メイドな悪魔のロールプレイ

ガブガブ

2話

2話






「僕は、神を呪いたい。こんな運命を定めた神を、殺したい」


 憎しみに染まったその表情は、悪鬼羅刹を想起させるほど凶悪なものだった。


 ……こんな小さな子供に、なんて言うのは偽善だよね。子供だからって他人を怨んではいけないなんて決まりもないし。


 うん、気に入った。


「だから僕に力を貸せ!悪魔……!」


 少年の黒かった髪が、黒かった瞳が、まるで色が抜け落ちたように白色に染まった。
 透き通るような白色の瞳は憎しみだけに燃えていて、悪魔としての本心がとてつもなく高揚していた。


『個体名:ノア・シクスプが、個体名:イアとの契約を望んでいます。承認しますか?』


 もちろんYESだ。NOを選択したらどうなるのか気になったけど、それはほかの人に任せようかな。どうせ試す人もいるだろうし。


「ククク。良かろう、気に入った!──我が誇りに誓い、貴様の敵を我が力を以って屠ろうではないか!」


『契約術が発動されました』


 すると私の手元に、なにやら古めかしい羊皮紙と、羽ペンが現れた。
 私の身体から手のようなものが生えて、スラスラと自らの名前を空欄に刻んでいく。


 ……なにこの手。めちゃくちゃグロテスクなんですけど。ま、いっか。


 今度はひとりでに古めかしい羊皮紙と羽ペンが動き出し、少年の手元で止まった。


「そこに名前を書くがよい。さすれば、契約は成り立つ」
「………僕を舐めているのか、悪魔」


 顔はこちらに向けず、声に怒りを込めて少年はその契約書を破り捨てた。
 すると宙に浮いていた羽ペンがガタガタと震え始め、パキンと真っ二つに割れた。


 なにがなんだかわからないが、契約書に問題があったみたいだ。…いったい何が書いてあったんだろう。


「……僕が何回の人生を送ってきたと思っている。【悪魔文字】くらい、読めるぞ」
「……クックック、悪魔のお茶目なジョークだ。お前を試させて貰っただけだ」


 少年は溜息を吐き、こちらにジト目を向けてきた。しかしその目には怒りは篭っておらず、さっさともう一枚の契約書を出せと暗に言っているようだった。


「契約の内容はお前が決めるものじゃない。僕が決めるんだ」
「ククク。フハハハハ!!」


 突然笑い出した私を見て、少年はビクッと身体を震わせた。いや、私の意思で笑っているわけではないんだけれども。


「気に入った!先ほどの詫びも込めて、貴様は特別だ。三つの願いを聞いてやろう」


 魔法のランプですか?思わず自分にツッコミを入れてしまう私。…自分で自分にツッコミを入れるって、かわいそうな人じゃ…うん。なんでもない。


「お前、名前はなんという?」


 私は少年に名前を聞いた。すると少年は「彼女」の死体を一瞥してから、静かに目を閉じた。


「……僕の名前はノア。ノア・リエライト」


 少年──ノアは決意の篭った瞳で、私に名前を告げた。


「……ふむ。まあいい。名前とはただの識別記号だからな。──これで貴様と私は対等だ。……そうだな、それならば私も人の形を取った方がいいか」


 私はパチンと指を鳴らした。すると黒色の霧が現れ、私を包み込んだ。


『スキル《人化》《世界共通言語》を獲得しました』


 そして私は人化を発動させた。形を持たなかった私の体が、グニョングニョンと変形して、だんだんと人の形をとっていく。
 完全に人の形になると、黒色の霧が晴れて私の姿が露わになった。


「──それでは、契約の内容を決めましょうか。私の愚かなご主人様」


 薄っすらと笑みを浮かべて、私はご主人様ノアに告げた。


『ここからは自動モードではなくなります。貴方次第で、ストーリーは変化します。それでは引き続きストーリーをお楽しみください』


 そのような『声』が聞こえた後、私は自分自身の身体を、自分の意思で動かせるようになった。
 ……私次第でストーリーが変化する、か。まあ頑張るしかないよね。


「……な、お前、女だったのか…?」
「性別など些細な事で御座います。──それではご主人様、こちらの椅子におかけになってください」


 私は悪魔術で机と椅子を創りだし、「彼女」の死体の横に置いた。
 彼は「彼女」の死体を見て顔を顰めたが、すぐに視線を逸らして椅子に腰掛けた。


 さて、ここからは私の技量次第だ。より悪魔らしく、ロールプレイ開始だ!…なぜかメイド服も着てるし、悪魔メイド(?)らしくやろうか。


「それでは、契約の内容を決めましょうか」


 私は再び古めかしい羊皮紙と羽ペンを契約術によって創り出した。


『契約術のレベルが上昇しました。(Lv2/Lv10)』


 煩いな、このログ。……あ、でも悪魔ならこんなもので気を散らしたらダメか。…頑張ろう。


「先ほども言いましたが、三つです。私は貴方の願いを三つだけ叶えてあげましょう」


 ご主人様は必死に悩んでいるようだ。気づかれていないとでも思っているようだが、その真剣な表情の裏には、怯えや焦りなどの感情も見られる。
 いったいなにに怯えているのだろうか。


「……お前に叶えられない願いはあるのか?」


 ご主人様はまず、疑問をぶつけることにしたようだ。失敗しないようにする為か、或いは穴を見つける為か。果たして──


「ええ、ありますよ。例えば魔法のランプのように、〈願いの回数を増やす〉のような願いは叶えられません」


 ……彼の願いは決まっているはずなのに、彼はどうでもいいような質問をぶつけてくる。とても緊張しているようだ。


「……死んだ者を生き返らせることは?」


 ご主人様は「彼女」を見ながら、聞いてきた。


「ええ、できますよ」


 ただし、幻惑の中でだけどね。私が肯定の意を示すと、彼は視線をこちらに向けてきた。


「……一つ目の願いは……」


 どうやら決まったようだ。はてさて、どんな願いが出てくることやら。


「──僕を守れ。ありとあらゆる、僕に仇なすものから」


 彼が覚悟を決めたという風にハッキリと言うと、羽ペンがひとりでに動き出し、古めかしい羊皮紙にその内容を刻んでいく。


「かしこまりました。私はこの命を賭してでも、貴方をありとあらゆる外敵からお守りしましょう」


 私はフッと笑みをこぼした。するとその笑みを見たご主人様は顔を呆けさせた。
 その様子が面白くて、思わずプッと吹き出してしまう。ご主人様は顔をハッとさせて、こちらを睨みつけてきた。


「これは失敬。あまりにも面白かったので、つい」
「……うるさい」


 彼は顔がこちらに見えないようにするためか、顔を伏せさせた。しかし耳まで真っ赤になっているので、顔を伏せてもはずかしがっているのが丸わかりである。


「──さて、二つ目の願いも決まりましたか?」
「……ああ。……二つ目の願いは──」


 ──僕を裏切るな。


 彼の言葉に、私は軽く眉をひそめさせた。なぜそのような願いにしたのか、疑問に思ったからだ。


「私が契約者を裏切るとでも?」
「…保険だよ。それに、あって間もない悪魔を、信用できる方がおかしい」
「…なるほど」


 するとまた、羽ペンがひとりでに動き出し、古めかしい羊皮紙にその内容を刻んでいく。


「三つ目の願いは、保留だ」


 ご主人様は羊皮紙と羽ペンを手に取り、スラスラと名前を書き込んでいく。


「…保留、ですか?」
「ああ。最後の願いは、あとに取っておく。いまは、この二つの願いで十分だ」


 ん、とご主人様は羊皮紙と羽ペンを手渡してきた。
 願いを保留とは、これはまた傲慢なことをするご主人様だなあ。こちらが願いを「叶えてあげる」のに、それを保留だなんて。
 ……まあでも、それはまた面白いから別にいいんだけど。


「かしこまりました。それでは、三つ目の願いは保留というわけで」


 私も自らの名前を羊皮紙に書き込む。すると私の手から羊皮紙と羽ペンが離れ、羊皮紙はひとりでに丸まり、羽ペンは紐となり丸まった羊皮紙が元に戻らないように結ばれた。


「これで私と貴方の契約は成立しました」


 目を細めてニィィイと犬歯を剥き出しにさせて笑い、私はその契約書を飲み込んだ。ご主人様はその様子に若干引いていたようだが、まあ気にしなくてもいいだろう。


「──それでは〈願い〉の代償として、未来への希望を掴むための、その左腕を頂きましょう」
「……え?」


 ブチィと、肉が引き裂かれる音が私の耳に入った。


「何を驚いているのです?先ほども言ったでしょう?代償はいただく、と」
「ッ!!!!」


 ご主人様は引き裂かれた左腕が生えていた場所を、必死になって押さえていた。
 私によって引き裂かれた左腕は、シャボン玉のようなものに変化し、私の身体に吸い込まれた。


『個体名:イアのレベルが【1/50】→【6/50】に上昇しました。HP、MP、SPが500上昇しました。SLPを6獲得しました』


 ふむ、今のシャボン玉みたいなものは経験値だったみたい。代償として得たものは経験値に変換されるのかな?


「──さて、ご主人様。止血致しますのでその手をおどけになってください」


 私が近づくと、ご主人様はビクッと身体を震わせてこちらを睨みつけた。


「ふふ、健気ですね。別にそんなに警戒しなくても、私は何もしませんよ?」


 流石にそろそろ流した血の量が不味いので、私は悪魔術で焼コテと包帯、そして火傷の処置に必要な道具を創り出した。
 強引にご主人様の手を外させ、怪我口を焼いた。


「ッ!!!!い"っ!」
「ほらほら。我慢してください。悪魔の主人ともあろうものが、この程度で根を上げないでくださいよ?」


 大怪我をした際は、焼いて止血するのが一番手っ取り早いのだ。因みにだがこのことを焼灼止血法と言うのだが…、まあ名称なんてどうでもいいかな。
 現代日本では一般人がこのようなことをするのは違法なので絶対にしないでね。


「そろそろでしょうか」


 私は焼コテをそこら辺に投げ捨て、清潔なタオルを創り出した水で濡らして、傷口に当てた。
 止血する方法としては、焼くのが一番手っ取り早い。が、その後の処理が一番面倒くさくもある。
 火傷の処理をきちんとしないと、感染症にかかる可能性があるからね。


 ………
 …………
 ……………


『ストーリー【序章】をクリアしました。このままストーリーを進めることも、オンラインモードで遊ぶことも可能です。どうしますか?』


 一旦オンラインモードにしようかな。そう思った私は〈オンラインモードに切り替える〉の項目を選択した。
 …あ、その前に夜ご飯を食べようかな。

















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