風の精霊王の気ままな旅
6話
6話
「GURURURURURURU……」
僕とクレスは今、木の陰で息を潜めて隠れている。
何で僕たちがこんなところで隠れているのかと言うと……
「(おい!なんでこんなところに森虎がいるんだよ!)」
「(うーん、おそらく僕がこの森に生まれたせいで、魔素濃度が濃くなったのが原因だろうね)」
正直言って僕からすればあんなものゴミ同然だけど、クレスからすればそうはいかないらしい。
……よし、決めた。
僕はニッコリと笑みを浮かべて、ポンとクレスの肩に手を置いた。
僕の意味ありげな笑みを見た彼は、ほおを引きつらせ––ずに、何故か頬を赤く染めて目を逸らした。
……いや、ここは頬を引きつらせるところでしょ。なんで頬を赤く染めるの……。
「(……クレス、折角だし今の君の力を測ろう!なーに、危なくなったら助けてあげるから)」
「(はあ?!んな無茶な!素質はあっても基礎がなってねえから魔法は使えねえし、鎖なんて武器として扱ったこと一度もないぞ?!)」
焦燥の色を顔に浮かべて言ってくるクレスに、僕は内心驚いていた。
与えられた力をすぐに扱えると勘違いせずに、しっかりと自己分析ができている事に対して。
まあ、だからといって前言撤回するつもりはないけどね!
「(うんうん、自己分析はしっかりと出来ているようだね。流石は僕の契約者だ。––というわけで、行ってこーい!」
「はぁ?!だから、ちょ、待っ––」
僕はクレスを腕の力と風魔法の軽い補助で持ち上げて木の陰から飛び出し、牙をむき出しにしてヨダレを垂らしている森虎に向かって投げつけた。
体勢を崩した状態で、彼は綺麗な放物線を描きながら森虎目掛けて一直線に飛んでいき––クレスはごんっという音を立てて、森虎はゴキリと音を立てて両者は衝突した。
そして僕は二人の先頭の邪魔にならないように、木の陰に再び身を潜めた。
クレスと森虎の状況は風の下位精霊たちの目を通して見ればわかるからね。
僕自身が彼らを見ていなくても問題ないのだ。
––地面に足をつけたクレスは、頭を押さえながらすぐさまその場からとびのき鎖に手を添えていた。
うん、空中でそれが出来ていれば一番よかったんだけど……。
まあ無事だったし、今後要特訓ということで合格にしておこうか。
そんなクレスに対して森虎の方はというと……、クレスの頭と衝突した足を庇うように立ち威嚇するように唸り声をあげていた。
うーん、もしかしてあの衝突で足が折れちゃったのかな?
手加減して投げたつもりだったんだけど……、うん、あれ?じゃあなんでクレスの頭は無事なんだ?
……僕と契約したことによって体の耐久度でも上がったのかな?
色々試したい欲求が出てきたけど、それでクレスが死んだら元も子もないし……うー、気になるけど諦めよう。
僕がそんなことを考えている間に、すでにクレスと森虎の戦いは幕を開けていた。
互いに互いを警戒しあい、森虎は唸り声を上げて。クレスは額に汗を滲ませながらにらみ合っていた。
先手を打ったのは森虎だった。
互いに睨み合っているだけの状態に痺れを切らしたのか、大きな叫び声をあげてクレスに飛びかかった。
流石は野生動物……いや、野生魔物(?)。
躾のされていない犬みたいに、「待て」が出来ないようだ。
しかしクレスに迫るのは犬のようなあまり危険のない––もちろん、犬も噛みつかれたら危ない––ものではなく、まるで鋭く研がれた包丁のような森虎の爪だった。
もしそんなもので身体を横薙ぎにされれば、大半の生き物は死ぬだろう。
……もちろん、当たればの話だけどね。
––その動きを待っていましたと言わんばかりに、クレスは口元に小さな笑みを浮かべて鎖を放った。
普通ならば背に翼でも生えていない限り、空中で細やかな動きはできない。
クレスはきっとそう思って鎖を放ったのだろう。
しかし––森虎は魔物だ。
当然人が魔法を扱えるように、彼らも魔法を扱える。
森虎はまるで空中に地面があるかのように、宙を蹴って飛び上がり鎖を回避した。
ポカーンと口を開けて驚くクレス。
戦場でそんな隙を見せれば食われてしまうということを知っているはずなのに––。
その後すぐに顔をハッとさせて、体勢を整えようとしたクレスだったが、時はすでに遅し。
牙はすぐそばにまで迫っていた。
もしクレスがどこにでもいるような冒険者だったら、このまま食われてゲームオーバーになっていただろう。
だが彼が手に持つ鎖は、普通のものではない。
もうダメだとでも思ったのか、クレスが目を瞑った瞬間––森虎の動きがピタリと止まった。
彼の手から伸びる鎖が、森虎の身体を拘束しているからだ。
クレスの持つ鎖。〈自由と栄光の鎖〉は前にも言ったけど、「標的と定めたものを拘束する」という因果の逆転––つまり、「対象を必ず拘束する」という事実を確定させてから、鎖を放っている––能力を持っている。
うん、なんども言ってるけどこれチートだねチート。
……とにかく、その能力が発動したのだ。
なんで鎖を放ったときに発動したのかというと、僕が意図的に抑えつけたからだ。クレスに「死ぬかもしれない」ということを体験させるために。
「––お疲れ様、クレス。……いつまで目を瞑ってるつもりだい?」
決着はもうついた。というわけで僕は木の陰から出て、クレスに声をかけた。
するとクレスは目をパチパチと開き、目の前で唸っている森虎を見て軽く悲鳴をあげた。
「もうそいつは何も出来ないから大丈夫だよ。安心してね」
そう告げると、クレスは顔をうつむかせて身体をプルプルと震わせて––なぜか僕に殴りかかってきた。
「GURURURURURURU……」
僕とクレスは今、木の陰で息を潜めて隠れている。
何で僕たちがこんなところで隠れているのかと言うと……
「(おい!なんでこんなところに森虎がいるんだよ!)」
「(うーん、おそらく僕がこの森に生まれたせいで、魔素濃度が濃くなったのが原因だろうね)」
正直言って僕からすればあんなものゴミ同然だけど、クレスからすればそうはいかないらしい。
……よし、決めた。
僕はニッコリと笑みを浮かべて、ポンとクレスの肩に手を置いた。
僕の意味ありげな笑みを見た彼は、ほおを引きつらせ––ずに、何故か頬を赤く染めて目を逸らした。
……いや、ここは頬を引きつらせるところでしょ。なんで頬を赤く染めるの……。
「(……クレス、折角だし今の君の力を測ろう!なーに、危なくなったら助けてあげるから)」
「(はあ?!んな無茶な!素質はあっても基礎がなってねえから魔法は使えねえし、鎖なんて武器として扱ったこと一度もないぞ?!)」
焦燥の色を顔に浮かべて言ってくるクレスに、僕は内心驚いていた。
与えられた力をすぐに扱えると勘違いせずに、しっかりと自己分析ができている事に対して。
まあ、だからといって前言撤回するつもりはないけどね!
「(うんうん、自己分析はしっかりと出来ているようだね。流石は僕の契約者だ。––というわけで、行ってこーい!」
「はぁ?!だから、ちょ、待っ––」
僕はクレスを腕の力と風魔法の軽い補助で持ち上げて木の陰から飛び出し、牙をむき出しにしてヨダレを垂らしている森虎に向かって投げつけた。
体勢を崩した状態で、彼は綺麗な放物線を描きながら森虎目掛けて一直線に飛んでいき––クレスはごんっという音を立てて、森虎はゴキリと音を立てて両者は衝突した。
そして僕は二人の先頭の邪魔にならないように、木の陰に再び身を潜めた。
クレスと森虎の状況は風の下位精霊たちの目を通して見ればわかるからね。
僕自身が彼らを見ていなくても問題ないのだ。
––地面に足をつけたクレスは、頭を押さえながらすぐさまその場からとびのき鎖に手を添えていた。
うん、空中でそれが出来ていれば一番よかったんだけど……。
まあ無事だったし、今後要特訓ということで合格にしておこうか。
そんなクレスに対して森虎の方はというと……、クレスの頭と衝突した足を庇うように立ち威嚇するように唸り声をあげていた。
うーん、もしかしてあの衝突で足が折れちゃったのかな?
手加減して投げたつもりだったんだけど……、うん、あれ?じゃあなんでクレスの頭は無事なんだ?
……僕と契約したことによって体の耐久度でも上がったのかな?
色々試したい欲求が出てきたけど、それでクレスが死んだら元も子もないし……うー、気になるけど諦めよう。
僕がそんなことを考えている間に、すでにクレスと森虎の戦いは幕を開けていた。
互いに互いを警戒しあい、森虎は唸り声を上げて。クレスは額に汗を滲ませながらにらみ合っていた。
先手を打ったのは森虎だった。
互いに睨み合っているだけの状態に痺れを切らしたのか、大きな叫び声をあげてクレスに飛びかかった。
流石は野生動物……いや、野生魔物(?)。
躾のされていない犬みたいに、「待て」が出来ないようだ。
しかしクレスに迫るのは犬のようなあまり危険のない––もちろん、犬も噛みつかれたら危ない––ものではなく、まるで鋭く研がれた包丁のような森虎の爪だった。
もしそんなもので身体を横薙ぎにされれば、大半の生き物は死ぬだろう。
……もちろん、当たればの話だけどね。
––その動きを待っていましたと言わんばかりに、クレスは口元に小さな笑みを浮かべて鎖を放った。
普通ならば背に翼でも生えていない限り、空中で細やかな動きはできない。
クレスはきっとそう思って鎖を放ったのだろう。
しかし––森虎は魔物だ。
当然人が魔法を扱えるように、彼らも魔法を扱える。
森虎はまるで空中に地面があるかのように、宙を蹴って飛び上がり鎖を回避した。
ポカーンと口を開けて驚くクレス。
戦場でそんな隙を見せれば食われてしまうということを知っているはずなのに––。
その後すぐに顔をハッとさせて、体勢を整えようとしたクレスだったが、時はすでに遅し。
牙はすぐそばにまで迫っていた。
もしクレスがどこにでもいるような冒険者だったら、このまま食われてゲームオーバーになっていただろう。
だが彼が手に持つ鎖は、普通のものではない。
もうダメだとでも思ったのか、クレスが目を瞑った瞬間––森虎の動きがピタリと止まった。
彼の手から伸びる鎖が、森虎の身体を拘束しているからだ。
クレスの持つ鎖。〈自由と栄光の鎖〉は前にも言ったけど、「標的と定めたものを拘束する」という因果の逆転––つまり、「対象を必ず拘束する」という事実を確定させてから、鎖を放っている––能力を持っている。
うん、なんども言ってるけどこれチートだねチート。
……とにかく、その能力が発動したのだ。
なんで鎖を放ったときに発動したのかというと、僕が意図的に抑えつけたからだ。クレスに「死ぬかもしれない」ということを体験させるために。
「––お疲れ様、クレス。……いつまで目を瞑ってるつもりだい?」
決着はもうついた。というわけで僕は木の陰から出て、クレスに声をかけた。
するとクレスは目をパチパチと開き、目の前で唸っている森虎を見て軽く悲鳴をあげた。
「もうそいつは何も出来ないから大丈夫だよ。安心してね」
そう告げると、クレスは顔をうつむかせて身体をプルプルと震わせて––なぜか僕に殴りかかってきた。
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