ファンタジー異世界って・・・どういうことだっ!?

蒼凍 柊一

第8話 別行動開始

アレンとリリアが洞窟から戻ると、ヴァイルとクローディアは倒れこんでいた。


「ヴァイルさん!クローディア!」


焦って駆け寄るリリア。
アレンはヴァイルの目を通してみていたので、どちらが勝ったのかは分かっていた。


(…引き分け…か)


そう、二人は引き分けたのだ。どちらの攻撃とも、両方にクリティカルヒットし、アレンが遠隔でかけていた障壁も破壊されたのを確認している。
多分二人は両方の攻撃の余波で気絶してしまったのだろうと推測された。


「リリア。ヴァイルは大丈夫だ…すぐ起きるだろう。だが、問題はクローディアだ。かろうじて俺の障壁が守ったが、あの神の如き紙の防御力じゃ心配だ…回復してやってくれ…」


「わかりましたっ!クローディアさんっ!…あぶない…杖を媒介にしちゃいけないんだった…」


すぐ近くの無事な木陰にアレンがクローディアを運ぶ。
そして、リリアが介抱した。


「…おい、主よ…なぜ我を助けん。」


アレンの後ろからいきなりヴァイルが現れる。
アレンはびっくりした様子もなく、何気なく答える


「…だってお前、俺の使い魔だろう…?無事なのはすぐにわかるから、大丈夫だろうと思って…」


「バカモノ!あの小娘、相当な使い手になってしまったぞ!?次は我ですら勝てるか怪しいのだ!!全盛期よりも強くなっている我にだぞ!?本当にあの小娘、ただの獣人か!?」


その言葉にも、アレンは何気なく答える。


「ただの獣人じゃないぞヴァイル。俺の嫁だ。間違えるな!」


すさまじくドヤ顔をするアレン。うざい。


「この…クソ主がっ!【破滅の一撃】ぃっ!「ごふっ!!ちょ、ぐふっ!!殴んな!ぐはぁっ!洒落にならんぞっ!!しぬぅ!!」


無抵抗でヴァイルに腹パンされ続けたアレンはちょっとは効いたのか、涙目になっている。


「なぜ死なぬ!?貴様、我の【破滅の一撃】を受けてもなぜ死なぬのだ!?」


困惑したヴァイルにさらにぼこぼこにされるアレン。


数百発殴られたアレンは、流石に気絶した…フリをしていた。




「……落ち着いたか?ヴァイル?」


「うるさい!!「ひでぶぅ!!」


あの後数分したのち、再びアレンは立ち上がり、ヴァイルに話しかけたが、案の定また腹パンされた。


「…で?か弱い私を置いて、何をしているのかしら…?アレン…?」


アレンの後ろに突如として般若が現れた。
異常な威圧にすくむヴァイルとアレン。
回らない首を無理やり回し、アレンはにこやかな笑顔を作る。


「…よぉ、クローディア…無事だったか…?あ、今日は白のレースか…前の黒パンツもすてがた「ふん!「ちょっ!包丁は洒落にならん!!ぐはぁああああああ!!」




本日二度目のアレンの悲鳴が森に響き渡った。


「…はぁ、疲れた…ほら、リリア、ヴァイル。商業都市に戻りましょうか…宿屋も取らないといけないし…」


「…アレン…まぁ、自業自得ですよ?」


「クズ主め……」


アレンを除いた3人は空中に浮かび上がる。
リリアも空中移動を練習したかったようで、クローディアに飛び方を教わっていた。


それを察知したアレンもすぐ後に続いていった。


「…やりすぎた。ごめん。」


商業都市の宿屋につき、部屋に入った途端にアレンは3人に土下座した。








―――――――――








(結局またこっちに戻ってきちゃったな…こんな短期間で2回も襲撃は来ないだろうと思うけど…)


商業都市の宿屋で話し合いをした結果…ヴァイルが今後の天界は動きが鈍るだろうとのことだった。
理由は、今回の戦闘でアレンの能力値がおそらく天界の連中にもばれていると思うということと、アレンに対抗できる戦力が今のところいないという事だった。
アレンはその予測を信じ、商業都市にしばらく滞在することにしたのだ。
宿屋の自室で今後どうするか思案にふけっていると、突然、扉がノックされる。


こんこんと小気味よい音がアレンの部屋に響く。


「…リリアです。…アレン。ちょっといいですか?」


扉越しに聞こえてきたのはリリアの声だった。


「おお、どうした?…クローディアもいたのか。」


がちゃ、と扉を開けると、リリアとクローディアが扉の前で立っていた。


「アレン。私たちちょっといろいろとお買い物がしたいのよ…夕方には戻るから、ちょっとでてくるわね。…で、お金、なんだけど…」


「あー!そうだったな!ごめんごめん。パーティー共有財産で200Kキール。それぞれに100Kキールずつでいいか?」


アレンがインベントリから瞬時に金貨がたくさん入った袋をだす。すると、途端にリリアがあわて始める。


「こんな大金持つの始めてです…!」


「そうね…結構心配かも…」


クローディアが心配そうに言うのを見て、アレンは笑う。


「はっはっは!大丈夫、クローディアやリリアはもう強いんだ!そこらへんのごろつきだってすぐ対処できるさ!」


アレンのその言葉に洞窟での一件を思い出すリリア。
クローディアはヴァイルと引き分けたのが悔しいのか微妙な顔をしていた。


(おいおいクローディア…もしかして本気でヴァイルに勝つつもりだったのか…?すげぇな…)


その悔しげな顔を見てアレンはちょっと引いた。なぜなら、あのヴァイル…黒炎龍、アジ・ダハーカだったころより強くなっていて、それと引き分けただけでも十分だとアレンは思っていたからだ。


「…そうね、ヴァイルよりも強い奴なんていないものね…いたら確実に私が仕留め「おいクローディア。物騒なことを口走るんじゃない…。」


「それじゃあ、私たちは行ってくるわ。また夕方に会いましょう。アレン。」


踵を返して部屋の前から立ち去ろうとする二人の背中に、アレンは声をかける。


「俺もついていく「ダメです「ダメよ!」


二人そろって拒否の言葉が返ってきた。
涙目になるアレン。


「いいですかアレン。女の子にはいろいろ必要なものがあるんですよ!」


「そうよアレン!今回は悪いけど宿で待ってるか、その辺でヴァイルと戦ってなさい!」


その言葉と共に今度こそ立ち去る二人。
それを見送るアレンの後ろに、ヴァイルが出現する。


「…さて、どうする主よ?暇なら手合せでもしないか?」


いきなり戦う気だった。恐ろしいなとアレンは思う。


「うるさい戦闘狂…お前は何かしたいことはないのか?」


「…手合せを所望す「お前に聞いた俺が馬鹿だった…忘れてくれ。」


「馬鹿とはなんだ!我は黒炎龍ぞ!敬意を払え!」


ぷんすか起こり始めたヴァイルをほっとくことに決めたアレンは、ぴんときた。


「そうだ。ヴァイル…エルに会いにいかないか?ちゃんとした挨拶もしてないんだ…手紙を置いてきたとはいえ、やっぱりですの美少女は貴重だ…今の時間だと…そうだ。ガイゼルさんに聞いてみよう。」


思い立ったアレンはインベントリから【コール】の術式が組み込まれた装飾過多なカードを取り出す。
それに魔力を1くらい込め、話し始める。


「もしもし?…ガイゼルさん。聞こえるか?」


すると、数秒たったあと、ガイゼルの声ではなく、女性の声が聞こえてきた。


≪その声は…ご主人様ですね!?いやぁ…私です。セルリアですよー!≫


その声にアレンははっとする。そう、以前ガイゼルの屋敷で手籠めに(無意識だ)しそうになったセルリアだ。


「せ、セルリアさん!?そ、そのせつはすんませんしたっ!!」


相手が見えないのに、アレンは土下座せんとばかりに頭を下げる。


≪ふふっ…アレンさん。別に私は起こってませんよ?ちょっとびっくりしちゃっただけです…それより、何の御用件ですか?今、ガイゼル様は所要で出かけておりますので、代わりに私が出させていただきましたが?≫


その声にほっとするアレンは手短に要件を伝えることにした。


「ちょっとエルに会いたくてね…今、どこにいるかわかるかい?」


≪エル様ですか…ご主人様も好きですねぇ…なんだったら私がお相手しますよ?というか、させろや。≫


いきなり声音が変わったセルリアにビビるアレン。


「ど、どうした!?っていうかそういうんじゃないよ!エルには別れの挨拶をきちんと顔を見て出来なかったから、会いたいなと思っただけで…というか、なんでご主人様?」


≪冗談ですよ…エル様なら今、イルガ学術院の方へ行っておられます。なんでも今日は野外訓練の日だとか…商業都市郊外…屋敷からだと真東ですかね?…そこの第一訓練場へ行っておられるかと…とっても広い場所なので、すぐ見つけられるかと思いますよ?…あと、ご主人様と呼んでいるのはガイゼル様がご主人様の専属メイドに私を任命されたからです。今度この魔術道具を使う際にはいつでも私が出ますので……クローディアさんとリリアさん…でしたっけ。お二人がいないときにむらむらしたらお呼びください!いつでも速攻で駆け付けて処理しますよ!≫


乾いた笑い声をあげるアレン。


(いつの間にフラグたった?自業自得か…ガイゼルさんも粋なマネを…だが、俺は浮気はせんぞ!)


揺れ動きそうになる心を必死で抑えながらアレンは礼を言う。


「…最後のほうは聞かなかったことにさせて…!とりあえず、ありがとうセルリアさん…助かったよ。今度ご飯でも食べに行こう。エロいこと抜きで。」


≪ふふー、ご主人様も奥手ですねー!まぁ、いいです!…いけないっそろそろ魔力が…それでは、またご連絡をお待ちしております!≫


すると、突然声が途切れる。
どうやら、セルリアの魔力が切れたらしい。


「…我はもう少し休んでから、町中を見て回る。エルの小娘のところには主一人で行くがよい。」


ヴァイルが意外なことを言い始めたので、アレンはびっくりする。


「え!?…まぁ、そっちの方がありがたいかもな…じゃあ、行ってくるよ。…あ、そうだヴァイル。お前にコレ、渡しとくよ。」


ぽいっと放り投げたのは、首飾りだ。
それを受け取り、ヴァイルは驚く。


「主…これは?」


「それがあればいつでも俺にあのロングソードを持たせることができる…なにかあったら迷わずそれをつかえ。使い魔のお前が全力を出すには俺も全力を出せる状況じゃなきゃいけないみたいだったしな。」


「…クハハ…ありがたく受け取っておくとしよう。」








――――――――――




アレンが出ていくのをヴァイルは見送った。


そして、一人呟く。


「さて…奴はどうしてるか…教会の聖球があれば、様子くらいは我でも見れるであろう…。」


音もなく黒炎に包まれ、消え去るヴァイルを見たものは誰もいなかった。

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