神速の騎士 ~駆け抜ける異世界浪漫譚~

休月庵

転移の実感

大和 光は夕暮れの日差しで目を覚ました。




あのあと、懸念していた賊の残党による奇襲はなく、無事に目的地にたどり着いた。


夜中走り続けて、たどり着いたと同時に夜が開けた。


馬車から出てきた王女に驚いている街の衛兵に事情を話し、街の領主の館に迎えられた。


領主は快く王女を迎え、まずは疲れた身体を休ませることになった。
光は食事をとり、客室に案内されると泥のように眠りについた。




「知らない天井だ……」




光はぼやけた頭で呟いた。
なんとなく言ってみたかった。




(異世界でも夕日はノスタルジックな気分になるんだな……あれだけ憧れてたのに、いざ来てみるとあんまり実感ないな、異世界。というか、もうちょっと事情説明がほしいよな。なんだよ、森の中って。しかも階段から落ちて転移って、意味がわからない。そういえば、おれ人を殺したんだよな。なんかあっさりしすぎてて他人事みたいだ。)




光は人を殺した瞬間を思い出し、少し気分が悪くなった。




(やめよう。しかしおれ、なんであんな動きができたんだろう。運動とか全然してないのにな……速かったな。空中も蹴れたな。二段ジャンプどころじゃない、三段ジャンプだ。やべぇな。オリンピック出られるな。ぶっちぎりで一位だぜ。ていうかおれ、結構強いのかな。あの賊、この世界だとどれくらいの強さなんだろう。魔法とか使ってたよな。魔法、魔法か……魔法だ!)




光は魔法の存在を思い出して興奮した。
ワクワクがとまらなかった。




(おれも使えるのかな、魔法!使ってみてぇな!炎とか、風とか、水とか氷とか出してみたい!飲み水に困らない旅とかできるな!もの引き寄せたりとかできるかな!寝っ転がってテレビ見ながら飲み物引き寄せられたら超快適だ!……あ、テレビはこの世界にないかな。)




光はこの世界にないだろうものを思い出してまた少し郷愁にかられた。




(母さん、心配してるかな……いきなり居なくなってるもんな。学校内で居なくなったから、先生たちも大騒ぎしてるかな。おれ、帰れるのかな。異世界は漫遊してみたいけど、父さん母さんには一言いってからにしたいな。あ、なんか泣きそうになってきた……)




なんの覚悟もないまま放り込まれた異世界。
ここは今まで自分が生きていた世界ではなく、家族は手の届かない場所にいる。


光は夕暮れの日差しの中で、一人故郷を忍んだ。

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