生きる意味のなかにいたはずの君が消えた日。
新の願い
新がいた。
美海の言うとおり、成長していて、大人になっていた。なのに、すぐにわかった。
「…新?」
海流がつぶやく。
私たちに気づいたのか水の前でしゃがんでいた新はちらっとこっちをみて、驚いた顔をして
「え、見えるの…?」
と、呟いてから、涙目になって微笑んだ。
「久しぶり。…みんな。」
昔とは違う声変わりした大人の声。
でも、昔と変わらない優しい、落ち着く声。
「なんで…いるの…?」
千崎の泣きそうな声に対して、新は少し考えて、なんでだろうと笑って答えた。
「な、なんだよ。それ。」
未だ、何が起こっているのか状況が掴めない、私達は笑うことも怒ることも出来なかった。
そして、過去の過ちを思い出し、目の前にいる新に怯えた。
「ハハ…そんな怖い顔すんなよ。」
「……たぶん、やり残したことがあるから…かな…。」
少し笑ったあと、眉を寄せて、静かにいった。
「やり残したこと…?」
「うん。」
「それって…何…?」
千崎が何かに怯えたように新にきく。
「え、いろいろだよ。」
相変わらずニコニコとしている。
「いろいろって…?」
「いろいろはいろいろ(笑)」
「なんで教えてくれないの?」
「そのうち分かるから。」
「分かるならいいじゃん。今でも。」
「…今はだめ。」
千崎と新が交互に言い合う。
千崎はいつもよりも口調が強かった。
「どーしたの?千崎。」
「…べつに。」
美海がきくと静かになった。
「どうしても、今じゃだめなの?」
千崎にかわり、今度は紡がきいた。
「うん。」
また沈黙ができた。
「あ、あーくんは…、ここにいていいの…?」
ここにいる誰もが気になっていた質問を千崎がした。
「…え?」
「だ、だって…あーくん…し、死んだんだよ!5年前!」
勢いで全ていった感じだった。
わかってる。そんなこと、全員が思ってることだ。新は死んだ。
5年前、私達の目の前で死んだんだ。
なのに今、私達の目の前には死んだはずの新がいる。
「…あんたって、ほんとに新なの?」
「…え、うん…。そーだけど…。」
「じゃあ、なんか証明してよ…。」
自分でも何をいってるか分からなかった。
ただ、信じられるきっかけがほしかった。もしかしたら、これはドッキリかもしれない。もしかしたら、これは夢なのかもしれない。いろいろ考えた。
誰かに否定してほしかった。
肯定でもいい。
ただ、答えがほしかった。
真実か虚偽か。ただそれだけ。
「証明…って言われてもな。」
「じゃあ、逆になんで明瑠は俺が新だって信じれないの?」
…なんで?そんなの…わからない。
根拠なんてない。
それは信じることも信じないことも同じこと、何を…何をいったらいい…?
何を伝えたらいい?
どーしたら、新だって証明できる…?
「……信じれないよ。信じたくても信じれないよ!」
「…え。」
「明瑠?」
近くにいた海流が心配して声をかけてくれる。
「信じたくても信じれないよ…。」
気づけばまた同じ言葉を繰り返していた。
「いきなり出てきて、「新です!」なんて言われても訳わかんないよ!
私達は目の前で見てるんだよ!新を。死んだ時の新を!5年…5年たったよ!
何にもしないうちに5年もたった!
この5年間何してきたと思う?
ここにいる全員…新のことは忘れよう!ってただそれだけを努力してきた。
辛いから!思い出すと涙がでるから!
みんな何もいわないけど、わかる。
それぞれがいろんな後悔を抱えてる。
辛くて、苦しくて、今にも逃げ出してしまいたいくらい。でも、逃げたら終わる。
ほんとに終わる。その後悔がなかったものになる。私達の中で生きてる新が逃げると…ほんとにいなくなっちゃう。
消えちゃう。存在しなくなっちゃう。
そんなのは嫌だ。……なんで今なの?
…なんでもっと早く出てきてくれないの?背も大きさも声も全部変わって。
なんで大きくなってるの?
なんで成長してるの?意味わかんないよ。別に信じたくない訳じゃない。
できるなら信じたい。だって、ずっと待ってた。この機会を。
もう二度と会えないと思ってたから。でも…でも違う。こんなふうにあうなんて思ってもなかったから、どーしたらいいかわかんないんだよ。」
ただひたすらに喋って、叫んだ。
涙がでた。目の前がぼやけてよく見えなくなるくらい。私はそのまましゃがみ込んだ。誰かが後ろから背中をさすってくれる。この感じはたぶん海流だ。1番落ち着く大好きな手。
「今はまだ信じなくていい…。いきなり出てきてもびびるだけだもんな。ごめんな。でも、いつか必ず証明する。お前ら全員を納得させる。」
新が真剣な顔になる。
「わ、私は…信じるよ…。」
「美海…」
「だって、私からいいだしたんだよ?新がいた…って。私が信じないでどーするの?(笑)」
美海がぎこちなく笑う。
「ありがとう…」
新が泣きそうな声をだす。
「それに、見てよ、この馬鹿面。
私、新以外こんな馬鹿面いないとおもうんだけど(笑)」
「はぁぁぁ!?なんだよ、それ!せっかく感動してたのに、涙ひっこんじまったじゃねぇーかよ!」
「しらないし!ほんとのことだから、しかたないじゃない!」
美海と新が謎の言い合いを始める。
「はぁー。もういいや!」
海流が何かにふっきれたようにため息をはいて叫ぶ。
「なんか考えるのが馬鹿らしくなってきたわ…。信じてみるよ。俺は。このまま、自分から逃げ続けるのも…嫌だし…。でも、明瑠がいったことも事実だ。だから俺は……警戒もする。」
途中少し声が小さくなって呟いていたのでよく聞き取れなかったが、何か決心がついたような顔だった。
最後はちょっと悩んだ結果どーいったらいいか分からなかったらしく、一言でしめた。
「どっちだよ。それ(笑)」
「うん。僕も信じてみようかな。明瑠が全部言ってくれてスッキリしたし。正直僕も明瑠と同じ気持ちだったから…。」
海流に続いて紡も頷く。
「なんか…私が悪いみたいになってるじゃん…。私だって信じないって言ったわけじゃないんだから…。」
なんかさっき叫んでいた私がバカみたいになってきて私も呟く。
「明瑠…。」
また新が涙目になる。
「ありがとう…みんな…!」
みんなが笑いあう中千崎はずっと黙っていた。その時は誰も気づかずそのまま解散になった。
「新…もどき…。」
新、と言ったあと、ボソッともどきをつける。
「今、もどきっていったか?」
「だ、だって…」
「まあ、いいけどな(笑)」
信じていいのかわからない。
今目の前にいるのは誰なんだろうか。
「で、どーした?」
前を歩いていた新が後ろを向きながらきいてくる。
「…私と海流の誕生日は?」
「…?なんだよ急に」
「いや…別に。」
「明瑠が11月6日で海流が1月15日だろ?」
意外とすらっと答えた。
ほんとに新なんだな…と思った。
「試してんのかー?(笑)まあ、それで信じてもらえるならどんどん質問しろよ。」
「じゃあ、小5の時の数学のテストで明瑠がとった最低点は?」
「へ?ちょ、ちょっと何その質問!」
海流がふざけて新にきく。
「あ〜、あれだろ?14点(笑)」
これもすぐに答える。
「…あ、新だって人のこと言えないじゃん!たしか、ガチで0点とったことあったよね!」
「…!それはいっちゃダメだろ?そん時は…は、腹が痛かったんだよ、たしか。」
「何その言い訳!じゃあ、私だって頭いたかったし!」
「おい。お前ら子供かよ。(笑)」
永遠に続きそうなこの会話を海流がとめてくれた。
気がつくと笑っていて、はっ!と我にかえる。今、少し昔に戻った気持ちになった。
家に帰ると凪海が笑顔で迎えてくれた。
新についてどー説明しようか迷ったがその心配はなかった。
「おかえり、2人とも」
「た、ただいま…」
2人そろって何か隠し事のある子供のようにぎこちなくいう。
「ん?どーした?」
目の前に新がいるのに何事もないように、不思議そうにきいてくる。
「い、いや、かぁちゃんこれは…」
「ん?何々?」
「凪海…見えてないの?」
ほんとに何事もない顔をしているので思わずきいてしまった。
「え?見えてないってなにが?」
「え、見えてねぇーの?」
「えー、何がよ。気になるじゃない。」
凪海にはほんとに見えてないようだった。
「な、なんでもない。」
ハハハ…と笑って急いで靴を脱いだ。
「ちょっと何よー」
下から叫ぶ凪海の声を背に急いで
階段を登る。
「どーゆーこと?凪海には新のこと見えてないの??」
部屋に入った瞬間新を責める。
「え、いや、しらんし。」
「新が生前親しかった人にしかみえないとか?」
海流が考えながらいう。
「でも、親しいなら凪海も入るんじゃない?」
「あー、たしかに。」
考えてもわからなかった。
「あれじゃね?5人にしか見えてないとか。」
新の言葉に対して少しだけドキッとした。
「な、なんのためにだよ。」
海流も表情を少し隠したように見えた。
「…さぁ。」
少し黙って目を逸らしながら静かにいった。
そんなこんなで新は昔のように海流の家で私達と住むことになった。
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