メイドな悪魔のロールプレイ

ガブガブ

9話

9話






 信じられなかった。悪魔が僕に足手まといだと告げて、一人で〈クリムゾンブラッドドラゴン〉挑んでいったことが。


 たしかに僕は足手まといだ。それは納得している。だが……、僕如きが呼び出した悪魔があのドラゴンに勝てるとは思えないのだ。


 呼び出せる悪魔の強さは、召喚者本人の魔力の質で決まるらしい。前に城の書庫にあった文献にそう書いてあった。
 僕は控えめにいっても魔力は少ない方だ。つまりあの文献が正しいのなら、僕はドラゴンに勝てる悪魔なんて呼び出せる筈がない。


 僕は転ばないように注意しながら、雑木林の中を走る。ときどき後ろの方から、ドラゴンの叫び声が聞こえてくる。ものすごく怖い。


「はぁ、はぁ、っ………」


 必死になって走っていると、ようやく獣道らしき所へと出た。僕はホッと一息つき、木を背にして座り込んだ。


「……この獣道を下れば、この山から出られる、だっけ……」


 僕は魔力を水に変換させて、球体として現界に顕現させる。それに口をつけて、啜るように飲む。


 水を全て飲み終えたので、僕は気合を入れるために頰をパンっと手で叩いた。……痛い。


「よし、あと少しだ。頑張ろう」


 僕は立ち上がり、獣道を抜けるために歩き出した。……今一瞬、僕の頭上を何かが通り過ぎたような気がしたが、きっと気のせいだろう。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 途中から歩くのが面倒くさくなったので、私は脚力と〈飛翔〉にものを言わせて、空を跳んで山を下ることにした。


『飛翔のレベルが【1/10】→【2/10】に上昇しました』


 まるで紐なしバンジージャンプである。所詮この世界はゲームであり、別に失敗して大怪我を負おうが死のうが現実世界には影響はない。


 それから数秒後、私は山の麓に到着した。私の足元には現在、大きなクレーターが出来ている。……別に私の体重が重いってわけではないよ?


『気配感知のレベルが【4/10】→【5/10】に上昇しました』
『脚力上昇のレベルが【4/10】→【5/10】に上昇しました』
『腕力上昇のレベルが【1/10】→【2/10】に上昇しました』


「……さて、まだご主人様は山を下りていないようですね」


 〈気配感知〉によると、ご主人様はまだ山の中にいる。おそらく獣道を歩いて下っている最中だろう。
 私はステータスをいろいろ弄って、ご主人様を待つことにした。


 というわけでステータスオープン。




名前:イア・ノワリンデ 性別:女 種族:悪魔族デーモンLV13/50
【中立】


HP【2200】800up
MP【2200】800up
SP【2200】 800up


《神の呪い》


〈固有スキル〉
《黒霧》


〈種族スキル〉
《魂食》《不死》


〈術系統スキル〉
《契約術Lv2》《料理術Lv1》《食器戦闘技術Lv2》《投擲技術Lv3》《掃除術Lv1》《幻惑術Lv1》《悪魔術Lv2》《交渉術Lv1》《隠密術Lv6》


〈魔法系統スキル〉
《空間魔法Lv2》
第1階位:〈収納〉〈回帰付与〉


〈強化系統スキル〉
《脚力上昇Lv5》《腕力上昇Lv2》《嗅覚上昇Lv2》


〈耐性系統スキル〉
《自然影響耐性Lv1》《苦痛耐性Lv1》《熱耐性Lv3》


〈その他スキル〉
《分身Lv1》《予測Lv2》《気配察知Lv5》《飛翔Lv2》《変装Lv1》《作り笑いLv1》《威圧Lv1》《鑑定Lv2》《人化Lv–》《世界共通言語Lv–》


残りSLP9




 おお、色々と増えてるね。スキルポイントも9ゲットしたことだし、なにか有用そうなスキルを取ろうか。


 ──それから数分後、私はうーんうーんと悩んだ末に、このスキルを取ることにした。


『SLPを5消費してスキル〈瞬間強化〉を獲得しました』


 瞬間強化、それは名前の通り、ありとあらゆる事象を一瞬だけ強化するスキルだ。
 そんなものを取るならば、持続的に強化できる〈身体強化〉を取った方がいいだろう。と思う人もいるだろう。
 だが瞬間強化は身体強化とは違い、使用できる対象が自分だけではないのだ。瞬間強化は、どんなものでも瞬間的にだが強化できる。
 つまり……、ロマンだ。いやだって〈瞬間強化〉ってなんかカッコよくない?それに一応……私の想定が正しければ妨害にも使えるはずだし。


 そんなこんなで時間を潰していると、ようやくご主人様が山の麓へと下りてきた。


 ご主人様は手を膝につき、息を切らしながら目を見開いてこちらに顔を向けてきた。


「おかえりなさいませ。ご主人様」
「……な!なんでお前がここに……まさか、クリムゾンブラッドドラゴンは……」


 ご主人様は顔を青くして、空を見上げた。……表情がコロコロ変わる人だなぁ、このご主人様。


「はい。ご察しの通りでございます。既に討伐致しました」
「ひっ、こっちに向かってい……は?」


 ご主人様はこの世の終わりだ、みたいな顔をした後、ポカーンと口を開けてこちらを見つめてきた。
 私は笑顔で首を傾げて「どうかしましたか?」とご主人様に聞いた。どうやら私とご主人様の心情は少し食い違っていたようだ。


「え、は?え……、お前がアレに勝ったのか?」
「はい。勝ちましたが何か?それとも、勝たれたら不都合なことでも?」


 どうやらご主人様は私が負けると思っていたようだ。失礼なお方である。
 もう少し頭がよろしいドラゴンだったら危なかったかもしれないが、あそこまで頭がアレなドラゴンなら余裕でいける。


「……信じられない。だってあれは、【王】の名を冠する魔物だぞ?!」
「その【王】の名前を冠する魔物の子供でしょうね。【王】の名を冠する魔物は数千年以上生きているはずです。あんな百年くらいしか生きていない若輩者が【王】の名前なんて冠せるはずがないじゃないですか」


 どうやらご主人様は勘違いしていたみたいだ。私はそんなことも知らないんですか?と意を込めてご主人様を見る。ついでに鼻で笑っておいた。


 なぜかご主人様は泣きそうな顔になっていた。涙は出ていないが。


「な、なら証拠を見せてみろ。お前がクリムゾンブラッドドラゴン……の子供を倒した証拠を」


 ご主人様は泣きそうな顔を一転させ、ニヤリと意地の悪そうな笑みを浮かべた。


「かしこまりました。〈収納〉……こちらでございます」


 私は収納からクリム(ryを取り出して、ご主人様と私が押し潰されないところに置いた。


 それを見たご主人様はまるで鯉のように口をパクパクとさせた。


「なっ……!殺された魔物エネミーは極一部の素材を残して魔素になって世界樹に吸収されるはず……。なんで肉体が……」


 ふむ、世界樹ですか。なにやら重要そうな単語が出てきましたね。


「それは私がこの魔物の魂を食べたからでございます。──推測ですが世界樹は魂を魔素に変換させて、その魔素を使って新たな魂を作る……、を繰り返しているのだと思います。つまり、肉体とは不純物といっても過言ではありません」


 私はご主人様に自分の推測を述べる。ご主人様はふむ、と神妙に頷き


「つまり、魔素に変換されるはずの魂を食われたクリムゾンブラッドドラゴンは、不純物とみなされて魔素にならず、そのまま残ったと?」
「そういうことだと思います。あくまで私の推測ですが」


 もし私の推測が正しければ、天使が悪魔の命を狙う理由にも納得がいく。


「……こんな量のドラゴンの素材が手に入るなら、小国の国家予算を軽く超えるぞ……」


 ご主人様はゴクリと唾を飲み、クリムゾンブラッドドラゴンに手を伸ばして──


「──さて、証拠はこれで十分でございましょう?」


 私はご主人様が触れるよりも早くクリムゾンブラッドドラゴンに触れて、インベントリにしまった。ご主人様は恨めしそうな表情を浮かべて、こちらを見つめてきた。


「むぅ。ちょっとくらい触らせろ」
「申し訳ございません。ご主人様なんぞが触れれば商品価値が下がってしまいます」
「ひどいなお前?!」


 相変わらず表情豊かなご主人様である。見ていて本当に面白い。私は思わずふっと笑みをこぼしてしまう。


「それではご主人様。現在ご主人様が身を寄せられる唯一の場所へ向かいましょうか」
「……ああ」


 既に月は姿を眩まして、日が昇り始めている。私とご主人様は目的地へと向かうため、歩き始めるのだった。













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