ご落胤王子は異世界を楽しむと決めた!WEB版

るう

飯盒炊爨

 武術科合同の訓練合宿の当日、その日は朝から小雨が降っていた。
 こんな天候にも関わらず、一行は当然のように普通に学校を出発した。リュシアンはフードを深くかぶってローブの前をきっちりと閉じた格好だ。
 さっそくローブがいい仕事をしている、さすがはニーナチョイスである。
 ひとつ難をいえば、てるてる坊主のようでリュシアンが少し恥ずかしい思いをしたくらいだ。
 歩きにくい雨の中、学生たちは黙々と目的地へと足を進めた。荷物は基本的に自分の物は自分で持つ、そして大きな荷物や重い物はフリーバッグを持っている生徒が持つことになる。例えば支給されたテントとか、薪とか、飲み水のタンクなどだ。
 ただし、フリーバッグは誰でも持てるというものではない。おそらく半数以上の学生はもっていないだろう。なぜわかるかというと、班によっては全員が大きな荷物を抱えているからだ。
 フリーバッグを持っている生徒が一人でも確保できれば、スタート時点からかなり有利になる。
 ある意味不公平だが、世間にでれば常に不公平の連続である。
 フリーバッグを持てない者がいるのだから、全員持ってはいけないなどと甘やかしたりはしない。たとえそれが親であっても、また友人の力であっても、己の持ち得た絆や培った絆、それ自体が才能だという考え方だ。
 自分が持てないなら、持てる者を味方につける。持っている者はいかにしてそれを利用し、より自らの力になる人材なり繋がりなどを確保できるか、すべては駆け引きになる。

 学校から約一時間ほど歩くと、やがてぽっかりと広くひらけたところに出た。先頭をいく教師たちが、立ち止まって生徒たちに合図を送った。空はあいにくの曇りだが、朝から降っていた雨は上がっていた。リュシアン達はこうしてキャンプ地に到着した。
 リュシアン達のグループリーダーは、ニーナである。
 彼女とアリスはさすがに二回目だけあって、すぐにキャンプに最適な位置を場所取りして目印の杭を打った。そして全員を集めるとそれぞれ適材適所にテキパキと指示を飛ばした。
 学校を出るときに合流したもう一人の上級生、マシューと一緒にリュシアンは石を積んで竈を作り始めた。ちなみに彼は、体術Ⅱクラスと、短剣術Ⅲクラスを掛けもつ暗器使いだ。見かけによらずちょっと物騒な武器だが、どうも面と向かって剣を持って戦うのが苦手で、油断したところをチクリとやって逃げるための戦法らしい。

 エドガーと他の新入生たちは、数人掛かりで協力してテントを立てていた。
 それにしても、教師陣からはなんの指示も説明もない。普通ならここで、注意事項など長いお話しとかが入るものだが、彼らは簡単に生徒たちを見回って点呼したのち、さっさと自分たちの準備を始めていた。
 どうやら食事の準備も、寝床の準備も、手取足取り教えてもらえるわけではなく、ましてや号令で一斉にやるのでもないらしい。各自の判断で、手順良くこなさなくてはならないのだ。
 
「ところで、これは何に使うんだ?」

 マシューは、黙々と竈作りをしているリュシアンを手伝いつつ、ずっと脇に置かれたそれが気になって仕方がなかった。
 実は、この竈作りにしても通常の作り方とはぜんぜん違い、マシューは不思議に思っていたのだ。キャンプなどで使う竈は、本来なら簡単なスープを温めたり、飲み物を作ったりする程度の小さなものだ。けれどリュシアンは、わざわざフリーバッグにレンガ状に加工した石をいくつか持ってきてまで、かなり頑丈に作ったのである。
 そしてマシューが指さしたそれは……。
 そら豆のような特殊な形をした、アレである。
 いわゆるキャンプに欠かせないアイテムの、はんごうだ。リュシアンは記憶にあるそれを、自分で作って来たのだ。

(だってキャンプだもの。やっぱやらなきゃだめだよね、飯盒炊爨でごはん!)

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