第１５話　”破滅の一撃”

アレンは自分で起こした現象が理解できなかった。
目の前の男が自分に対して何らかの魔術を使ってきたので、剣でそれを払おうとした…だが、結果はこれだ。
剣が魔術に当った瞬間、蒼色の輝きとともに全ての魔術が破壊され、男の放った緑と白銀の魔法は粉々に砕け散った。


「え！？なんだ！？この威力！？」


アレンはただただ動揺してしまう。
それもそのはず、自分の能力値が上がった意味が分からなかったからだ。
しかし、高速で流れるログがアレンの視界にはいり、疑問が解ける。
どうやら、黒炎龍と戦ったとき、とっさに付呪したロングソードはおもいもよらない進化を遂げていたようだった。


（強すぎねぇか…？これ…。でも、これでみんなを守れる…！）


アレンは目の前の敵を見据える。
先ほど魔術を破壊した余波で男は吹き飛ばされていたが、今は体制を整えてアレンを見ていた。
そして、両者は雄叫びを上げる。


「うぉおぉぉおおおおおおぉお！！」


「ハァァァァアアアアア！！」


剣の達人ですら視認できない速さでアレンが切りかかる。
白銀の盾を構え、突っ込んでくる男。


そして、アレンの蒼い剣が盾に触れた瞬間それは起きた。


ログ


ー破滅の一撃、制限解除…自動発動ー


ー破滅の一撃発動確認…個人名『アレン』ー






ログが瞬時に流れる。


そして、アレンの蒼剣は男の盾をやすやすと切り裂き、袈裟懸けに深く男の胸をも切り裂く。


「グァアアアアアアア！！」


絶叫する男。
男が衝撃で後ろに吹き飛ばされる。
数千メートルの高さからガイゼルの屋敷の庭にたたきつけられる男。
轟音と共に地面にたたきつけられた男は意識を失っているようだった。
すぐさま追いかけるアレン。


そして、男の横に降り立つ。


「おい！！なんで俺を狙った！？誰の指示だ！」


アレンが怒鳴ると周りの建物までびりびりと振動する。


ぐっ、と短く声を上げ、男は立ち上がろうとする。
だが、アレンがそれを許すはずもない。
男の喉に凶刃を触れれば斬れる距離まで瞬時に近づけた。


「逃げようなどと思うな！！さぁ、話せ！！お前は誰だ！目的はなんだ！！」」


その言葉を聞いた男はふぅ、と一息つくと、観念したかのように語りだす。


「我の名はファフニール…貴様、あの黒い炎は…アジ・ダハーカを滅したのか…？」


その言葉に目を見開くアレン。
なぜ、この男…ファフニールからアジ・ダハーカの名が出てくるのかわけがわからなかった。
だが、ファフニールがアジ・ダハーカと面識があるのはわかっただけでも上々だ。
あとでヴァイルに問い詰めてみようと思い、アレンは死にかけのファフニールに問いに答える。


「ああ…あいつは俺が殺した…だが、貴様と何の関係があろうと俺は知らん！答えろ！お前は誰の命令で俺を殺しにきた！」


そう問いかけた瞬間、ファフニールの胸の傷口から黒い炎が吹き上がる。


「な…なんだ！？」


ファフニールは顔をアレンの方に向けなぜか、微笑んだ。


「ふはは…ありがとう…青年よ…ようやく我を永劫の地獄から解放してくれたのだな…」


「おい！？どういうことだっ！？礼を言われる筋合いはないぞ！？」


アレンは火を消そうと闘気で払おうとするが炎は勢いを増すばかりだった。


段々と黒い炎に包まれていくファフニールは言葉を続ける。


「貴様の【破滅の一撃】が当たったのだ…我は貴様に話せることはこれだけだ…。貴様を殺そうとした奴は、光の神…【アテネ】…我を誑かし、惑わせ、貴様を襲うように仕向けたのだ……だが、そいつは手先でしかない…貴様は…『最高神』を、殺せ…我らの悲願がその先にある…」


「アテネ…？『最高神』を殺せ…まったく意味がわからん…！」


頭を抱えるアレン。
そして、ファフニールと名乗った男は、黒い炎に包まれ跡形もなく消え去ってしまった。


すると、ログが流れる。


ログ


ー『風氷神竜ファフニール』を討伐しましたー


ー【風氷の因子】（使用不可）を獲得ー


ーアレンの能力値は限界に達しています。－


ーインベントリに『神の謁見の間の鍵』を追加しましたー








―――――――――




クローディアは遠目にアレンの様子を見ていたが、最後の一撃を見て、目を見開く。


「え…！？どういうこと…？いままであんなに押されていたのに…一撃よ！？」


「いきなり強い力の波動を感じましたの…！」


その言葉に続き、上にいたアレンに切られた男が空から降ってきた。


「障壁展開！！」


ガイゼルが念のために障壁を張る。衝撃の余波や男がまだ生きている可能性を考慮し、エル、リリア、クローディアを守ったのだ。


だが、その心配は無駄に終わる。
なんと、アレンが周りの衝撃を全て【絶対障壁】で遮ったのだ。


あたりを見回すと、男が倒れている場所以外はすべて無傷という、あれだけすさまじい戦いを繰り広げたというのにあまりにも少ない被害にガイゼルは舌を巻いた。


そして、砂煙でよく見えないが、アレンの怒鳴り声が聞こえる。


その瞬間、体が動くことを拒絶した。
動こうとしても動けないのだ。アレンの声が耳に入った瞬間、体が硬直し、言うことを聞かなくなったようだった。


それは、リリア、エルも同じようだったが、クローディアだけは違った。


「アレン！！」


そう叫びながら、アレンの元へと駆けて行ったのだ。






――――――――――――




アレンは舌打ちする。


（結局相手の名前がわかっただけ…しかも神から命を狙われてる…？冗談じゃないぜ…）


ファフニールが倒れていた場所にはもう何も残ってはいなかった。


「アレン！」


遠くから聞こえた愛しの黒猫の声に我に返るアレン。
剣は自然と消え、能力値も元に戻る。


「クローディア！？無事だったかっ！？」


近くまで来たクローディアをなでながら、無事を確かめる。
いつもだったら嫌がって離れるのだが、今回はなにか様子が違った。


抱き着き、胸に顔を埋めたまま、離れないのだ。
アレンは動くに動けなくなっていた。


「アレンのバカ…心配したのよ…」


どうやらクローディアは心配してくれていたようだった。


「いや…今回は相手が相手だったから…「そんなの分ってるわ…でも…約束…したわよね…」


あっ、とアレンは小さく声を上げる。


そして、あの約束を思い出す。


あの、黒炎龍を討伐した次の日、確かにアレンは約束していた。


『今後私を置いてどこかに行ったり、私を遠ざけようとしないで。』


アレンが謝罪しようとしたがそれより先にクローディアが声を上げる。


「いいの…！分かってるわよ…私が弱いから…守ってくれたのよね…だから、私決めたの！」


顔を上げ、覚悟を決めた表情でクローディアは続ける。


「アレン…！私…強くなる…！もう、アレンに守ってもらってばかりじゃ情けないもの…！」


その言葉を聞いたアレンはなぜか胸が熱くなってきた。
そして、アレを渡すことに決めた。


「クローディア…大人になったな…よし…これを君に上げよう…これは俺の全力の付呪が注ぎ込まれている…これがあれば、君はどんな英雄より強くなれるはずだ…」


アレン…と感極まった表情で見上げるクローディア。


いったん離れ、短剣を取り出すアレン。


短剣をじっと見つめるアレン。
その様子を不思議そうに見つめるクローディア。


そして、数秒してから、彼は思いきった様子でソレを口にした。


「ただし、条件がある。」


「いいわよ…？でも、どんな条件？」


「この言葉を聞くだけでいい…」


そういうと顔をクローディアの頭の上にポフっと乗せる。


えっ？えっ？とされるがままのクローディア。


そして、彼は彼女の耳元でささやく。低く、甘い声で。
















「クローディア。君が好きだ。世界で一番大好きだ…俺と、結婚してくれ」














「にゃあぁぁぁ////」




その言葉を聞いたクローディアは腰が抜けてしまった。


「お、おい！？大丈夫か！？」


あたふたするアレン。
そこへリリアが走って駆け付ける。


そこでリリアが見たものは、地面にへたりこみ、赤い顔をしているクローディアと、同じく赤い顔をしたアレン…少し息が荒いのは気のせいではないだろう。


とたんにリリアの背中に昇り竜が見えた。金色の神々しい奴だ。


「アレン君…？クローディアちゃんに何をしたのかな…？」


（また…こうなるのか…！？）


「ちょっ！？まて、誤解だ！？ほら、クローディア、説明を…って気絶してるしっ！？」


「ア・レ・ン・く～ん？…まぁ、ふざけるのもこれくらいにして…クローディアちゃんも気絶してるし…宿でも話したし…いいよね？抜け駆けしても…いいよね？」




いきなり恐ろしい気配を消し、ぼそぼそと呟き始めるリリア


「お～い…リリアさ～ん？って…」


顔を上げた彼女はとんでもなく赤い顔をして、言う。


「えと、君がクローディアちゃんを好きなのは知ってるけど、言わせてもらうね…？」


「え、ちょっ？まっ「またない。今、言わないと、絶対に後悔するから。」


リリアの覚悟を感じながら、アレンは冷や汗を流す。


（やばい…どこでフラグ立てたんだ？俺…。）


アレンの焦りをよそに、リリアは言葉を続けてしまう。
視界の端で、エルが顔を赤くしてるのが見える。


（おい、助けろよ…）


ガイゼルは若いのう…と言いながら屋敷の方へ歩いていた。もちろんエルも強制連行だ。
「屋敷に戻っている」とリリアに見えない角度で絶妙に魔術で文字を書いたガイゼルは親指を立てて、きらきらとした白い歯を見せて、夕日を背にして笑っていた。


（マジ殺してぇ…なんなんだあのオヤジ…ヨーグのおっさんとはまたタイプのちがうおっさんだな…）


トリップしかけた思考が次のリリアの言葉で強制的に戻される。


「アレン君！私、君が好きなの！！だから強くなるから！！君と、クローディアちゃんと３人で、一緒に歩いていきたいの！」


そこまで言い切ったリリアは恥ずかしかったのか、走って屋敷まで戻ってしまう。


後に残されたのは気絶したクローディアと呆然と立ち尽くすアレンだけだった。






（…いつハーレムルートなんて確定してたんだ…？）




アレンは頭が痛くなったが、クローディアをこのまま寝かせておくわけにはいかない。
ひらひらしたスカートをまとっていたため、いろいろと見えてしまっていた。
ショーツとかパンツとかぱんつとか。


パンツばかりだな。


煩悩を押し殺し、クローディアをお姫様抱っこして抱え、ゆっくりと屋敷まで行くアレンだった。








その手にある、小さいけれど儚く、強い少女の確かな鼓動に微笑みながら。