ファンタジー異世界って・・・どういうことだっ!?

蒼凍 柊一

第7話 暗雲

アレンは目の前の状況を見て、必死で考えていた。


(まず、状況を整理しよう…さっきの黒装束…アレは見た目完璧に暗殺者だったよな…)


アレンがエルをベッドまで運びながら考えていると、バタバタと騒がしい足音が廊下から聞こえてきた。




「エルさん!?って、なんですか!?この状況は!?」


「え!?アレン!?隣の女の人は誰!?…というか、この黒い炭みたいなのってなんなの!?」


「エルっ!!無事かっ!?」


考えている途中でリリアとクローディア、ガイゼルがエルの部屋に集まってきた。


「おい、アレン君!これは一体どういうことなんだ!?先ほどの叫びは…?」


戸惑った様子でアレンに聞くガイゼル。
どうやらアジ・ダハーカと名乗ったのは聞こえていなかったようだ…クローディアとリリアは聞こえていたらしい。完全武装してきている。


「えっと…そうですね、エルが黒装束の者たちに襲われていたので、先ほど契約した俺の使い魔の彼女……ヴァイルと一緒に倒したのです。」


アレンがとっさにつけたその名に満足したような顔をする元、アジ・ダハーカ。


「倒した…?それに黒装束だと…?しかも人型の使い魔とは…聞いたことがないぞ?」


リリアとクローディアは驚いた顔でアレンを見ていた。


そして、ガイゼルが疑わしそうにこちらを見るが、エルの無事を確認するとホッと一息を吐いた。


「……ん、…っは!?お、お父様?なんですの…?」


エルが起きだす。
そして、瞬間顔色が真っ青に変わり


「っ……そういえば、わたくし…黒装束の奴らに襲われて……」


がくがくと震えだすエル。それを抱きしめ、落ち着いた声音で言うガイゼル。


「大丈夫だエル…もう襲撃してきたものはいないのだ。アレン君とアレン君の使い魔が倒したのだ…」


その言葉にアレンと、先ほど月明かりに照らされていたヴァイルを見るエル。
ヴァイルを見たとき、彼女は一瞬動揺したが先ほどの獰猛な目つきをヴァイルから感じなかったため、警戒をといた。
その体はもう、震えてはいなかった。


「…あなた…アレンさんの使い魔でしたの…人型とは珍しいですの…何はともあれ、二度も助けていただいて、ありがとうございました…」


ベッドの上で頭を下げるエル。


「いや、これくらい大したことではない…おい、我が主よ、襲撃者は5人だ。いずれも黒装束をまとっていたな。どれもすさまじい使い手だったぞ?まぁ、我の敵ではなかったがな。」


「さりげなく自慢するな、ヴァイル。ガイゼルさん。襲撃者に心当たりはありますか?」


調子に乗り始めたヴァイルを窘め、ガイゼルに聞くアレン。


「いや…いくらヴァリオン家でも命までは取らんだろう…ああ、ヴァリオン家とは今の市長、ゲイル・ヴァリオンという貴族のいる家だ…最近不穏な動きをしていると情報があってな…」


「じゃあ、手掛かりはなしですか…?」


不安な表情をするリリア。


「今後もまた襲ってくるとも限らん…アレン君。君たちは冒険者だったね?ランクは?その腕前ではかなり高いランクなのだろう?」


「いえ、俺たちはまだ駆け出しの身…Fランクです。」


「なに…?使い魔を従わせるほどの冒険者が…?Fランク…?」


訝しげな表情をするガイゼル。
だが、周囲の炭になっているものを見て、すぐにかしこまった表情になり、アレンの方に向き直る。


「フロウライトの家が襲撃されたなど世間に広まったら次の市長選出に支障が出るかもしれん…アレン君。君たちの強さを見込んで、頼みがある…。」


アレンにはガイゼルが何を言うかわかっていたため、すぐに言葉を返す。


「エルの周辺警護と、首謀者の捜索…ですか?」


ガイゼルは深くうなずく。


「そうだ…申し訳ないが、依頼、という形はとれん…私の家が弱いものだと民衆に知らされてはならんのだ…極秘で、君たちに動いてほしい。報酬は…500Kキールで、どうだろうか。私が出せる、最大限の金だ…受けてくれるかね?」


「あなた方に守っていただくのであれば、安心ですの…わたくしからも、お願いしますの…」


その金額に驚く一同。
500Kキールとは相当の額だ。危険度Sランクの依頼でもその報酬はありえない額だった。
そのありえない額に、クローディアは目を輝かせ、即答で返事をだした。


「500Kキール!?ガイゼルさん、エル!その依頼、受けるわ!!いいわね、アレン?」


(クローディア!?まぁ…いいか…どうせ助ける予定だったし。)


「ああ、その依頼、俺たちが引き受けた。」


アレンが頷く。
その場はそこで解散。エルはクローディア、リリア、ヴァイルと一緒に寝ることになったようだ。






そして、次の日の朝、メイドから手渡された手配書を見てガイゼルは驚愕することになった。


そこには、アレンの似顔絵が貼ってあり、そこにはこう書いてあった。


『この者、ゲイル市長を亡き者にしようとした者である。生死は問わず、この者を捕えるか、殺害したものにはゲイル市長から10Kキールを贈呈する。』


と。








————————






「クソっ!どういうことだ!余の騎士が伸されただと!?いったい何を訓練してきたのだ!!」


商業都市の上級区、ヴァリオン家の地下で、ゲイル・ヴァリオンは叫んでいた。


「す……すみません!あの、黒髪の男が強く…「バカ者!言い訳など聞きたくないわっ!」


がっ!


はいつくばり、頭を下げている男の顔を、ゲイルは思いっきり蹴り上げる。


「ぐぅ…!!」


「いいか!?あの憎き若造の娘…エルを生け捕りにし、ガイゼルのクズを今回の選挙から降ろすのが余の目的だ!!それを果たすために、貴様らを使ったというのに…結果はなんだ!?10人いながら、一人の男にやられただと!?ふざけるでない!」


再び蹴るゲイル。
そこへ、初老の男性がゲイルを止めに入る。


「ゲイル様、どうかその辺でおやめください…。彼らの不手際はわたくし、ギルグの不手際…どうかご容赦を…」


「くそっ…!!ギルグっ!貴様は言ったではないか!次の選挙でも余を勝たせると!貴様、約束をたがえる気か!」


なおも吠えるゲイル。ギルグと呼ばれた男性が騎士の男たちを下がらせる。


「滅相もございませぬ…ゲイル様……わたくしにもう一つ、考えがございます…」


はぁはぁと息をきらせるゲイルに静かに提言するギルグ。


「なんだ…?言ってみよ…」


「どうやら、我らの騎士たちを倒したのは、冒険者アレンという者です…。奴は今、フロウライト家に居るとのこと…奴を貶める噂を流すのです。そして、その者を排除したのち、改めて娘を誘拐しましょうぞ。」


それを聞き、ふんと鼻で笑うゲイル。


「ふん…余の騎士たちを伸したのだ……そんな者たちは殺してしまえ……」


「はっ…それではこうしましょう…」


それを聞いたゲイルはにっこりと笑い、すぐ実行するよう、ギルグに命令したのだった。







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