ファンタジー異世界って・・・どういうことだっ!?

蒼凍 柊一

第6話 蘇る黒炎竜

すさまじい魔力が吹き荒れる中、アレンと黒髪の女は互いに見つめ合っていた。


否、対峙していた。


「おい…お前…誰だ…?」


アレンは分かり切った質問をする。「確認」のために。


「なんと冷たいものよ…こうしてまた相見えたというのに……」


女は残念そうに言う。
会いたくて会いたくてしょうがなかった相手にやっと合えたというのに、相手は覚えていない…そんな様子だった。


「いや、我が名を言えば思い出すはずだ。いくら我が脆弱な人族の『女』の姿をしていても、我が名は変わらん…いいだろう。貴様にもう一度、教えてやろう。」


女は答える。自分の名を。かつてアレンを死に至らしめた者のその名を。


「我は、アジ・ダハーカだ。久しぶりだな。不死族よ…。」


「……やっぱりか…で?お前はどうしてこんなところにいるんだ?しかも、どうして女なんだ…?」


前は合った瞬間襲い掛かってきたので、警戒を解かずに聞くアレン。


「クックック…この我。破滅を導く者『アジ・ダハーカ』を召喚しておいて良く言うわ…どうして…だと?」


瞬間、爆発的な魔力がアレンに襲い掛かる。
それは、かつてのアジ・ダハーカよりも強い魔力だった。
アレンは焦る。


(コイツ、強くなってやがる…!!)


女は叫ぶ。


「ふざけるな!!貴様が我を召喚したんだろうがっ!!貴様との闘いに敗れ、貴様が消えかかっていた我を繋ぎ止めて、このような体を与え、このダガーを媒介に我を呼出したのだろう!?なんで、とは我の方が聞きたいわ!!」


「え?やっぱり破滅の因子の使い魔ってお前のことだったのか…」


その言葉に女は黙り、額に青筋を浮かばせながら、聞き返してきた。


「待て…貴様…今、使い魔と…?」


「そ、そうだよ。破滅の因子っていうスキルを使ったらお前がいきなり出てきたんだ。」


「……クッ…ハッハッハッハッハ!!」


嗤う。女は嗤う。


「何がそんなにおかしいんだ!?というか答えろ!!」


「説明してやろう。貴様、名はアレンといったな?」


女の怒気が消え、落ち着いた声音でアレンに語りかけてきた。


「そうだけど…」


空中に居ながら、傲慢にふんぞり返るアジ・ダハーカ。


「一度しか言わん。アレン。貴様は我の召喚者…つまりは我の主だ。」


「え?俺が、お前を召喚した!?」


「一度しか言わんと言ったはずだ。あと、質問はすべて話し終えてからにしろ。」


無言の圧力を加えてくるアジ・ダハーカ。
アレンが落ち着きを取り戻したころを見計らって、アジ・ダハーカは語る。


「まず、貴様のスキル…破滅の因子についてだが、それは我が貴様に殺されたときに、貴様があの剣で我の因子を吸収したことによって発生したスキルだ。」


「あの、ロングソードが?」


「そうだ。後で能力値を確認するがいい。あの剣、貴様の付呪が定着していればすさまじい能力値になっているだろう…。」


アレンはずっと使っていないロングソードを思い出す。アレンの命が数十万こもっている異常な剣を。


「そして、なぜ我が蘇ったのかというと、我が死のふちに居る時、お前が破滅の因子…我の因子を短剣に宿らせたからだ。本来であれば召喚できないはずなのだが…なぜか、貴様の能力値が我より高かった。桁違いにな。その能力値のおかげだろう。しかも、我は本来の体よりもさらに強化されて召喚されたのだ。」


「え?っていうことは俺の能力値が高すぎたからお前は蘇ったのか?」


「そういうことだ。まぁ、感謝はしている…死ぬのは退屈だからな。貴様といれば少しは退屈を凌げるだろうしな。……だが、この体はなんだ。我の竜人体は男だったはずだ。なぜこんな姿になっているのか、召喚者のお前に意見を聞きたいのだがな?」


「ちょっとまてよ。その体になったのは俺のせいなのか?」


「違うのか?てっきり我は貴様が上空に来ている理由は連れのあの女どもに見つからないように、召喚した女とヤ「そんなことはない!断じてないぞ!!」


「そうなのか?……ほれ。」


ちらり、と黒い布をはだけさせ、豊満な胸をちらりと見せるアジ・ダハーカ。
月に照らされた胸。ピンク色のそれとか、ハリとツヤを併せ持つそれはアレンを興奮させるには十分すぎた。


「うっひょおおおお!ってちがあああああう!!断じて違うぞ!?大体お前は元男じゃないか!?」




「それがどうした。どうせ内なる貴様の欲が我の体に影響したのだ。それとも…貴様、もしかしてとは思うが…女を手籠めにした直後ではなかろうな?」


冷や汗をかき始めるアレン。
頭にはセルリアの泣き顔が浮かぶ。
それを見て、アジ・ダハーカは爆笑した。


「クッハハハハハハハッ!!そういうことか!!いや、すべて納得したぞ!!」


「な、なんだよ!?」


「全て貴様のせいだということだっ!!この変態がっ!!死ねぇ!!」


いきなり露出の激しい禍々しい鎧を身にまとい、二振りの剣を出現させたアジ・ダハーカはアレンを切りつける。


「ぐっ!!ちょっとまて!!洒落になんねぇぞこの「うるさい!!黙れ!!」


黒い炎を噴出させながら切り付けてくるアジ・ダハーカ。


「こんな体にしおって!!自分の意志では竜になれん体にしおって!!許さぬ!我をペットとして扱う気か!!一度は誇りある男だと思った我が阿呆だったわ!」


「ぐおおおお!!??ちがうちがう!!ペットとしてなんか扱わねぇよっ!!」


その言葉を聞き、ピタリと剣を止める。


「なに…?それはどういうことだ…?」


不思議そうに聞いてきたので、アレンは頭で考えながら話す。


(ここで選択肢を間違えたら必ずこの下にある商業都市は消滅する!!)


「あの、な。お前は俺にどうしてほしいんだ?少なくともお前に俺に対しての敵意がないんなら俺は仲間として歓迎するぜ?…お前がいいんなら、だが。」


その言葉に考え込むアジ・ダハーカ。


「…仲間…か。……退屈しのぎには、なる…か。」


アジ・ダハーカは思考する。ここで消えても退屈がまた始まるだけだ。すくなくともこのアレンという青年の傍なら退屈することはないだろう…と。
そして、この青年を殺すには、強くなったアジ・ダハーカでも殺しきれないのだ。


(追い詰めることはできるが、あのロングソードを使われた時点できっと我は敗北してしまうだろうな……数千年のうちの、ほんの数年間になろう…それもまた、良いか…)


「いいだろう…貴様の仲間とやらになってやろう。」


「じゃあ…「まて、条件がある。それを飲め「なんだよ?お前が仲間になってくれるんならなんでも飲んでやるよ。俺と仲間の命以外ならな。」


アレンはアレンで考えていた。この危険人物は仲間に引き入れればかなりの戦力になる。と。


実際はかなりの戦力どころの話ではない。単体でも世界を滅ぼせる力をもっているのだ。


しばし考えていた彼女だが、顔を上げ、アレンに条件を突きつける。


「まずは…ずっと召喚していろ。短剣なんぞに我をしまうでない。なに、貴様の能力値なら自然回復分で我を召喚しつづけるなぞ容易であろうよ。…我が勝負を挑んだら、ためらいなく我と闘え。我は闘いが生きがいなのだ。しかも貴様は悔しいことに、我よりも強い…暇つぶしにはちょうどよい。」


「それくらいなら飲んでやるよ。ただし、殺したり、殺されたりってのはなしだ。いいな?」


「それも考えている。せいぜい我を殺さぬよう気をつけよ。まぁ、簡単には殺されてやらぬが。それと…」


「それと?」


「貴様が我の所有者であり主なのだ。貴様の好きな名をつけよ。名はその者の生き様を表すという。いい名前を考えよ。」


「まて、なんで俺がお前の名前をつけるんだ?お前にはアジ・ダハーカって名前があるじゃないか。」


首をかしげた彼女は不思議そうに言う。


「何を言っておるのだ?使い魔に名をつけて初めて、我と貴様の契約は成立するのだ。」


「そうなのか…ちょっと待ってろよ…今いい名前を決めてやる。」


「……ところで、聞きたいのだが。」


「なんだよ?」


まだ何かあるのかと訝しげに見るアレン。
彼女は指をさしていう。


「アレ、助けなくてよいのか?」


7000m下の様子をアレンは見た。強化された視力がそれをはっきりと捉えた。
そこにはガイゼルの屋敷があり、テラスに出ているエルが怪しい黒装束の男たちに狙われているところだった。


「我が見たところ、アレも貴様の仲間だろう?」


「助けに「我が行ってやろう!!」


アレンが言い終わる前にすさまじいスピードで急降下していくアジ・ダハーカ。


「クッハッハッハッハ!闘いの気配がしおるわぁっ!!」


「おい、ちょっ!早すぎ!?アイツ…さすが元ドラゴンなだけあって、空中はお手の物ってか…?」


ガイゼルの屋敷の真上に来たとき、大きな声が聞こえた。


「アジ・ダハーカだ!!」


アレンが着いたとき、すべては終わっていた。


男たちは無残にも切り裂かれ、エルは外傷はないようだが気を失っていたのだ。


アレンは目に手を当て、思う。


(厄介なモン抱え込んじまった…人死んでるし…なんか黒い炎で跡形もなく消し炭になり始めてるし…)


アレンは頭が痛くなってきた。

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