めているようだ。
俺の体を見られているのをすごく感じる…なんだかイケナイ気分になってきそうだったが、暴走する前にリリアが話しかけてきた。


「アレン…自然回復力まですごいことになってるみたいですね…普通、あんなに一気に魔力を使ったら、二日、三日は寝込んでますよ?今は、全回復してますけど。」


「自然治癒能力…?というか、俺…気を失ってたんだけど、どれくらい寝てたんだ?」


「…どれくらいって…数秒?」


クローディアのその言葉に、俺とリリアは苦笑いする。


「どんだけ俺わけわかんない能力値なんだ…?まったく…まぁ、強いに越したことはないがな。」


そういいながら立ち上がり、あたりを見渡す…すると、地面に大きな亀裂がいくつも入っているのが見え、なぜか俺は背筋が寒くなった。
おそるおそる、俺は聞くことにする。
平原の一か所を起点として、大きなクレーターが出来上がり、草木は吹き飛び、街には被害がなかったものの、亀裂がいくつもできている…それをやったのは誰か、聞くために。


「…なぁ、あれって、ガイアの仕業「違うわ。全部アレンよ?」


にっこりと笑いながら黒猫は言う。ちくしょう、可愛いな!ちくしょう!
俺がクローディアの可愛さにほだされているときに、リリアは真剣な表情で言う。


「…アレン。今回はガイゼルさんの館や、城壁都市の時のように、目撃者がごく少数という訳ではありません…冒険者ギルドも、騎士団にも、アレンの名が知れ渡るでしょう…それは、とても…よくありません。」


「なんでよくないんだ?」


俺はリリアの言うことをいまいち理解できない。結果的に街を救うことになったが、何がよくないのか、よくわからなかったからだ。


「まず、確実にアレンさんは【英雄】…もしくは【勇者】に認定されることになります。」


「え?俺、そんな大層なもんになるのか…?」


リリアは大きくうなずき、説明を続ける。


「いいですか?勇者や英雄は基本的に国に管理される運命にあります…緊急時には呼び出され、魔物の討伐や人殺しだってやらされるかもしれません…それを生きがいにする人もいるかもしれませんが、私にはアレンがそういう人間だとは思いませんし、そうじゃないでしょう?」


俺は考えた。ここで、冒険者ギルドの連中につかまって、いろいろ話を聞かされるか、騎士団連中につかまって、ガイゼルとの関係を証明…いずれも面倒に感じた…なので、俺は提案する。


「なあ、なんか疲れたし、クローディアとリリアも疲れたろ?…次の町へ行こうぜ?そこで今日は宿を借りよう…。」


「そうね…いずれは見つかるかもしれないし、今日は疲れたし…晩御飯食べてないし…宿泊代金はもう払ってあるし……いいわね。えーと、次の町っていうと…【鉱山都市ベルス】かしら?」


クローディアも同意し、インベントリからマップを取り出して、次の町への道順を確認し始める。。
…が、リリアは微妙そうな顔をしていた。


「せめて、冒険者の皆さんと、騎士団の皆さんの救護くらいはしていきましょう…騎士団の皆さんの方には、死傷者も出たようですし…。」


「そうだな…ではこうしたらどうだ?主よ。リリアと我で冒険者と騎士団の救護を行う…クローディアと主は鉱山都市に向かうとよい…」


「うおわ!ヴァイル!起きてたのか!!」


いきなり現れたヴァイルに俺はびっくりしてしまった。
彼女は憮然そうに腕を組む…両胸が自然と彼女の腕の上に乗る…眼福、眼福…黒い長ズボンと、薄いワイシャツのような服をヴァイルは纏っていたので、グラマーなスタイルも強調されていた。


「当たり前だ。我を誰だと思っている…だが、今回は礼を言うぞ、主よ…貴様がいなかったら、今頃我は死んでいたかもしれん。」


俺は異常なものを見るような目つきでヴァイルを見てしまう。
自然と口から言葉が出る。


「どうした…?ヴァイル…頭でも、打ったのか…?リリア、早く治癒を!ヴァイルは相当重症のようだぞ!?」


「は、はい!!」


リリアは杖を構えてヴァイルに向けて治癒を放とうとする…が、ヴァイルの手刀により、俺とリリアはたたかれてしまう。


「何をやっている!?我ぐらいたまに感謝ぐらいするわ!!ふん!…で、どうするのだ。主。」


「うーん…いや、みんなで救護した方が早いしな。流石に怪我した人たちを置いて、俺たちだけ立ち去るわけにはいかないよな。よし。この場にいる生きてるやつらみんな救護して、それからみんなで次の町に逃げるとするか。って言うことで、俺とリリアは騎士団連中の救護、クローディアとヴァイルは冒険者ギルドの奴らの無事を確認したらすぐ逃げてくれ…多分、事情を聞こうと迫ってくるだろうからな…ヴァイル。そこはうまくフォローしてやってくれ。」


「わかった。任されたぞ。」


「じゃあ、行きましょうか?アレン。」


方針は決まったので、俺とリリアはまず、損害のひどい騎士団の集団に歩みを向けた。






――――――――――






どうしてこうなった…俺は目の前の騎士が全員直立不動で敬礼をしている姿に、頭を悩ませていた。


「私は騎士団隊長、カーグ・スベルトです!!勇者様!此度の活躍を見て、わたくし感服いたしました!!ぜひ、わが隊に稽古をつけていただけないでしょうか!?」


一気にまくしたてる隊長らしきおっさん。
おっさんの後方で倒れている騎士たちを、リリアと騎士団の治癒術士が治癒しているのを横目で確認し、俺は即答する。


「私は勇者でも、英雄でもありませんので…ただのしがない冒険者ですよ。」


「そ、そんな!?あなたほどの人が冒険者…!?」


ショックを受けたのか、それっきり動かなくなってしまった男を置いて、俺はリリアのところへ行き、小声で話しかける。


「被害状況は?」


「死者が40人強…重症者が300人…私の範囲治癒で、重症者の方のけがは、自然治癒で治るようにしておきました…そろそろ頃合いですね…面倒に巻き込まれる前に、逃げましょう。アレン。」


俺は頷くと、リリアを瞬時にお姫様抱っこで抱える。


「え!?ちょっ、アレっ…って!きゃああああ!」


抱えるなり、空中移動で音もなく飛び立つ俺。
今の速さならだれも俺たちがいなくなったのには気づかないだろう…。


「ヴァイルの方はうまくやってるかなーっと…」


空中を猛スピードで飛びながら、遠くに見える鉱山都市に進路をとる。
そして、ヴァイル達のいる方向から、クローディアとヴァイルも飛び立ってくるのが見えたので、そのまま飛行を続行する。


≪ヴァイル。そっちはどうだった?≫


コールで状況を確認。
ヴァイルの返事はすぐに帰ってきた。


≪どうということはない。支部長とかいう奴が来て、我らの私情を聞いてきたが、全部無視してやった。クローディアはヨーグとかいう豪快なおっさんと話していたな…≫


(そういえば、ヨーグのオッチャンに会うの忘れてたな…まぁ、いいか。また会う機会もあるだろうしな…今の現状を見られたら、殺されるかもしれん…)


ちなみに、ヨーグはクローディアからすべてを聞いていた。
アレンが一撃でガイアを倒したことも、あれは神と呼ばれる存在だったということも。
それを聞いたヨーグはアレンに会いたがったが、次の目的地があるから無理だという話もクローディアはしていた…できる女って素晴らしい。


「何はともあれ、無事に離脱できたな…さて…最高神の奴のことも気になるが、そんなことより、今日の飯の方が大事だ……うまい飯、あるといいんだけど。」


アレンはまだまだ遠くにある鉱山都市を見ながら、宿屋についてからの晩御飯の心配をしていた。

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