ご落胤王子は異世界を楽しむと決めた!WEB版
脳筋の恒例行事
武術科には、大きく分けて自らの身体を使う体術と、ナイフなどの小型の武器を使う短剣術(投擲や暗器などもここに入る)、長物を使う大剣、長剣、槍などの剣術がある。
このように武術科と言っても多岐にわたるが、実技形式の模擬戦となれば、どのスタイルの相手と当たっても文句は言えない。
授業の便宜上、それぞれ分けてはいるが基礎練習などは合同ですることが多いし、相手がどんな武器を持っていても戦えなければ実戦では役に立たないのだ。
ニーナは体術がⅤクラスだが、ナイフに関しては初心者なので、今回はⅠクラスの組み合わせに入っている。当然、小型武器類を使うことが前提だ。
ちなみに彼女の本来の武器は、素早さと長いリーチを誇る巧みな足技である。
「お? なんだよ、結局一緒になるのか」
張り出された組み合わせ表をリュシアンとニーナが見ていると、横からエドガーが話しかけてきた。教室で別れて数十分も経たないうちに再会となった。
エドガーは武術科剣術を見学にいくといっていたが、合同の模擬戦が行われることになったので、こうして再び合流したのである。
見学に来た新入生を、問答無用で無差別武器による模擬戦に挑ませるスタイルには驚いたが、有事に相手が同じ武器で戦ってくれるはずもなく、その心構えを初っ端に叩き込むための行事なのかもしれない。
「模擬戦はⅠ・Ⅱクラス合同で、武器は全部ひっくるめてやるんだね」
「私も初めはびっくりだったわ。何しろ、こっちは素手なのに相手は長物持ってるんですもの」
当時を思い出すように、ニーナが苦笑している。
「武器は刃を潰してはいるけど、この武術科恒例の模擬戦は、怪我人必至の荒っぽい新人歓迎行事として有名なのよ」
とことん脳筋スタイルの行事のようだ。(怪我人出しちゃって大丈夫なの?)と、リュシアンは問題になったりしないのかと、余計な心配までした。
「……ほら見て、あそこ」
リュシアンの微妙な表情を見て取ったニーナは、教師陣が集まる場所の一角を指差した。そこには年長の学生らしき集団と、以前会ったことがある獣人の保健医の青年がいた。
それは簡易に設置された、大きな屋根付きの救護室だった。集められたのは、回復魔法が使える上級生たちと薬剤師見習いの特別クラスの生徒。
「怪我のサポートは、ばっちりってことか」
エドガーが拳を手のひらに当てて、ますますやる気を出している。
それに頷いたニーナは「以前、私もお世話になったわ」と肩を竦めた。
リュシアンは本気で驚いた。学園では身分は不問と謳われてはいるが、なにしろニーナはこの国の王女なのだから。
フィールドに出れば否応なくモンスターが襲い掛かってくる世界、学校行事で危険なことをしていいのか、身分を考慮しなくていいのか、など甘いことは言ってはいられないということなのだろう。
組み合わせは、それぞれ知らない相手と当たった。
途中まで勝ち抜けだけではあるが、あくまで実力テストのようなものだから、適当なところで終わらせるようだ。決勝戦などをして、最強を決める形式ではなさそうだった。
「チョビって人ごみ苦手なのか? すごい丸まってないか」
「うーん、前に街に出たときもそうだったんだけど、ちょっと苦手みたいだね」
「チョビって可愛いわよね」
リュシアンの頭の上で、体を丸めて髪の毛にうずくまるようにして身を隠すチョビを、エドガーが人差し指で撫でている横で、ニーナが順番を待つようにうずうずして待機していた。
リュシアンとエドガーは、同時にえ? という顔でニーナを振り返る。
「……なによ?」
もちろんリュシアンはチョビを可愛がっているし、今となってはちょっと怖い見た目さえも可愛く思う。でも、他人が見てそれを可愛いと感じるかどうかは別だと思っていたのだ。
(だって、結構コワイよ顔……)
女の子受けする要素は何一つないように思えたのだが、ニーナに聞くと結構女子の間でもチョビは噂になっているらしい。なんと「可愛い」という信じがたい評価で。
改めてチョビを下ろして、その厳つい顔を見る。
つぶらな黒い瞳が、なあに? と言わんばかりに瞬きしている。
「……っ!」
危うく頬ずりするところだったリュシアンは、なんとか思いとどまってもう一度ニーナを見た。
彼女は相変わらずチョビを眺めて、早く! と今にも手を出しそうになっている。
頬ずりすれば間違いなく顔がすり傷だらけ必至のゴツゴツしたフォルム、コウモリのような羽、ギザギザの痛そうなしっぽ……とてもではないが万人受けしそうもない姿に、リュシアンはますます首を傾げた。
凝視しているリュシアンに気が付いたのか、チョビはヤスリのような角を擦りつけて甘えてくる。
「あ、そこのきみ、従魔は置いてきてね」
模擬戦会場へと移動しようと三人で歩いていると、手伝いをしている武術科の上級生らしき人物がリュシアンを引き留めた。
このように武術科と言っても多岐にわたるが、実技形式の模擬戦となれば、どのスタイルの相手と当たっても文句は言えない。
授業の便宜上、それぞれ分けてはいるが基礎練習などは合同ですることが多いし、相手がどんな武器を持っていても戦えなければ実戦では役に立たないのだ。
ニーナは体術がⅤクラスだが、ナイフに関しては初心者なので、今回はⅠクラスの組み合わせに入っている。当然、小型武器類を使うことが前提だ。
ちなみに彼女の本来の武器は、素早さと長いリーチを誇る巧みな足技である。
「お? なんだよ、結局一緒になるのか」
張り出された組み合わせ表をリュシアンとニーナが見ていると、横からエドガーが話しかけてきた。教室で別れて数十分も経たないうちに再会となった。
エドガーは武術科剣術を見学にいくといっていたが、合同の模擬戦が行われることになったので、こうして再び合流したのである。
見学に来た新入生を、問答無用で無差別武器による模擬戦に挑ませるスタイルには驚いたが、有事に相手が同じ武器で戦ってくれるはずもなく、その心構えを初っ端に叩き込むための行事なのかもしれない。
「模擬戦はⅠ・Ⅱクラス合同で、武器は全部ひっくるめてやるんだね」
「私も初めはびっくりだったわ。何しろ、こっちは素手なのに相手は長物持ってるんですもの」
当時を思い出すように、ニーナが苦笑している。
「武器は刃を潰してはいるけど、この武術科恒例の模擬戦は、怪我人必至の荒っぽい新人歓迎行事として有名なのよ」
とことん脳筋スタイルの行事のようだ。(怪我人出しちゃって大丈夫なの?)と、リュシアンは問題になったりしないのかと、余計な心配までした。
「……ほら見て、あそこ」
リュシアンの微妙な表情を見て取ったニーナは、教師陣が集まる場所の一角を指差した。そこには年長の学生らしき集団と、以前会ったことがある獣人の保健医の青年がいた。
それは簡易に設置された、大きな屋根付きの救護室だった。集められたのは、回復魔法が使える上級生たちと薬剤師見習いの特別クラスの生徒。
「怪我のサポートは、ばっちりってことか」
エドガーが拳を手のひらに当てて、ますますやる気を出している。
それに頷いたニーナは「以前、私もお世話になったわ」と肩を竦めた。
リュシアンは本気で驚いた。学園では身分は不問と謳われてはいるが、なにしろニーナはこの国の王女なのだから。
フィールドに出れば否応なくモンスターが襲い掛かってくる世界、学校行事で危険なことをしていいのか、身分を考慮しなくていいのか、など甘いことは言ってはいられないということなのだろう。
組み合わせは、それぞれ知らない相手と当たった。
途中まで勝ち抜けだけではあるが、あくまで実力テストのようなものだから、適当なところで終わらせるようだ。決勝戦などをして、最強を決める形式ではなさそうだった。
「チョビって人ごみ苦手なのか? すごい丸まってないか」
「うーん、前に街に出たときもそうだったんだけど、ちょっと苦手みたいだね」
「チョビって可愛いわよね」
リュシアンの頭の上で、体を丸めて髪の毛にうずくまるようにして身を隠すチョビを、エドガーが人差し指で撫でている横で、ニーナが順番を待つようにうずうずして待機していた。
リュシアンとエドガーは、同時にえ? という顔でニーナを振り返る。
「……なによ?」
もちろんリュシアンはチョビを可愛がっているし、今となってはちょっと怖い見た目さえも可愛く思う。でも、他人が見てそれを可愛いと感じるかどうかは別だと思っていたのだ。
(だって、結構コワイよ顔……)
女の子受けする要素は何一つないように思えたのだが、ニーナに聞くと結構女子の間でもチョビは噂になっているらしい。なんと「可愛い」という信じがたい評価で。
改めてチョビを下ろして、その厳つい顔を見る。
つぶらな黒い瞳が、なあに? と言わんばかりに瞬きしている。
「……っ!」
危うく頬ずりするところだったリュシアンは、なんとか思いとどまってもう一度ニーナを見た。
彼女は相変わらずチョビを眺めて、早く! と今にも手を出しそうになっている。
頬ずりすれば間違いなく顔がすり傷だらけ必至のゴツゴツしたフォルム、コウモリのような羽、ギザギザの痛そうなしっぽ……とてもではないが万人受けしそうもない姿に、リュシアンはますます首を傾げた。
凝視しているリュシアンに気が付いたのか、チョビはヤスリのような角を擦りつけて甘えてくる。
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