ご落胤王子は異世界を楽しむと決めた!WEB版
遭遇
リュシアンは、エヴァリストと共に赤い絨毯がまっすぐに敷かれた長く続く廊下を歩いていた。
ずっと先には衛兵が立った扉がある。
面会の目処が立ったため、二人は王宮へとやってきたのだ。
そして謁見の間への道の途中、リュシアンたちは恐らく見てはいけないものを見つけてしまった。
物陰に隠れる子供。
たぶん衛兵から見えないように、倒したら大変なことになりそうなツボにしがみつくように身を潜めている。むろん、こっちからは丸見えだ。
十歳くらいの背格好だ。何をしているのか、少なくともココは誰でも入れる場所ではない。
父と顔を見合わせて立ち止まり、その後ろ姿を見つめていた。
すると、びくっと少年の背中が一センチくらい飛び上がったと思ったら、恐る恐るこちらを振り返った。
「…っ、わぁっ!?」
人がいたことに驚いたのか、少年は思わず尻もちをついた。
例のツボがガタガタ揺れて、リュシアンの方がよっぽどドキドキさせられた。衛兵の一人が、慌ててこちらに走ってくる。
「エドガー殿下!またこのようなところで」
リュシアンは思わず「あっ」と声を上げそうになって、口を押えた。
(エドガー殿下ってことは、例の第二妃の……)
衛兵とのやり取りを見ていると、こうして陛下のところへ乗り込もうとしたのは一度や二度ではなさそうだ。どうやら先日行方不明になった王太子のことを聞きたかったらしい。
当然のことながら、彼はどう見ても子供だった。考えてみたらそれもそうだ。噂に聞く王太子にしたところで確か十五才くらいなのだ、その弟なら十分にまだ子供だろう。
勝手に首謀者の関係者みたいなイメージしていた。
様子から見ても、本人何にも知らないとかいうパターンだろう。むろん、これらが全部芝居だって言うなら、それはそれで感心するけれど。
この時、エドガーは九つになったばかり。今回の騒ぎは王太子、つまりは兄のことで父親に直談判にきたのだ。そして、このような騒ぎは実は初めてではない。
つい先日までは、陛下に学校へ行きたいと直談判していた。それが通らないのは、母親が学校に行くことを反対しているのだ。帝王学は学校では学べないというのが理由だが、王太子とて学校行くために城から出ていたのだから、この母親の執念のほどがうかがえる。
本人が希望しているなら、この王子は外へ出るべきだと思った。
リュシアンは、王子を捕まえようとしている衛兵を止めて、父の方を仰ぎ見た。頷いてくれたので、エドガーに一緒に謁見の間にいこうと誘った。
「えっ、いいのか?…ところで、誰だ?」
オービニュ家の三男でリュシアンだと自己紹介すると、なんとエドガーはこちらのことを知っていた。どうやら王太子である兄に聞いたらしい。
確かに兄であるファビオから、王太子とは友人だと聞いたことはあったが、あまりそのことを話題にしなかったので、それほど親しくしているとは思わなかった。
聞いている限り、エドガーは兄の王太子を慕っているようだ。
「肩に乗ってる、ソレって何?」
ずっと気になっていたのか、エドガーはリュシアンの肩の上あたりを指差した。
そこには、チョビが丸くなって座っていた。
さすがに陛下に会うのに、謎の物体を頭の上に乗せていくのは礼を欠くのではないかと、リュシアンは部屋に置いてこようとしたのだ。ところが言い聞かせて机に置いて部屋を出ようとした瞬間、これでもかというほど体当たりされた。
もしかしてリンクの関係で離れられないのかとも思い、結局は仕方がなくこうして連れてきたのだ。
興味深々のエドガーに、リュシアンがチョビを紹介しようとした時、後方から足音がした。
絨毯のせいでかなり近づくまで気が付かなかった。神経質そうな、規則正しく絨毯を踏むそれが、真後ろで止まる。
なぜか、リュシアンは背中に冷たい汗が流れるのを感じた。
そして女性の声が、エドガーを呼んだ。
「ここへきてはいけないと、あれほど…あら、貴方たちは」
赤い靴先が目線に入った途端、リュシアンは思わず床を見たまま固まってしまった。
(……嘘でしょ、本当に会っちゃいけない人が、来ちゃったよ)
ずっと先には衛兵が立った扉がある。
面会の目処が立ったため、二人は王宮へとやってきたのだ。
そして謁見の間への道の途中、リュシアンたちは恐らく見てはいけないものを見つけてしまった。
物陰に隠れる子供。
たぶん衛兵から見えないように、倒したら大変なことになりそうなツボにしがみつくように身を潜めている。むろん、こっちからは丸見えだ。
十歳くらいの背格好だ。何をしているのか、少なくともココは誰でも入れる場所ではない。
父と顔を見合わせて立ち止まり、その後ろ姿を見つめていた。
すると、びくっと少年の背中が一センチくらい飛び上がったと思ったら、恐る恐るこちらを振り返った。
「…っ、わぁっ!?」
人がいたことに驚いたのか、少年は思わず尻もちをついた。
例のツボがガタガタ揺れて、リュシアンの方がよっぽどドキドキさせられた。衛兵の一人が、慌ててこちらに走ってくる。
「エドガー殿下!またこのようなところで」
リュシアンは思わず「あっ」と声を上げそうになって、口を押えた。
(エドガー殿下ってことは、例の第二妃の……)
衛兵とのやり取りを見ていると、こうして陛下のところへ乗り込もうとしたのは一度や二度ではなさそうだ。どうやら先日行方不明になった王太子のことを聞きたかったらしい。
当然のことながら、彼はどう見ても子供だった。考えてみたらそれもそうだ。噂に聞く王太子にしたところで確か十五才くらいなのだ、その弟なら十分にまだ子供だろう。
勝手に首謀者の関係者みたいなイメージしていた。
様子から見ても、本人何にも知らないとかいうパターンだろう。むろん、これらが全部芝居だって言うなら、それはそれで感心するけれど。
この時、エドガーは九つになったばかり。今回の騒ぎは王太子、つまりは兄のことで父親に直談判にきたのだ。そして、このような騒ぎは実は初めてではない。
つい先日までは、陛下に学校へ行きたいと直談判していた。それが通らないのは、母親が学校に行くことを反対しているのだ。帝王学は学校では学べないというのが理由だが、王太子とて学校行くために城から出ていたのだから、この母親の執念のほどがうかがえる。
本人が希望しているなら、この王子は外へ出るべきだと思った。
リュシアンは、王子を捕まえようとしている衛兵を止めて、父の方を仰ぎ見た。頷いてくれたので、エドガーに一緒に謁見の間にいこうと誘った。
「えっ、いいのか?…ところで、誰だ?」
オービニュ家の三男でリュシアンだと自己紹介すると、なんとエドガーはこちらのことを知っていた。どうやら王太子である兄に聞いたらしい。
確かに兄であるファビオから、王太子とは友人だと聞いたことはあったが、あまりそのことを話題にしなかったので、それほど親しくしているとは思わなかった。
聞いている限り、エドガーは兄の王太子を慕っているようだ。
「肩に乗ってる、ソレって何?」
ずっと気になっていたのか、エドガーはリュシアンの肩の上あたりを指差した。
そこには、チョビが丸くなって座っていた。
さすがに陛下に会うのに、謎の物体を頭の上に乗せていくのは礼を欠くのではないかと、リュシアンは部屋に置いてこようとしたのだ。ところが言い聞かせて机に置いて部屋を出ようとした瞬間、これでもかというほど体当たりされた。
もしかしてリンクの関係で離れられないのかとも思い、結局は仕方がなくこうして連れてきたのだ。
興味深々のエドガーに、リュシアンがチョビを紹介しようとした時、後方から足音がした。
絨毯のせいでかなり近づくまで気が付かなかった。神経質そうな、規則正しく絨毯を踏むそれが、真後ろで止まる。
なぜか、リュシアンは背中に冷たい汗が流れるのを感じた。
そして女性の声が、エドガーを呼んだ。
「ここへきてはいけないと、あれほど…あら、貴方たちは」
赤い靴先が目線に入った途端、リュシアンは思わず床を見たまま固まってしまった。
(……嘘でしょ、本当に会っちゃいけない人が、来ちゃったよ)
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