ファンタジー異世界って・・・どういうことだっ!?

蒼凍 柊一

第5話 いちゃつきからの訓練

3人はしばらくいちゃついていた。


「って!!こんなところでいちゃついてる場合じゃないぞ!?」


意外にアレンが先に我に返る。
ネコ耳の感触と、リリアの胸の感触を十分に楽しんでいた男は急に我に返った。隣にいたクローディアはくたっとしており、おなじくアレンの隣に陣取っていたリリアも腰が抜けてしまっているようだった。


周りは朝だ。しかも青空が見える森の中だ。


我に返った二人も、服装の乱れをすぐさま直し、コホンと咳払いをする。


「え、えと…なに、するんでしたっけ?」


「ああ…えっと、私たちを訓練するんじゃなかったかしら?」


ところどころ上ずった声で話すリリアとクローディア。


「……ヤバイ、宿屋行きたいんだけど「終わってからよ!!」


終わったらいいんだ、とかリリアは思う。一体何がいいんだか。
顔が赤くなっているアレンはたどたどしく話し始める。前傾姿勢だが。


「……くっそ…これが生殺しという奴か…?」


「私たちだって我慢してるのよ!!ホラ、さっさと私たちを訓練しなさい!」


もはやわけがわからなくなって錯乱しているクローディア。


「……早く終わらせて、街へ戻りましょう!!」


リリアもようやく立ち上がり、言葉を紡いだ。


「…くそっ…仕方ない…じゃあ、まずクローディア。冒険者になるときに上げたダガーをくれ…あと、リリアもその杖を渡してくれ…」


「いいけど…」


「わかりました」


そういい、それぞれ指定されたものを渡す。


そしてアレンはゆっくりと座り、草の生えた地面にそれらを並べる。


「さて、これから付呪する…。ちょっと待っててくれ…」


その言葉と共にロングソードを出現させるアレン。
瞬間、爆発的な魔力の気配を感じるが、すぐに収まる。


「すごい……もう魔力操作をものにしたんですか?」


リリアが関心したように言う。


「ああ…なんとかな…」


いいつつ、ロングソードを器用に動かしダガー二つと杖…インベントリから出したいつ仕入ていたのか、銀の指輪二つに付呪を施していくアレン。


尋常では無い魔力を孕んだ青い光が、太陽のように輝く。


その作業をリリアとクローディアは何も言わずに見つめていた。




そして、しばらくすると光が収まった。


ふう、と一息つくアレン。


クローディアのダガー二つは形状が変わり、包丁のようなものに変化していた。


リリアの杖は先端の水晶が蒼く光輝いていた。


銀の指輪は蒼い光を帯びていて、美しく輝いている。


アレンはそれらを手に取るよう促す。
指輪はアレンが回収した。


「さぁ、装備してみてくれ。」


「…はい!」


「わかったわ。」


最初に杖を手に取ったリリアは尋常ではない魔力が体の中からあふれてくることに驚く。
そして、杖の能力が頭に流れ込んでくる。


名前:蒼のロッド


攻撃力:20000


治癒力:23659876


耐久力:∞


付呪効果:【治癒力上昇】LV23600
     【所持者魔力上昇】LV250000
     【不滅】LV-
     【アレン流杖術】LV2500
     【治癒範囲拡大】LVー
     【範囲治癒時対象指定可能】LV-




「…アレン!?これ…一体なんなんですか!?」


リリアもアレンの付呪なので結構能力の高いものになっていると予想していたが、予想よりはるかに高く、とんでもない化け物のような杖ができたので驚愕していた。


「…説明はあとでおいおいするよ。それより、それを使ってリリアは闘うことになる。…そう、闘えるようになったんだよ。リリア。」


闘えるようになったという言葉を聞いて、不安そうな表情をするリリアだったが、隣のクローディアが動かないことに気付く。


クローディアも同じ様に頭に二本の包丁のようなものの能力が頭に流れ込んできていた。
その包丁にの刀身の柄に近い部分には、猫の文様が描かれていた。


名前:黒猫包丁 壱式(調理器具・包丁)


攻撃力:15869260


耐久力:∞


付呪効果:【攻撃力上昇】LV158000
     【不滅】LV-
     【器用値依存】LV-
     【所持者器用値上昇】LV250000




名前:黒猫包丁 弐式(調理器具・包丁)


攻撃力:15869260


耐久力:∞


付呪効果:【攻撃力上昇】LV158000
     【不滅】LV-
     【器用値依存】LV-
     【所持者敏捷上昇】LV250000




「えっ…アレン?これはなんなの?」


クローディアも疑問の声を上げるが、アレンはあとで説明する、と言い、思い切った様子で話し始めた。




「その前にまず、これを二人に…俺からの結婚プレゼントだ…左手の、薬指にはめてくれ…これは、俺のいた所の…結婚のしるしみたいなもんだ…。」




先ほどの銀の指輪二つをそれぞれに渡す。
結婚プレゼントと聞いて、顔を赤らめるリリアとクローディア。


「あ…ありがとう…ございます…。」


「ありがとう…アレン。」


受け取って左手の薬指にはめ込むリリア。
なぜかそれはリリアの指にジャストフィットし、外そうと思わなければ外れないようになっていた。


クローディアにも同じようなものが手渡される。
同じく、左手の薬指にはめ込む。




クローディアの頭に情報が流れ込む。




名前:アレンとのエンゲージリング


耐久力:∞


付呪効果:【クローディアへの想い】LV-
     【不滅】LV-
     【対象限定コール:アレン、リリア】
     【能力伝播:アレンからクローディアへ(1割)】






リリアの頭にも同じように情報が流れ込む。




名前:アレンとのエンゲージリング


耐久力:∞


付呪効果:【リリアへの想い】LV-
     【不滅】LV-
     【対象限定コール:アレン、クローディア】
     【能力伝播:アレンからリリアへ(1割)】




クローディアとリリアは尋常ではない力…アレンの魔力が体中に流れるのを感じる。


「な、なにこれ!?アレンの魔力が、流れ込んでくるっ!?」


「これ…もしかして、【能力伝播】の効果…でも、1割でこんなすごい魔力なんですか…!?」


それを見たアレンは成功だな、と呟く。
そして、虚空に向かって呼びかけた。


「おい、出てこいヴァイル!!」


すると、アレンの頭上に黒い炎が生まれ、その中から黒い衣服をまとった女性…ヴァイルが悠然と歩いてきた。
空中からすぐさまアレンの隣に降り立つヴァイル。


「ふん…成功したようだな、主よ…さて、クローディア…といったか。」


「な、なによ?」


いきなり名前を呼ばれたクローディアは返事する。
クローディアとリリアはアジ・ダハーカの存在とは別物と思っていてもあの恐怖の体験はなかなか消せるものではなかったので、身構えてしまう。


「…ふはは!!よいではないか!!」


「おいこらヴァイル!ちゃんと説明してから戦え!俺のクローディアに傷をつけたら許さないからな!」


その言葉に仕方なくといった様子で話し始めるヴァイル。


「…フン…おい、小娘。我はもうお前たちの敵ではない…。これから貴様に稽古をつけてやる…なに、主の能力を少しだが分け与えられているのだ…我ともまともにやりあえるであろう。」


「…と、いう訳だ。クローディアにはヴァイルの相手をしてもらう…こいつは強いぞ?気を抜かないように…あぁ、その包丁、器用値依存だから、クローディアには扱いやすいと思う。…怪我、しないようにな」


「…何がなんだかわからないけど、ヴァイルと戦えばいいのよね?…いいわ!相手になってやろうじゃないの!」


いつかの悔しさが胸に湧き上がるクローディア。


「いい面構えじゃないか小娘!!…楽しめそうだな…フッハッハッハ!!」


ノリノリなヴァイルを見て、再び怪我だけはさせるなよと言い含め空中に飛び出すヴァイル。


「なっ!?空中でどうやって戦えっていうのよ!?」


「クローディア、落ちついて。俺の能力の空中移動が使えるようになってるから、それを使うんだ。」


アレンの言葉にクローディアは【空中移動】、と呟く。
アレンはクローディアに飛び方のコツを教える。


「えっと、コツは魔力を進行方向とは逆方向へ放射する感じで…まぁ、やってみればなれるさ」


「わかったわ…こう、かしら…にゃぁっ!?」


ゆっくり浮き上がる体に困惑した様子だったが、しばらくすると慣れ、ヴァイルの正面に行き、構える。


それを見たヴァイルは疑問を感じた。
なぜか二つの包丁を構えるクローディアを見て、嫌な予感がしたのだ。
ヴァイルはアレンに念話してみる。


≪おい、主!この女なんだかヤバイ気配を放っておるぞ!?≫


焦った様子のヴァイルにアレンはなんでもなさそうに返す。


≪ああ、それは家事スキルの影響だろう…クローディアが構えているのは調理器具の包丁……そして、包丁は家事スキル・器用値依存でいくらでも使いこなせるんだ。≫


それを聞いたヴァイルは明確に目の前の相手に恐れを感じた。


≪おい!それでは我と同等の攻撃力ではないか!?主…我を殺す気なのか!?≫


≪だから、言っただろう?ヴァイル。いい暇つぶしになるって。≫


この…という念話と共に一方的にヴァイルから念を切られたのを確認したアレンは、心配そうな顔をしていた。


だが、すぐ気を取り直しリリアに向き直る。


「さて、リリアには単独でゴブリンの巣を壊滅させてもらう。」


「えっ!?」


リリアの言葉にそりゃそうかとうなずくアレン。
いままで戦う手段皆無だったのだ。いきなり魔物の巣を壊滅させろといわれて驚かない訳がない。
だが、今のリリアは一味も二味も違う。


「…大丈夫だ。リリアは今迄通り治癒を使うだけでいい。そうすれば分かるさ…おっと!俺に使うなよ!?【洗浄】魔法も用意しておくんだ…ほら、あそこがゴブリンの巣だ…必要ないと思うが、一人で潜らせるのも俺は心配だ…一緒についていくから…」


その言葉に疑問を覚えるが、リリアはまずやらなければと思い、小走りでアレンの指差す方へ走って行く。


二人の訓練が、始まった。

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