ファンタジー異世界って・・・どういうことだっ!?

蒼凍 柊一

第11話 事態の収拾

闘技場の真ん中のクレーターの中心にいるアレンとヴァイルは途方に暮れていた。




「この…もう少し手加減を覚えよ…主。」


可哀想な者を見る目で言うヴァイル。


「はい…。なぁ、今度手加減の仕方を「クズ主。そんな物につき合わされたら我が死んでしまうわ!」


「ですよねー…」


項垂れるアレンを睨み付けるヴァイル。
それもそのはず。
こんな惨状にしてしまっては作戦もクソもないからだ。


「おい、主…当初の予定の、我がドラゴンに変化し試合に乱入…キサマと大立ち回りを繰り広げ、最終的には我を撃退…都市の英雄になる予定ではなかったのか…それをこんなにしおって…」


頭をがしがしと掻いて、アレンは力ない声で言う。


「ホントごめんって…でも、怪我した人はいないみたいだし…」


「怪我人の問題ではない…はぁ…仕方あるまい…今後どうするかは主が決めよ。我は一時的に短剣の中に戻る…面倒はごめんなのでな。」


「おい…ちょっと待てって…もう短剣になってるし…」


腰に短剣を下げ、これからの展望を考えるアレンだが、なかなかいい案が浮かばない。


「アレ~ン!!」


そんな時、後ろから愛しの黒猫の声がした。
バッと振り向くアレン。


息を切らしたクローディアがやってきた。
VIPルームの割れた窓から観客席へ飛び移り、ここまできたのだ。


「もう…なにをやってるのよ…?って、ヴァイルは?一緒だったんじゃないの?」


「ああ、アイツなら面倒だっていって短剣にもどったよ…」


「そう…それなら会場のみんなが気絶してるうちにゲイルの元へ行きましょう…作戦はダメになっちゃったけど、アレンの力を見せた今ならアイツだって脅迫できちゃうわよ?」


「脅迫って…まぁ…それが一番いいのかもしれないな…。」


「なら、さっさとVIPルームまで行くわよ。」


のろのろと立ち上がったアレンは、未だ砂煙がひどい空間を横切り、VIPルームへ駆ける。


途中で観客たちは目が覚めたようで、目の前の惨状を目にしたとたん、闘技場の外へ駆けだしているのがアレンは見ていた。


「おい!早く逃げるぞ!1」


「あの最後に立ってたやつがいない!?殺されちまうぞぉ!!逃げるんだぁああ!!」


会場はすぐさま大パニックに陥る。
外への出口に詰めかける観客たち。


「おい、クローディア。VIPルームはどこだ?」


走りながら、クローディアに尋ねるアレン。


「え?あの上よ?アレン、どうする気…ひゃあっ!?」


クローディアを抱えると、アレンは空中移動を発動させる。


「ひとっとびだ…【絶対障壁】…よし、いくぞっ」


観客の怒声や悲鳴にまじって、黒猫の悲鳴はかき消された。








―――――――






「……む…ここは……ひぃっ!?化け物め!余に近寄るな!!」


ゲイルが破損のひどいVIPルームで目を覚ますと、目の前にいたアレンを見て、後ずさる。


「まぁ、落ちつけよ……」


アレンの後ろには拘束を解かれたエル、ガイゼル、リリア、クローディアがいる。


「俺の力を見ただろ…?なぁ、ゲイルさんよ…取引といかねぇか?」


そんな言葉にゲイルは目を見開く。


「取引…だと!?」


「ああ、そうだ。どうだ?応じるか?応じないんだったら…わかってるよな?」


再び蒼い闘気を迸らせるアレン。
それを見たゲイルは漏れ出る悲鳴を飲み込み、ぶんぶんと首を縦に振る。
そしてガイゼルの方をみる。
なぜか嫌な予感がするガイゼル。


「なぁ、ガイゼルさん。後は任せる…この惨状を見て、ガイゼルさんがしたいようにしてくれ。俺を牢にぶち込むもよし、死刑にするもよし…。」


「なっ!?アレンさん!?どういうことですの!?」


「俺はそれだけのことをしたんだ…責任は取りたい。」


しっかりとした目を見て、ガイゼルは大きくため息をつく。


「ふう…わかった…」


アレンを見てから、腰を抜かしているゲイルのそばに行くガイゼル。


「…ゲイル…今回のこと、すべてなかったことにしないか?」


ガイゼルの言葉に驚くゲイル。


「すべて…とはどこまでのことを言っている…?」


「すべては、すべてだ。貴様が私の娘を攫おうとしたことも、アレンが指名手配になったことも、アレンが闘技場でやらかしたことも…すべてだ。」


その言葉に反論したのはアレンだった。


「ちょっと待ってくれガイゼルさん!「アレン君。君は私に任せるといったな?」


その言葉にアレンは黙るしかなかった。


ゲイルの方を見るガイゼル。
ゲイルは一呼吸おいて、わかった、と小さい声をもらす。


「いいか?すべての後始末をゲイル、貴様がつけるのだ。闘技場の復興も、アレンの名誉の挽回も…さもなければ…」


そこで、言葉を区切り、アレンの方を向くガイゼル。


「アレン君。君は今から私の部下に入るのだ。」


目を見開くアレン。


「え!?「反論は認めない。アレン君が、私の配下であることが重要なのだ。詳しいことは追って説明する…ここまでのことをしでかしてしまったのだ…悪いが、今は首を縦に振ってくれ。」


「…わかった。ガイゼルさん。俺はあなたの部下になる…。」


その言葉にほっと一息つくガイゼル。
そして、ガイゼルはゲイルに向き直る。


「いいか?今私が言ったことが守れなければ、私の配下であるアレン君を貴様に差し向けることになる…」


「な…!?…うむ…わかった…すぐさまこの騒動を収めよう…しかし、ガイゼル「ゲイル、貴様の言いたいことはわかっている。今回の選挙選には私は出ないことにする。この後始末はきっちりと貴様がつけるのだ。」


「まぁ…当然ですの…お父様が市長になるのは今は得策ではありませんの…」


「貴様にはいままで騎士団が商人たちから巻き上げた金があるだろう?それも吐き出すのだ…裏の金を使わなければ都市を収めてはいけないことは、私はわかっている。だが、騎士団の悪行はもうやめさせろ。そうでなければ、アレン君を…」


「わ、わかった!!余がすべて始末をつける!!それでいいのだろう!?くそっ!!」


悪態をつくゲイルをガイゼルが視線で黙らせる。
この都市の裏のボスの誕生の瞬間であった。


それを見ていたアレンは言う。


「…で?ガイゼルさん。俺のこれからはどうなるんだ?」


「ああ…そうだな。それは私の屋敷で話をしよう。今はこの闘技場からの脱出が先だ。早く逃げねば…アレン君、君はマントを羽織って姿を隠すのだ。」


「それなら、私のマントを使ってください。アレン君。」


「ありがとう、リリア。」


アレンはマントを羽織り、顔をマントについているフードで隠す。


ガイゼルとアレン達は逃げるようにして、闘技場から退散した。






のちに聞いた話だが、ゲイルは執事のギルグと数人の騎士団が助け起こしたらしい。

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