生きる意味のなかにいたはずの君が消えた日。
大内 紡 ②
「俺さ、弱いんだよ。」
シーンとしている中、つぶやく俺を3人が見る。
「小さい頃から美海に守ってもらって…、俺…男なのに…。 ほんとは…美海を守れる存在になりたいのに勇気が出なくて…。
小学生のときいじめられてた僕を新が助けてくれたんだ。
強くてかっこよくて、俺にとっては憧れで、新の傍にいると自分まで強くなれたような気になった。
でも、そんなのただの思い込みで…。」
静かだ。
誰も何も言わない。
普段みんなを見守っているだけの俺なのに今は言葉が溢れてくる。
「一時期さ、新がいじめられてるんじゃないかって、聞きにきたとき…あったよね…? みんなすぐに俺を信じてくれたけどほんとは違う。…新をいじめてたのは…、俺だ。」
空気が冷たくなるのを感じた。
まるで小さな氷河の上に1人だけポツンと残されてる。
周りには何もなくて、みんなはどんどん先に行っちゃうようなそんな感覚。
「最初はちょっとだけって、そう思ってた。」
「…っ。紡…。あんたね…!」
こらえれなくなった美海が怒りを剥き出しにして、殴りかかろうとしてくる。
「美海…。落ち着いて。」
明瑠たちが抑えようとしてくれてるけど、きっとみんな怒ってる。
「でも、一緒にやってたヤツらがどんどんエスカレートしていって。ひどいことした。いっぱい…いっぱい……。」
「ふざけないでよ!新は…!新はあんたを…助けてくれたのに。なのに…なんでそれをあんたがやってんの!」
泣き叫ぶ美海が正論すぎて、胸が苦しくなる。
なんで…俺はあんなことをしたんだろう。
「ずっと羨ましかった。」
平然を装って強ばっていた顔がスっと緩み前がぼやける。
「海流と同じだ。小さいことで嫉妬して。俺がもってないものを全部もってる新がただただ羨ましかった。」
「……。」
また静かな空間に戻る。
「新と一緒にいて、自分がちょっと強くなった気になった。
そしたらなんでもできた。今までできなかったこと。なんでも。新…たぶん気づいてた。気づいてたのに何も言わないんだよ。
6人でいたときも「お前がやったんだろ」っていえばよかったのに。言ってくれた方がずっと楽だったのに。いっそ怒ってくれたほうが楽だった。笑って、何事もないみたいに接されるよりも何か言って、海流たちにもバラしてくれた方がよかった。「お前とはもういれない」って突き放してくれた方がいっそ楽だったかもしれない。
アイツらが新に対してのいじめがどんどんエスカレートしていくと、俺がやってなくても罪悪感が生まれるんだよ。
逃げたいって願っても逃げれなくて、逆らいたくてももう逆らえなくて、アイツらと同罪で。
ある日、俺、勇気出して「もうやめよ」っていったんだよ。でも、聞いてくれなくて、言い合いにも殴り合いにもなって。だけど…その時、新が「やめろよ」って当たり前のように助けてくれて。
俺の前にたってアイツら追い返してくれて、出てった後、新…俺になんて言ったと思う?…「大丈夫?」って。
胸が痛くなった。急に涙が溢れてきて、「ああ、こいつには勝てないな」って本気で思った。」
みんなどんな顔かわからないけど静かに聞いてる。
俺はまた口を開く。
「俺さ。結局、いえてないんだ。」
「なんて?」
いつもの美海の声が聞こえる。
「ごめんって。」
小さくつぶやく。
「あの時、何事もなかったように消えていって、中学にも上がったけど…まだ1度もいえてない。」
俺の罪は何事もなかったかのように消えていった。
俺が1番言わなきゃいけない言葉を…言いたかった言葉を…俺はまだいえていない。
「そのまま新は死んでいった。一生俺の中に後悔が…罪悪感が残ることになった。」
責めてほしかった。
もっと。
俺が悪いと誰かにいってほしかった。
せめて、新に謝りたかった。
許さなくていいから。
強い言葉をいわれてもいいから。
孤独に感じる瞬間をなくしたかった。
もっといろいろ言い合える関係になりたかった。
怒ってほしかった。
本音ではなしてほしかった。
海流たちの輪に入りたかった。
「新が死んだ時、怖かった。俺のせいなんじゃないかって。
でも、海流たちの話とか聞いて、後悔してるのは俺だけじゃないって。
そう思った。新に罪を感じるのは俺だけじゃないって思ったらホッとした。
でもだからこそ、俺もいわなきゃって。逃げてばかりだったから。今…いわなきゃって。」
嫌われるかもしれない。
ずっと一緒にいた美海からも絶交だと言われるかもしれない。
1人になるかもしれない。
そう思った。
「私…しってたよ。」
小さく澄んだ声が響く。
「…え?」
「紡が新に嫌がらせしてること知ってた。」
嫌な汗が出るのが分かった。
「だから、新にいったの。「紡に注意しようか?」って。でもね。新。なんて言ったと思う?」
……。
考えても分からなかった。
想像がつかなかった。
「『何もしないで』って。」
時がとまったように、静かになった。
この空間で俺だけが別の空間にいるみたいな変な感覚に襲われた。
「どーゆー意味かわかる?」
何も考えれなかった。
「待ってたんだよ。新。」
言わないで。
これ以上俺を惨めにさせないで。
「紡のこと信じてたんだよ。」
だって、カッコよすぎるじゃないか。
「いつか、紡の方から謝ってきてくれること。」
分かってる。
「いつか、紡と本音で話せるようになること。」
ほんとはちゃんと分かってた。
「いつか、紡と本当の友達になれるように。」
新が待ってること。
俺が…俺自身が変わらなきゃいけないこと。
ほんとはちゃんとわかってた。
「まにあうかな?」
うまく出ない声でみんなに聞く。
「まだ…間に合うかな?」
頬が濡れた顔を上げてもう一度聞く。
「まにあうよ。」
美海と目があい、小さくうなずいてくれる。
゛いい友をもった。゛
心からそう思った瞬間だった。
何に怯えていたんだろう。
何にイラついていたんだろう。
何であんなことしたんだろう。
こいつらを見てると、心の奥底から後悔が溢れてくる。
新に会いたい。
会ってちゃんと謝りたい。
新はきっと笑って許してくれる。
大丈夫だって。
お前のせいじゃないって。
きっと笑ってくれる。
そしたら、もう一度やり直そう。
1から…。
強い男として、新にもらった勇気を。自信を。
次は俺のものとして。
誰かのためじゃなくて、ちゃんと1人で立てるように。
好きな子に認めてもらえるように。
「ありがとう...」
最後にそう呟き、解散した。
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