風の精霊王の気ままな旅
3話 勇者 が あらわれた!
3話
僕が身体を鍛えるぞ!と決意してから、一年が経過した。僕はあれからというもの、一睡もせず、一秒も休まずに、ただ己の肉体を鍛えつづけていた。
普通ならばその成果は力こぶができたり、シックスパックができたりなど、肉体に表れるはずなんだけど…、僕の肉体はあの決意した日から一切合切変わっていなかった。ぷよぷよのままである。
流石におかしいと、一年経って僕はようやく気がついた。僕はなぜ筋肉がついてくれないのか、その理由を必死こいて考えた。そしておおよそ一秒が経過して––––
「……あ、僕ご飯食べてないじゃん」
ご飯を食べないと、筋肉を作るための栄養素は手に入らない。まあそれ以外の要因もあるんだろうけど、この時の僕は気づいていなかった。
突然僕の頭の中にチーンという、まるで電子レンジのタイマーが0になった時に鳴るような電子音が響いた。
「うん、記憶の継承も完了したみたいだね」
さて、継承された記憶の中に精霊の肉体についてのものはないかな…?あ、みっけ。えっと…、なになに…?
「精霊の肉体はスキルなどの使用以外で、変化することはない…?」
僕はその事実に、とてつもない衝撃を受けた。えっ、マジですか?つまり、僕がこの一年間やってきたことは無駄だったってこと?
僕は膝から崩れ落ちて、ズーンとうなだれた。………まあいいや。暇つぶしにはなったし。
話は変わるんだけどさ…、知性のある生物がぜんっぜん来てくれないんだけど!風の精霊たちがうまいこと騒ぎ立ててくれたのにさ…。
世界の記憶によると既に知性ある生き物…、というか人型の生き物たちは動き出しているはずなのだけれど。
エルフって森人って書いてエルフって読むんでしょ?なのになんで森の中にいる僕を見つけられないのさ!森人の名が廃るよ?
……あ、でも人族の勇者は勘弁してほしいかな。ついていってもつまらなそうだしね。見た限りだと完全に傀儡というか完全に上の言いなり。絶対つまらないもん。
僕の意思を知ってか知らずか、それは突然この森の中に現れた。
「……!この気配は人族だ…!ようやく僕を見つけてくれたのかな?」
それは僕のいる方向へと、一直線に走ってきている。森の木は薙ぎ倒しているのかな?それにこの人、足速いんだね。そろそろ森を抜けてここに来るよ…。
僕の目の前に現れたのは、全身に鎧をまとった男か女かよくわからない人。唯一わかるのは、僕に対して敵対意思を持っているくらいかな。だってこの鎧の人は、僕に剣先を向けてきているのだから。
…うわあ、一番きて欲しくない人が来ちゃったよ。この人…勇者でしょ。「火」の匂いもするし。
「【風】の精霊王、王からの命令だ。拘束させてもらう」
「うーん、遠慮させてもらうよ。傀儡が契約者なんて、つまらないだろうし」
「火」は一体何をしているのかな?まさかあの高潔な彼女が契約者の蛮行を止めないはずがないし…。もしして「火」からいやーな匂いがするのと、何か関係があるのかな?
「ならば、力づくでも拘束させてもらう」
「やれるものならやってごらんよ」
勇者は流れるような動きでぼくに襲いかかって来た。僕からすればスローモーションで動いているようにしか見えないんだけどね。
僕は最小限の動きで勇者の剣捌きを避けながら「火」に声をかける。
『サラマンダ、聞こえてる?』
『………』
「火」からの返答はない。意識がないようだ。
精霊は自らの意識で眠ったりすること、意識を失うことはない。肉体があり、意思があっても所詮は魔力の塊だから。つまり、なんらかの外部からの攻撃で「火」は意識が奪われていることになる。
「君さ、「火」になにをしたの?」
「………」
勇者はなにも答えてくれない。ただ無言で、流れるような剣捌きで僕に剣を振りかぶって来るだけだ。まあ全部僕に避けられてるんだけどね。
しかたない、自分で探すとしようか。
「〈そよ風〉」
僕が使える最も威力の弱い風魔法を使うと、勇者は一瞬だけ警戒して身を引いたが、僕の使った魔法の名前を聞いて大丈夫だと思ったのか、また襲いかかって来た。
うん、大丈夫。死なない程度に威力は調節してあるから。
そして––––
「ガハァァァ?!」
ドオォォォォン!!!という爆音を立てて、勇者は森の木々とともに吹き飛ばされた。防ぐ暇もなかったのか、勇者はひときわ大きな樹に叩きつけられて動かなくなってしまった。……生きてるよね?
僕は力なく大樹にもたれかかっている勇者に近づいて、首に手を当てて脈を確認する。うん、生きてはいるみたいだね。
「さて、出てきなよ。サラマンダ、契約主がピンチだよ?」
僕は勇者の瞳を覗き込んで、その瞳を通して「火」に語りかける。さて、どうなるかな?
「……なんだ、起きているんじゃないか。サラマンダ」
「今起きたばっかりなのだけどね。––––久しぶりね、シルフィード。転生したみたいだけど、また魔力の量と質が上がったのね。羨ましいわ」
この女性はサラマンダ。チェリーブラッド色をした瞳に、髪。肌は僕と対象的で、褐色である。服装は身の丈にあった黒色のワンピースを着ている。
「それでサラマンダ、君今どんな状態なの?意識はあるけど操られている感じ?」
「その通りよ。不覚にも真名を知られてしまったわ」
うーん、「火」がそんな不覚を取るはずがないんだけど…。まさか…
「…もしかして【鑑定者】に?」
「ううん、その弟子ね。彼自身は精霊との不可侵条約を守り続けてくれてるわ。まさかただの人族がマグマの奥底に来れるとは思っていなかったわ…」
うん、とりあえず今度その【鑑定者】の弟子は消してしまおうか。もしかしたら僕にも危険が及ぶかもしれないしね。
「この勇者との契約内容は?」
「勇者が殺されそうになった時のみ、守れ。という契約になっているわ。…真名を使われたらその限りではないのだけれどね」
「つまり僕がこれを殺そうとすれば、君はこれを守ろうとするわけだ」
「そういうことになるわね」
「火」は面倒くさいなぁと呟いてため息を吐いた。…彼女は高潔ではあるがひどく面倒くさがりやなのだ。
「……500年の間でだいぶ世界の情勢は変わってしまったみたいだね」
「ええ。人族は突如として現れた宗教に入れ込んで精霊を道具として扱ってるし、魔族は自分たちは精霊たちを守っていると言ってるくせに裏では「光」と「闇」を国の動力源として扱ってるし…。前と変わらず対等な存在であり続けているのは獣人族と森人族だけな。もちろん、例外はいるわよ?いい意味でも悪い意味でも」
「ふーん…、僕の知る限りでは「風」の同胞たちは色々なものと契約はしているみたいだけど、道具として扱われたりはしてないみたいだけど…」
僕が「火」に問いかけると、彼女はしゃがみ込んで、勇者の頰をペチペチと叩きながら
「あなた…「風」だけは精霊王がどこにも属していないからよ」
と言ってきた。つまり僕以外の精霊王はどこかしらの国に属しているということになるね。…少し調べてみようか。
僕は「世界の記憶」にアクセスして、それについての情報を引き出した。
ふむ、「水」と「地」と「空間」は自らの意思で協力しているみたいだね。
「人族には「火」である君がついていて、魔族には「光」と「闇」、森人族には「水」と「地」、獣人族には独立した存在である「空間」がいる…、あれ?「無」のニールはどこに?」
「彼女なら貴方が消えてから、眠りについたわよ。貴方が転生したことを知ったら飛び起きるんじゃないかしら」
……ニールには悪いことをしてしまったみたいだね。今度謝ろう。僕はそう心の中で誓うのだった。
「……う……」
勇者の口から、うめき声が聞こえた。
「おやおや、どうやら勇者が目を覚ましたみたいだね」
「…そうね。じゃあ私はこの子を連れてそろそろ退散するわ。貴方もこの子には興味を持っていないみたいだし。また今度時間があれば話しましょう?」
「火」は勇者を脇に抱えて、そっと立ち上がった。
「うん、またねー。あ、そうだ。––––あんまり契約主に入れ込みすぎると、別れるときとても辛くなるよ?」
僕が「火」に軽めな忠告的な感じで告げると、彼女は「そう」とだけ呟いて、この場から去っていった。
「………僕を楽しませてくれるような知的生命体、現れてくれないかなぁ」
僕は勇者とともに〈そよ風〉で吹き飛んだ木々と大地を修復させながら、そう呟いた。
…魔法の威力を下げる特訓でもしようかな……。
僕が身体を鍛えるぞ!と決意してから、一年が経過した。僕はあれからというもの、一睡もせず、一秒も休まずに、ただ己の肉体を鍛えつづけていた。
普通ならばその成果は力こぶができたり、シックスパックができたりなど、肉体に表れるはずなんだけど…、僕の肉体はあの決意した日から一切合切変わっていなかった。ぷよぷよのままである。
流石におかしいと、一年経って僕はようやく気がついた。僕はなぜ筋肉がついてくれないのか、その理由を必死こいて考えた。そしておおよそ一秒が経過して––––
「……あ、僕ご飯食べてないじゃん」
ご飯を食べないと、筋肉を作るための栄養素は手に入らない。まあそれ以外の要因もあるんだろうけど、この時の僕は気づいていなかった。
突然僕の頭の中にチーンという、まるで電子レンジのタイマーが0になった時に鳴るような電子音が響いた。
「うん、記憶の継承も完了したみたいだね」
さて、継承された記憶の中に精霊の肉体についてのものはないかな…?あ、みっけ。えっと…、なになに…?
「精霊の肉体はスキルなどの使用以外で、変化することはない…?」
僕はその事実に、とてつもない衝撃を受けた。えっ、マジですか?つまり、僕がこの一年間やってきたことは無駄だったってこと?
僕は膝から崩れ落ちて、ズーンとうなだれた。………まあいいや。暇つぶしにはなったし。
話は変わるんだけどさ…、知性のある生物がぜんっぜん来てくれないんだけど!風の精霊たちがうまいこと騒ぎ立ててくれたのにさ…。
世界の記憶によると既に知性ある生き物…、というか人型の生き物たちは動き出しているはずなのだけれど。
エルフって森人って書いてエルフって読むんでしょ?なのになんで森の中にいる僕を見つけられないのさ!森人の名が廃るよ?
……あ、でも人族の勇者は勘弁してほしいかな。ついていってもつまらなそうだしね。見た限りだと完全に傀儡というか完全に上の言いなり。絶対つまらないもん。
僕の意思を知ってか知らずか、それは突然この森の中に現れた。
「……!この気配は人族だ…!ようやく僕を見つけてくれたのかな?」
それは僕のいる方向へと、一直線に走ってきている。森の木は薙ぎ倒しているのかな?それにこの人、足速いんだね。そろそろ森を抜けてここに来るよ…。
僕の目の前に現れたのは、全身に鎧をまとった男か女かよくわからない人。唯一わかるのは、僕に対して敵対意思を持っているくらいかな。だってこの鎧の人は、僕に剣先を向けてきているのだから。
…うわあ、一番きて欲しくない人が来ちゃったよ。この人…勇者でしょ。「火」の匂いもするし。
「【風】の精霊王、王からの命令だ。拘束させてもらう」
「うーん、遠慮させてもらうよ。傀儡が契約者なんて、つまらないだろうし」
「火」は一体何をしているのかな?まさかあの高潔な彼女が契約者の蛮行を止めないはずがないし…。もしして「火」からいやーな匂いがするのと、何か関係があるのかな?
「ならば、力づくでも拘束させてもらう」
「やれるものならやってごらんよ」
勇者は流れるような動きでぼくに襲いかかって来た。僕からすればスローモーションで動いているようにしか見えないんだけどね。
僕は最小限の動きで勇者の剣捌きを避けながら「火」に声をかける。
『サラマンダ、聞こえてる?』
『………』
「火」からの返答はない。意識がないようだ。
精霊は自らの意識で眠ったりすること、意識を失うことはない。肉体があり、意思があっても所詮は魔力の塊だから。つまり、なんらかの外部からの攻撃で「火」は意識が奪われていることになる。
「君さ、「火」になにをしたの?」
「………」
勇者はなにも答えてくれない。ただ無言で、流れるような剣捌きで僕に剣を振りかぶって来るだけだ。まあ全部僕に避けられてるんだけどね。
しかたない、自分で探すとしようか。
「〈そよ風〉」
僕が使える最も威力の弱い風魔法を使うと、勇者は一瞬だけ警戒して身を引いたが、僕の使った魔法の名前を聞いて大丈夫だと思ったのか、また襲いかかって来た。
うん、大丈夫。死なない程度に威力は調節してあるから。
そして––––
「ガハァァァ?!」
ドオォォォォン!!!という爆音を立てて、勇者は森の木々とともに吹き飛ばされた。防ぐ暇もなかったのか、勇者はひときわ大きな樹に叩きつけられて動かなくなってしまった。……生きてるよね?
僕は力なく大樹にもたれかかっている勇者に近づいて、首に手を当てて脈を確認する。うん、生きてはいるみたいだね。
「さて、出てきなよ。サラマンダ、契約主がピンチだよ?」
僕は勇者の瞳を覗き込んで、その瞳を通して「火」に語りかける。さて、どうなるかな?
「……なんだ、起きているんじゃないか。サラマンダ」
「今起きたばっかりなのだけどね。––––久しぶりね、シルフィード。転生したみたいだけど、また魔力の量と質が上がったのね。羨ましいわ」
この女性はサラマンダ。チェリーブラッド色をした瞳に、髪。肌は僕と対象的で、褐色である。服装は身の丈にあった黒色のワンピースを着ている。
「それでサラマンダ、君今どんな状態なの?意識はあるけど操られている感じ?」
「その通りよ。不覚にも真名を知られてしまったわ」
うーん、「火」がそんな不覚を取るはずがないんだけど…。まさか…
「…もしかして【鑑定者】に?」
「ううん、その弟子ね。彼自身は精霊との不可侵条約を守り続けてくれてるわ。まさかただの人族がマグマの奥底に来れるとは思っていなかったわ…」
うん、とりあえず今度その【鑑定者】の弟子は消してしまおうか。もしかしたら僕にも危険が及ぶかもしれないしね。
「この勇者との契約内容は?」
「勇者が殺されそうになった時のみ、守れ。という契約になっているわ。…真名を使われたらその限りではないのだけれどね」
「つまり僕がこれを殺そうとすれば、君はこれを守ろうとするわけだ」
「そういうことになるわね」
「火」は面倒くさいなぁと呟いてため息を吐いた。…彼女は高潔ではあるがひどく面倒くさがりやなのだ。
「……500年の間でだいぶ世界の情勢は変わってしまったみたいだね」
「ええ。人族は突如として現れた宗教に入れ込んで精霊を道具として扱ってるし、魔族は自分たちは精霊たちを守っていると言ってるくせに裏では「光」と「闇」を国の動力源として扱ってるし…。前と変わらず対等な存在であり続けているのは獣人族と森人族だけな。もちろん、例外はいるわよ?いい意味でも悪い意味でも」
「ふーん…、僕の知る限りでは「風」の同胞たちは色々なものと契約はしているみたいだけど、道具として扱われたりはしてないみたいだけど…」
僕が「火」に問いかけると、彼女はしゃがみ込んで、勇者の頰をペチペチと叩きながら
「あなた…「風」だけは精霊王がどこにも属していないからよ」
と言ってきた。つまり僕以外の精霊王はどこかしらの国に属しているということになるね。…少し調べてみようか。
僕は「世界の記憶」にアクセスして、それについての情報を引き出した。
ふむ、「水」と「地」と「空間」は自らの意思で協力しているみたいだね。
「人族には「火」である君がついていて、魔族には「光」と「闇」、森人族には「水」と「地」、獣人族には独立した存在である「空間」がいる…、あれ?「無」のニールはどこに?」
「彼女なら貴方が消えてから、眠りについたわよ。貴方が転生したことを知ったら飛び起きるんじゃないかしら」
……ニールには悪いことをしてしまったみたいだね。今度謝ろう。僕はそう心の中で誓うのだった。
「……う……」
勇者の口から、うめき声が聞こえた。
「おやおや、どうやら勇者が目を覚ましたみたいだね」
「…そうね。じゃあ私はこの子を連れてそろそろ退散するわ。貴方もこの子には興味を持っていないみたいだし。また今度時間があれば話しましょう?」
「火」は勇者を脇に抱えて、そっと立ち上がった。
「うん、またねー。あ、そうだ。––––あんまり契約主に入れ込みすぎると、別れるときとても辛くなるよ?」
僕が「火」に軽めな忠告的な感じで告げると、彼女は「そう」とだけ呟いて、この場から去っていった。
「………僕を楽しませてくれるような知的生命体、現れてくれないかなぁ」
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