生きる意味のなかにいたはずの君が消えた日。

RAI

笠松 千崎 ②


久しぶりに5人で集まった。

うれしいのにその場にいづらくて落ち着かない私がいた。

あの日。私はあらたの“”を見た。
死ぬ瞬間しゅんかんを見た。

私は弱虫よわむしだ。そんなの自分が1番よく知ってる。

何もないときはフラフラしてるくせにいざとなったら全く動けなくなる。

あらたのときもそうだった。


海流かいる美海みうなつむぐあらたを思ってなみだを流した。

みんな後悔こうかいしてる。

苦しんでいる。

あらたが死んでから5年。私だけだと思ってた。

後悔こうかいしてるのは。苦しんでるのは。

話すという決心けっしんはついたのに話し出す勇気ゆうきがでなかった。

あらたって事故じこ…だよな?」

誰も何もいわないと海流かいるが話し出した。
その言葉にドキッとする。

「なんかわかんなくなった。今まで事故じこだって思ってたけど俺のせいかもとも思ってて、でも、考えないようにしてて…。でも、お前らの話聞いてるとさらに思っちゃうんだよ。」

またシーンとする。

「もしかしたら…本当は…自殺じさつなんじゃないかって。俺たちが殺したんじゃないかって。」

体の中で大きなかねをうつように胸がなる。

「ちがうよ。」

言わなきゃいけないと思った。

きらわれてもいい。お前のせいだってめられてもいい。

もう一生こんな思いをしているのはいやだから。

みんながこっちを見るのがなんとなくわかった。 

下を向いていてもみんなの視線しせんが伝わってきて、私だけ違う世界にいるようなそんな感覚かんかくおそわれた。

「あ、あーくんは…。自殺じゃないよ。」

声がふるえた。

よく知っているみんなが別人べつじんのように思えてきた。

「何かしってるのか?」

海流かいるの声がいつもよりも強く聞こえる。

「私…見たの。あーくんの最後。」

そう。あの日私は。あらたが死ぬ瞬間を見た。

 




夜。

みんな疲れてすぐに眠った。

私は眠れなくて、目をつむっていた。

物音ものおとがしてゆっくりと目を開けるとあーくんが外に出ていくのが見えた。

「…あーくん?」

すぐに起き上がって、こっそりと後ろをついていく。

途中とちゅうで見失って森の中をうろつく。

夏ってこともあって、外は月に照らされてまだ明るかった。

自然の臭いがしてその空間が好きだった。

あーくんは全然見つからなくて、もう帰ろうかなって思っていると、ガサガサと何かを探す音が聞こえた。

それにつられるように音のする方に近づいていく。

木のかげからがけの上で何かを探すあーくんが見えた。

少しして「あーくん」と声をかけた。

あーくんは最初驚いた顔をして「ちーちゃん」とつぶやいた。

「何してるの?」

「ん?昼間ひるまに落し物して探してるんだ。」

あーくんが少し微笑ほほえんだ気がした。

「ちーちゃんは?どーしたの?」

「眠れなくて…」

「そっか」と小さくつぶやきまた何かを探し始める。

私は花や虫の写真しゃしんを母からもらったお古の携帯けいたいにおさめる。

「ちーちゃん、がけの方は危ないから近づいちゃダメだよ。」

夢中むちゅうになると周りが見えなくなる。

だから、あーくんがいったこともよくわかっていなくて気がつくとあると思っていた足のみ場はなく、体の重心じゅうしんが前にかたむいた。

「ちーちゃん!」というさけび声が聞こえたのとほぼ同時どうじに今度は何かにうでをつかまれ、前にかたむいていたはずの重心じゅうしんが後ろに向き、しりもちをつく。

その衝撃しょうげきから目をつむり開けると目の前に恐怖きょうふに満ちたあーくんの顔があり、それも一瞬にして下に消えていった。

何がおきたのかわからなかった。

全てのことが一瞬すぎて頭がついてきてはくれなかった。

状況じょうきょうを理解するのに数分かかった。

下をのぞくとそこには血だらけになったあーくんがたおれていた。

ゆめだ。これは夢だ。少しすれば目をましていつも通りにあーくんが...。あーくんが...。

目の前がぼやけてくる。

みんなを呼ばなきゃ。そう思うと体は勝手かってに動いていて、家に着くと、必死ひっしで叫ぶ。

「みんな...起きて...!あーくんが...あーくんが...!」

どうしよう。どうしよう。どうしよう。
どうしよう...。

みんなをつれてあーくんのところに行くと、みんなが泣いた。

むね激痛げいつうが走る。

あー、現実げんじつだ。ふと思う。

私のせいであーくんは死んだ。

警察けいさつには全てを話した。

でも、みんなにはどうしても話せなかった。

その日から私の中にいたあーくんは笑ってくれなくなった。

思い出の中のあーくんは私をせめつづけた。

そして、私はあーくんを忘れようとした。
みんなから距離きょりをおいた。

話しかけられてもけるようになった。






全てを話した。今まで隠していたことを。全て。

「私のせいなの。私があーくんを殺したの。」

嫌われてもいい。

私はもともとここにいない存在だったから。

「あーくんは自殺なんかじゃないよ。」

私は見た。あーくんの死の恐怖きょうふを。

死にたいと思ってるならあんな顔はしない。

「なんで...今までだまってたんだよ。」

海流かいるが顔をしかめていう。

「...怖かったから。」

怖かった。

「みんなにきらわれるのが。離れちゃうのが。だって...だって、ここは...!唯一ゆいいつ...私を認めてくれた。いていいんだって、思わせてくれた。私の...大切な場所だから...はなれたくなかった。嫌われたくなかった。」

私は...みんなといるのが大好きだった。

あーくんが死んでみんなと離れても1番楽しかったのはやっぱり6人でいる時だった。

「嫌わねぇーよ。離れねぇーよ。」

ちょっと口調くちょうの強いいつもの海流かいるだった。

「俺たちは...誰もお前を遠ざけたりしない。」

海流かいるの言葉がみょうに心に響く。

「...あの日からあーくんが笑ってくれないの。」

うたがってたわけじゃない。みんなが離れていくって思ってたわけじゃない。

「私の思い出の中のあーくんが笑ってくれないの。」

自分自身が罪悪感ざいあくかんから逃げだしたかった。

「私のせいだって。あーくんの最後の顔が私をめ続けるの。」

あーくんのあの顔が離れなかった。ずっと。だから忘れようとした。全てを。あーくんのことも。思い出も。全部全部。

「...千崎ちさき。」

優しく包み込むような明瑠あらるの声にさらに大粒おおつぶの涙があふれる。

「辛かったね。ごめんね。1人でかかえさせて。」

ギュッと強く抱きしめられる。

千崎ちさきのせいじゃない。あらたが死んだのは千崎ちさきのせいなんかじゃないよ。」

ずっとこうしてほしかった。

けてきたのは私だけど強引ごういんにでも連れ戻してほしかった。

あらたは...きっと千崎ちさきを救えたことを喜んでる。責めてなんかない。」

そういうと明瑠あらるうでをそっと外し、目を合わせた。

「良かった。千崎ちさき無事ぶじで。」

次の瞬間しゅんかん、何かが体から消えた。

そして、今までの楽しかった思い出がよみがえってくる。

あーくんが笑った。

つみが消えたわけじゃない。

たとえつみを受け入れたとしてもあーくんは戻ってはこない。

でも、やっと元の世界に戻ってこれた。

そう感じた。


顔をあげて見た世界は少し明るくなった気がした。


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