生きる意味のなかにいたはずの君が消えた日。
相馬 海流 ②
『1番信頼しているのは誰?』
と聞かれると俺はたぶん風奈 新と小崎 明瑠の名前を出すだろう。
新と明瑠はずっと一緒にいたから…。
たぶん、2人のことを質問されるとほとんど答えられると思う。
でも、逆に…
『1番嫌いな人は誰?』
と聞かれると、俺はまた風奈 新の名前を出すと思う。
何で?って聞かれてもきっと答えれない。
でも、あえていうのなら、ずっと一緒にいたから…かな?
                                 
そんなことを考えていると秘密基地に着いた。昔と比べるとボロくなった。
俺は今にも壊れそうなドアノブを引いて中に入った。
「あ、海流やっと来た。おはよ。」
入った瞬間、明瑠がまるで今日初めてあったかのように挨拶してくる。
「おはよ。」
一方美海の方はこっちなんか一切見ずに、適当に挨拶してくる。
「おはよ」
ため息を着きながら空いていた席に着く。
「おはよ、海流」
横に座っていた紡が笑顔で挨拶をして、その反対側に座っていた千崎も照れながら挨拶をしてくる。
「ねー。」
しばらく誰も喋らなかった静かな空間の中、明瑠が話し出す。
「新…なんで現れたと思う?」
以外と真剣な顔でみんなに問う。
・・・。
だれも何も言わなかった。わからないんだ。たぶん、今の状況を理解してないやつもいる。
「復讐じゃね?」
誰かが呟いた。誰だろと思いちらっと周りを見ると、みんなこちらを向いていた。
「え、何?」
状況が分からず、つい聞いてしまった。
聞いてから、はっ!と思った。
さっき呟いたのは俺だった。
「…復讐?」
美海が首を傾ける。
美海に聞かれた瞬間、体中から汗が吹き出して来るのがわかった。
きっと夏の暑さのせいだ。
「え…あっ…と。」
頭が回らなくて、どーしたらいいのかわからなかった。
でも、チャンスなのかもしれない。
新が死んでから5年、1人で抱え込んできた、ものを吐き出せる。
「復讐だよ。きっと。」
今度はちゃんと自分が話したことがわかった。震えるかと思ったら意外とハッキリした声がでた。
「俺は昔から新のことが嫌いだった。」
俺は前は見れずに下を向いてゆっくり話し始めた。たぶん、みんな驚いてるだろうな。
「小さい頃から運動神経がよくて、足も速かった。
俺と一緒に陸上も始めたはずなのに、新はどんどん速くなっていった。
2人についていけるように頑張ったけど、俺はいつも新の後ろにいた。
俺さ、負けず嫌いだから…負けたくなくて…めっちゃ練習したのに、大会では絶対に新に勝てなかった。」
シーン…としている部屋の中俺は1人黙々と喋る。だれも何もいわない。
「陸上以外のことでもそうだ。運動に関しては全く適わなかったし、他にも……」
俺は少し明瑠の方を見る。少し驚いた顔をしていた。
「俺さ。あいつのそばにいると自分が惨めにみえるんだよ。」
外で激しく吹く風の音が聞こえる。
「たくさん友達がいて、明瑠や紡…美海や千崎とも仲が良くて…クラスの人気者で。俺にないもの全部もってる。そのうえ、足が速くて、大会では全国大会行き。」
俺の声だけがただひたすらに響く。
「不公平だよな。神様ってのはさ。俺の努力なんて、見ててくれなかった。新も俺なんて見ててくれなかった。前だけを見て、後ろから追いかけていく俺のことなんて、目にもとめてくれねぇ。」
「違うよ。それは。」
突然、ほんとに突然現れたその声は落ち着いていて、暴れだしそうだった俺を一瞬でとめた。
「え…?」
「新は、海流を見てたよ。私だってみてた。神様だって、きっとみてたよ。」
俺を見る明瑠の目は優しい。だから、俺は…。
「私は海流の努力を知ってるよ。いつも見てた。でもね、違うんだよ。新も海流に負けないくらい走ってた。
『今年も海流に負けてらんないから』っていって、必死で走ってた。新が海流を見てないなんてそんなこと絶対ないよ。」
走ってた?新が?嘘だ。だって、俺…新の走ってる姿なんて…。
「新ね。いつもいってたの。『海流はすごい』ってでも、だからこそ負けたくないって。新がすごいのってたぶん後ろに海流がいたからなんだよ。」
「…え。俺が…すごい…?」
明瑠の言葉ひとつひとつが体に染み込んでくる。
俺の中にある『憎しみ』という感情が消えていく。
新がみていてくれた。
俺という存在を認めてくれた。
でも、そう思えばそう思うほど別の…『後悔』という感情が吹き出してくる。
「俺ってさ。どうしよもないバカなんだよ。ほんとに。」
『 』
蘇ってくる。あの時…新との最後の戦いだった陸上の大会の時の記憶が。
『オ サ イ レバ』
あー。聞こえる。あの時の俺の声。嫌だ。
『オマ サエイ レバ』
やめてくれ。
『オマエサエイナケレバ』
全部聞こえる。はっきり聞こえる。
俺の声。
「…俺だけ、言えなかったんだよ。」
目を押さえながらまた呟く。
「何を?」
明瑠が反応してくれる。
「おめでとう、って。俺だけいえなかった。そのかわりに最低なこといったんだ。」
また静かになる。
「お前さえいなければ、、って。」
だれも何もいわない。みんな思ってるんだ。最低だって。だから、誰も何もいわないんだ。
お前さえいなければ俺が1番だった。
お前さえいなければ全国大会にいってたのは俺だった。
お前さえいなければクラスの中心にいたのは俺だった。
お前さえいなければ明瑠を幸せにしていたのは…俺だった。
お前さえ…いなければ…。
そんなわけないのに。
あるはずないのに。
「あいつさ。俺のせいで死んだんじゃないかって…」
ずっと思ってる。
5年間。ずっと。
お前さえいなければ、なんて俺が望んだからどっかの神様か悪魔かがそれを聞いていて俺の願いを叶えてしまったんじゃないかって。
「俺があんなことをいったから、ほんとにあいつ…死んだんじゃないかって。俺さ。時々思うんだよ、あいつ…事故死っていわれたけど、ほんとは……」
「やめてよ!!!」
ビクッ
その声でいっせいに美海の方をみる。こんなに叫んだ美海は初めてみた。
目を大きく開いてなにかに怯えたように叫んだ。
「美海…?」
明瑠が声を震わせて美海の背中をさする。
「ご、ごめん。」
我にかえったように、赤くなった顔をかくした。
「俺も…ごめん。そんなわけないよな。」
俺がいうと顔を覆っていた美海の手に少し力がはいったようなきがした。
「新が現れたのはさ、きっと俺に対しての復讐なんだよ。新は俺にも死ねっていってるんだ。」
俺はもう一度話し始める。
ここまで来たら今更とまれない。
次から次に今までたまっていた言葉が湧いてくる。
「そんなわけないよ。」
明瑠がまっすぐこっちを向いていってくる。
「あるよ…俺はもう二度と絶対に取り返しのつかないことをいったんだ!」
「海流に対しての復讐だったら、私だって新にひどいこといった…。私だって、同罪だ。」
少し声が小さくなって下を向いていった。
「…え。」
「私の話はいいの。大会が終わった後から新と海流全然喋らなかったでしょ?だからに新に聞いたことがあったの。でも、新何もいってくれなかった。でも、それからずっと寂しそうだった。これってどーゆー意味かわかる?」
笑いながら話を元に戻す。
「え?」
「守りたかったんだよ。海流のこと。それに、自分達だけで解決したかったんじゃないかな?信じたかったんだと思うよ。今までずっと一緒にいた海流のこと。」
涙がでてくる。ダサいな。俺。
向かい側に座っていた子が立って俺の方に近寄ってきて、そっと抱きしめてくれた。
余計に涙がとまらなくなった。
俺はやっぱり明瑠が好きだ。
一生いえないけど、明瑠が、好きだ。
「結局さ、おめでとうって言わずに終わったんだ。いつか言えると思ってたらほんとに言えずに終わっちまった。
あれが新とした最後のちゃんとした会話だったんだ。後悔しか残んなくて。でも、誰にも言えなくて…。
謝りたいんだよ。許してくれないかもしれない。
一生この気持ちは消えないし、背負いながら生きていかなきゃいけないけど…ちゃんと…いいたい。」
俺は明瑠の腕の中で泣き叫んだ。
でも、今は…今だけはダサくていいから、カッコ悪くていいから、許してください。
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