生きる意味のなかにいたはずの君が消えた日。
涙の言葉
「やだよ。またいなくなるの?」
「...そーだよ。」
「やだよ...」
「明瑠...」
「だって。せっかく会えた。もう...会えないと思ってたのに。」
「明瑠。俺はね。本当はここにいちゃいけないんだ。」
「そんなの。」
「もう十分なんだ。十分...幸せだった。最初は正直辛かった。みんなが目の前にいるのに。なにもできなくて。なんで俺はここにいるんだろうって。まるで俺だけ違う世界にいるみたいな...悪夢だった。」
「じゃあ...ここにいればいいじゃん。ずっと...これからも...」
「ダメなんだよ...っ!俺がいたらみんなが幸せになれない。」
「なれるよ。なれるに決まってる。だって...みんなが...新がここにいることを望んでる。願ってる。」
「明瑠...」
「だから...ここにいればいい。ここに一緒にいれば。」
「明瑠...!」
「...っ!」
「俺はもうしんでるんだ。ここにいない存在なんだ。俺にも何でここにいるのかわからない。でも、俺がここにいることで誰かの未来を…運命をかえることがあるかもしれない。」
「…」
「本当は起きないことが起きてしまうかもしれない。明瑠や海流の運命さえも変えてしまうかもしれない。」
「それでもいいよ。新がここにいてくれるなら…私は…どうなってもいい。」
「ダメだよ。俺だってここにいたい。明瑠たちともっと一緒にいたい。話していたい。楽しいから。幸せだから…。」
「じゃあ…」
「…でもっ!でもね明瑠…。」
新が私に触れようとする。でも、その手に感触はなく、私の肌を通りすぎる。
「…ぁ」
「ほらね。」
新が泣きながら微笑む。
「俺はね。明瑠に触れられない。明瑠だけじゃない。海流にも紡にも…。俺は誰にも触れられない。」
少しの間だけ静かになる。
「…幸せだったよ。この数日。たった数日だったけど。本当に幸せだった。でも、辛くもあったんだ。何もできないんだ。こんなんじゃ明瑠たちも幸せにできない。」
「幸せだよ。触れられなくても…新がいるだけで…」
「嫌なんだよ。俺が。」
うつむく。
「触れることも、抱きしめることも、支えることもできない。」
新の手にギュッと力が入るのがわかった。
「そんなの…辛すぎるんだよ…。だから、俺はいく。俺がいかなきゃいけないところにいく。」
言葉がでてこなかったせいか自然に首が横にゆれた。
「ねぇ、明瑠。」
顔があがり優しく微笑んだ新と目があう。
「今、好きな人は誰?」
私はすぐに「新に決まってる。」そう言おうとした。
「あら…」
言おうとした瞬間違う顔が浮かぶ。
「ほらね。今、俺じゃない顔が浮かんだよね。」
心を見透かされたかと思った。
「ちがう…新だよ。」
「嘘はダメだよ。俺がいなくなって5年。ずっとそばにいたのは誰?いやちがう。その前から支えててくれたのは誰?今…頭に浮かんだのは…誰?」
ずっと…考えないようにしていた。新は死んだのに、私だけ幸せになっちゃいけないと。
「新だよ。私が好きなのは。」
自分を説得させるように繰り返す。少し胸が苦しくなる。
「…」
新は何も言わず私も見つめる。
さっき頭に浮かんだ男の子を消そうとする。
「海流でしょ?」
その言葉にまた飛び出してくる。
「…は?」
急に名前の出た海流が驚いた声をだす。
「俺、ずっとそばにいたんだよ?明瑠がそのことで苦しんでることもなんとなくわかってたよ。」
「ちがう。私は…」
「俺のため?」
「…え?」
「俺に申し訳ないから?」
図星だった。
「ちが…」
ちがう。その言葉がいえなかった。
「何に遠慮してんの?何を怖がってんの?」
「おい。新。何変なこといってんだよ。明瑠はずっとお前のこと…」
「ほんとだよ。」
海流の言葉を遮るように私はいう。
「私…海流が好きになってた。」
「…は?」
「でも、新がいなくなったから…ってそんな理由でなんて考えたくなかった。新は死んだのに。私だけ幸せになっちゃいけないって。だから…ずっと隠してきた。近づかないようにって思ってきた。でも…ダメだった。新がいなくなって、辛かったときずっと一緒にいてくれた。それだけで…私は十分だった。」
涙が溢れる。
「いいんだよ。明瑠。その気持ちを隠さなくて。俺は明瑠や海流が幸せなら幸せだよ。」
また微笑む。
「だから、明瑠はもう1人じゃない。」
近づいてきて私の頬にふれる仕草をする。
「ちゃんとそばにいてくれる人が、支えてくれる人が、明瑠にはいるんだよ。」
私の頬にはその感触は全然なかった。でも、ちゃんと触れられてる気がした。
「だから、俺はいく。いつかまたみんなと会って、ちゃんと話せるように。ちゃんと…触れられるように。」
「…あらた。」
「ちゃんと…生まれ変わる。」
新がそっと美海の方を見る。
美海は新と目が合うと力が抜けたようにふっと笑う。
「だから…またしばらくバイバイだよ。」
急に新が小6の時の姿に見えて、小6の頃の楽しかった思い出が頭に流れ込んでくる。
みんなも幼い姿に見えた。
「新…」
「新…!」
私がつぶやくと海流が叫んだ。小さい子供が駄々をこねるように泣き叫んでるようにみえた。
「新。」
みんなも口々に名前をよんだ。
目線を新に戻す。
「…え。」
新の体が透けて見えた。
「もう時間だよ。」
「嫌だ。やっぱり嫌だ…!」
海流が叫ぶ。
「俺…新がいないと何もできないんだよ。だから、ずっと…そばに…」
「海流がそれいっちゃダメだよ。海流はずっと俺の最高のライバルなんだから。」
涙を浮かべて微笑む。
「新…ごめん。俺。」
紡も泣きながら叫ぶ。
「紡…お前はもう十分強いよ。俺たちの助けなんてもういらないだろ?お前はお前のしたいようにすればいい。大丈夫。」
「ごめん。ごめん。あらたぁぁぁ」
泣き叫ぶ紡に悲しい顔をして笑う。
「新…私もごめん。」
「美海…お前は苦しむ必要なんてないだろ?」
「でも、私…。新のこと全然わかってなくて。」
「話を聞いてくれただけで俺は十分救われてたよ。ありがとう。美海。ごめんな。たくさん苦しませて。悩ませて。ほんとに…ごめん。」
「新…行かないで。」
「美海の言う通りだったな。俺、結局…みんなを悲しませただけだったな。」
「ほんとにそーだよ。なんで死んだの?あんなに突然。私たち…みんなまだ何にもしてあげてないよ?」
「ごめん。」
新のつぶやきに美海も「ごめん」といって崩れ落ちる。
「あーくん…」
今度は千崎が何かを言おうとするが、声をだした瞬間涙が溢れ、その後の言葉がいえずに泣く。
「ちーちゃん」
「ごめんなさい。」
必死で涙をこらえ、震えた声でいう。
「やっぱり、私のせいで…。」
「違うよ。ちーちゃんのせいじゃない。」
「私のせいだよ。私が落ちそうになったから、。あーくんが…」
「ちがう。俺の不注意だ。」
「ごめんなさい。」
もう1度謝る。
「ちーちゃん…。」
「私と出会わなければ…」
そう言った瞬間新の顔がふっと強ばる。
「そんなこというなよ。俺たちはちーちゃんと一緒にいて楽しかったよ。ここにいる誰もちーちゃんと出会わなければなんて思ってない。俺は…!ここにいる誰もいなければなんて思ったことない…!…それにこの前いっただろ?ありがとうって言えって…」
みんなの顔がまた下がり、顔を抑える。
「俺は…みんなが…大好き。このメンバーが…大好き。ずっと……一緒にいてくれて…ありがとう。」
涙を必死で堪えながら顔を上げていう。
「くだんない俺を…バカな俺を…支えてくれて…ありがとう…!」
涙を浮かべた目でニコッと笑う。
新の体がどんどん透けていくのがわかった。
「…新!」
「もっと一緒にいたかった。そばにいて、一緒に成長したかった。もっともっと…いきたかったな。」
透けていく新の頬に一筋の線ができ、その滴が地面に落ちる。
「でも、すっごく幸せだった。ありがとう。さようなら。」
頭に新の声が響き、そして、新が消えた。
ただ、泣き叫ぶ声が森中に響くだけだった。
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