ご落胤王子は異世界を楽しむと決めた!WEB版
学園と森
広大な土地を有する学園のすそ野から、正面に扇状に広がるようにして巨大な都市があった。
その周りをぐるりと囲むように、うっそうとした緑深の森が広く横たわり、都市の左右からそれぞれ森を横断するように街道がある。たくさんのダンジョンを有する砂漠への道と、ドリスタンの王都へと続く道だ。
そして学園の裏には、学園が所有する試練の森へと続く道がある。
遥か昔、古代竜が生息していたという霊峰の麓につながるその森は、奥へ行けば行くほど険しく、そして高ランクの魔獣と遭遇する可能性もあった。もちろん霊峰の麓から先は、学園の所有地ではなく国有地なので、普通に冒険者たちが狩りや素材集めなどに入ってくる。
学校の行事はもっぱら学園寄りの、森の浅いところで行われた。
Ⅸ、Ⅹレベルの学生になると、ほとんどは自身も冒険者なので、ギルドにクエストを出して仲間を集い、奥深いところまで素材などを集めに行くことがあるらしい。危険だが、得る者も大きい森なのだ。
そして、この森には従魔にできる魔獣が数多く生息していた。
基本的には、従魔を得るには召喚が一番手っ取り早い。何しろ請われて召喚されてくるのだから、ある程度は双方の相性がいいことが多く、従魔契約の成功率は低くないとのことだ。
それに比べると、無理やり捕らえて従魔契約をする方法は、なかなか難しいとされていた。単純に力で負かされると従魔になるタイプもいるが、知能が高い魔獣にはそれが通用しなかったりもする。
そうかと思えば、知らない間に懐かれて従魔になる魔獣もいたりして、こうすれば必ず従魔になるという決まりがないのが、難しいとされる所以である。
早朝、濃霧が立ち込める森の入り口。
土と緑の濃厚な匂いを含んだ空気は、たっぷりと水分を含んでまるで霧の粒が見えるようだった。
湿った地面に落ちた枯葉を踏みしめながら、一人の少年が歩いてきた。
どこか落ち着きなくきょろきょろと辺りを見回し、肩から掛けた大きく膨らんだカバンをまるでしがみ付くように抱え持ち、一歩一歩慎重な足取りで進んでくる。
カバンからは武器のような長物が一本飛び出し、その大きく膨らんだ様子から見ても、どうやらフリーバッグではないようだ。
「やっぱりね、来ると思った」
その時、すぐ傍から思いがけず声を掛けられて、少年は面白いほど飛び上がった。危うく転びそうになりながらも、なんとか踏みとどまった彼は、木の影からひょっこり現れた人物に目を丸くした。
「げっ!てめぇっ…、なんで」
それは、学校の訓練用装備に身を包んだ、リュシアンであった。
「ねえ、ちゃんと学校の許可取った?」
「ぐっ…、いや、俺は!…そ、そんなんじゃねぇ、ちょっと見に来ただけだ!てめぇこそ、なにを」
こそこそと学園を抜け出してきたのは、そう、ダリルであった。ちゃっかり防具一式を身に着けておきながら、見に来ただけもないものである。
リュシアンが呆れたようにため息をつくと、ダリルは逆切れした。
「答えろっ!てめぇこそ、ここでなにを……って、な、なんだよ?」
色めきだって怒鳴っているダリルの、けれどすぐ目の前まで、お構いなしにリュシアンは平然と近づいてきた。あまりにも接近されて、ダリルは思わず押し出されるように後退りしてしまう。
そのまま背伸びしたリュシアンは、はるか上にあるダリルの顔を仰ぎ見るようにして、スッと腕を伸ばした。
え?と気を取られた瞬間、目にもとまらぬ速さで胸元を掴まれ、グイッと勢いよく引き寄せられる。つんのめるようにして前に屈み込み、仰天したダリルの顔を覗き込んだリュシアンは、目線が釣り合ったところでニッコリと笑った。
「僕の名前はリュシアンだよ、いい加減覚えてね」
その周りをぐるりと囲むように、うっそうとした緑深の森が広く横たわり、都市の左右からそれぞれ森を横断するように街道がある。たくさんのダンジョンを有する砂漠への道と、ドリスタンの王都へと続く道だ。
そして学園の裏には、学園が所有する試練の森へと続く道がある。
遥か昔、古代竜が生息していたという霊峰の麓につながるその森は、奥へ行けば行くほど険しく、そして高ランクの魔獣と遭遇する可能性もあった。もちろん霊峰の麓から先は、学園の所有地ではなく国有地なので、普通に冒険者たちが狩りや素材集めなどに入ってくる。
学校の行事はもっぱら学園寄りの、森の浅いところで行われた。
Ⅸ、Ⅹレベルの学生になると、ほとんどは自身も冒険者なので、ギルドにクエストを出して仲間を集い、奥深いところまで素材などを集めに行くことがあるらしい。危険だが、得る者も大きい森なのだ。
そして、この森には従魔にできる魔獣が数多く生息していた。
基本的には、従魔を得るには召喚が一番手っ取り早い。何しろ請われて召喚されてくるのだから、ある程度は双方の相性がいいことが多く、従魔契約の成功率は低くないとのことだ。
それに比べると、無理やり捕らえて従魔契約をする方法は、なかなか難しいとされていた。単純に力で負かされると従魔になるタイプもいるが、知能が高い魔獣にはそれが通用しなかったりもする。
そうかと思えば、知らない間に懐かれて従魔になる魔獣もいたりして、こうすれば必ず従魔になるという決まりがないのが、難しいとされる所以である。
早朝、濃霧が立ち込める森の入り口。
土と緑の濃厚な匂いを含んだ空気は、たっぷりと水分を含んでまるで霧の粒が見えるようだった。
湿った地面に落ちた枯葉を踏みしめながら、一人の少年が歩いてきた。
どこか落ち着きなくきょろきょろと辺りを見回し、肩から掛けた大きく膨らんだカバンをまるでしがみ付くように抱え持ち、一歩一歩慎重な足取りで進んでくる。
カバンからは武器のような長物が一本飛び出し、その大きく膨らんだ様子から見ても、どうやらフリーバッグではないようだ。
「やっぱりね、来ると思った」
その時、すぐ傍から思いがけず声を掛けられて、少年は面白いほど飛び上がった。危うく転びそうになりながらも、なんとか踏みとどまった彼は、木の影からひょっこり現れた人物に目を丸くした。
「げっ!てめぇっ…、なんで」
それは、学校の訓練用装備に身を包んだ、リュシアンであった。
「ねえ、ちゃんと学校の許可取った?」
「ぐっ…、いや、俺は!…そ、そんなんじゃねぇ、ちょっと見に来ただけだ!てめぇこそ、なにを」
こそこそと学園を抜け出してきたのは、そう、ダリルであった。ちゃっかり防具一式を身に着けておきながら、見に来ただけもないものである。
リュシアンが呆れたようにため息をつくと、ダリルは逆切れした。
「答えろっ!てめぇこそ、ここでなにを……って、な、なんだよ?」
色めきだって怒鳴っているダリルの、けれどすぐ目の前まで、お構いなしにリュシアンは平然と近づいてきた。あまりにも接近されて、ダリルは思わず押し出されるように後退りしてしまう。
そのまま背伸びしたリュシアンは、はるか上にあるダリルの顔を仰ぎ見るようにして、スッと腕を伸ばした。
え?と気を取られた瞬間、目にもとまらぬ速さで胸元を掴まれ、グイッと勢いよく引き寄せられる。つんのめるようにして前に屈み込み、仰天したダリルの顔を覗き込んだリュシアンは、目線が釣り合ったところでニッコリと笑った。
「僕の名前はリュシアンだよ、いい加減覚えてね」
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