メイドな悪魔のロールプレイ

ガブガブ

17話

17話






「……なるほど、ね。事情はわかったわ。住居に関してなら、私たちは最大限協力してあげられるわ」


先ほどまでのような温厚そうな顔ではなく、為政者の顔をしてラフィニアさんは言った。


……住居に関してなら、ということは後者に関しては難しいということかな。
まあ当然か。ラフィニアさんは女王であり、この国の国民の命を背負っている。
故にラフィニアさんの行動は全て、この国の意思であるってことになってしまう。
もしそんな人が私たちに協力すれば、それはこの国の総意であると周囲は認識してしまう。


私とご主人さまの今の立場は、この世界の神への反逆者。
しかもその神とやらは、聖国が総力を挙げて信仰しているこの世界で一番有名と言っても過言ではない神だ。


いくらラフィニアさんがご主人さまに入れ込んでいるとはいえ、流石に自らの国を危険に晒してまで手を貸す道理がないのだ。
住居を貸してもらえるだけマシだろう。


住居だけでもありがたいです––と言おうと口を開こうとして、ニンマリとした笑みを浮かべてこちらを見ているラフィニアさんに気づき、口をつぐむ。


「貴女の言うノアちゃんの神への復讐––貴女がこちらの要求を二つ、飲んでくれたら全面協力してあげられるわ」


その言葉に私は思わず目を見開き、慌ててリヴさんの方を見る。
しかしながらリヴさんもラフィニアさんと同じ意見のようで、ウンウンと首を縦に振っている。


いや、大丈夫なのそれ?!と思わず突っ込みそうになったが、冷静になろうと心で念じて事無きを得る。


「……ラフィニアさまは、この国の全てを背負っているはず。それなのにもかかわらず、「親しい」という理由でそんな簡単に手を貸しても大丈夫なのですか?」
「もちろん、大丈夫よ?そのための要求だもの」


ふふっと笑みをこぼし、私と先ほどまで空気同然だったアルジェントを指差すラフィニアさま。


うーん、これはとてつもなく嫌な予感がするぞ?


「一つ目の要求は、そこにいる彼女––魔人アルジェントをこの国の神獣・・として祀らさせて欲しいの」
「……え?」


ご主人さまが何故か戸惑うような声を上げて、ガタンという音を立てて椅子から立ち上がった。


……ご主人さまが戸惑ってしまうのも無理はないだろう。


公式の設定として、この世界に存在する国には強かれ弱かれ必ずシンボルとなる筈の「神獣」がいる筈なのだ。
それなのに、新たな神獣を求めている––それが意味するのは、神獣の「死」だ。


「……ラフィニアさん。この国の神獣のリント––リントヴルムはどうしたんですか?」


ご主人さまが震える声でラフィニアさんに問いかけた。
それに対しラフィニアさんは困ったような顔をして、口を開いた。


「実は他の世界に遊びに––呼ばれちゃったみたいで、もう帰ってくることはないらしいのよね」
「……え?」


これに関してはご主人さまだけでなく、リヴさんとラフィニアさんの旦那さんも驚いていた。


「……別の世界から自分の番の気配がするから行くね!って言って、神獣の証を放棄していなくなったのよ。まあ私も、番が見つかったなら仕方ないわね、みたいなノリで見送っちゃったけれど」
「……よかった。死んだわけじゃないんだね」


ホッと息を吐き、安堵の表情を浮かべるご主人さま。
リントヴルムのことをリントって呼んでるくらいだし、ご主人さまのリントヴルムは仲が良かったのかな?
……うん、どうでもいいですね。


––それはさておき、私はアルジェントの方を見る。


「…………zzz」


やけに静かだなと思っていたら、案の定アルジェントはヨダレを垂らし、立ちながら眠っていた。


……種族能力的に夜行性なんだなって推測はできていたけれど、この場では起きていて欲しかったな……。


仕方ないなと私は立ち上がり、立ち寝しているアルジェントに近寄る。
そして微妙にユラユラと揺れている尻尾の付け根へと手を伸ばし––力一杯ギュッと握った。
するとどうだろう。相当驚いたのか、彼女の身体がびくんと飛び跳ねた。


「ッ––?!な、はっ?!……ッ?!」


腰が抜けてしまったのか、ペタリと座り込み困惑した様子でこちらを見上げてくるアルジェント。
一瞬可愛いと思ってしまったのは秘密だ。


「……アルジェント、せめてこういう重要な場では寝ないでください。私が恥ずかしいので」
「お、おう。すまん。次から、気をつける」


なぜか頰を赤らめ、身をもじもじさせながら返事をしてくるアルジェント。
この場で寝てしまったのがそんなにも恥ずかしかったのだろうか。


––そんな彼女の姿を見て、毒気を抜かれてしまった私は怒る気にもなれず、ふぅと息を吐いた。


「……ほら、いつまでそこに座っているつもりですか?」


呆然としてこちらを見ているアルジェントの手を掴み、引っ張って彼女を立ち上がらせる。
しかし脚に力が入らないようで、立ち上がった瞬間にまたへにゃりと床に座り込んでしまった。


「脚に力が入らない」
「……はぁ、仕方ないですね」


アルジェントの腰が抜けたのは私が驚かせてしまったのが原因だし、ここは責任を取るべきだろう。
私は《悪魔術》で椅子を一つ作り出し、アルジェントを両手で持ち上げてそこに座らせる。
そんな私たちの様子を見て何をどう感じたのか、ラフィニアさんが微笑ましいものを見るかのような目をこちらに向けてきていた。
ご主人さまもなぜか引くわーみたいな顔をしているし、ラフィニアさんの旦那さんもリヴさんも似たような表情を見せていた。


……え、私なにかした?


「……こほん。アルジェントが失礼しました」
「大丈夫よ。––話を戻すわね。さっき言った通り、今この国には神獣がいないの。悪魔である貴女にならその意味がお分かりでしょう?」


悪魔になったことで植え付けられた知識によると、この世界で"神獣が国に存在しない"ということは、"その国の領土権は誰のものでもない"ということを意味するらしい。
つまりこの世界では、国は神獣がいなければ成り立たず、簡単に他国に奪われてしまうということだ。
神獣のいない国の領地は、他の神獣が「ここを自分の縄張りとする」みたいな感じで宣言すれば簡単に奪われてしまうらしい。


……なんか陣地取りゲームみたいだなぁ。


「ええ。––それにしても、いままでよく他国の神獣に気づかれませんでしたね。
聖国の神獣––ウロボロスや、魔国の神獣––フェンリルが見逃すはずがないと思うんですが」
「勿論。気づかれていたわよ・・・・・・・・・?だからこそ、我が国は奪われなかったのよ。今の今まで、その二体の神獣が牽制しあっていてくれたから」


やはり錬金術の象徴として名高いウロボロスや、神殺しの狼として有名なフェンリルは、この世界でもとてつもなく強い神獣として存在しているようだ。


……いや、ちょっと待て。そんな状況下なのに、この国の神獣をアルジェントにしちゃったら大変なことにならないかな?


「……アルジェントを無駄死にさせるつもりなら、それは承服し兼ねます。一応ラフィニアさんの手を借りずに、ご主人さまの願いである"神への復讐"を達成させる方法はありますので」


そう言うとご主人さまは、お前は何を言っているんだと言わんばかりにギョッとした顔して、こちらを見つめてきた。
ラフィニアさんとイヴさんは黙って笑みを浮かべていて、早く続きを話せと促しているように見える。


「––ご主人さまの復讐対象である神の信徒が大勢いる国を、順々に滅ぼしていけばいいんです」
「––––」


イヴさんが私を見て、一瞬だけ身体をぶるりと震わせた。
その「目」で何かを見てしまったのだろうか。


「(……おい、お前と僕とそこの猫人族だけで国が滅ぼせるわけがないだろう)」


相変わらず空気の読めないご主人さまは、お前はバカかとでも言いたげに小声で話しかけてきた。
とりあえず、私は聞こえないフリをして顔を伏せて身体を震わせているラフィニアさんを見つめる。


「––ふ、あはははははは!!!!面白い、面白いわ貴女!流石"災厄の悪魔"とでも言うべきかしら」


目尻に涙を溜めながら笑うラフィニアさま。どうやら顔を伏せて震えていたのは笑うのを我慢していたみたいだ。
……我慢できなくなったみたいだけど。


「母上、笑っている場合ではありません!彼女、本当に国を滅ぼしますよ!」


焦った表情をして、こちらを見つめてくるイヴさん。
やはり、イヴさんは未来視ないしそれに似たスキルを持っているんだろう。
と言うことはつまり、現段階では私の想像している通りの手順をすれば国を滅ぼせるようだ。


イヴさんの能力を知っていたのか、ご主人さまはそのイヴさんの言葉を聞いて、信じられないものを見るかのような目で私を見てきた。


ご主人さま、そんな顔で見ないでくださいよ。
貴女が私を呼んだんですよ?


「イヴ。焦る必要はないぞ?滅ぶのは我が国ではないからな。ふふ、にとっては願ったり叶ったりだからな」


ペロリと舌舐めずりをして、笑みを浮かべるラフィニアさん。
どうやらこっちの方が本性なのか、一人称まで変わってしまっている。
そんなラフィニアさんの様子を見て、旦那さんは「忙しくなるなぁ」とボヤき、リヴさんはため息を吐いた。


「––イアよ、試して済まなかったな。お前がどれほどの"力"を持つのか、把握しておきたかったのだ」
「ええ、大丈夫ですよ。私も確かめさせて頂きましたし。––共犯者に値するか試すのは当然ですしね」


ラフィニアさんの視線と私の視線が交錯する。


……ラフィニアさんの願いが何かはわからないけど、利害は一致しているのだ。
アルジェントの安全を保障されたいま、断る理由はない。











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