風の精霊王の気ままな旅

ガブガブ

5話

5話






 クレスと契約した僕は、ようやくこの精霊の泉うまれたばしょから出られるようになった。


「……なあシルフィード」
「なんだい?」
「この鎖、どうやって使うんだ?」


 非常に答えづらい質問である。僕の知る限り、この世界には鎖使いなんてクレスを含めて二人しかいない。
 しかもそのもう片方の鎖使いにつては、「存在している」という情報以外掴んでいないのだ。うん、まあ……。


「適当に振り回しておけばいいんじゃない?その鎖には〈標的と定めたものを拘束する〉〈拘束したものの【力】を封印する〉という技が付加されていてね」


 ようするにチートな武器である。仮にも神狼を封印していた・・・・鎖なのだ。
 この二つ以外にも色々な効果があるのだが….、それはまた今度紹介しようか。


「俺には過ぎた代物だな」
「君の甘ったれた思考回路に基づいたらそれになったのさ。まあいいんじゃない?君自身も成長していけばいいんだし」
「……そうだな」


 ……戦闘方法はわからないけど、僕がクレスに与えた力について説明しておいた方がよさそうだね。


「ここを出る前に言っておくよ。僕が君に与えた「力」は風の魔力……簡単に言うと【風魔法】の素質と膨大な魔力だね」


 クレスは人族だから神級までしか使えないだろうけど。まあそれでも十分だよね。
 ……魔力暴走が起こらないように加護も与えておこうかな。


「俺が魔法を使えるのか?しかも生活魔法じゃない、属性魔法を」
「勿論だよ。素質といっても、常人に比べて風魔法が少し使いやすくなるだけだけどね。……魔法は知識と魔力さえあれば誰でも使えるはずだよ?」
「教会は「神を信ずるもののみ、魔法を使うことが出来る」って言ってたけど」
「じゃあなんで魔女や「昔の人々」は魔法を使えたのさ」
「…そういえばそうだな」


 彼は合点がいったと言わんばかりに顔をハッとさせて、鎖をじゃらじゃらと鳴らした。
 もしかして、人族は洗脳でもされているのかな?少し、その怪しげな宗教について調べてみようかな。


 –––「世界の記憶」には残念なことにその宗教、教会についての情報はほとんどなかった。
 理由は、その宗教の全ての教会には【風の精霊】の侵入を拒絶する結界が張られているためである。
 僕はその外側にいる【風の精霊】の目を通して結界を確認する。


 ……なにこれ。よくみたら【霊力無効結界】が劣化して、【風の精霊】のみ侵入出来なくなったポンコツ結界じゃないか。
 しかもこれ……、神代時代の遺産かな?もともとは〈上位精霊以下の精霊の侵入を拒絶する〉って効果のはずなんだけど…。
 もしかして修復できるものが居ないのかな?…まあこの教会は総本山ではなさそうだし普通なのかな。とりあえず…。


「〈綻びの風〉」


 僕の発動した魔法により、結界に小さな綻びが生じた。さあー、下位精霊たち。じゃんじゃんばりばり情報を集めて来てね。


「なんか言ったか?」


 おや、クレスには聞こえてしまったみたいだね。……人間には聞こえない周波数で喋ったつもりなんだけど。


「なんでもないよ。じゃあクレス、行こうか」


 僕はクレスの手を引いて、この森を出ることにした。……あ、そうだったそうだった。


「あ、ごめん。クレス、少しだけ待ってて」
「…?わかった」


 僕はクレスを森と精霊の泉の境界線にとどまらせ、一旦先ほどの場所に戻った。


「〈不可視インビジブル〉」


 僕は未だに気絶している生き残りの一人の胸ぐらを掴み、そこら辺に生えている木の幹に叩きつけた。


「ガハッ?!」
「おはよう、こんにちは。それともこんばんはかな?〈鑑定者〉のお弟子さん」


 僕は目覚めた彼の胸ぐらをパッと離して、地面に落とす。
 咳き込む〈鑑定者〉の弟子それを冷ややかな目で見つめながら、それが起き上がるのを待つ。


 数十秒経ってようやくそれは立ち上がり、こちらを睨みつけて来た。


「お前–––「〈風の拘束〉」ッ!」


 地面や宙の至る所から鎖が生えてきて、なにかを言おうとした〈鑑定者〉の弟子を拘束した。


「バカな真似はしないでくれよ?君だって…死にたくはないだろう?」


 僕から顔を背けてくるそれの頭を鷲掴みにして、僕と無理やり視線を合わさせて僕は彼に告げた。
 するとそれは顔を青くさせて、首をブンブンと縦に振った。


「〈鑑定者〉の弟子くん。君は〈鑑定者〉から〈精霊との不可侵条約〉を教えられて居ないのかな?」
「もちろん教えられたさ。だけどな、俺は折角異世界に来れたんだ!俺は神に選ばれたんだよ!少しくらい羽目を外してもいいだろ!」


 ……うーわー。異世界からの転移者及び転生者ってみんなこうなの?精神的年齢からみると、高校生くらいかな。え、高校生のくせにこんな馬鹿らしい考え方してるのうわぁ……。
 〈鑑定者クソじじい〉…、名前に反して人を見る目がないんだね。


「それで火と闇と光を売ったと?」
「ああ、そうだよ。精霊王の真名だからなぁ、高く売れたよ」


 因みにだけど、これがこんなきもペラペラ喋ってくれるわけは僕の魔法によるものである。
 –––うん、こいつも人族も魔族もクズだってことぐらいはわかったよ。


「ふーん、もういいよ。–––クソじじい、コレの目を通して見てるよね?次からはちゃんと躾けてよね」


 –––警告だよ。その意を込めて僕は言った。


 さて、もうこいつは用済みだしポイしちゃおうか。


「汚物は消毒だね。〈滅びの風〉」


 この魔法は死体の後処理が面倒くさいなあと思った僕が作った魔法だ。名前の通り、この風に触れたものを滅する…チリに変えてしまうのだ。


 「火」とは違い目立たないので不意打ちなどにも使える。この風を受けた「鑑定者」の弟子はチリとなり、風に吹かれて消滅した。
 さてと、用も済んだしクレスのところに戻ろうか。




「お待たせ」
「うおっ!お、おう。何しに行ってたんだ?」
「えー?それ聞いちゃう?…ちょっと恥ずかしいんだけど」
「…なら別にいい」


 ゴミ掃除をしていたなんて言えないからね。


「–––さて、クレス。まずは人族が統治している「共和国」に行こうか」


 共和国–––レスト・ニーア共和国は、「火」を保有している王国と長年対立している国だ。「火」を保有している王国と争っているのにもかかわらず、大敗を喫したことがないのだ。
 なによりも…、その国の国王及びその国で暮らしている人族は、あの怪しげな宗教に洗脳されていないのだ。
 しかもその国の住人は人族だけでなく、魔人族、獣人族など、多種多様な種族が暮らしている。この世界で唯一の多人種国家だ。


「……?〈裏切りの国〉に行くのか?」


 クレスは不思議そうな顔をして聞いてきた。そう、大半の人族の国の人々は、共和国のことをそう呼んでいるのだ。
 普通の人族ならば、幼い頃からの教育で〈人族至上主義〉のちょっとアレな考え方に染まってしまう。…もしかしたら大規模な魔法による洗脳の可能性も捨てきれないけど。


「うん、そうだよ?僕もいるし、それに君は〈人族至上主義〉の考え方に染まっていないみたいだしね」
「まあ、そうだな」
「あ、聞いてもいい?普通君くらいの歳ならその考え方に染まっていてもおかしくないんだけど、なんで染まってないの?」


 〈人族至上主義〉–––そういった考え方を持っているのは〈人族〉と〈魔族〉くらいで、〈獣人族〉や〈森人族〉などはしっかりとした自己判断能力を持っている。


「……俺は、もともといた村で、「忌子」として虐げられてたんだ」


 …身体が傷だらけだったのはそれが理由か。


「親はどうしたんだい?」
「俺が生まれた時に、母さんは死んだ。父さんは…わからない」


 なるほどね。そもそもそういった考えを教える人がいなかったのかな。


「だけど、俺には爺ちゃんがいた。爺ちゃんは、村では賢者様って呼ばれててさ、俺はその人から色々なことを教えてもらったんだ。…俺の親の変わりも務めてくれた」


 そんな凄そうな人の庇護下にいたなら、そんな扱いされないと思うけど…、まあ亡くなったんだろうね。


「爺ちゃんは俺が5歳のときに死んだ。俺が〈忌子〉として扱われるようになったのも、その頃からだ」


 正直過去語りなんてどうでもいいんだけど…。ようするにそのお爺ちゃんが〈人族至上主義者〉じゃなかったからってことでしょ?


「あ、ああ。そういうことだ。…意外と辛辣なんだな、お前」


 おっと、口に出てしまっていたようだね。今度から気をつけよう。


「うん、まあ…精霊は嘘をつかないらしいし」


 まあ、それは知恵のほとんどない下位精霊ぐらいなんだけどさ。嘘をつく脳…知恵がないんだよね、あの子達。


 –––さて、早速共和国とやらに向かおうか。久し振りの–––うーん、そこまで経ってないかな?–––外の世界だね。


「…歩いていくのか?」
「え?当たり前でしょ。もしかして転移でもすると思ってた?」
「野営道具持ってないんだが」
「問題ナシ!自然の恵みは沢山あるから大丈夫だよ」


 それに、そんなつまらないこと僕がするはずないしね。


「よし、それじゃあ行こうか」


 僕はクレスの手を引いて、森から出るために歩き出した。

















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