風の精霊王の気ままな旅

ガブガブ

4話 契約しようじゃないか

4話 契約






 サラマンダと勇者がここに訪れてから、一ヶ月が経った。あれから何人もの人々がこの森を訪れたのだが、僕を見つけられなかったのか、結局全員が僕の目の前に現れずにこの森から去っていった。遊び相手も話す相手もいないので、正直暇である。……暇暇言いすぎて暇という言葉がゲシュタルト崩壊しそうな程には。
 魔法の威力は調節できるようになった。話し相手として知能のある精霊を呼び出すのもアリなんだけど、仕事の邪魔をするのも忍びないのでやめておく。


「……おや、また人がきたようだね。これは……五人か」


 見る限りでは、四人の武装した男が一人の子供を追いかけているように見える。子供の方は身体中に傷があり、そして首に首輪の残骸のようなものが残ってことから脱走奴隷なのだと予想がつく。
 奴隷だというのに、絶望という名の諦めの念は浮かべておらず、生きることへの渇望だけが見受けられる。
 そして偶然か、はたまた必然なのか、その奴隷の子供は僕のいる精霊の泉へと、逃げ走っているのだ。うん、とても……面白そうだ。


 それから数分後、奴隷の子供は僕のいる精霊の泉へと走りこんできた。奴隷の子供は薄暗くて不気味な森には不釣り合いな光景を目にして、戸惑っているようだ。焦燥しきった顔に困惑の色が見られる。


 僕はこの子供の「心」を見る。色はとても強い赤い色。僕にとっては、一番望んでいた色である。僕は心の中でそっと笑みを浮かべた。


 奴隷の子供はまだ僕に気がついていないようだ。ひゅー、ひゅーという荒い息を整えながら、辺りを見回している。そしてようやく、僕に気がついた。


「っ?!な、なんだお前は…!」
「ふふっ、うん。決めた」


 僕は彼を見て、ニヤリと笑みを浮かべた。その笑みを見た奴隷の少年は顔を真っ赤に染めて、僕から目を背けた。…ふむ、不思議な子だね。男でも女でもない僕に赤面するなんて。


「君、名前は?」


 僕は奴隷の少年に尋ねた。奴隷の少年は一瞬戸惑いの表情を浮かべたが、すぐに顔を引き締めて


「……名前はない」


 と言ってきた。ふむ、おかしいね。奴隷でも名前くらいは持っているはずなのだけれど…、もしかして奴隷になったばかりなのかな?


「お前こそ、名前は––––「いたぞ!あそこだ!!」……!」


 奴隷の少年は僕の名前を尋ねようとしたんだろう。しかし奴隷の少年の言葉は森の木々をかき分けて現れた武装した男たちの野太い声によって遮られた。


「簡潔に言おうか。僕は「風」の精霊王。名前のない少年よ、僕と契約しないかい?」


 僕は真剣な眼差しで少年をみつめる。少年は呆然とした表情で「風の、精霊王…?」と呟いている。そうしている合間にも、武装した男たちはこちらに近づいてきた。少年が逃げることを諦めたとでも勘違いしたのか、下卑た笑みを浮かべながら。


「ガハハハハハ!ようやく諦めたか…。ん?おお、もう一人上玉のガキがいるじゃねえか!ひひひ、今日はついてるぜぇ…!」


 一人の男を除いて、全員が似たり寄ったりな発言をしていた。一人だけなぜか、目の前にいる逃亡した奴隷の少年には目もくれずに、僕だけに視線を送ってきている。
 やだー変態ですか?冗談冗談。どうやら僕のことを鑑定いるみたいだね。ちょっと妨害しておこうか。僕はわざと体内の魔力の波長を乱れさせた。
 するとその男は目を抑えて突然苦しみだした。
 うわあ、妨害に対応できないとか素人中の素人じゃないか。うん、こいつは放っておこうか。……あれ、いつのまにか囲まれていたみたいだね。
 僕と少年は、3人の武装した男に囲まれていた。いやまあ、わざとなんだけどさ。


「ほら少年、僕と契約しないかい?」
「いやいやいや、この状況でお前よくそんなこと言えるな!捕まるかもしれないんだぞ?!それにお前みたいな弱そうな奴が精霊王なわけ––––」


 うーむ、僕ってそんなに弱そうに見えるのかな?まあべつにどうでもいいんだけどさ…。


「ふむ、それなら……」


 僕は威力を調節した風魔法【風の刃】を使い、3人の男の首を跳ね飛ばした。


「ほら、これで周りの心配はいらないよ?」
「…な……!」


 少年は口を大きく開けて、目を見開いていた。
 あ、ついでに死体は分解しておかないとね。こんな綺麗なところに、汚い物はいらないからね。


「僕なら、君のその全ての願いを叶えてあげられるよ?僕はその全ての方法を知っている」


 どうせなら、格好良くいきたいよね。そう思った僕はここ一帯の森を全て綺麗な草花に改変させて、新たに風の下位精霊、中位精霊、上位精霊、聖霊を創り出した。そしてその全てを、僕に対して跪かせた。


「名前のないものよ、僕と契約しないかい?」


 その草花は、まるで僕らを祝福するかのように、淡い光を発しながら一斉に開花した。


「俺は」


 少年は首に手を当てた。


「俺は俺をこんな風にした奴らを見返してやりたい」


 しかしその目には復讐の念はなく、純粋にそう思っているようだ。


「俺は、お金が欲しい。決して使い切れないほどのお金が。俺は力が欲しい。誰にも負けないような、そんな力が。そうすれば、誰も俺を捨てないと思うから」
「……うん、そうだね」


 心の傷は少し深いようだ。まあ、少年の言っていることも正しいんだけどさ。


「あとは…、女の子にモテたい!」


 最後の最後に、彼は堂々と言い放った。


「ぷっ、あは、あははははははははは!!」


 笑いが堪えきれず、僕は思いっきり笑ってしまった。
 さすがは男の子だ。はじめと二つ目は至って真面目な理由なのに、最後の最後でそれが来るなんて!


「わ、笑うなよ!俺だって男なんだよ!べつにおかしくないだろ!」


 少年は笑う僕を見て、顔を赤面させて言ってきた。


「いや、いい。とてもいいよ。人間らしさに溢れているよ、うん。面白い、ますます気に入ったよ」


 僕は「は、離せよっ!」と言ってくる少年を気にせずに、少年の手を取った。


「僕は君の「力」になろう。そして「力」を与えよう。そうすれば君は、自らの手で「見返す」ことも「富」を得ることもできるはずだ。その場合は…モテるかどうかは君次第だけどね」
「……いまここで叶えてくれるわけじゃないんだな」
「出来ないことはないけど、君はそれで嬉しい?楽しい?なによりも…面白いのかな?」


 さて、最終確認だ。この少年が、僕の契約者パートナーに相応しいかどうか。


「……俺は、自分の手で、自分の「力」で、あいつらを見返してやりたい!望みを、叶えたい!」


 その言葉を待っていたよ!僕は笑みをより深くして、彼の額と僕の額同士を合わせた。


「契約成立だよ。––––僕の名前は《シルフィード》風の全てを司るもの」


 どこからか大量の半透明な鎖が現れて、僕と少年を包み込んだ。


「君の『名』はいまから《クレス》だ。僕の名の下に、君がクレスと名乗ることを許そうじゃないか」


 すると彼は感慨深そうに、


「………クレス、か。俺は、今から《クレス》だ」


 と呟いた。


「さあ、対の言葉を言ってごらん。クレス」


 彼は瞳を閉じて言った。


「俺の名前は《クレス》、風の主人との契約者になるもの」


 すると僕らを包み込んでいた鎖は、その一部を残してスーッとまるで溶けるように消えていった。すると自然と、僕らの額同士が離れていく。
 僕はその残った鎖を拾い上げて、僕の魔力を纏わせた。


「さあ、僕は君に名前ちからを授けた。ついでにだが…、武器も与えようじゃないか」


 僕はその鎖を、クレスに手渡した。


「これは【自由と栄光の鎖グレイプニル】というものだ。クレスにならきっと使いこなせるはずだよ」


 さて、これで力はあたえた。武器も与えた。






「僕に魅せてくれ。君の紡ぐ、一つの英雄譚ものがたりを」

















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