生まれながらにして凶運の持ち主の俺はファンタジー異世界への転生ボーナスがガチャだった時の絶望感を忘れない。

蒼凍 柊一

とにもかくにも

 ――ぐすぐす。


 白い地面に突っ伏して、俺は号泣した。
 泣いた…とんでもなく泣いた。
 この不幸体質でガチャなんて、もう拷問でしかない。
 泣いていた俺に白井が謝ってきた。


「だからごめんって……泣くなよ」
「うるせぇ……! ガチャなんて引いていられるか! 昔からそうだっ! 駄菓子屋のガチャポンを回せば必ずわけのわからないハズレおもちゃが出てくるし、お祭りのくじを引けば、必ずティッシュしかもらえない!」
「それは切ないな……。ま、俺には関係ないけど。ほら、さっさとこれを持って転移してくれ」
「お前には慈悲という感情がないのか!? 仮にも500円の恩がある身分のくせに!?」
「たった500円でガチャの素体を貸してやるんだ。効果もすごいぞ? ま、当たればの話だが」
「この人もうヤダ! ん? 素体を…貸す?」


 俺は白井が言ったことを聞き返した。
 素体…っていうのはきっとガチャの筐体のことだろう。
 簡単に言うと本体。排出される方ではなく、するほうの大元のことだ。


「ああ。そうだ。なんだ? まさか俺が一回しかお前にガチャらせないとでも思ったか?」
「てっきりそうなのかと……」
「まったく、見くびるなよお前。いいか? この俺が手間暇かけてガチャを作ってやったんだ。最高の性能を持ち合わせた英霊の使い魔や武装。スキルなどなど、ざっと一万種類は設定したんだぞ。それを引き当てる楽しみをたったの一回で終わらせるなんて、神への冒涜もいいところだと思わないか?」


 出た。白井の凝り性が…。こいつはいっつもそうなのだ。
 凝り始めると止まらない。
 昔フィギュアを買ってた時も素体から作り出した時はさすがの俺もドン引きだったな。
 だが、今回に関しては感謝すべきところだろう。
 どうせ最低ランクのモノしか出ないだろうが、種類は豊富にあったほうが良いに決まっているからだ。


「あ、ありがとう白井……!」
「礼なんていらん。さっさと行け。流石にこれ以上時間を取らせられるのは勘弁願いたいからな。俺は忙しいんだ」
「素直じゃねぇな……っておい! 待て! どこかに行こうとするな! ガチャの仕様を説明しろ!」
「仕様だと……? めんどくさいな」
「そこめんどくさがられたら俺が大変なんだよ。省いた説明でいいから」
「仕方ない。じゃあざっと説明するからな。一回しか言わんぞ?」


 その言葉に俺は身構えた。
 ガチャの仕様。それは俺のような運の悪いゴミみたいなやつでも救済される可能性のある唯一の希望の光……!
 十連続でまとめてガチャるとなんとかレア以上が確定……とか、のことだ。
 昔やったスマホゲーではもう嫌な思い出しかない。2万くらいつぎ込んでも最高ランクのレアが来なかった時の悔しさは今でも覚えている。
 ちなみに俺のガチャの勝率は全くの0%だ。
 狙ったものはまず出ない。
 狙ってないレアなものもまず出ない。
 出るのは通常のもののみ。
 あれ?…なんか涙が出てきたぞ…?


「何泣いてんだよ。いいかー? 言うぞ?」
「ぐす……おう、どんと来い!」


 白井は一通りのガチャの仕様設定を話してくれた。
・転生ボーナスのレア度は4種類。一番レア度が低いモノから…NノーマルRレアSRスーパーレアSSRスーパースペシャルレアだ。
・転生ボーナスの種類は多種多様にわたる。Nは基礎的な能力アップや経験値、はたまたお金。スキルなど…そしてR以上になると追加で武器、防具。SRだとより強い装備やスキルが追加される。そしてSSRは特定の強力な使い魔を召喚するスキルが手に入る。それ相応の魔力が必要らしいが。ちなみに白井の分身も入っているらしい。どういう仕組みになってるか知らないが、絶対に引き当てたくない。
・無料で引けるのは一日一回のみ。次からは有料らしい。国ごとで通貨が違うのでそこらへんは自動調整されて、必要な金額が表示される。
・5連でR以上確定、20連でSR以上確定、100連でSSR確定らしい。俺のための救済措置のようなものだ。こいつ…かなりいい奴だ…。


「初回限定特典とかないのか?」
「あるに決まってるだろう? 神様舐めんな?」
「そいつはありがたい。なあ、改めて聞くけど、お前一体どうしたんだよ? なんでこんなとこで神様なんてやってんだ?」


 説明が済んだところで、俺は当たり前の疑問を口にした。
 いきなり行方不明になった男に死んでから再会するなんておかしな話だからだ。


「……。いろいろあったんだよ。いろいろ……な。ほら、説明は終わりだ。せいぜい良い異世界ライフを送るんだな」


 その言葉にはなにか事情がありそうな…辛いものを背負い込んでいるようなそんな様子だったが、俺は深くは立ち入らない。
 俺たちの間柄は、助け合いの精神では成り立っていないし貸し借りを作るのも本来すごく嫌なのだ。
 白井にとっては金だけは別だったようだが。


「ああ。ありがとうな。白井。で、肝心の使い方の説明どころか、モノすら受け取ってないんだけど俺はどうすればいいんだ?」


 俺の言葉に白井はなぜかホッとしたような顔をしていた。
 それは過去について言及されなかったからか、どうなのか俺には見当がつかない。


「今渡したら恥ずかしいだろうが? ……お前が転移したら使えるようにしてやるよ。【メニュー】の能力と【異世界言語理解】も付与してやるからな」
「まて、初耳すぎるがそれはなんのことを言ってるんだよ?」
「いちいち説明しなきゃいけないのか? お前は馬鹿なのか?」
「いや、辛辣すぎるだろ!?」
「知らん」


白井が俺の頭の上に手をかざす。
しかしこいつ……デカすぎるだろ。188センチとか化け物じみてやがるぜ。
などと考えていると、急に俺の体を浮遊感が襲う。


「はっ!? え!? ちょっとまてよ!? もう俺行かなきゃいけないの? まだ何にも下準備もできてないのに?」


俺の悲痛な叫びが白い部屋に木霊するが、それを気にもせず白井は別れの言葉を述べていた。
どこか懐かしそうな顔をしながら








「また会おう。お前の名前は最後まで思い出せなかったけど、なんだか懐かしい気分になれたよ。ありがとう。」








と。


俺は、この瞬間を…忘れない。

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