神速の騎士 ~駆け抜ける異世界浪漫譚~

休月庵

森の中の救出劇3

大和 光は冷静だった。




女の子を襲っていた男を思いっきり蹴り飛ばしたら、目にもとまらないスピードで飛んでいって見えなくなった。


自分が作り出したあり得ない光景に、しかし光は戸惑うことはなかった。




そんなことより、そのあとの女の子との会話に全力だった。
全力でカッコいい自分を演出した。
たとえ目の前に白くて大きくて柔らかそうで暴力性と母性を兼ね備えたおっ○いがぼろんしていようと、ガン見したい心を抑えて紳士に接した。


そう、おっ○いだ。ぽろんじゃなくぼろんだ。
綺麗だった。


いや違う。




名前を聞きたかったが、まずは邪魔物を静かにさせなくてはいけない。




「おおっとぉ!なにか知らねぇが、お前はえぇからな。近づかせねぇよ!!土壁!!」




賊がそういうと、賊の周囲に土の壁があらわれた。
光は驚いた。




(壁が出てきた。トリックか……いや、今の俺の力、今の状況、今の光景、つまりここは……この世界は……)




「ぼーっとしてんじゃねぇよ!炎鳥!!」




賊の手から鳥の形をした炎が複数うまれ、光に向かってくる。
速いが、避けられる。




――ゴォッ




炎の鳥が通りすぎた際に熱を感じる。
熱を頬に感じながら、光は笑う。




(異世界だ!!)




光は賊に向かって目にもとまらぬ速さで走り、賊の周囲を覆う土壁を蹴る。




――ゴッ




だが、土壁は分厚く作られており、蹴り崩すことはできなかった。




「はっはぁ!無駄だ!!俺をそこらのヘボ魔術師と一緒にすんなよ!!そら戻ってきたぞ気を付けろ!!!」




賊から距離をとった光に、避けたはずの炎鳥が方向を変えて向かってくる。




(……誘導ミサイルかよっ!)




光は炎の鳥を避ける。




「よく避けるなぁ!そら追加だ!!炎鳥!!」




さらに炎の鳥が増える。
四方八方から炎の鳥が襲ってくる。




「逃げ場がねぇだろ!終わりだ!!」




「……いいや、あるさ。」




周囲から迫る炎の鳥を前に、光は笑ってそう言うと上へと跳躍した。




「馬鹿が!空中じゃ動けねえだろ!!」




賊の男の黄金パターン。
敵を追いかける炎の鳥、周囲を逃げ場なく覆うほどの数を出せる男の魔力、普通の敵ならそれで終わりだ。
今回の敵は空中に逃れたが、あれでは身動きがとれない。
炎鳥に追われて終わる。


男は勝利を確信した。
光は呟く。




「ほんと、漫画見てぇな能力だ……なっ!」




――ドンッ




光は空を蹴り、賊の男の真上に向かう。
そして続けざまにもう一度空を蹴り、男の真上に落ちていく。
蹴った空から衝撃が生まれ、轟音が響く。


そして落ちていく勢いそのままに、光の踵が賊の頭に叩きつけられる。




「真上ががらあきだよ、おっさん。」




賊の男はなにが起きたか気づかないまま、頭がつぶれて息絶えた。

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